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◆ super robot wars alpha gaiden another story epilogue
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蒼空。
太陽の光に満ちあふれ、爽快な水色から深い空色までのグラデーションを描きながら、何処までも拡がる。
蒼空。
風が自由に凪ぎ、鳥が歌い、緑がざわめき、海が輝く下界をその腕にすっぽりとおさめながら、何処までも澄んで。
蒼空。


その蒼空を、さっと大きな二つの影が舞う。
悠々と伸ばされたその両羽は容易に風の流れをとらえ、彼ら自身の身体を空に飛翔させる。
鋭い瞳と爪を持つその二つの影は、蒼空の中を飛ぶ―
一路、ある場所を目指して。


と。
そこに、それよりも遥かに巨大な影が、六つ…あらわれる。
鋼の翼はしなうこともないが、放たれるジェットの炎とエネルギーが、彼らに飛翔することを可能にさせる。
四人の少年少女を乗せたその六つの影は、蒼空の中を飛ぶ―
一路、ある場所を目指して。


ふっ、と、二つのうちの一つの影が―唐突に、その飛行の軌道を変える。
ゆったりと、ゆったりとその影は、連隊を組んで飛ぶ六つの影、そのうちの一つに近づいていく…
紅い塗装で全身を染めた、ドラゴン号に。


「…!」
エルレーンの瞳に、突如その影の姿は入り込んだ。
…コックピットの、窓ガラス越し。
こげ茶色の翼を拡げた、大きな鳥が―そこに、いた。
滞空し、翼をぴくりとも動かさぬまま…その二つの瞳を、彼女に向けて。
まるで、少女を観察しているかのように…
だが。
それも、束の間。
「あ…」
数秒の後、大鳥は再び翼をはためかせ、別の風に乗った。
あっという間にその姿は蒼空の中に消え失せてしまう…
あらわれた時と同様に。
「…どうしたんだい、エルレーン?」
「んー…なんだかね、おっきな…鳥さんが、こっちを見てたの」
真・イーグル号のリョウが、エルレーンに呼びかけた。
彼女の答えに、視線を外に向ける…
すると、すぐに彼女の見たモノを見つけることができた。
…蒼空の中、我が物顔に舞う大鳥を。
「ああ、あれかあ!…あれ、タカじゃねえかな」
「『タカ』?」
「ああ。強くて格好いい鳥。この辺でよく飛んでるのを見かけるよ。すごく大きな鳥だろう?」
「…ふうん」
リョウの答えに、微笑するエルレーン。
先ほど見たあの大鳥の、深い瞳。
その深い瞳が、何処か印象的で―
「なんだか、すごく…キレイな目をした、鳥さんだったな…」

「…ふぅむ…」
「…で、どうだった?ベルファストさんよ」
ばさり、と翼をはためかせ戻ってきたベルファストに、ファレルは率直に聞いた。
納得したように軽く首をうなずかせながら、ベルファストは言った。
「成る程、な。確かに…『人間』が乗っていた」
「だろ?…あれは『ヒコウキ』ってモノらしいぜ。
特にさっきのは、よくこの辺飛び回ってやがるから…気をつけないと、衝突しちまうぜ」
「ああ、そうだな…ふふ」
「…ん?どうしたんだ?」
何故か、ベルファストの瞳に笑みが入り混じった。
首をかしげるファレルに、彼は微笑みながら答える。
「いや、何…先ほどの『ヒコウキ』に乗っていた『人間』のことが思い出されてな」
「へぇー?…確か、あれに乗ってるのは、どいつも『人間』の…ガキみてぇな野郎どもじゃなかったか?」
「…野郎?いや、あれは…女の子、のようだったが」
そうだ、野郎などではなかった。
透明な瞳をした、何処か儚げな少女だった―
「へー…新入りなのかな」
「ふふ…私のほうを、不思議そうな目で見ていたよ…」
「そんなもんかね。…それより、もうすぐだぜ、浅間山」
「ああ。…住みよい所らしいな、楽しみだ」
「うーん、だけどなぁ…ちょーっと、たまにうるさいんだよな」
そう、彼らは浅間山を目指しているのだ…新たな自分たちの居住地として。
が、ちょっと困ったような表情も見せるファレル。
「ほう?」
「ま、行けばわかるって」
「ああ、そうなのか?…それでは、急ごうか」

「エルレーン、悪かったな…ライガー号もポセイドン号も任せちまって」
「だいじょぶだよ、自動操縦だし!」
真・ベアー号のベンケイからの通信に、エルレーンは笑顔で答えている。
と、真・ジャガー号を操縦するハヤトからも、通信が入る…
「まあ、もう着くさ…そら、見ろよ!」
ハヤトの促しに、彼らは一斉に視線を向けた。
「…!」
視界の中に、あの懐かしいタワーが見えた。あの懐かしい建物が見えた。
早乙女研究所が見えてきた―
「わーい、早乙女研究所なのー!久しぶりなの」
「ああ…本当に、久しぶりだ…」
「なっがい間見てなかったからなぁ!」
「ふふ、そりゃあそうさ…何しろ、『未来』に行って、帰ってきたんだからな!
…何千年ほど、留守にしたことやら!」
「ちげぇねえ!ははは…!」
ハヤトのジョークに、どっと皆笑い出す。
一時期は、二度と帰れないのではないかとすら思った、この自分たちの時代。
自分たちの場所に、再び戻ったのだ。
きっと、プリベンターの皆も、誰もがそれぞれの場所へと急いでいる頃だろう。
…戦いは終わったのだ。
それなら、後は…平和な、自分の日常へと戻っていくだけ。
生きるために。
この世界で、生きていくために。


「…」
ふと、エルレーンの視線が、再びコックピットの向こうへと流れる。
蒼空。
それは、真っ蒼な世界だった。
胸にしみとおるような蒼。透明な蒼。
この世に造られて間もない、あの頃。
初めてこの地上に出たとき感じた蒼と、それは同じ美しさで―



(…ルーガ)



(…見える?私のこと、見ててくれてる…?)



こころの中で。
彼女は、彼女の親友に呼びかけた。



(私、帰ってきたよ…この時代に)



戦うために、造り出された。
殺すために、造り出された。
そのために在ったこの時代で、生き、戦い、そして生まれ変わった。



(そしてこれからも、リョウたちと一緒に、皆と一緒に…この時代で、生きていくよ!)



その世界で。
今度は、生きるために―「自分」として生きるために、在る。
生きるために、在り続ける。
大切な「仲間」たちとともに…
それが、自分が「選んだ」、最後の「答え」だから―!



(だから、ねえ、ルーガ…!)



―誰かの声が、聞こえた気がした。
「…?」
「どした?」
自分の真後ろを滑空するベルファストが、後ろに首をもたげた。
が、しばらくして向き直ったベルファストも、何故か怪訝そうな顔。
「ん…いや、今、誰かが私を呼んだような…」
「俺じゃねえぜ?」
「そうか。…気のせいか」
そう言うベルファストだったが、やはり何か気になるようで、ちらちらと後方に目をやっている。
が、当たり前のようにそこには何もなく、ただ蒼空がぽっかりと拡がっているだけ。
…と、その時。
陽気なファレルの声が、彼の意識を引き戻した。
「…さぁて、ついたついた!あれが浅間山!」
「ほう、あれが、か…」
目をやってみると、尖った山頂が波打つようにそびえたっている山々の姿があった。
さらに、ファレルはその中央にある、何か変わったモノを示して言う。
「そんで、あの…あそこにへばりついてる建物が、えーっと…『早乙女研究所』ってんだ」
「研究所?」
「そうそう…あっ!」
「!」
その刹那。
彼らの眼下で、まさにその早乙女研究所に、何やら幾つもの影が吸い込まれていく…
赤、黄色、白と派手にカラーリングされた鋼鉄の鳥は、先ほどすれ違ったあの「ヒコウキ」の群れに相違なかった。
「あれは、先ほどの…」
「そうなんだよ。あの『ヒコウキ』はここのもんらしくて、時々あそこからかっとんでっちゃあドンパチやるんだ。
…さっき、『たまにうるさい』って言ったろ?それって、アレのこと」
「ふうん…それでは、あの子もここの『人間』なのだな」
ファレルの解説を聞くベルファストは、何か得心したようにつぶやいた。
ぽつり、ともらした、それは単なる独り言だったのだが、ファレルはそれを聞いて不可思議そうな表情になる。
そして、彼の言うことには…
「…あんた、本当に物好きだねェ!」
「ん?何故だ?」
「『人間』なんかに興味なんか持っちゃってさぁ!」
「…ふふ、悪いか?」
だが、同族のもっともな意見に、ベルファストはしれっと問い返す。
何処かおかしそうなふうすら、その瞳に浮かべて。
「いや、別に悪いって言ってんじゃないけどよ…変わってるな、って思ってよ!」
「いいではないか。…はは、ここでの生活…なかなか楽しめそうだな」
「…ベールファスト、あんた本ッ当にかっとんじまってるぜ!」
ファレルは軽くくちばしをゆがめ、ため息とともに吐き出す。
そのしぐさがあまりにも大げさだったので、思わずベルファストは苦笑した。
「おいおい、そう言うなファレル」
「だってさあ、『人間』だぜ?俺たち『タカ』とは何の接点もないじゃんかよ。
言葉も通じねェし…なんでまた、そう…」
「興味深いのだ、あの『人間』という『イキモノ』は」
「えー?…まぁさか、ベルファスト、あんた…
あいつらと、『トモダチ』にでもなろうってんじゃねえだろうな?!」
あの少女、あの「イキモノ」に抱いた関心を正直に語るベルファスト。
そんな彼に、ファレルは心底呆れたような口調で茶化し返す。
が…ベルファストが、微笑とともにさらに返したのは、思いがけない答え。
「!…はは、いいかもしれないな」
「?!…ちょ、ちょっと…お、俺は、ただ、冗談で…」
泡を喰い、瞳を無意味にきょろつかせるファレルに…くっ、とベルファストは笑ってこう言った。
「ふふ…少なくとも、同じ場所に生きる『イキモノ』ではないか?
…ひょっとしたら、通じ合えるかもしれんぞ」
「そ、そんなもんかねぇ…まあ、あんたの好きにするがいいさ」
「ああ、そうするよ!」
ふっ、と笑んだベルファストは―大きく、翼をはためかせた。
生み出した風に乗り、高く高く舞い上がる。
ベルファストの見下ろす世界は遥か遠く、「人間」が今日も日々の生活を営む。
その中に、彼らもまた帰っていくのだ―
そしてその上空には、何処までも、何処までも、限りなく広がる蒼天。




その空は、何処までも、何処までも蒼く―
「自由」の喜びに満ちあふれ―
何処までも、何処までも、きらめき澄み渡っている。




そう―




それが、これから。
少女が生きていく、美しい世界―
美しい、「未来」の姿なのだ。




(The End)


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