--------------------------------------------------
◆ 「救い」を願う者
--------------------------------------------------
「…」
「何ともないようだな、四人とも…無事でよかった」
アーガマ・ブリーフィングルーム。
無言のまま、立ちつくすガロードたち…
彼らの周りを、安堵の表情を浮かべる「仲間」たちが取り囲んでいる。
「…」
「まさか、あんなところにメカザウルス・ロウがいるなんて…」
「ふん、喰えない奴だぜ。丸腰のガロードたちを狙って、何しようッてんだ!」
「…」
「早く発見出来てよかった…そうでなければ、もしかして…」
「No.0…あいつ、一体何を企んでやがるんだ?!」
「…違う」
「…?!」
それは誰が発したのだろうか、No.0に対する悪意そのままを言語化したようなセリフ。
だが…それに抗するように、うつむいたままのガロードの口から、かすれ声がもれる。
それがよく聞き取れなかったがために、怪訝な顔をする「仲間」たち…
次の瞬間、ガロードは、ばっ、と面を上げ、思い切ったように続けた。
「ち、違うんだ…みんな。…あ、あいつは、俺たちを傷つけようとしたんじゃない!…あいつは、No.0は…俺たちを、助けてくれたんだ!」
「え…?!」
「な、No.0が…」
「お前たちを…?!」
ブリーフィングルーム中に、波のようにざわめきが生まれていく。
思いもしないガロードの言葉に意表を突かれ、そこここでひそひそといぶかしげな会話が編まれていく…
「あ…ああ、そうさ!」
そのざわめきに負けないくらい大きな声を張り上げ、ガロードははっきりと告げた…
「あ、あいつは、メカザウルス・ロウで…フロスト兄弟から、俺たちを守ってくれたんだ!」
「?!」
「フロスト兄弟から…?!」
「何だかわからねえけど、あいつら、偶然あの場所にいやがって…もう少しで俺たちはあいつらにやられるところだったんだ!
…だけど、それを…No.0が、身体を張って助けてくれたんだ!」
「…」
「そ、それ、本当なのか、ガロード…?!」
「ああ!…あいつ、フロスト兄弟のフォーメーション・アタック喰らって、ぼろぼろになって…それでも、俺たちを必死で守ろうとしてくれたんだよ。
あいつは、俺たちの命の恩人なんだ!」
彼の証言を聞く「仲間」たちの顔に、驚きの色が広がっていく。
あの残酷で突拍子もない、悪魔のような少女が。
己の「自由」を得んがため、彼女を救おうとしたリョウをも退けたNo.0が…
ガロードたちを、フロスト兄弟から守りぬいたというのだ。己の身を呈してまでも…!
「な…なあ!…だ、だから!…だから、あいつは…No.0は、根っからのワルじゃないんだよ!…だから、」
ごくん、と、一旦息を飲み込んだ。
そうしておいて、ゆっくり空気をたっぷりと吸い込んでから…緊張に押しつぶされないように、それを一気に吐き出した。
「もう一度、考え直しちゃくれねえか…?!」
「!」
「だ、だって、こないだの話じゃさあ…こ、今度No.0が来たら、俺たち…あいつと、戦うことになってるんだよな?!
そ、それって…あいつを、殺しちまうってことだろ?!」
「…」
率直な、率直過ぎる彼の言葉に、誰もが軽く目を伏せる。
そう、「No.0を説得する」というリョウの意見を却下し、真・ゲッターを撃墜すると決めた…
それが暗に…いや、明らか過ぎるほど明確に示すのは、彼らプリベンターが一丸となり、彼女を殺害するということを決定した、ということなのだ。
だが、もはやガロードたちは知ってしまった。あの少女の、もう一つの面を。
その面は彼女に対する憐憫、同情、そして紛れもない友情の感覚をわきおこした。
だから、ガロードは…困惑と疑念いっぱいの目線で自分を見る「仲間」たちに向かって、どもりながらも言い募る…!
「お、俺は…そ、そんな必要なんて、ないと思う…!」
「ガロード…?!」
「そ、そうだよ、みんな!」
「ジロン…!」
いきなりNo.0に対する慈悲を請い始めるガロードに、皆戸惑いの表情を隠せない…
だが、ジロンが一歩歩み出、彼の主張を後押しし始めた。
「お、俺たち、そのちょっと前に…No.0に偶然会ったんだ。
…波打ち際で、眠ってたあいつ見つけて、それで…な、何か、仲良くなっちまって、俺たち…一緒に、釣りしてたんだ」
「…」
「あ、あの子は!…本当に、普通の女の子だったよ?!
…月が好きで、チョコレート食べてうれしそうにしてて、イヤリングつけて照れたり、…釣った魚だって、海に逃がしてやるくらい…やさしい、女の子だったよ!」
「…」
「あ、あの時はさ!…きっとあの子、逆上しちまっただけなんだよ!ほ、ほら、俺たちだってよくあるだろ?!
色んなこと言われて、でもそうしちゃいけない理由もあって、そんでもう訳わかんなくなって、…頭ん中かあっとなっちまって、どうしようもなくなっちまっただけなんだよ!」
「…」
「あの子はさ、本当はやさしい女の子だよ?!そうでなきゃあ、俺たちのことを命がけで助けようとなんてするものか!」
ジロンが必死になって語る、No.0の姿…あの狂気をまといし少女の、もう一つの面。
驚くほどに素直で、あどけない…幼さの目立つ、女の子(それは、エルレーンのように!)。
その言葉は、なかなかそれを聞く「仲間」たちのこころにはしみこんでいかない。
以前彼女自身が見せた狂気の沙汰が、そしてその彼女が生んだ恐怖の感情が、ジロンの言に対する抵抗となって壁を作る。
「仲間」たちの胡乱な視線を感じながら、それでも…ジロンはなおも言い募る。
No.0に対するその恐怖の念を、少しでも打ち砕こう、変えよう、壊そうと。
「な、No.0は、懸命に俺たちをかばってくれた…そうして、あの子は笑ったんだ!
自分たちが傷ついても、『お前たちが、無事でよかった…!』って言って、あいつ、笑って…!」
「そ、そうだよ、ジロンの言うとおりだよ…!
…な、No.0、自分は怪我して、血を流してるのに…それなのに、アタイらのことばっか心配してた!
あの子、そんで、…にこっ、て笑ったんだよぅ…!自分が痛いのに、アタイらのことばっかり気にして…ぇッ!」
「だから、No.0は…!…本当は、やさしい女の子なんだよ…!」
チルも一緒になって、彼女のやさしさを、痛々しいくらいの自己犠牲を見せた様を語る。
だから、彼女は…本当はやさしい女の子なのだ、と。
「…」
しかし、聴衆の答えは…皆無。異様な静けさが、ブリーフィングルームを支配している。
それどころか、その無言のうちから…彼らの望みとは、まったく逆の反応がわき出でてきた。
「だ…だがよ、」
その、誰かのもらしたつぶやきを端として…唐突と言えるほどに、それがざあっと拡がっていった。
「…だがよ、それにしたって…相手は、あの『バケモノ』みたいな女だぜ?」
「ああ…あいつはリョウたちを、本気で殺そうとしてたぜ。…あいつのことを心底思いやってたリョウをさ」
「そんな危ない奴、『仲間』にしようってのか…?!冗談じゃないぜ!」
一人や二人ではない。だからと言って、数人でもない。それは、ほぼ全員。
No.0に対する恐れと疑い、拒絶の意思…それは、個人が生み出す気焔ではなく。
「仲間」たちのこころから出でたそれらがまとまり、誰の背にも負われぬ無責任な総体となって…一挙にジロンたちをまわりを埋め尽くしていった。
「…」
思わず見回す。四方八方。自分たちを取り囲む、「仲間」たちの群れ。
「う…」
「…!」
だが、その人垣から漏れ聞こえてくるささやきは、どれもこれもネガティブなものばかり。
No.0を救うという自分たちの主張を、そのささやき声が喰っていく…
それらは無形の威圧となり、壁となり、ジロンたちを押し包む。
面と向かってではない、明らかな悪意でもない、だが鮮明でかつ重いプレッシャーが、ゆっくりと彼らのまわりに侵攻していく。
ぶるっ、と、チルが肩を震わせた。
ジャンプスーツに包まれた小さな身体が、その忍び寄る圧力を感じて怯えている。
「それにさ、エルレーンが言ったことが本当なら…あいつは恐竜帝国マシーンランドをぶっ壊したこともあるそうじゃねえか。
…そん時ゃ『仲間』だった『ハ虫人』を殺しまくった、ってことだろ」
「こっちの『仲間』になったところで、いつ寝返るかわかりゃしねえ…!そんな奴、信用できるかよ!」
「それなら、いっそのこと…」
「…!」
「いっそのこと」。
それに続く言葉が、チルの頭の中にはじけた時…彼女の忍耐も、限界を超えてしまった。



「…何だよ、馬鹿あああああぁああぁあッッ!!」



幼子の金切り声が、ブリーフィングルーム中に響き渡った。
その悲痛な絶叫が、最高潮に達したざわめきを…ぴたり、と打ち止ませた。
彼らの視線が、その声の主に向けられる…
「…?!」
「ち、チル…?!」
全身を義憤と言う感情の高ぶりでぶるぶると震わせ、大粒の涙をぼたぼたとこぼしながら…チルは、自分よりはるかに背の高い大人たちをねめつけ、挑みかかるように身体を強張らせている…
「うっく…ううっ…!…何で?!何で、ダメなのさ?!」
「…」
「No.0は、アタイたちを助けてくれたんだよ?!あのガンダム兄弟から、助けてくれたんだよ?!
…もし、あの時No.0が助けてくれなかったら!アタイらは殺されて、ティファは連れてかれちゃってたんだよ?!」
「チル…」
「な、No.0は…No.0は、月が、好きで!チョコレートが、好きで…やさしく笑う、女の子だったもんッ!
…な、No.0はアタイの『トモダチ』なんだ!…『トモダチ』を助けたいっていうのが、どうしてダメなのさッ…?!」
幼女の、それこそその年には不釣合いなほどの、血を吐くような怒りの言葉…
素朴な友情から、自分の「トモダチ」を救おうとするチルの叫ぶ姿は、それを見る「仲間」たちのこころを自然揺さぶっていく…
先ほどの己が発言を恥じたのか、数人の「仲間」の目線は、下へ下へと下がっていった。
「…」
「あ、アタイは、『約束』したんだァッ!No.0と『約束』、したんだからッ…!…こ、今度、『チョコレートケーキ』食べさせてあげるって、『約束』したんだよぉッ…!」
そこまで言ったところで、とうとう彼女は耐え切れなくなってしまった…震える唇が、大きく開かれる。
涙にむせぶ声色で、チルは全力で、あふれる感情ごとそれを吐き出した…
無慈悲で無理解な彼らに対する怒りを、その小さな身体中にみなぎらせて。
「なのに!なのに、どうしてNo.0を殺そうとするのさぁッ?!」
「で、でも…あいつは、リョウたちを…」
「…リョウたちを、殺させなきゃあいいんだろ?」
誰かの反論を、そんな彼の言葉が打ち消した。
それは、ジロンの声。
「ジロン…!」
チルのそばに歩み寄り、軽く彼女の頭をぽんぽん、と叩く…よく言ってくれた、とでも言うように。
ねぎらわれたチルは、ふっと安堵したように微笑んだ…
その涙は止まってはくれなかったが、それでも彼女は微笑んだ。
彼女の後を継ぎ、今度はジロンが一同の視線の矢面に立つ。
彼は、彼らしい…何処かやけっぱちになったように聞こえるけれども、十分にそれを達成しうる意志の強さ、そしてあきらめないこころを感じさせる熱を持った口調で、彼らに向かってはっきりとこう宣言した…
「…だったら、今度は俺たちもあいつを説得するよ。…だってあいつは、俺の『トモダチ』だからな!」
「…そうだ、ジロンの言うとおりだ!」
すぐさま、ガロードも強い同意を示す。彼もまた、そのきらめく瞳にきっぱりとした明るさと希望を宿らせ、堂々とその後に続く。
「俺も、その役目に参加させてもらうぜ!」
「…私も…!」
「お前ら…!」
そして、ティファも。
困惑したような誰かの嘆息に、彼女は軽く微笑み…このような簡潔な言葉で、その愚行を選ぶ理由を述べた。
「…あの人は…私の、『トモダチ』ですから…!」
「へへん、ダメって言っても無駄だぜ!」
「し、しかし、」
あまりに軽々しく聞こえる、彼らの決意の言葉。
それ故に、知っている者は必死に伝えようとする…あの、悪魔の真の力を。
アムロの口を借りて語られる、その危険性…
「君たちはわかっていない!…あの、真・ゲッターという機体は、異常なほどの破壊力を誇る『兵器』なんだ!
もし、彼女が激昂して、君たちに攻撃を仕掛けたら…命の保証などないんだぞ!」
「…ああ、わからないね!…でも、攻撃なんて、みんなよけてやるさ!」
「!」
だが、ジロンは…一回はっきりとまばたきし、その大きな瞳にNo.0を害しようとする彼らに対する反抗心と強い意志をたぎらせ、大声で怒鳴り返した!
「俺たちの目的は、あいつを殺すことじゃない!あいつを説得することだからな!」
「ああ!」
ガロードもそれに力強く和する…!
「ジロン…ガロード…!」
「…それに、…ティファの力がNo.0のことを知らせたのも、きっと意味があるんだ!」
「え…?!ティファの、力が、か…?!」
「ええ…!」
周囲にどよめきが広がっていく。
ティファはうなずき、答えた。深い黒曜石のような瞳に、静かな光をたたえて…
「…私、今ならわかります…どうして、あの時…私の力が、あの人のいる場所を知らせたのか」
その声色に、熱情と確信がこもる。
彼女には似つかわしくないほどに、強い口調で…ティファは、「仲間」たちを前に一歩も引かずに、はっきりと言い放った…!
「それは、きっと…あの人を、死の運命から『救う』ため…その『未来』を、変えるため…!」
「!」
「…ああ、きっとそうさ、ティファ!…俺は、信じるぜ!お前の力!…俺たちは、その『未来』を変えられるはずだってな!」
「ガロード、お前…!」
「アタイもだ!…そんな、そんなふざけた『未来』なんて、アタイはいらないッ!だ、だから、無理にだって変えてやるんだ!
…そ、そんで、そんで!…そんで、アタイは、No.0と一緒に…『チョコレートケーキ』、食べるんだからぁッ…!」
「チル…!」
幼子の涙ながらのセリフが、頭の中に反響していく。
そんなふざけた「未来」なんていらない、と。
だから、無理にでも変えるのだ、と。
それは、正しい。少なくとも、間違ってはいない。
…そして…それは、自分が最初に望んだことではなかったのか?!
「…そうだ…」
小さな、同意のつぶやき声。
誰に聞かせるでもなくそれを落とすと同時に、彼は…とうとう、一歩前へと踏み出した。
人並みから踏み抜け、姿をあらわした者。
「り、リョウ…」
ゲッターチーム・リーダー、流竜馬…
彼女を救わんと最初に主張した者、そして、あのNo.0のオリジナル…!
とうとう、彼が再び動いたのだ。
彼は惑う人々の視線が交錯する中、まっすぐにブライト艦長のもとに向かっていく。
「ブライト艦長。俺たちに、もう一度だけチャンスをください…No.0を説得する、チャンスを!」
「!」
「リョウ君…だ、だが、」
「No.0は、ただ殺すだけの危険な『兵器』じゃ…『バケモノ』じゃありません。それを、今日、あいつ自身が証明したんです!」
「…!」
「あいつは、自分の『敵』が相手じゃなきゃ…暴力振るおうとはしない。それどころか、あいつはガロード君たちを守ろうとしたんです。
…『敵』だから恐れる、だから殺す。きっと、それだけなんです」
「し、しかし…だからこそ、君たちゲッターチームは…彼女の『敵』として、いのちをつけねらわれてるんじゃないか!」
「…それでも、俺が言い続けることは前と変わりません、たった一つです。…俺は、お前の『敵』じゃない、ってね!」
「…そうだな、リョウ…」
「!…ハヤト…!」
にっ、と、不敵に笑み、そう答えるリョウ…そんな彼の後ろから、ハヤトが姿をあらわす。
何処かに緊張を残した笑みを、かすかに浮かべながら…
「お前は、昔もそうだったな…そうやって、お前はエルレーンをとことんまで信じた。だから、お前はエルレーンを救えたんだ…!」
「…」
「俺も…腹くくったぜ」
「!」
「俺も、今度は…逃げない。見捨てない。…信じるぜ…あの、お嬢さんをよ。…ガロードたちに見せてたような、『人間』らしい…かわいらしいところがあるってんならよ…!」
彼の顔には、ある種の悲壮さがにじみ出ていた。
だが、それでも…彼の唇が放ったのは、確かに宣言。
今度こそ、今度こそ同じ過ちは犯さない、と。
今度こそ、彼女を信じ続ける、と…それは、リョウがエルレーンに対してしたように!
「…君たち…」
「前も言いましたね、ブライト艦長。…No.0を手に入れることは、真・ゲッターを手に入れることでもあります。
あれがまた俺たちゲッターチームのもとに帰ってくれば、十分戦力の増強になる、って」
「それは、そうだが…だが、しかし!…君たちのいのちには換えられん!」
「!…ふふ、っ」
「?!…な、何がおかしいんだ?!」
突如、柔らかな笑みをもらしたリョウ。
状況はずれなほどに柔和な微笑に困惑するブライトを前に、彼は…驚くほどに明るい口調で、はっきりとこう述べたのだ…!
「ふふ…俺は、死にませんよ…絶対に、ね」
「!」
「絶対に、死にません…そして、No.0だって、死なせない。絶対に、俺は救ってみせます!」
そう思い込める根拠など何も無いにもかかわらず、そう信じる彼の言葉は一切の揺らぎも無く…
燃え盛る炎のような意志の強さを宿す彼の瞳には、惑いはもはや無い。
穏やかな笑顔の下に深い情愛と硬い決意、揺るぎない自信をたぎらせ、リョウは断言した…
自分は決して死なないと、そして彼女も絶対に死なせない、と…!
「…」
「そうですよ、ブライトさん…何せ、こいつは」
ハヤトは薄く笑む。
ジョークめかした口調で、だが真剣そのものの表情で、こう言い切った…
「…あの世の入り口から、死ぬはずだったエルレーンを無理やり引きずって帰ってきた奴なんですよ。…そんな簡単に死ぬはずがありません」
「…」
有無を言わせぬほどの言の強さに、ブライト艦長も言葉を失った。
まわりを取り巻く「仲間」たちも、惑いと疑念、だが提示された希望…その全てが入り混じった空気の中に沈みこんでいく。
そして、その場には…多人数が集っているにもかかわらず、奇妙な静けさが生まれる。
嘆息のような、感嘆のような…様々な吐息の音だけが、空に響いた。
「…リョウ、ハヤト…」
ベンケイの口から、かすかな音が漏れる。
「仲間」二人の硬い決意を前に、彼の心中は如何なるものであろうか…
ともかく、ベンケイは何も言わない、何も言えないままでいた。
口をつぐみ、半ば呆然とリョウたちを見つめたまま、彼は立ち尽くしている…
「…チルちゃん」
「り、リョウ…」
今だすすり泣いていたチル…と、その前に、すっと影が落ちる。
…見上げると、そこにはリョウ。しゃがみこんだリョウが、静かに笑みながら自分を見ている。
それは、あの子と同じ顔。だが、少し何処か違うように思える、笑顔。
リョウはそっとチルの頭に手を伸ばす。
そして、やさしく彼女の頭をかきなぜながら…穏やかな口調で、つぶやいた。
「…忘れないでいてくれよな、…その『約束』」
「!」
「その『約束』、きっと果たさせてみせるからさ…!」
「うん…!…あ、アタイも、がんばるよ…!…だって、」
希望と信念にきらめく、リョウの炎のような瞳。
だから、チルも…ぐいっ、と乱暴に頬に流れる涙をぬぐい、リョウをまっすぐ見返して…真っ赤な目をしたまま、こうきっぱりと言ったのだ。



「だって、No.0は…アタイの『トモダチ』なんだから…!!」




back