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◆ 「眠り姫」の御成り!(「会議は踊る」)
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アーガマ・ブリッジ。しゅん、と小さな音を立てて、扉が開く…
そこから入ってきた者たち…正確には、そのうちの一人…の格好を見て、ブライト艦長は思わず固まってしまった。
「?!」
「え…?!」ブライト艦長だけではない。
ファやサエグサ、その場にいたクルー全員が目を丸くして「彼」の姿を見つめている…
「あー…その…」
多数のまん丸な目に射られ、ハヤトたちは多少居心地悪そうに頬をかいたり頭をかいたりしている。
…が、全員の視線を一身に集めている当の本人は、それがわかっているのかいないのか、ぽけーっとした表情のまま、周りを興味深そうに見回している…
「り、リョウ君ッ?!な、な、なんとゆう格好を…」
そう言うブライト艦長、声が驚きのあまりひっくり返ってしまっている。
…それはそうだろう、今目の前に立っている「流竜馬」…
彼が今まとっているのは、ほとんど水着か下着といっていいほどに身体を覆っている部分が少ない服。
嫌でも、そのしなやかな身体が放つそこはかとない色香が香りたつような…
…あの時、「子どもの時からずっと『男』として育てられてきたし、これからだってずっとそうです」とまではっきり言い放っていたのは、一体何だったのか?!
動揺もあらわなブライト…その混乱ッぷりがあまりに激しかったので、ハヤトがあわてて口添えした。
「違いますブライトさん…こいつは、エルレーンですよ」
「へ?!」
「はぁーい☆…私、エルレーンだよぉ☆」
「…?!」右手をばっと上に上げ、元気よく自分の「名前」を名乗る「リョウ」…いや、「エルレーン」(その様はまるで小学生のようだ)。
…それでようやくブライトにもはかがいったようだ。
そう、「彼」ではなく「彼女」に変わったからこそ、今自分はゲッターチームをここに呼びつけたのではないか。
そんな当たり前のことに気がつき、多少気を落ち着けたブライト艦長。
…とはいえ、彼女のその格好は、あまりに刺激的過ぎる。はっきり言って、目の毒だ(若い男性クルーにとっては、特に)。
ごほん、と一回咳払いし、改めて彼女に呼びかける。
「そ、それでは…え、エルレーン君ッ!」
「なあに?」
「い、一体その格好は何のつもりだッ?!」
「…え?この、バトルスーツのこと?」
「ば、バトル…?!…と、ともかく、着替えてきなさいッ!」
「やなのっ!だって、これはリョウが私に買ってくれたんだもんッ!」
が、エルレーンはぷいっと顔を背け、不機嫌そうにそう言い放った。
あくまでその「バトルスーツ」とやらを着続けるつもりらしい。
「?!…そ、そんな格好でうろちょろするなんて…」
「まあいいじゃないですか、艦長。…こんなのがこいつの普段着だったんですから」
「へ?!」
…これが、普段着?
思いもかけないハヤトの言葉に、間の抜けた声を上げてしまう。
…しばし、無言のままだったブライト。
やがて、何を思ったのか、急に上着に着ていたジャケットを脱ぎだした。
「…エルレーン君。これを…」そして、エルレーンにそっと押し付ける。
「なあに?」
「…いいから、着る!」
「えー、別に、寒くないよ、私…」
「寒くなくても着るの!…ま、まったく…見てるだけでくらくらするよ」
真っ赤な顔をしたまま、とっととそのジャケットを着るように命じるブライト。
「?」…が、彼の意図がわからず、エルレーンはぽかあんとしている…
それを受け取ったはいいものの、どうしていいかわからないまま、手の中にあるそれをぼーっと見下ろしている。
その様を見てまだるっこしいと思ったのか、ブライトがそれをぱっと取り去った。
そして、まだ赤い顔のままでうつむいたまま、エルレーンにそれを着せていく。
「チェーミンがこんな格好してたら、外出禁止の上説教してるところだ!」
「…?」ぶつぶつと何かわけのわからないことをつぶやきながら、自分に上着を着せようとするブライトを、エルレーンは不思議そうな目で見ている。
…とはいえ、抵抗はしないようだ。促されるまま、おとなしくそれに袖を通した。
一方のハヤトたちはというと…その、「派手な格好をした娘にまともな格好をさせようとする父親の図」を、苦笑しながら見守っている。
「ほら、チャックもちゃんとここまで閉める!」
「…??」もたもたしているエルレーンを見ていられず、ブライトはさっさかと手を出して、ジャケットのジッパーをざっと閉めてしまった。
きちんと首元までジッパーをあげると、少なくとも、上半身だけはそのジャケットでちゃんと素肌が隠れてしまった。
とりあえず、魅惑のウエストが隠れただけ、よしとしよう。
「…うん、それでいい。…では、改めて…ブリーフィングルームにフォッカー少佐たちを呼んである。そこで話を聞かせてもらうとするか」

「待たせたな、みんな」
「おう、遅かったなブライトかんちょ…お、おおッ?!」
ゲッターチームとともに、ブリーフィングルームに入ったゲッターチーム。
その中で、彼らの到着を持っていた主力メンバーたち…プリベンターの行く末をつかさどる、上級職にあるメンバーたち…から、一斉にどよめきが上がった。
もちろん、その原因は言うまでもなく…彼。
上半身こそ長袖のジャケットを着込んではいるものの、下半身は…太ももの途中までの長さしかない、黒のショートパンツ…それに、ショートブーツのみ。
…つまり、すらっと細長く、形のいい脚は、彼らの眼前に惜しげもなくさらされている。
普段のリョウはジーンズばかりはいているので、今まで誰も注視したことはなかったが…それは、まさに「美脚」と呼べるようなものだった。
しばし、メンバーの視線がそこに集中する…
と、はっと我を取り戻したそのうちの一人、アムロ・レイが、彼の「名前」を呼びかけた…
「さ、寒くはないか、リョウ君…っと、」
が、今はそうではない、ということに気づき、言い直す。
「…エルレーン…君、に…なってるんだった、な」
「ええ。今のこいつは…エルレーン、です」
「…☆」ハヤトの言葉にうなずき、にっこりと微笑んでみせるエルレーン…
「そ、そうかよ…ま、何にせよ…恐竜帝国のことを聞かせてもらえるんだよな、エルレーン?」
すっかり変わり果ててしまった「リョウ」…いや、「エルレーン」に向かい、多少困惑気味な笑みを浮かべながら、フォッカーがそうたずねた。
「うん…え、っと…ロイ、フォッカー…しょ・う・さ?」
「!…あっはっは!そんな固っ苦しい呼び方しなくてもいいぜ!」
普段のリョウ、それにゲッターチームは、自分を「少佐」などといういかめしい肩書きをつけて呼んだりはしない。
根っからの軍人ではなく、民間出身だというのもその一つだが、そこは雑多で自由な雰囲気がウリのプリベンター。
たいていの者は上級職相手でも「さん」付けで済ませているのだ。
だから、エルレーンもそうしていい、と促すフォッカー。
「!…そう?じゃあ…」
…が、エルレーンはもっとかっとんでいた。
にこっ、と微笑んだエルレーン。
少しはにかみ気味に、フォッカーに向かってこう呼びかけた…
「…ロイ君☆」
「へっ?!」
「え、エル…?!」
「?!」
あの、フォッカー少佐に向かって…「ロイ君」。
バルキリースカル小隊リーダー、しかも自分よりはるかに年上の男に向かって、いきなり「ロイ君」。
…礼儀知らずとかいうレベルをはるかに超えたエルレーンのあまりの突飛さに、目が点になる一同。
「…」
「…?…だ、ダメ…?!」
目が点の一同、無言になってしまったフォッカーを見て、自分がどうやらいけないことをしてしまったらしいことを察知したエルレーン…
少しうつむき加減になり、困ったようにふにゃあと眉毛をハの字型に下げてしまう。
フォッカーに怒られるのではないか、と、ちょっぴりおびえているようだ…
…しばしの無言。
「…っぷぷ…」かすかな声が、フォッカーの唇からもれた。
「…?」
「…ぷっはははは!…い〜い、いい!それでいいぜ、エルレーンちゃん!」
破顔一笑…心底おかしそうに、けらけら笑ってみせるフォッカー。
膝をばんばん叩きながら、さぞ気に入ったといった風に。
「!」それを見て、エルレーンの表情がぱあっと変わる。
「ふぉ、フォッカーさん?!」
「なぁんだよ、いいんだよ、当の俺がいいっつってんだから。
…しっかし、あぁのおかたくてクソ真面目な竜馬の中に、こんなカワイコちゃんが隠れてたなんてなぁ!」
ハヤトの戸惑いの言葉もからから笑い飛ばし、そんな世辞すら飛ばしてみせる。
「…☆」
「お?照れてるのか?かわい〜ね〜!…俺の隣に座るか、エルレーンちゃん?」
「…うん!」フォッカーの誘いに、こくん、とかわいらしくうなずいたエルレーン。
うれしそうにフォッカーのところへ寄っていき、その左隣の席に腰掛けた。
「ふぉ、フォッカー少佐…い、いいのか?」
「あー、いいですよ俺は別に」一回り以上も年下にそう呼ばれることに抵抗はないのか(しかも、今現在このプリベンターで彼をそう呼ぶものは誰一人としていない…それに、彼を「名前」で呼んでいたのは、恋人のクローディア・ラサールくらいだった)、と、ブライト艦長が改めて問うたが、フォッカーはあっさりと笑って肯定した。
「えっと、じゃあ…」…と、エルレーンの視線がブライトたちのほうに行く。
ちらり、と向けられた視線の意味にいち早く気づき、アムロとブライトはほぼ同時に先手を打った。
「!…わ、私は!…で、できれば、『さん』づけで、呼んでくれ…」
「お、俺も…」
「うん、わかった!…ブライトさん、アムロさん?」
すると、案外素直に従うエルレーン。
笑いながら、言われたとおりにそう呼び返した。
「私は、フォッカー少佐と同じで構わんぞ☆」
「く、クワトロ大佐ッ?!」
「大尉だってば」
「…?」ひょうきんなことをぬかすクワトロに思わず突っ込むバニング。
だが、その突っ込み台詞にさらに突っ込み返すクワトロ…
…が、エルレーンはその会話の意味がわからず、やはりきょとんとした表情を浮かべていた…
「と、ともかく…君たちもかけてくれ、ハヤト君、ベンケイ君。会議を始めよう」
「は、はい…」
「私の隣、空いてるよー?」
「はいはい…」エルレーンに促され、ハヤトが彼女の左隣に座った…ベンケイは、さらにその左隣。
会議の出席者がこれで全員そろったことになったので、ブライトはさっそく会議を始めることにした。
「…それじゃ、エルレーン君。聞かせてくれないか?恐竜帝国軍について、君の知っていることを…彼らはやはり、地上進出を行うつもりなんだな」
「『しんしゅつ』?」
「!…あ、えーと…よ、要するに、地上に出て、そこを自分たちのモノにしようとしている、ということだ」
怪訝そうな顔で聞きなおしたエルレーンの反応に、慌ててブライトが言い直す。
すると、彼女もわかったらしく、まじめな顔でうなずいた。
「そうだよ。それが、ずうっとずうっと昔からの、『ハ虫人』の望みだもの…」
「それじゃ、やっぱりあいつらとはやりあわなきゃならねえってことだな」
「しかし、奴らと戦う上で…一番気にかかるのは、あの武器の存在だな」
「!…『ウランスパーク』だっけか?」
「『人間』に対して無害なはずのゲッター線を、有害なものに変えるという…」
「それが本当なら、ゲッターロボGは…」クワトロやバニングたちの指摘に、ハヤトは同意する。
そう、あの時、バット将軍が繰り出した秘密兵器…「ウランスパーク」。
ゲッターロボのエネルギー、ゲッター線を「人間」に対して有害なものに変質させてしまうという…
その効力を、すでに自分たちは身をもって知っている。
あの時は、エルレーンが目覚めて戦ってくれたおかげで何とか逃れられたが、またあの光線を喰らったらどうなるか…
それは、明白すぎるほど明白だった。
「ええ。…パイロットである、俺たちのほうが先にくたばっちま…ん?」
…と、深刻そうに吐き出されたハヤトの言葉が、妙なところでぷつっと止まった。
…突然、自分の右隣から…服の右袖を、くいくい、とひっぱられた。
見ると…ハヤトの服の袖をつまんだエルレーンが、何か言いたげに彼の顔を覗き込んでいる。
「…」
「な、何だ、エルレーン?」
「…紙と、何か…書くモノが、欲しいの」
「え?」
「紙と、書くモノが欲しいの」
「あ、ああ…ほら」彼女は筆記具を所望のようだ。
とりあえず、近場にあった書類を裏返したモノと、ボールペンとをベンケイが彼女に渡してやった。
「…インクはー?」
「いや、これボールペンだから…キャップはずしたら、もう書ける」
「!…ふうん」きゅぽん、とボールペンのキャップを取ったエルレーン。
不思議そうにそのペン先をしばし見つめていたが、やがて紙の上に流れるような勢いで何かを書き始めた。
「エルレーン、お前…」
「…」無言のままペンを走らせるエルレーン。
その表情が真剣なため、誰もが口を挟むことを差し控えている…
彼女の手が滑らかに動く様子を、ただじっと皆して見つめている。
会議の流れがぶちっと切れてしまって、数分後。
ようやくそれを書き上げたらしいエルレーン。
彼女はその紙をテーブルの中央に滑らせ、皆から見えるようにした…
「!」
「こ、これは…?」
「『ウランスパーク』だよ…!」
テーブルの中央に置かれたそれ。
そこには、一つの絵が…稚拙なタッチながら、それとわかる程度には明確に書かれていた。
亀甲模様、二重線、基本的には棒(バー)で構成された複雑な絵。
そして、バーとバーの間には、アムロたちが見たこともない文字で、何らかの言葉がバー同士をつなぐような形で書かれている…
だが、たとえ彼らにその文字が読めなくても、その絵の意味することはわかった。
…それは「ウランスパーク」そのもの、「ウランスパーク」の組成図だ!
「こ、これが?!」
「うん。…で、このカタチをしたモノがゲッター線にぶつかると、それは…『人間』を殺すモノになる」
「…!」
「…でね。…ここ、を…反対に、した、何か…を、見つければ、いいの」
説明を続けながら、エルレーンはその組成図の一部を大きな円で囲んだ。
そして、その中に、円の上部の点と下部の点を直線でつないだ矢印を書く。
「え?」
「ここが、ね。逆になったモノ…それはね、『ウランスパーク』に反応しちゃうんだって。
それを、『ウランスパーク』を受けた時にぶつければ…変わっちゃったゲッター線もね、元通りになるの!」
「!…なるほど、中和するというわけか!」
「お前、でも、これ…な、何て書いてあるんだよ?!」
「んっと、これが…『エグリシル』、『マルキシアル』、『ミルキエル』…」
一緒に書かれているわけのわからない文字を、エルレーンはすらすらとベンケイに読んで聞かせる。
「げ、元素の名前か、それ?!」
「き、恐竜帝国じゃそう言うんだ…」
「ま、まあ、その元素名がわからなくとも…その組成図さえあれば、その元素も特定できるだろう!」
「じ、じゃあ…」
「ああ。次に『ウランスパーク』を受けても…すぐに元に戻せる中和剤をつくることができる!」
「や、やったあ!これであのビームも平気なわけだな?!」ベンケイがうれしそうな声を上げる。
もしその中和剤が出来れば、あの「ウランスパーク」によって致命的なダメージを受ける可能性は霧散するのだ!
「しっかし、エルレーン…お前、すごいじゃないか!…よくこんな細かいことまで覚えてたな?!」
「…そ、そういうふうに、なってるんだ…」歓喜するハヤト。
だが、彼のほめ言葉に、エルレーンはなぜか喜ばない…いや、むしろ哀しげな表情を浮かべている。
「…え?」
思わず、問い返した。
…すると、エルレーンは、ふっとさみしげな微笑を見せ…ぽつぽつと、自分に植え付けられたその能力のことを口にした。
「わ、私…そういうふうに、造られたんだ。…い、一度見たモノ、忘れないように…そのほうが、役に立つからって」
「!」はっとなるハヤト。
「役に立つ」、それは…「兵器」として、というものに他ならない。
「そ、それじゃ…お前が、ムサシの大雪山おろしを使ってみせたのも、ひょっとして…?!」
「うん。…ゲッターとの、戦闘記録を見て…覚えたの」
「…」
「で、でも…うれしく、ないよ。…だって、どんな嫌なことがあっても、いつまでたっても、忘れられないんだ。
だから、いつまでもその嫌なこと、覚えたまんまで…」
見たものを全て記憶できる能力、それは確かにすばらしい能力だ…
だが、エルレーン自身がその能力を快く思っていない、それどころか疎ましくすら思っていることは、彼女の表情、そして口調から嫌でも読み取れた。
好きで持たされたわけでもないこの超記憶力のせいで、いつまでも嫌な過去から開放されないと…うつむいてしまったエルレーンはつぶやく。
「…なぁに言ってやがる!」
…が、その時だった。
ばしいっ、と、派手な音を立てて、フォッカーがエルレーンの背中を叩いた。
暗くなってしまった彼女を励ますように。
ちょっとのけぞるほどに強くたたかれたエルレーンは、目を白黒させながら、そんなフォッカーにびっくりした視線を向ける。
「?!…ろ、ロイ君?!」
「そんなのよくあることじゃねえか!…ま、お前さんみたいに何でも覚えてられるってわけじゃないけどよ、嫌なことに限っていっつまでも忘れられねえなんてこと、誰だってあるさ!」
「!…そ、そうなの?」
そのような現象が起こるのは自分だけではないのか、自分が異常なのではないのか、と聞き返すエルレーン。
「そーうそう!…だけど、安心しな!…そんなもん、酒でもかっくらえばすぐにふっとんじまうからよ!」
「『サケ』?」
聴きなれない言葉に、きょとん、とした表情を浮かべるエルレーン。
「ふぉ、フォッカー少佐!」
「おうよ!若気の至りって奴もすぐ忘れられるぜ!」
「そうかあ…『サケ』で、『ワカゲノイタリ』も、忘れられるんだ…!」
未成年、しかもまったくお子様そのものといったエルレーンに、とんでもない「忘れ方」を教授するフォッカーに、ブライトの困惑の声が飛ぶ。
が、フォッカーはからから笑いながら、なおも続ける。
「ああ!…それに、よ。お前さんのその記憶力のおかげで、ゲッターチームが今度『ウランスパーク』にあった時…二度と負けない手がかりをつかめたんだぜ。
そう嫌がるもんでもねえじゃねえか」
「!…うんっ!」
そうして、軽くウインクしてみせるフォッカー…
彼の笑顔につられ、エルレーンもにこっと笑い返した。

「…ふうむ…メカザウルスのポテンシャル、特徴、武装…よくもまあ、こんな事細かに覚えてたもんだな。暗記なんていうレベルを超えてるぜ」
「多重人格なんかでは、人格が入れ替わると身体能力までまるきり変化してしまう、という症例があるそうだが…彼らもそんなものなのかな」
会議終了後。
彼女から得られた情報をまとめたメモを手に、感嘆したようにつぶやくアムロたち。
エルレーンたちゲッターチームは、すでにその場にはいない…
とりあえず、三十分ほど話したところで、今日のところはお開きにすることにしたのだ。
「どちらにせよ、我々が見込んだとおり…彼女は重要な情報源になってくれそうだな」
「ああ。…多少、言葉には気を使うがな…」
「まあ、いいじゃないですか。何せ、カワイコちゃんなんだし」冗談めかした口調で、明るくそういうのはフォッカーだ。
「フォッカー少佐…」やれやれ、とでも言いたげな、あきれた表情のブライト艦長。
が、フォッカーはたたみかけるように言葉を継ぐ。
「それに、目の保養にもなるしな。あの脚線美、普段じゃ見れねえのが残念なくらい」
「しょ〜う〜さ〜ッ?!」
「ははは、ま、そりゃ冗談として」
…と、軽く笑い声を立てるフォッカー。
その表情が、すうっと真剣なものに変わった。
「…言葉もそうだが、あのエルレーンって子は…竜馬とはまったく違う。…異様に幼すぎる」
「…」
「そのくせ、一番最初に出てきた時…あの嬢ちゃん、恐竜帝国の尖兵を情け容赦なく殺したぜ。…仮にも、昔自分が属してた軍の…
しかも、バット将軍とやらとは顔見知りみたいだった。だが、それにもかかわらず、エルレーンは奴を殺そうとしていた。
…至極あっさりと、しかも…メカザウルスがやられて、脱出ポッドだけになっちまった相手をよ」
「…」
フォッカーの指摘を、無言のまま聞く一同。
彼の言うとおり、恐竜帝国軍との戦闘で彼女が見せた戦いぶりは、恐ろしいほど冷酷だった。
コックピット…すなわち、パイロットを狙う、一撃必殺の戦い方。
そして、戦う術を持たない脱出ポッドをも破壊しようとした…それは、「敵」の完全な破壊を目指す、殲滅虐殺の思想。
普段彼らがよく知る流竜馬との大きすぎるギャップを為す…
だが、それに引き換え、先ほどまで自分たちの目の前にいた、あの少女は…その戦いの様などとても想像できないほど、おっとりとした幼さを残す、あどけない少女でしかなかった。
幼女のような彼女と、残酷な戦鬼としての彼女。
その両極端な二面が、あの少女の中に同時に存在している…その異常なアンバランス。
そのアンバランスさは、否応なく彼らを不安にさせる…
明らかに、彼女は「まとも」な…少なくとも、「普通の」女の子ではない。
「ちょ〜っと気ぃつけたほうがいいかもしんねえな、艦長」
「ああ…」フォッカーにうなずき返すブライト艦長。
彼の脳裏に、ついこの間交わしたリョウ…彼女のオリジナル…との会話がよぎる…
『すみませんが、ブライト艦長…あいつのこと、よろしく頼みます。…きっと、迷惑かけると思うんです…』
(ああ…出来れば、な…)
これから彼女が起こすかもしれない「迷惑」。
願わくば、それが何とか自分たちの手に負えるものであるように、とブライトは祈らずにはいられなかった。
…後、あの過激な服装だけはどうにかして欲しい、とも。


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