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◆ 目覚めよ深遠なる闇の底から、深き眠りのうちに在る邪神よ
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「…」
<…>
「…ふん…確か、こう…だったか」
<…誰だ…>
「?…くそ、何で何も反応しねえんだ…?」
<我に触れるものは、誰だ…我の眠りを覚ますものは、誰だ…>
「エンジンに火も入らねえのか。壊れてんのか?」
<…>
「ん…それとも、…こっちか?」
<お前は…かつて、我を駆りし者なのか…?>
「…っかしいなあ…結構見た目はロウのと似たような感じなのによ…」
<…いや、>
「ちっくしょう、…動けよ、なあ…」
<…お前は…よく似てはいるが、違う…あの者と同じで、まったく違う者…>
「なあ…お前は、強いんだってな?…あのゲッターチームの野郎どもが使ってる、ゲッターロボGよりか、ずうっと」
<それに…お前は、一人なのか…>
「あいつらが、昔使ってた、ってことも聞いてる。
…へへ、悪ぃけどよ…今度は、俺がお前を使うぜ。…あいつらを殺すためにな」
<…>
「あいつらを殺せば、俺は…俺たちは、『自由』になれるんだ。
だから…俺に力を貸してくれよ。
そんで…お前も一緒に行こう?あの、蒼い空へさあ…!」
<…まあ、いいだろう…少女よ>
「?!…あ…メインパネル、が…」
<お前は、我を駆るに足る力があるようだ。…生命の力、輝かんばかりの強い意志、燃える炎のような純粋な生命力>
「…!よし、起動した!…エネルギーも十分みたいだ…くくっ、すぐに飛べる!」
<よかろう…では、ゆこうか…>
「よし…ッ!これで、やれるぜ!…いくぞ!」

アーガマのレーダーにその機影が現れたのは、その日の午後の事だった。
突如鳴り響く警報に、皆が身を硬くする…
そして、その敵機の正体が明かされるや否や、なおさらその緊張の度合いは高くなる。
メカザウルス・ロウ。恐竜帝国に属する、サイボーグ化された恐竜「兵器」…
そして、それを駆るのは当然…あの少女、No.0だ!
しかし、リョウだけは…ゲッターチームのリーダー、流竜馬だけは違っていた。
あの邂逅から十数日が立っていた。
しかし、それは彼女との再会を…説得の機会を待ち望んでいたリョウにとっては、じれったいほどに長い待ち時間だった。
しかし、とうとうその時がやってきたのだ。
ゲッタードラゴン・ゲットマシンはドラゴン号のコックピットに在る彼は、何とかその本願を遂げようとやきもきしている…
出撃許可を今か今かと待ちわび、とうとう自分から言い出した。
「ブライト艦長、ゲッターチーム、準備整いました!俺たちを発進させてください!」
「…」
ブライトは、無言。だが、リョウをとどめられない事は、十分に理解していた。
彼の炎のような瞳には、強い情念が燃えている。
己のクローン、あの悲劇の中に在るとらわれの少女を救わんと。
しかし、猛っているのはドラゴン号のリョウだけ…
残り二人のゲッターチームの表情は、浮かない。
ジャガー号のハヤトは、いつもどおりのクールなふりを装いながらも…顔のそこここに滲む沈痛な惑いを消し去れずにいるし、ポセイドン号のベンケイもまたそれは同様だ…
No.0を救おうと意気あがる、目の前のモニター画面に映るリョウ。
だが…その同じ身体が、同じ唇があの時言い放ったのは…率直で、短絡的で、論理的で、一切の迷いのない、血も凍るように残酷な言葉だったのだ。
その二者の間に横たわる奇妙なまでの断絶を、彼自身は知らないままでいるのだ…
「…り、リョウッ」
「?!…何だ、ベンケイ?!」
問い返してきたリョウに、ベンケイはそれを言おうとして口を開く…
だが、そこからは音が出てこなかった。
出そうにも出せなかった。彼の中の迷いが、その喉を締め付けたから。
(リョウ、お前の中にいるあの子は、エルレーンは…そのNo.0って子を「殺すべきだ」って言ったんだぜ。
まったくの真顔で…「敵」だから「殺すんだ」って、言ってたんだぜ?!)
言おうにも言えなかった。彼女のその冷酷さを、彼は知らないのだから。
その言葉が、その事実が、リョウをどれほどひどく打ちのめすかもしれない…
「…い、いや…その、…あの…」
「何だ、わからない奴だな!今そんな悠長な事やってる時間はないんだぜ?!言いたいことがあるんなら、さっさと言えよッ!」
「…いや、…何でも、ない…」
いらだったリョウにそう乱暴に促されたベンケイは、一瞬惑ったものの…結局、何も言えないままで口を閉ざしてしまった。
その彼を、ライガー号のハヤトは見ている…複雑な表情で。
一方のリョウは、そんなベンケイに困惑しながらも…はやる気持ちを抑えられないらしく、さっさと出撃しようとする。
「…?!…そうかよ、じゃあ行くぞ!…ブライト艦長、ゲッターチーム出ますッ!」
「り、リョウ君…だ、だが…」
モニター画面に映るブライト…彼もまた、ベンケイと同じだった。
そして、まったく同じこころの過程を踏み…結局は、それを彼に告げる事を押しとどめた。
「…大丈夫です。俺は…きっと、あいつを説得してみせます!」
「そ、そうか…成功を祈る、リョウ君…」
リョウの、異常なほどに力強い返答。
それに彼が返したのは、弱々しげな激励。
それが証拠に、ブライトの表情は暗いままだ…
その言葉面とは、裏腹に。
「ええ!…行くぞ、ハヤト、ベンケイッ!ゲッタードラゴン、出撃しますッ!」
そんな葛藤、内心の疑念にリョウは気づくこともなく…
リョウの勇ましい咆哮と同時に、ゲッタードラゴンは勢いよく格納庫から飛び出していく。
その様を、プリベンターや、アイアン・ギアー、フリーデンの「仲間」たちが見守っている。
ベンケイやブライトが抱く内心の懸念、同じくそれをうすぼんやりと抱きながら。

そして、彼らの懸念は…ある意味、的中する事になるのだ。

アーガマから飛び出してきた紅き巨人。その姿を見てとった少女からの通信は、こんな風にはじまった。
「!…ふッ、来たなゲッターチーム!」
「No.0ッ!」
「待たせたな…殺しに来たぜ、流竜馬ァ!」
いきなり殺意を全開にするNo.0に、慌てて口を挟むリョウ。
何とか彼女を踏みとどまらせようと試みる。
「な、No.0…待て、待ってくれッ!俺の話を聞いてくれッ!」
「…話ぃい?…ふん、聞く耳もたねぇよ…お前らは、黙って俺に殺されろ。それだけでいいのさ…!」
「くッ…?!」
リョウの必死の呼びかけに、残虐で冷淡な返事のみを返すNo.0。
…と、No.0の表情が、少し変わった。
不遜さの上に絶対の自信が入り混じり、その上にさらに…邪まな、遊び心が加わった。
「そうさ、今日はそのために…特別で、ステキで、さいッこうにイカシたモノを、てめぇらのために持ってきてやったんだからよおぉ…!」
「…?!」
No.0の言葉に、困惑せざるをえないゲッターチーム。
彼女の言の意図するものがわからず、眉をひそめている…
そんな彼らを見て、No.0は…まるで、謎かけめいたセリフを吐く。
嫌ったらしい、嫌味なほどに勿体をつけた口調で。
「くくく…わかんねぇのか?」
「な、何…?!」
「どうして俺が、今更再び造られたのか、ってことによぉ…!」
「え…?!」
「…『答え』は、カンタン。
そりゃあ、つまり…てめぇらを殺すために役に立つだろうが、あのトカゲ野郎どもには、使えない。そういう『兵器』があったから、さ」
「…?!」
もったいぶりながらそう語るNo.0。
…だが、そこまで言われても、ゲッターチームには何もわからないまま…
にいっ、と、少女は笑んだ。
ショウタイムの時間が、ついにやってきたのだ。
「へへ…この間は、まだ調整が済んでなかったが…今日は、ばっちりだ!」
そうNo.0が叫んだのとほぼ同じ瞬間に、各母艦のレーダーに三機の不審機影が現れる。
その不審機はみるみるうちにこちらに近づいてくる…!
異様なほどのスピードで。空を切り裂き、一目散に飛んできたモノ…
その影を目にした時、プリベンター中に…戦慄が走った。
「…!」
「な、何だと?!」
「そ、そんな…ッ!」
それを、彼らは知っていた。
ゲッター線という未知のエネルギー、そのカタマリともいえるような…ひとつの発現の形、「兵器」として在るモノ。
早乙女博士によって造られたが、その製作者ですら捕らえきれないその異常に膨大なポテンシャルと、強力無比な攻撃力を持つゲッターロボ。
パイロットの意思を、生命力を喰らうかのごとく…感情の高まりによって力を制限するリミッターを解き放つという、奇妙かつ神秘的なシステムを内在する。
そして、あのバルマー戦役後…その驚異的なパワーを人外のモノとした早乙女博士たちによって、早乙女研究所の地下深くに封印処置を施され、休眠・監視状態に置かれていたはずの機体…!
それはなんと、この未来世界で…恐竜帝国の手に落ちていたのだ!
よりにもよって、それを駆る事の出来ぬ、それによって死に至らしめらるる運命を背負いし「ハ虫人」たちの手に!
…それ故に、それを操るべき術者、その操者たる巫女を造りだしてまでも…!
「くっくっく…角には、角。牙には、牙。…流竜馬には、流竜馬。…そして、」
三機の戦闘機が舞う。
一直線に向かうのは…メカザウルス・ロウ。
自動操縦下にあるのか、それともそれは意思そのものなのか…
メカザウルス・ロウを祭り上げるかのように、己が巫女たる少女を護るかのように、彼らの周りを旋回する。
すさまじいスピードで飛ぶそれらがおこす疾風が、黄色い砂塵を巻き上げる。
「…!」
その砂煙の中、巨大な機械蜥蜴のまわりに控えるは…
真・イーグル号。飛燕のごとく整った鋭角なフォルム。その全身を真紅に染めた、鷹の名を持つゲットマシン。
真・ジャガー号。二股に分かれた尾部から青いジェットの炎を吹くそれ。白鳥のごとき純白そのもの、豹の名を持つゲットマシン。
真・ベアー号。安定性の高いその機体は、白と赤、蒼とで塗り分けられている。光をはじく三色の衣まといし、熊の名を持つゲットマシン。
そして、その三機の猛獣の名を持つゲットマシンが合体して生まれる神器、「兵器」…
「…ゲッターロボには、ゲッターロボ…!」
得意げに言い放つ少女の声を、誰よりも絶望と驚愕をもって聞いていたのは…他でもない、ゲッターチームの三人だった!
「ロウ…ここで、待っていてくれ。…すぐに、あいつらをぶっ殺して…戻ってくるからさぁ!」
プリベンターたちから少し離れた場所に飛び退ってから、彼女はロウのメインエンジンの火を消し、彼を稼動停止状態にした。
ぐるううううん、という低く静かなうなり声とともに、ロウは深い眠りの中に陥った。
そして、コックピットの硬質ガラスを開け、ロウの頭上に飛び上がり…まっすぐ、No.0は立ちつくす。
びゅうびゅうと吹き渡る風が彼女の髪をもてあそぶ。
メカザウルス・ロウを取り囲むように旋回していたゲットマシン…その一機が、まっすぐNo.0に向かってその切っ先を向ける。
そのまま、まっすぐに飛びかかっていくゲットマシン、真・イーグル号…と、そのキャノピーが、ひとりでに開いていった。
まるで、己からNo.0を迎え入れるがごとくに。
タイミングを見て、No.0は跳んだ。
ふわり、とその身体が宙を舞う…
驚くほどに軽やかに、風の妖精のようななめらかさで。
そのまま、開いた真・イーグル号のコックピットに乗り込むと、キャノピーを元通り閉め…彼女は、直ちに戦闘の準備に入った。
自分たちを操るべき者がその在りうべき座についた途端…今までとはまったく違う動きを見せるゲットマシン。
真・イーグル号が、No.0の命に従ってゲッタードラゴンへと向かっていく…
メカザウルス・ロウのまわりを旋回していた真・ジャガー、真・ベアーも、それに続く。
編隊を組む三機のゲットマシンが、彼女の一言で一変する…
「…チェンジ・真・ゲッター1。スイッチ・オン…」
No.0の操作にともない、ゲットマシンが空を舞う。
真・ベアー号が真・ジャガー号の尾部へと突っ込み、それは胴体と脚部と化す。
すさまじい勢いで吹っ飛ぶそのパーツ群は、大きな弧を描きながら…己の頭脳となる真紅のゲットマシン、真・イーグル号へと向かっていく。
そして、激しい激突音。
真・イーグル号内コックピットで、その突き上げる衝撃を感じていたNo.0…
彼女は、身体中を伝わっていく、官能すら感じさせるようなその強烈なショックに耐えながら…ぶるっ、と身体を震わせた。
歓喜とも見てとれるような表情を浮かべながら。その唇から、熱い吐息が放たれる。
がしゃん、かしゃん、という甲高い機械音が鳴り渡る。
連なった三機のゲットマシン…真・ジャガー号だったモノから、剛力誇る両腕があらわれる。
いや、それは…「生えてくる」というほうが正確だろう。
同様に真・ベアー号は異様なほどの変形を行い、巨体支える脚となる。
真・イーグル号…その両翼はもはや「翼」の形を呈してはいない。
それらは長く伸び上がり、そう…「角」のごとく鋭く立ち上がり、天を突いて逆立っている。
コックピットを覆う半透明ガラス、亀甲模様とそれのまわりを飾るそのデザインとあいまって、今の真・イーグル号は、まったく「顔」そのモノへと変化を遂げていた。
ぎらり、と、その両の瞳が…まがまがしい、何らかの意思あるモノのごとく、黄色い光で満たされた。
…言うなれば、それは邪神。
闇統べる神の眼(まなこ)。
そう、それは…
かつては自分たちゲッターチームのモノであったはずの、それでいて自分たちの理解の範疇を超えてしまっていた、あの恐るべき脅威のスーパーロボット…!
…真・ゲッターロボ…
その空戦用モード、真・ゲッター1!
「…!」
「そ…そんな…」
「くっくっくっくっ…さあぁ、待たせたな!それじゃあ、はじめようじゃねえか、ゲッターチーム…?!」
にたり、とNo.0は笑む。リョウと同じ顔、同じ姿で…そのガラスのような瞳を、殺意と希望と熱情とできらめかせながら…




「…貴様らにも、味あわせてやるぜ!ゲッターの恐ろしさを、な…!」





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