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◆ Dream of the Prophetess
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「…一体、何なんですか?俺たちゲッターチームに用って…」
「いや、何…ちょっとしたことなんだが」
「?」
ある日のこと。何故か、フリーデンのブリッジに呼ばれたゲッターチーム…流竜馬、神隼人、車弁慶の三人。
そこには、フリーデンの艦長・ジャミルや、ガロード…それに、未来の世界のニュータイプ少女・ティファの姿があった。
「あのさあ、ティファが…夢を見たんだ」
「夢?」
「ああ、予知夢って奴ね」
「そう…また我々が進むべき道を示す、大きなヒントになるかもしれない」
「それで…?どうして、俺たちが…」
「…んーと…それは、ティファ本人から聞いてくれよ」
ガロードもどう言っていいか分からないようで、すぐにティファ当人に聞いてくれと下駄を預けてしまう。
「…」
仕方なく、ティファに問い掛けるリョウ。
「一体どんな夢を見たって言うんだい、ティファさん?」
「…『眠り姫』の、夢を…」真剣な表情で、ティファは語りだす…
「え?」
「『眠り姫』の夢を、見たんです」
「…は、はあ?!」
「目覚める…永く、深い眠りから、『眠り姫』が目覚める夢です。…その、お姫様は…リョウさん」
「何だい?」ティファに唐突に呼びかけられ、少し戸惑うリョウ。
その彼に、ティファはあくまで真顔で言い放った。
「…あなたの顔をしていました」
「は?!」…思わず、間の抜けた声がリョウの口からもれる。
「リョウの顔した…」
「お姫様?!…ぷふー!」驚いたのは、ハヤトとベンケイも同様だ…
ベンケイに至っては、その様を想像したのか、吹き出している(ひらひらふわふわのお姫様ドレスを着た、リョウの姿を!)。
「べ、ベンケイ!」
「…」たしなめるハヤト…
リョウは、怒っているのか笑ってすまそうというのか、どちらとも取れるような複雑な表情を浮かべている。
…確かに「身体は『女』だが、心は『男』だ」とは宣言しているものの、ベンケイのその反応はさすがにちょっと不愉快だったらしい。
それはともかく、ゲッターチームは口々に異を唱えだす…
「…いや、あの、それって…」
「よ、予知夢って言うより」
「ただの…普通の、『夢』なんじゃあ…」彼らがそう言うのも無理はない。
「眠り姫」の夢が、これから自分たちの未来をあらわしているだなんて…とてもじゃないが思えるものではない。
「ティファの力を疑うのかよ、リョウさん?!」
「い、いや、そう言うわけじゃないけど…何か、全然…」
「現実味ないじゃん。…それともガロード、お前はその夢がどんな未来の予知なのかってわかるのか?」
「う…」
「…」リョウとベンケイに間髪いれず反論され、ガロードも黙り込んでしまう。…ティファは、相変わらず無言のまま。
「…うーむ、君たちにも…やはり、思い当たることはないんだね?」ジャミルもどうやら半信半疑だったらしく、そんなことすら言い出す。
「ええ…まったく」
「それともさあ」
ベンケイが半分冗談、半分真剣(マジ)で思い付きを言ってみた。
「リョウがお姫様のコスプレしたら、道が開けるとか…そうゆう意味か?」
「…ぶっ殺すぞ、ベンケイ」
「…ををコワ」…隣に立つリョウに真顔ですごまれ、怯えたふりをして引き下がる。
二人のショートコントが軽く済んだところで、話はあらかた終わってしまった…といった感じになってしまった。
「…と、とにかく…すみませんが」
「あ、ああ…ま、そんなこともあるか」
「ちょ、ちょっと…」あっさりと引き下がってしまうジャミルの言葉に、ガロードは反抗するそぶりを見せる…
が、リョウたちはさっさと帰ってしまおうとする。
「それじゃあ、俺たちはこれで!」
「ああ…手間を取らせて悪かったな」
「り、リョウさん、ベンケイさ〜ん…」
「…」ガロードの未練ありげな呼びかけも功を奏さず、リョウとベンケイはフリーデンのブリッジを後にした…
その後姿を、無言のまま見送るティファ。
…だが、ゲッターチームの中でただ一人、そこで去らずに残った者がいる。
「…」
「…れ?…は、ハヤトさん!」リョウたちについていかず、そこに立ったままのハヤト…
彼の存在に気づいたガロードが、ぱっと明るい声を出す。
「あんたは信じてくれるのかい?!ティファの夢!」
「…まあ、ちょっと…興味があるんでな。…ティファさんよ」
「…はい」問い掛けられたティファが、ゆっくり彼の顔を見上げる。
「あんたの見た、その…リョウと同じ顔をした『眠り姫』の話…もうちょっと聞かせてもらえねえか」
「ええ…」
ティファはかすかに微笑む…が、すぐに真剣な表情が戻ってくる。
瞳を閉じ、見た夢のイメージを思いだしながら…ぽつりぽつりと語りだした。
「それは…リョウさんの顔をした、でも、まったく違う人…強くて、もろい。とてつもなく冷酷で、やさしい…美しい、女の人…」
「…」ティファの語るその「眠り姫」の描写を、ハヤトは静かに聞いている。
「強く」て「もろい」、「冷酷」で「やさしい」…矛盾した言葉で形容される、彼女の夢の登場人物。
リョウと同じ顔をした、だがまったく違う人物…
思い当たる人物が、一人いる。そう、たった一人。
彼の脳裏に浮かぶのは、あの少女…
「その人は…ずっと、ずっと、眠っていました。でも…その『眠り姫』は、…目覚める。そして」
「そして?」
「…私たちを助けてくれる…」
「…」
「『眠り姫』…剣を持った、血まみれの、美しいお姫様…」
「…?!」今まで慎重にティファの言葉を吟味していたハヤト…
だが、「剣を持った、血まみれの」という言葉を聞くや否や、彼の表情に変化が生まれる。
「剣」、そして「血まみれ」…「お姫様」という言葉を描写するのに似つかわしくない、恐ろしげな言葉…
普通の人間なら、そんな連想はしないし、とてもではないができないだろう。
…だが。
ハヤトの脳裏を駆け抜けていく、一つのビジョン。
…そう…あの女は、「剣」を使って戦い、そして…「血まみれ」になっていた。
「ち、血まみれ?!そ、そりゃちょっとスプラッターな夢だなぁ…」ティファのウケを取ろうと思ってか、大げさに反応するガロード。
だが、ティファはそれにも解さず、淡々と…己の見た夢を語る。
「そして、その人は戦う…私たちのために、戦う…そんな夢を、見ました」
「…」
「…ハヤト君、何か気づいたことでも…」
「…一つだけ、質問してもいいか」
「ええ、どうぞ…」
ハヤトの質問は、たった一つ。…だが、本質を射抜く一つ…
その答えがもしあっているならば、それこそ…彼女はその事実を、自分しか知らないはずの事実を見通している、ということになる。
「…その、お姫様の眠ってる『お城』はよ…一体何処にあるってんだい?」
「…それは…」
ティファは一旦口ごもる。
だが、その一瞬後、確信めいた響きを持つ、どこか予言者のようなきっぱりとした口調で、こう言い放った…!
「それは、リョウさん自身…」
「!!」
ハヤトの顔が、驚愕で強張った。
「…へ?何それ?どうゆうこと…??」
「…」まったくわけのわからない他のメンバーたち。
…だが、ハヤトだけは例外だ…
そのことを、「眠り姫」を知っている彼だけは。
ティファの真芯を射抜く答えに、しばし言葉を失っていたハヤト…
だが、やがて、ふっと薄い微笑みを唇の端に浮かべる。
「…恐ろしいぜ」
「え?」
「恐ろしいほどの力だな、ティファさんよ…」
「…」
「だが…残念だが、その予知夢ははずれだぜ」
「?!」
「な、何言ってんだよ、ハヤトさん!」彼の言葉に驚くジャミル、ガロード…
「…」対して、ティファは真顔のまま、何も言わずに彼を見つめ返す。
「あいつは、二度と目覚めない!…だって、もう奴らは生きちゃいねえんだからな!」
「や、奴らって…?!」
ハヤトの言っている意味がわからず、困惑するガロードたち。
「あの時、俺たちが奴らを滅ぼした…だから、もうあいつは目覚めない。目覚めようとはしないんだろう…」
ハヤトの言葉に含まれる、「あの時」、「奴ら」、そして、「あいつ」という言葉…
その指示語が示しているものは、まったく彼らにはわからない。
「だからよ、ティファさんよ…その夢は、実現しないぜ。…そうさ…」
そして、彼は最後に…ぽつり、とこうつぶやいた。
どこかさみしげに響くそのセリフは、ティファに向けられたものというよりは、むしろ…独り言のようでもあった。
「『眠り姫』は眠っちまったまんまなのさ。あの夜からずっと、な…」

…だが、その数日後。
ティファは、彼女のその夢が、やはりただの夢でなかったことを証明した。
…それは、「眠り姫」の覚醒の時。
そして、新たなる戦いの物語の幕開けとなる…!


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