--------------------------------------------------
◆ とあるものがたり(…あるいは、彼らの今だかなわざる希望)
--------------------------------------------------
「ねえ、おかあさん」
「なあに、ぼうや?」
「おかあさん、この絵本のねえ、ここにかいてある…このまあるいの、なあに?」
「ああ、それ?…それは、『タイヨウ』というものなのよ」
「…『タイヨウ』?」
「そう。とても大きくて、まぶしくて…ものすごく熱い光を出すモノなの。地上の、お空の高あいところにあるのよ」
「ねえねえ、それってぼくでも見られる?見てみたいなあ、ぼく!」
「馬鹿ねえ、ぼうや。私たちには『タイヨウ』なんて見られないわよ」
「ええー?!なんでなんでえ?!」
「そういうモノなのよ」
「なんでぇえ?!ぼくだって、タイヨウのある世界みてみたいよ!」
「そうねえ、おかあさんも見てみたいわ…でもねぼうや、私たちにはそれができないの」
「できない…?なんで?」
「あのねえ、私たち『ハ虫人』はね…地上に出るとね、死んでしまうのよ」
「…!し、しんじゃう…の?!」
「そうよ…」
「ぜったい、ぜっったあい?!」
「そうね、絶対。…今の私たちにはね」
「…」
「ずうっとずうっと昔は…私たちは、地上で暮らしてたそうなんだけどね」
「えー…じゃあ、何で今はだめなの?」
「それはねえ、理由があるのよ」
「どんな?」
「うん…遠い遠い昔の、ずうううっと昔のおはなしよ…」
「…」
「昔、ご先祖様たちは地上に住んでいたの。太陽の光がきらきら射して、とてもきれいな世界に」
「…」
「それを見ていた神様はね、ご先祖様たちがとっても力が強いのを見て、すごく感心なさったんだって。
それで、このきれいな世界を守る役目を、ご先祖様たちに与えたの」
「へえー…」
「その時、ご先祖様たちは、すごく大切な宝物をもらったの。
『知恵』、っていういちばん大切な宝物をね。
…その宝物をご先祖様たちにくれたのが、ひとりの『めがみさま』だったの」
「『めがみさま』?」
「そう、とってもきれいで、強くて、やさしい『めがみさま』。
その『めがみさま』にチカラをもらったご先祖様たちは、その前よりずうっとずうっと強くなった」
「ふうん…」
「けれどね、そのうち…ご先祖様たちはね、いつのまにか『自分たちは強くてえらいんだ!』って思うようになって、わがままなことばっかりしはじめたのよ」
「メルガ君とか、ダジル君みたいにー?」
「こらこら、おともだちのことそんな風に言っちゃだめでしょ?
…とにかく、ご先祖様たちはね、自分勝手なことばっかりして、他のイキモノをいじめたの。
そうして…とうとう、自分たちに『知恵』を与えてくれた『めがみさま』のことも忘れてしまったの」
「わすれちゃったの?」
「そう。『めがみさま』の『なまえ』を…
それで、とうとうその『めがみさま』は怒ってね…ご先祖様たちの街を壊してしまったの」
「!!」
「ご先祖様の街も、機械も、何もかも。みんなみんな、壊してしまった」
「…」
「そうして、その『めがみさま』の『いもうと』が、傷ついて苦しむご先祖様たちをそっと連れて行ってしまった…
天国まで、連れて行ってしまったのよ。
生き残ったご先祖様たちは、何とか地底に逃げ込んだ。『めがみさま』のチカラの届かないこの場所に。
それからずっと、私たち『ハ虫人』はここに住んでいるのよ」
「はああ…」
「そうしてね、『めがみさま』はそれからずうっと『ハ虫人』たちを許してくれないままなの。
だから、地上に出た瞬間…『めがみさま』はその『ハ虫人』を壊してしまうのよ」
「うっわああ、おっかなぁぁい!」
「そうよー、こわいお話でしょう…?」
「おかあさん、そのこっわい『めがみさま』って、なんて『なまえ』だったのー?」
「ええっと、何だったかしら…」
「ああん、だめだよおかあさん!『めがみさま』にころされちゃうよう!」
「うーん、おばあちゃんに昔教えてもらったんだけどなぁ…えーっと」
「おかあさーん!」
「!…そうそう、思い出したわ!」
「えっ、ほんとー?!」
「ええ、ちゃんと思い出したわ…その『女神様』の『名前』は、」








「『滅びの風』、って言うの…
"El"が『風』、"raine"が…『滅び』。
そうよ、古い言葉でこう言うの…」








"…<El-raine>."









back