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◆ CAUGHT IN A TRAP
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「…」
ドームの中に、街がある。
それは、完全に機械で制御された聖域…という印象を、彼らに与えるものだった。
…ポイントZX。
今、獣戦機隊とゲッターチーム(体調不良のリョウの代わりに、エルレーンが参加)がいるのは、そんな場所だった。
「…人気が全然ねえな。ま、『廃棄された』ってんだから、当たり前だけどよ」
「うん。…ここ、スペースコロニーみたいな感じがするね、やっぱり」
獣戦機隊・藤原忍のつぶやきに応じるのは、同じく獣戦機隊・式部雅人。
そのそばには、ハヤト、ベンケイ、そしてエルレーン。
ぽかん、と開きっぱなしのドームの入り口からすんなりと進入できたものの…見回す限り、そこは街。
人が住まうためにあるただの街…その廃墟、だった。
「ポイントZX内を探索、出来れば武器・弾薬等の保管庫を見つけ、報告すること」との命をブライトたちに受けて来てみたはいいものの、人工的な建物の立ち居並ぶ中にあって、それらの影は皆無であった。
…と、そこに、周囲を見回っていた獣戦機隊・結城沙羅と司馬亮が帰って来た。
「どうやら、地上の施設は単なる居住施設のようだな。武器や燃料もなさそうだ」
「じゃあ、やっぱり地下か…」
彼らの目は、自然に…視界の中にある、最も高い建物に向く。
天空に向かってそびえたつそれはおそらく、このポイントが活動していた頃、その全ての機能の中枢を担っていたであろうコントロールタワー。
その機能の中には、当然このドームを外敵から守る攻撃用兵器の操作も含まれていただろう。
と、なれば、そのタワーで…施設防衛のための武装や弾薬、燃料等が保管されている倉庫を見つけられるかもしれない。
もしくは、そのタワーの地下施設に。
「入れるのかな?」
「…一応、入り口は開きっぱなしになってるみたいだけどさ」
「ここにいてもよ、何も見つかりそうもねえしな…」
「じゃあ、いこっか?」
「そうすっか…」
これ以上ここにいても、埒があかない。
そう判断した彼らは、彼らの機体を…獣戦機、ゲットマシン…その場に放置し、タワーの探索にあたる。
7つの足音が、スタッカートで不協和音を刻みながら、鋼鉄のタワーの中に吸い込まれていく。
7つの鋼鉄の牙が、それを見送る。



しかし、彼らは気づかなかった。
彼らがタワーの入り口に向かっているその姿を、街に無数に散らばされた監視カメラが捕らえていたことを。
その姿を克明に取り込み、そしてこのタワー内の地下施設・監視室において、モニター画面に吐き出していたことを。
そして、
すでに人からうち捨てられているはずのこの場所で、それをほくそえみながら見つめる人間たちの存在を―



「…」
ぽかん、と開きっぱなしになった、タワーの入り口より中に進入してすぐ。
電気のないタワー内は、ただ闇に浸っていた。
だんだんと目は慣れてくるが、それでもうすぼんやりとしか見えぬ視界。
自然、彼らの歩みは遅くなる…
獣戦機隊の手に持つライトの光、その闇を穿つ丸い小さな円だけが、彼らの行く先を照らしている。
圧倒的な闇に対し、そんな頼りないモノだけをよすがにして、彼らは進む…
―が。
ハヤトの足が、ぴたり、と止まった。
「うっへー、怖ぇ…おい、ハヤト、俺らもライト…」
「ベンケイ」
立ち止まるハヤトの発する言葉。
その言葉を契機にして、集団ののろのろとした動きが…完全に、静止した。
「何だ?」
「…おかしい」
「ハヤト…?」
闇の中、反響してゆくハヤトの疑念の声。
思わぬそのセリフに、ベンケイがいぶかしげな顔をした―
しかし。
そう思っていたのは、どうやら彼だけではなかったようだ。
「お前も感じたか、ハヤト」
「ああ…」
「亮、何だってんだ?」
「嫌な空気だ…殺気、を感じる」
吐き捨てた亮の口調には、わずかな緊張がある。
見れば、エルレーンの様子も同じ…
立ち尽くし、口を閉ざしたまま、強張った表情で何もない闇を見据えている。
「…」
険しい視線を同じく闇に向けたまま、亮はかすれ声でつぶやく。
「…そこら中からな」
「え?気のせいじゃないの?…だって、ここは廃棄された基地なんでしょ?」
「そのはず、だがな…」
雅人のもっともな問い。しかし、その「はずの」事実を知りながらも、全身の感覚はそれを裏切る―
きりきりとした信号を放つ。未だ目に見えぬ危険を察知して。
「…それに、」
ハヤトが、その言葉の後を継いだ。
「感じねえか、お前ら?」
「な、何をよ?」
「…」
ハヤトはそれに答える代わりに、無言であごを上方にしゃくった。
「ん…」
つられて首を上に向けるベンケイ。その顔に、わずかに冷たさを含んだ風が当たる…
一定の冷たさの風が、一定の強さで、一向に止まることなく吹きつけ続ける。
「こりゃ、外からの風が吹き込んでんじゃねえ。明らかに人工のもの…空調だろ」
「そ、それがどしたの?」
「…とことん鈍いな、お前さんはよ!」
ここまで言っても未だピンと来ないらしいベンケイに、大仰なため息をついてみせるハヤト。
軽く肩をすくめながら、彼が微に入り細に入り説明をしようとした―
「つまりだ、『廃棄された』基地にもかかわらず空調が動いてるってことは…」
―そのセリフを、ぶちきった。
がかっ、という、スイッチが一斉に入る音と同時!
「…ッ!」
「な、う、わあッ?!」
光!光!光!
強烈な光線が、闇に慣れた彼らの視界を引き裂く!
光に焼かれた瞳はくらめき、エルレーンたちは一瞬気が遠くなる感触すら味わった―
無数の真白なライトの織り成す光の空間、男のしゃがれ声が不快に響いた…
「…その通りだ、ネズミどもめ!」
明らかに、それはエルレーンたちのうちの誰の声でもなかった。
「?!」
「…!」
そして。
光の洪水に目が慣れ、彼らの瞳は現実を正しく映し出す。
ライトのついた、人工施設。
周りには、人、人、人。
防護強化スーツらしきものを着込み、マシンガンを持つ人、人、人。
その銃口は等しくハヤトたち7人に向けられている。
隙もなく。容赦もなく。
右にも、左にも。前にも、後ろにも。
見回す限り、人、人、人。
にやけた傲慢な勝ち誇った敵意あふれたそれでいて恐れの入り混じった表情で―彼らは、自分たちに銃を突きつけている!

「ポイントZXにようこそ…イレギュラー諸君!」

つまりは―彼らは、囲まれていたのだ。既に。


母艦アーガマ。
唐突なビープ音が、鋭くブリッジの空気を切り裂いた。
すぐさまに通信回線が開く。返答すら待たずに。
「!」
クルーの注意が、一斉にそちらに向く。
その開かれた通信回線は、今眼前の基地内に先遣隊として送られた獣戦機隊・結城沙羅少尉からのもの―
『こちら獣戦機隊!』
スピーカーを震わせるその声は、焦燥と緊迫感に満ちていた。
「…結城少尉!どうした?!」
『こちら獣戦機隊!基地内で不審な…あ、ああッ?!』
沙羅のセリフを悲鳴で引きちぎった甲高いそれは、確かに銃声のように聞こえた。
「結城少尉!どうした、獣戦機隊!おい!」
『――――』
そして、始まりと同様、突然にその通信は断ち切れる。
「結城少尉!結城少尉!」
しかし、ブライトの呼びかけに返答はもはや一切返らない―!
「…!」
「待ち伏せか…?!」
異常な通信に、ブリッジの空気がかすかにざわめきだす。
強張ったアムロの表情にも、幾ばくかの不安の影。
とうの昔に破棄され無人のはずの基地、しかしそこに侵入した獣戦機隊からのSOSにも似た通信…
その事実からほの見えるのは―罠の存在。
ムーンレィスかイノセント、もしくは地下勢力―いや、何でもいいが、ともかく我らに敵対する勢力による、それは罠。
この廃基地の情報を撒き散らし、その餌に釣られて寄って来た自分たちを陥れるための…!
歯噛みするアムロ。しかし、今は自分たちの愚かさを悔いている暇などない。
「すぐに救援に向かわねば!」
「…いや、それは無理そうだ…!」
「何…?!」
悲痛なブライトの言葉に、アムロは思わずレーダーに視線を走らせる。
…レーダー画面に、自分たちイレギュラーの艦隊を猛烈なスピードで追う巨大な光点が見えた。
そして、その光点を取り囲むように明滅する幾つもの幾つもの小さな点、点、点…!
その全ての識別コードは、「恐竜帝国」のものだとはっきりと示されている!


「恐竜帝国…!くっ、何てタイミングの悪いッ!」
ブライトの額を、嫌な汗がつたって落ちた―



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