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◆ とあるものがたり(…あるいは、彼らの今だ贖われざる罪)
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「…あの人の『名前』は、キャプテン・ルーガ。恐竜帝国の、キャプテンだった女(ひと)だ」
「…『だった』…?」
「…そうだ。そのはず、…だがな」
「…?」
「お前が、ゲッターチームに入る前。
俺たちが、ゲッターで恐竜帝国と戦っていた時…あの女(ひと)と会ったんだ」
「あの、女(ひと)と…確かに、相手もお前らのこと知ってるみたいだったな。
…で、でも、それが、どうして…今も?!」
「そいつぁ、俺たちにもわからねぇ…ありえねぇはずなんだ。だって、あの女(ひと)は…」
「?」
「…あの時、俺たちが、…俺たちが、」
「…」
「殺してしまった、はずなんだ…!」
「?!」
「…」
「こ、ころし、た…?!」
「…そうだ。俺が、俺たちが…殺したんだ…!」
「じゃ、じゃあ、何で、ッ」
「そいつは俺たちが聞きたい!…わからない、まったくわからない…!」
「もしかすると、エルシオンと同じ…奴らが何か仕組んだのかもしれん」
「だ、だけどさ…」
「…何だ、ベンケイ」
「た、確かにさ、その…きゃぷてん…るーが?っていう女(ひと)がさ、生きかえったのはとんでもねぇことだよ。…だけど、」
「…」
「だけどさ、それが…何で、そんなに困ったことになるんだ?」
「…」
「もし、相手が向かってきたら…立ち向かうしかないじゃん。何で、お前らは戦おうとしなかったんだよ?!」
「…」
「…何か、他に…理由があるのか?あの女(ひと)と戦うことの出来ない理由がさ…」
「…そうだ」
「…」
「そうして、それが…一番の問題なんだ」
「一番の問題…?」
「…」
「なあ、それって一体何なんだ?」
「…」
「…ベンケイ。…あの、キャプテン・ルーガさんは…」
「…うん」
「キャプテン・ルーガさんは、…」
「…」
「…エルレーンの、…『トモダチ』だったんだ…!」
「…!」
「そうだ…俺たちのせいだったんだ、結局は。俺たちが、あいつを何処までも追い詰めた…!」
「…」
「…」
「エルレーンは、…恐竜帝国が、俺たちゲッターチームを倒すために造り出した、俺のクローン」
「…」
「…反吐が出るような話だが、だから、あいつは…『兵器』だった。
ゲッターロボを倒すためだけに造られた、俺たちを殺すためだけに造られた、『兵器』…」
「…」
「だが…『人間』のエルレーンに、『ハ虫人』の野郎どもは随分ひどくあたっていたらしい。
あいつが、『仲間』である『ハ虫人』より、『敵』の俺たちのほうに情をうつすほどに」
「そう、なのか…」
「だけど」
「…」
「…」
「たった一人、例外がいた…それが、キャプテン・ルーガさんだ」
「…」
「エルレーンは、あの女(ひと)を心底愛していた。…いや、」
「…」
「…心底、愛しているんだろう…今も」
「…」
「あいつはな、ベンケイ。…最初のうちからあんな調子だったんだよ。
『敵』のくせして、地上にふらふら出てきては俺たちのまわりにあらわれる。
俺たちを殺すために造られたといいながら、決して俺たちを殺そうとはしなかった…
いつも、あんなふうに笑って…まるで俺たち、からかわれてるみたいだった」
「…」
「後からわかったけど…あいつ、さみしかったんだ。
恐竜帝国マシーンランドより、地上のほうがいいって…俺たち、同じ『人間』のいる、地上のほうが。
…エルレーンは、俺たちが何度ひどいこといっても近づいてきたよ。
そうして、いつのまにか…俺たちのこころを変えてしまった」
「…」
「だから、俺たちはそのうち…エルレーンを説得して、自分たちの味方につけようと考えたんだ。
正直言って…俺たち、あいつと戦えなくなってた。
あいつと戦って殺しあう気なんてなくなっちまってた…無邪気に笑うあいつを見てたから」
それに、あいつが6ヶ月しか生きられないって知ったから」
「あ…そうか、…そうだった…」
「けど…説得しようとした、その矢先だった」
「俺たちは、ゲッター線発電所を襲ったメカザウルスと戦ったんだ…そして、何とか相手を倒すことが出来た」
「!…も、もしかして、それが…!」
「…そうだ。その、メカザウルスに乗っていたのが…キャプテン・ルーガさんだったんだ…!」
「だから、俺たちは…俺たちは、エルレーンの親友を殺しちまったんだ!」
「…」
「知らなかったとはいえ、あいつを独りぼっちにしてしまった…絶望のどん底にまで、叩き落した!」
「…」
「それまでは…『敵』とはいっても、戦場じゃなきゃ、エルレーンは俺たちに対して攻撃を自分から仕掛けたりはしてこなかった。
あいつも、俺たちを殺すことにためらっていたんだ。
…だが、それ以降…あいつは、本気で俺達を殺しにかかってきた。
『トモダチ』を殺した、俺達を…」
「…そして…あいつは、死ぬほど、苦しんでいた」
「あいつは、俺たちを本気で殺そうとした…だけど、できなかった!
あいつは、やさしい女だったから!俺たちのことまで、好きになってくれて…!
『殺したくない』って言って、泣いたんだ…!」
「そんな…」
「俺たちは結局、エルレーンを止めることは出来なかった。
あいつは、最後に…メカザウルスに乗って、俺たちゲッターに戦いを挑んできた。
…そして、あいつは…リョウのイーグル号を巻き添えにして、リョウを道連れにしようとして…自爆したんだ」
「…」
「それで、その時…」
「…ああ。よく、わからないけど…俺の中に、エルレーンの精神だけが取り込まれた。
その身体は、死んでしまったけれど」
「…」
「それから…あいつは、自分を助けてくれたリョウの力になりたいと言って…
俺たちに力を貸してくれるようになった。
…だけど、な」
「…だけど?」
「…エルレーンは、その時こう言ってた…
『ルーガのことは、今も哀しい。…でも、ルーガはもういないから』って」
「だから、つまりそれは…あの人がいれば、あいつは…俺たちの側にはつかなかった、ってことだ」
「…」
「あいつを恐竜帝国につなぎとめてたのは、他でもないあの女(ひと)自身だったんだ…」
「…」
「…はは、ッ」
「?!」
「リョウ…?!」
「…はは…馬鹿げた話だろう、ベンケイ?」
「な…」
「俺が、俺たちが…殺したんだ」
「…」
「俺たちが、殺したんだ。一度、殺したんだ…俺たちが、エルレーンを!」
「…!」
「リョウ!」
「だってハヤト、そうだろう?!…結局は、俺たちなんだ!」
「…」
「俺たちがキャプテン・ルーガさんを殺して!エルレーンを絶望させて!
…挙句の果てに、殺しあった…救うことすら、出来なかった!」
「リョウッ!止めろッ!」
「いいや、俺たちが殺したんだ…あの女(ひと)も、エルレーンも!」
「…〜〜ッッ!!」
「リョウ、ッ」
「…そうして、今!その時の罰が下るんだ…そうだ、これは、あの時の罰なんだ…!」
「リョウ…!」
「俺たちの、俺の…あ、あの時の、ッ…!」
「…!」
「り、リョウ…ッ!」
「お、俺たちは、またあの女(ひと)と戦わなきゃならんのか?!あの女(ひと)を殺さなきゃならんのか?!
…エルレーンの、目の前でッ?!」
「…」
「う…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
















「教えてくれ、ベンケイ」
「…」
「お前にわかるなら、教えてくれ。…俺が、俺たちが…どうすれば、いいのかを…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…俺にもわからねえよ、リョウ」
「…」
「…」
「だけど、俺にわかるのは、」




「これは間違いなく、『夢』じゃない。だから、何とかしなきゃならん、ってことだけだ」




「…その『何とか』を、俺は知りたいんだ」
「そんなもん誰にもわからねぇよ、リョウ」




「…だから、俺たちで考えていかなきゃならねぇんだ」





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