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◆ Sister-Sister
 (アーガマでの日々―
  「炎ジュン」の瞳に映る、エルレーン)
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「…ごちそうさま…☆」
「ふふ…エルレーン、そんなにチョコが好きなのか?…なら、俺の分もやるよ」
「!…わあ、いいの?!」
リョウの申し出に、目をきらきら輝かせるエルレーン…
「ああ!」
そんな彼女をうれしそうに見つめながら、彼はうなずいた。
そして、自分の分のチョコレートを彼女のほうに押しやる…
「ありがと、リョウ…☆」
「ふふ…」
リョウに礼を言い、その一つをさっそくほおばるエルレーン。チョコの甘さ、美味しさにうっとりとした表情を浮かべる…
そのしあわせそうな彼女の顔を見るだけで、彼は至極満足のようだ。
にこにこと微笑みながら、チョコを食べる彼女を見ている…
そんな二人の横で、自分の分のチョコレートをむさぼりながら、二人の仲の良さを半ばあきれたように見ているのは、同じゲッターチームのハヤトとベンケイだ。
「…相変わらず、アツアツなことで」
「…昔の頃が嘘のようだぜ」
「昔?」
「ああ、お前は知らねえんだよな。昔のリョウとエルレーン」
「何、何?」
ハヤトのセリフに興味をひかれたらしく、話の先を促すベンケイ。
いたずら心が湧いてきたのか、ハヤトもにやりと笑ってみせる。
「ああ、リョウの奴なあ、昔はエルレーンを死ぬほど嫌ってたんだよ」
「!…ハヤト!今そんなこと言わなくたっていいだろ?!」
いきなりとんでもないことを言い出したハヤトを止めようとするリョウ。
だが、彼はそんなリョウの反応すら面白がっているようだ。
「えー、そういや鉄也が前にそんなこといってたっけ」
「ああ、あれホントだぜ。…一時期はひどかったぜー。エルレーンのことを耳にしようものなら一気に機嫌が悪くなってさあ」
「は、ハヤト!止めてくれってば!」
さらに先を続けようとするハヤトに困惑するリョウ…
「…」
いつのまにか、エルレーンも真顔でそれを聞いている。
「そうそう、『<敵>であるアイツが死のうが生きようが、どうでもいいことだろう?!』とまで言ってたこともあったなー」
「?!」
「ひ、ひでー!」
「だ、だから!それは昔のことだって!…ハヤト!何も今そんなこと蒸しかえさなくったって…」
「…あ」
と、笑いながらしゃべっていたハヤトの目に、その時あるモノがふっと映った。
…エルレーンは、いつのまにかテーブルにがっくりと身を伏せ、しゃくりあげていた。
…どうやら、自分が語った過去のリョウの姿に、すっかりショックを受けてしまったらしい。
「…え、エルレーン」
「あーわかる!わかるよエルレーン!…畜生、リョウの奴は何てひどい奴だったんだー!
こんないたいけなエルレーンにひどい仕打ちをするなんて!」
ベンケイも、本気でぷりぷり怒っている。しくしくと肩を震わせて泣くエルレーンの肩をなぜ、彼女にひどい口をきいたリョウを攻める。
「べ、ベンケイ…」
「…やりすぎたかな」
…さすがに、ハヤトもちょっとばつの悪そうな顔だ。
「え、エルレーン…だ、だから、それは…昔のことなんだから。…反省してる、本当に…あの時のことは」
「…」
「だ、だから…泣き止んでくれよ。俺はもう、そんなこと思っちゃいないから…
そうでなきゃ、今こうして一緒にいられるわけがない、そうだろ?」
リョウは一生懸命にエルレーンに昔のことを謝りつづける…
「…くすん…」
涙の光る目で、リョウを見つめるエルレーン…哀しそうな表情が、リョウの胸に突き刺さる。
「…ごめん。本当に、昔の俺はひどいことばっかり言ってたし…で、でも」
リョウは、彼女をまっすぐ見つめ、少し恥ずかしそうに…だが、それは紛れもない真実…こう言った。
「今の俺にとって、お前は…た、大切な、俺の…『妹』、みたいなものだからさ…!」
(…)
…彼らから少し離れたところで、その会話を聞いていた「炎ジュン」。
エルレーンも、リョウのその言葉にようやく機嫌を直してくれたのか、かすかな微笑みを浮かべるのが見えた…

『…なにも、ついてこなくてもいいのに?』
『えー?いいでしょ姉様。私、姉様のお見送りしたいんだもん』
『はは…それはありがたいのだがな…』
自宅に帰り、母上と妹、リーアに会ってきた後のことだった。
リーアは、基地エリアに帰ろうとした自分を見送るといって聞かなかった。
…内心、困ってしまっていた。
彼女の気持ちはうれしいのだが…
いかんせん、以前のことがあったから。
(参ったな…また、エルレーンとはちあわさなければいいのだが…)
…そうだ、かつてリーアはエルレーンと会ってしまったことがある。
その時、自分たち「ハ虫人」にとっては異形のモノである「人間」エルレーンに対し、リーアは…彼女の感覚としては当然の言葉をエルレーンに投げつけた。
…「バケモノ」と。
それを聞いたエルレーンは、ショックを受けて泣きじゃくり…「ハ虫人」が怖いと、自分に必死にすがりついてきた。
…まさかとは思うが、もしまたこの二人が会ってしまったら…
(…?!)
その時だった。道の向こう、ぽつんとあらわれた人影…
その人影が、自分たちのほうをふりむいた。
『!…ルーガ!』
その影は、自分の姿を見つけると…ぱっと笑顔になり、こちらに駆けて来た!
『?!』
リーアの瞳にもその姿が映る…
が、その影の正体がわかった途端、彼女の笑顔がかちっと強張った!
…エルレーン!
(く…なんてタイミングの悪い!)
思わず、そのあまりの偶然にこころの中で毒づいた。
…しかし、妹を彼女から遠ざけようとしてももう遅すぎる。
『!』
リーアの視線がきっと鋭くなる…
「バケモノ」、そのくせ姉にまとわりつく忌まわしい「人間」の登場に、敵意剥き出しの表情を見せる…
『…』
エルレーンも、相手が誰だか気づいたらしく…一瞬、臆したような表情を見せる。
だが、その場にとどまったまま、リーアをにらみつけている…
不快な、ぴりぴりとした緊張した空気が二人の間に漂う。
…それを何とかしようと口を開いた矢先、リーアが先制して相手に攻撃を加えようとした。
『…まだ姉様に付きまとってるの、<人間>のくせに!…<バケモノ>のくせに!』
『!』
『リーア!止めないか!』
『だって、姉様!』
しかし、その時だった。蚊の鳴くような、弱々しい声…だが、確かにそれは反抗の言葉だった。
『…わ、私…』
エルレーンは、リーアを…以前自分を「バケモノ」呼ばわりした「ハ虫人」の子どもをにらみつけ、か細いながらはっきりと抗弁したのだ。
『わ、私は、ルーガの…<トモダチ>だもん…ば、<バケモノ>なんかじゃ、ないんだから…!』
『…!』
そのせりふに、きっとリーアの目が鋭くなる…
一瞬彼女はひるんだように見えたが、だがすぐにエルレーンに向かって残酷なせりふを投げつける。
『…フン、だ!あんたみたいな<人間>が、姉様の<トモダチ>?!笑わせるんじゃないわ!』
『リーアッ!』
『…!』
それを叱りつける自分を、不服そうに、不可解そうに見上げるリーア。
『ね、姉様!姉様はこんな奴の味方するのッ?!…だって、<人間>は<敵>でしょ?!残酷な<バケモノ>なんでしょ?!』
『…私は前にも言ったな、リーア?…あの子は私の部下だ。我々の<仲間>…そして、私の大切な<友人>だよ』
『…!』…リーアの表情が、「信じられない」というような落胆のものに変わる。
それと同時に、エルレーンの顔にも変化が生まれた…
それは一瞬で消えた。
しかし、それは確かに、自分の言質を取ったという、勝ち誇ったような表情だった。
数秒の間。
どんっ、と、まるで体当たりをしてくるかのような勢いで、いきなりリーアが自分に抱きついてきた。
ぎゅうっ、と腰に手を回し、身体をぴったりとすりよせてくる…
まるで、この「人間」へと吸い寄せられていく姉の自分を、全身全霊かけて取り戻そうとでもするかのように。
『…!』
『リーア?!』
そして、あっけにとられるエルレーンをぎりっ、と音のしそうなほど鋭い視線でねめつけ…
半ば挑みかかるように、半ば宣戦布告するかのように、彼女に向かって怒鳴りつけた。
『渡さない…あんたなんかに、姉様は渡さないんだから!姉様は、私だけの姉様なんだから!…<人間>のあんたなんかに、姉様をとられてたまるもんか!』
『…!』
『り、リーア!』
『あんたなんか所詮<人間>なんだ!…私の姉様に付きまとうなッ!』
『…!』
その鞭のようなせりふ。エルレーンがショックに大きく目を見開くのが見えた…
と、その刹那、エルレーンはくるっときびすを返し、一目散へ基地エリアのほうへ駆け出していってしまった。
『え、エルレーン!』
その後を追おうとした…だが、小さな腕がそれを阻んだ。
『姉様!』
『リーア!なんてことを!』
『…姉様…!』
リーアはぴったりとくっついたまま、うっすらと涙を浮かべた目で自分を見つめる…
『…離すんだ、リーア…』
『姉様は…』
『ん…?!』
『…姉様は、私とあいつと、どっちのほうが大切なの?!』
『?!』
『私だよね?!…だって、姉様は、ルーガ姉様は、私の…私だけの、姉様なんだもん!』
『…リーア…』
改めて、自分にしっかりと抱きつく妹の顔を見た。その目は、何処までも真剣だった…
あんな異種族の「バケモノ」をかまう姉の姿が、どうにも腹だたしくて仕方ないようだ。
だから、問う。あんな「人間」よりも、自分のほうが大切だろうと。
…幼い妹の、それがゆえに残酷な質問に…自分は、軽く微笑を浮かべ、諭そうとした。
『…馬鹿だな。そんなふうにして、比べるものじゃないだろう?…お前は私の大事な<妹>だし、あの子は大切な<友人>だ』
『…』
リーアの表情は強張ったままだ。
『リーア…』
『…姉様は、やっぱり…あいつをかばうんだ…』
『かばう…?』
『姉様…でも、あいつは<人間>なんだよ?そんな奴に、どうしてやさしくするの?!…どうして、私より、あんな…!』
『リーア!』
自分の言うことを聞こうとしないリーアにいらつき…とうとう、声を荒げてしまった。
『!』
びくっ、となるリーア。その彼女の肩に手を置き、静かにこう言った。
それは、自分の本心そのものだった。
『…リーア…私はいっただろう?お前は、私の…大事な<妹>だと。比べるものじゃない。
…二人とも、私にとっては大切なんだ。…それに…』
『…それに?』
『…あの子は、生まれつき寿命が短いんだ。もう、数ヶ月と持たない…かわいそうな、子なんだよ…』
『!…そうなの!』
その途端だった。
その自分の言葉を…エルレーンはもう先長くないという事実を…聞いた途端、突如リーアの表情がぱっと変わった。
これで得心がいったというような、納得したような顔になる。
『…?』
『そうなんだ!…じゃあ、わかるわ!』
『わかる…?』
リーアがそういう意味がわからず、問い返した。
忘れもしない…その時リーアは、笑顔でこう言ったのだ。
『姉様は、あいつに同情しておられるのよね?!』
『え…?!』
どくん、と一瞬、心臓が強い鼓動をうった。
言葉を失い、立ち尽くす…
その自分の目の前で、何度もうなずきながら、リーアはなおも言葉を継いだ。
『もうすぐ死ぬから、あわれだから…姉様はやっぱり、やさしいね!』
『…』
『そうよね、そうでなきゃ…』
そう言って、にこっとリーアは笑う…
そして、くるっとターンして、宙を見つめながら、彼女は最後に言い放った。嘲るような口調で。
その言葉は、確かにエルレーンへの…「バケモノ」、「人間」への嫌悪に満ちあふれていた。
『…誰が、<人間>なんかに親切にするもんですか!』
…「ハ虫人」の「敵」に対するその感情は、強く激しく、そして根深い闇。
こんなに幼い子どもにすら、自分の妹の中にすらそれがあることをまざまざと見せ付けられ、何も言う言葉を見つけえないままでいた…

基地エリアに戻った後、すぐに向かったのはエルレーンの部屋だった。
『…エルレーン。開けるぞ』
2、3回扉をノックしたが、返事が返ってこない…
仕方なく、そう言って自分でドアを開ける。
エルレーンは、やはり中にいた。
ベッドの上に座り込み、ひざを抱えたまま顔を伏せている。
自分が入ってきても、何も反応しない…
『…』
『…さっきは、妹がすまなかったな…』彼女の隣に腰掛け、そんな言葉をかけた。
『…』
だが、エルレーンは無言のまま。ふせられたその表情は、堅く強張ったまま…
しばらくそのまま、どちらも何も言わない、けだるく…だが、心地よくない時間が流れる。
『…ねえ、ルーガ』
…と、エルレーンがぽつりとつぶやいた。
『何だ?』
『…私と、あの子と…どっちのほうが、すき…?』
『…?!』
それは、先ほどリーアが口にした言葉とまったく同じセリフ。
あんな奴より自分のほうが好きだろうと、必死になって自分の答え、確証を求めようとして…
『ねえ!どっちのほうが、好き?!』
『エルレーン!』
『…!』
『…エルレーン…そんなもの、比べるものじゃないだろう?!』
先ほどのリーアとのやり取りがフラッシュバックする。
答えなど出せない質問を投げかけてくる彼女らに対し、正直言って、いらついた…
『…』
が、思わず強い口調で怒鳴ってしまったことに気づき、口を閉ざした。
…怒鳴りつけられ、自分を呆然と見つめるエルレーンの瞳に、涙が浮かんできたのが見えたから。
『…そっ、か…る、ルーガは、やっぱり…あ、あの子のほうが、好きなんだ…?!
だ、だって、あの子は、ルーガの<妹>だから』
震える声で、エルレーンはそう言い…さみしげに微笑った。
『!』
『ずるい…な、あの子だけ…あの子だけ、ルーガを、独り占めにする…』
ぎゅうっ、と瞳を閉じて、身をちぢこませ…ぼそりとエルレーンはつぶやいた。
『…エルレーン、私は』
『…私も、ルーガの、<妹>に…生まれれば、よかった、のに…!』
『…』
そう言ったきり、エルレーンはうつむいたまま…
自分の「妹」、リーアに対して嫉妬するエルレーン。
自分を独り占めにするといってうらやむ…
それは、先ほどリーアがエルレーンに対して剥き出しにした感情と同じモノだろう。
自分の愛情を取り合う二人…しかし、その二人に対して、愛情の優劣などどうしてつけられようか。
『…エルレーン。…私は、誰のものでもないよ…私は、私だ。
あの子…リーアにとっては、<姉>。そして、お前にとっては…<トモダチ>だ』
『…』
『お前は、私が守ってやる…大切な<トモダチ>なのだから。
…それじゃ不満なのか、エルレーン?』
『…ううん…だ、だけど』
そう諭すようにいってやると、さすがに首をふるエルレーン。しかし、その後に、何かまだもごもごとつぶやいている。
『だけど?』
『た、ただ…いいな、って、思ったんだ…
ルーガみたいな、<お姉さん>に、やさしくしてもらえる…
そういう、<妹>に、なりたいって、思った、の…』
『何故だ?』
『だって…私の、<お兄さん>は…私を殺そうとするもの』
『…!』
『それに、<妹>の私も…いつか、リョウを殺すの』
あまりに、淡々と彼女は語った。それがかえって、心を寒くさせた…
そうだ、この子は…己のオリジナル、己とおなじモノ、己の兄弟を殺すために造られたのだ。
そして…この子は、既に…49人の自分の兄弟をその手で殺している。
『…』
何もいう言葉など見つけられなかった。…黙り込んだままでいるしかなかった。
『…ルーガぁ』
『?!…な、何だ?』
すると、今までそんな自分をじっと見つめていたエルレーンが、唐突に呼びかけてきた。
その声が…おねだりをするような甘い声だったので、余計にちょっと戸惑ってしまう。
彼女は、しばらくもじもじしていたが…やがて、思い切ったようにぼそっとつぶやいた。
『ねえ…い、今だけでいいから、<姉様>って、呼んでもいい…?
今だけでいいから、私を…ルーガの、<妹>にして?』
『!』
『だ、ダメ…?』
『…好きにすればいいさ』
『!…<姉様>!』
すると、途端にエルレーンは自分に抱きついてきた。
自分を「姉様」と呼び、両手を背中に回してぴったりとくっついてくる…
先ほど、リーアがあてつけがましく、彼女の目の前でそうしてみせたように。
『うふふ…』
『…』
うれしそうな微笑みを浮かべて、身をすりよせてくるエルレーン。
彼女を抱きとめながら…リーアの言葉を反芻していたことを覚えている。
私は、この子に同情しているだけなのか、と。
自分に必死ですがりつく、この少女を…生まれながらにして死すべき時をすでに宣告された、薄幸な少女を。
そうなのかもしれない、と思った。だが、そうではないのかもしれない、とも思った。
そんなことはどうでもよかった。
ただ、今、自分の胸の中で安らっているエルレーンをいとしく思う、静かに寄せる波のような穏やかな感情…
それだけは本当だと感じられたから。
『ねえ、あのね…』
…と、エルレーンが微笑しながら、そっとささやいてきた。
『何だ…?』
『私が死んで、今度生まれてくるときは…きっと、そんなに探すの、大変じゃないよ』
『ん…?何故だ?』
『だって、私は、きっとルーガの<妹>になるんだから。絶対絶対、ルーガの<妹>に生まれてくるの』
『…!』
『だから、すぐにわかる…ね、簡単でしょ?』そう言って、にっこりと笑うエルレーン…
今度は、絶対に名実ともに自分の「妹」になるのだ、と。
『ああ…そうだな、すぐに、わかるさ…』
確か、そう答えた気がする。
…きっとわかるはずだ、そんな根拠のない確信すら感じた気がする。
彼女のこの短い生が終わり、「全てのイキモノが行く場所」を経て、再び生まれ変わったその時も…必ず自分は見つけられる。
このいとしい友人、異種族の少女、エルレーンを…

…そう、確かそんなこともあったはずだった。
そして、今目の前には…「兄」(いや、「姉」というべきか…そのどちらでもある、ともいえようが)に甘えるエルレーンがいる。
(…やれやれ、本来の「兄」が出来た途端、あれか…調子のいいことだな、エルレーン)
「…ん?」
…が、そんな感覚が頭に浮かんだ途端、その考え自体がなんだかおかしいことに気づき、首をひねる「炎ジュン」。
(おや、おや?)
流竜馬に甘えるエルレーンを見ていたら、もやもやと胸に湧いてきた、奇妙な感じ。
その感覚がよく自分でもわからず、しばらく考えていたが…
ようやく、それが流竜馬に対する軽い嫉妬だと言うことに気づき、思わず「炎ジュン」はかすかに笑ってしまった。
「…はは、っ」
頭をかきながら、苦笑する彼女…
すこしうらやましげな目で見つめる先には…今や、エルレーンを「妹」にすることに成功した、流竜馬の姿。
(まあ、仕方ないか…残念だが、あの子はもう流竜馬にとられてしまったのだから!)
ふうっ、と短いため息をつき…彼女は心の中でそうつぶやくのだった。


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