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◆ basso serio〜march(行進曲)
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平穏は、激動のない平坦な時間だから。
だから、それが破られる時は、いつだって突然だ。



―大地が、戦慄(わなな)いた。



その衝撃は地を走り空を震わせ水に響く。
何処かから…何処かから鳴り響く唸り声のような音に、皆の耳がふさがれる。
それは、引き裂かれる大地の悲鳴だ…
穿たれ、貫かれ、ぶち破られる大地の悲鳴だ。
すなわち、何かが地中深くより、無理やり地上に出ようと大地を引き裂いているのだ。
穿ち、貫き、ぶち破っているのだ!



「ブライト艦長!…艦の前方10kmの地点で、大規模な地震が発生!」
「何ッ?!」
突如鳴り渡る警告音。レーダーに映る、あまりに巨大な影…
ブリッジ中が、緊迫感に包まれる。
トーレスの報告が、その不測の事態をブライトに伝える。
「地中から…何か、巨大な物体が出現しますッ!」
「地中からの物体だと?!」
大地を揺らす激震は、ある一点を中心に同心円状に拡がっていく…
乾いた地上を走る振動は、数分がたとうとも一向に止まろうとしない。
―それほどまでに長く続く「自然の」地震など、あるだろうか?!
「…!」
「くっ!」
「こ、こいつは…!」
だから、乗組員(クルー)の誰もがその異変を予兆と感じ取る。
それは、あの恐るべき軍団がいよいよ打って出てきた、ということだ―!
「まさか…恐竜帝国のマシーンランドが?!」
「大気成分に異常を感知!」
それは同時に、プリベンターがかねてより警戒していた「あの計画」が始まってしまう、ということ!
果たせるかな、見る見るうちに感知装置を浸していく大気異常。
外気温が、少しずつ少しずつ、だが明らかに異様な速度で上がっていく。
遥か太古の時代にこの地球を包んでいたであろう、旧い時代の大気へと変容していく…
「総員に防護服を着用させろ!出現地点と思われる地点に急ぐぞッ!」
「了解!」
ブライトの命により、プリベンターたちの艦(ふね)は全速力で疾走する。
しかし、数分もしないうちに―彼らは、その現実を目の当たりにすることになった。
何故ならば、嗚呼…
眼前に広がる地平線、その一部を浸食する奇怪な紫色の物体は、あまりに巨大だったからだ!
「…!」
母艦の窓から、または船外監視モニターにてそれを垣間見た者は、誰もが一瞬息を呑んだ。
巨大な無数の触手状の管が張り出し―
まるでそれは幻獣の卵か、もしくは繭か―
どんどんとその姿は大きくなっていく、プリベンターがそれに近づくべく疾走するごとに。
重厚な、深紫の殻に覆われた、それは人外の者が造りし移動基地―
灼熱のマグマ層の中で生きのびねばならなかった種族の生きる街であり世界―
「…巨大な建造物です!」
「あれが…」
そして今、マグマ層より大地を引き裂いてここに顕現した、地上奪還のための前線基地―!
「恐竜帝国、マシーンランド…ッ!」
リョウの喉から引き絞られるようにして、その呼び名がこぼれ落ちた…
と。
その触手から、ばらばらと黒点が飛び出してきた。
それは、機械蜥蜴たちの群れ。
近づいてくる「人間」どもを迎え撃つため、恐竜帝国の戦士たちが出撃する!
「艦長!地表付近に、多数のメカザウルスと戦闘獣が出現しました!」
「…総力戦だッ!こちらも、機動部隊を出撃させるッ!」
プリベンターたちも、動く。
出撃命令により、次々と飛び出していく戦士たち…
リョウたちも、エルレーンも、すぐさまに愛機に搭乗する。
「…」
メカザウルス・グダにて指揮をとるバット将軍の目にも、その様は明白に映っていた。
マジンカイザーが、グレートマジンガーが、コン・バトラーVが、ボルテスVが、ライディーンが、
ダイターン3が、ダンクーガが、ブライガーが、ウォーカーギャリアが、ガンダムXが…
異種族の勇士たちが後から後から大地に降り立つ様を、彼は見ていた。
「ふふふ…来おったな、人間ども」
そして、その中に。
彼の目は、長年の宿敵の姿をもはっきりと映し出していた―
「…」
真・ゲッター1。
流竜馬が、神隼人が、車弁慶が操る、邪悪なる機神。
さらに―
「…ガレリイ長官よ…見えるか」
ゲッタードラゴン。
あの小娘が、かつて恐竜帝国が造り出し、戦わせた「兵器」が操る、醜悪なる機神。
「兵器」が駆る「兵器」。
「やって来たぞ、あの忌まわしい『兵器』が」
真紅の衝撃を、彼は思い出す。
この時代、決して彼奴らゲッターチームのいない時代に、再び現れた悪夢。
自分を嘲笑し、剣を向け、迷うことなく殺そうとしてきた、あの「兵器」の姿を。
「貴様が造った『兵器』が、我々を殺さんとやって来た」
その製作者も屠られ、今は無く。
あの狂った「兵器」、No.39は今まさに恐竜帝国を滅ぼさんがために牙を剥く―
(だが)
ぎしっ、と、噛みしめた牙が鈍い音を立てた。
その眼光に、龍の誇りが宿る…
「させん」
熱のはらんだその言葉は、あくまで独白。
「そうはさせん…決して!」
だが、その独白は…熱気と闘気で燃え盛る、あたかも火龍が解き放つ吐息(ブレス)のごとく!
「我らが恐竜帝国を陥れた『裏切り者』め!今、この手で始末してくれるッ!」
待ち受ける、龍の戦士たちは待ち受ける。
前進する、ヒトの戦士たちは前進する。
「…!」
彼らの瞳にも、圧倒的なボリュームを持ってそれは映る…
「で、けえ…ッ」
見果てぬほどの巨大さ。
鋼鉄の卵・球根・繭…
「こ、これがマシーンランドか…!」
「…ええ」
万丈の言葉に、リョウはうなずいた。
「マグマ層を自在に移動する巨大要塞…そして、恐竜帝国の本拠地!」
「ふっ…まさか、二度もあれを見ることになるとはな…」
「ああ。…今度こそ、奴らをマグマ層の中へ逃がすわけにはいかない!」
静かに、ハヤトが猛る。
かつて一度、マグマの海の中で見た…そして、自分たちが撃破した、恐竜帝国のアジト。
再び陽のもとにあらわれたそれは、決して看過しておくわけにはいけない代物だ、何故なら…!
「み、皆さん!」
その時だった。
コン・バトラーVの小介から、全体に向けて通信が飛んだ。
その口調には、かなりに混乱と焦りが入り混じっている―すなわち、緊急事態!
「ま、マシーンランドの排出口から、有毒成分を含んだ大気が…上空に向けて、大量に放出されています!」
「な、何ッ!?」
「この勢いだと、ジェット気流に乗って…2日もしないうちに、有毒な大気が地球の大半の地区へ拡がってしまいます!」
「恐竜帝国め…!やはり、俺たち人類を抹殺するつもりなのか!!」
「そのとおり!」
甲児のうめき声に大音声で答えたのは、メカザウルス・グダのバット将軍!
「それこそが!わしらの『大気改造計画』の目的だッ!」
「…バット将軍!」
リョウたちの真・ゲッター1が、一歩歩み出る。
ひゅん、と風斬り音を立て、銀色の刃が空を裂く―
その手にすなるは長大なる斧、その名をゲッタートマホーク!
「これで終わりにさせてもらうぞ!!」
「そうはいかん!」
リョウの啖呵に、だが老将軍は一歩も退きはしない!
「我ら、『ハ虫人類』の未来を手に入れるために…帝王ゴールの悲願を達成するために!」
ばさっ、と、バット将軍のマントが翻る…
そのままバットは彼らを指弾する、まるで剣の切っ先を相手に突きつけるかのように!
「わしは、命を捨てて貴様らと戦う!
そして、ここにおる者を…一人残らず、煮えたぎるマグマの中へ叩き込んでやるッ!!」
「…!」
老将の、らんらんと光る目。
その光は狂気じみているといえそうなほどに強く、彼らが一歩たりとも退かぬ決意であろうことを示す。
その挑発的な言葉を、視線を、ゲッターチームは真正面から受ける!
「へっ!このまま、素通りさせてはくれなさそうだな!」
「戦うしか…ない!」
「リョウ!帝王ゴールを引きずり出すにはあの野郎を倒すしかないぜ!」
「ああ、わかっている!行くぞ、ハヤト、ベンケイ、…エルレーン!」
リョウ。ハヤト。ベンケイ。
そして、エルレーン…
過去の時代においても、この「未来」の時代においても、恐竜帝国の行く手を阻むのは彼ら…
変幻自在たるゲッターロボを駆る、ゲッターチームなのだから!
それ故に、恐竜帝国も決して彼らを素通り出来ない。
彼奴らを倒さねば、帝国に栄光は訪れないのだから―!
「恐竜大隊、攻撃を開始しろ!
今日こそ、ゲッターロボと人間どもを倒し!この地上世界を恐竜帝国のものとするのだァッ!」
バット将軍の宣言とともに、一斉にメカザウルスたちは動き出す―
(何としてでも…何としてでも、時間を稼がねば!)
だが彼の中には消し去れない焦燥。
(一機でも多く傷つけ、一機でも多く破壊せねば!)
押さえ切れない焦燥がある。
(『大気改造計画』を成功に導くために!こ奴ら、プリベンターを撃滅するために…)
これは、一世一代の賭け。
だが、賭けとはいえ、負けることは出来ない。
負けることは、すなわち…我らが「ハ虫人」という種族の滅亡にすらつながりかねないのだから!
「うおおおおおおおおお!」
老将が、吼えた。
老齢を思わせぬほどの、それはまさに龍の咆哮!
その咆哮は空気を貫き、同志たちの精神をも貫く!
「奮い立てえっ、恐竜帝国の勇敢なる戦士たちよ!」
メカザウルス・グダより、バット将軍の雄たけびが鳴り渡る!
「我らが『未来』のため!我らが『正義』のため!邪悪なる『人間』どもを打ち滅ぼすのだあッ!!」
『おおおおおおーーーーーーーーーッッ!!』
そして、龍の戦士たちも闘志を燃やす!
それはまさに「熱血」…
「ハ虫人」の身には冷たい血液がかようというのに、まるでその血液が戦闘意欲で煮えたぎっているかのように!
その闘志は自然見えないオーラと変わり、彼らが操るメカザウルスを包み込む…
闘志の波に気圧され、息を呑む「人間」の戦士たち…!
「…!」
「く…ひるむな!」
だが。
「人間」とて、負けてはいない―
ダイターン3のコックピットから、今度は破嵐万丈が吼え返す!
「彼らに、彼らの『正義』があろうとも!…僕たちにとて、退けない理由が在る!」
退けない理由。
彼らには彼らの「正義」、そして自分たちには自分たちの「正義」。
それを押し通し、貫くためにここまでやって来たのだ。
幾多もの「敵」の屍を踏み越えながら、「仲間」との非業の別れを乗り越えながら。
「この時代の『仲間』たちを守るために!」
それは、贖罪のためでもある。
「かつての時代の『仲間』たちを守るために!」
それは、断罪のためでもある。
「…世のため人のため、恐竜帝国の野望を打ち砕くダイターン3!」
だからこそ自分たちは、プリベンターは、この異世界、遠い「未来」の世界においても、いのちを賭けて戦ってきたのだ。
それを支えるのは、意思。遺志。意志。
大切な人々を、大切な世界を守りたいという意思!
心半ばにして力尽きた「仲間」の、またはともに歩むことなく斬り合った「敵」の残した遺志!
そして何より、自分たちの望む世界を求む―強い強い意志!
その意志を込め、破嵐万丈は叫ぶ―
そう、どの時代に在ったとしても、彼の「正義」は常に変わらない…
天空に太陽が輝く限り、彼は日輪とともに在る!




「この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかって来いッ!!」





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