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◆ Aria/Canticle(詠唱/詠唱)
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その暗紫の繭を中心として、死闘が始まった。
止めるため、進めるため、壊すため、守るため、傷つけるため、殺すため、生きるため、戦う二種のイキモノ。
改造触手が黙々と吐き出す太古の空気が、刻一刻と空の中に溶け込んでいく。
真っ蒼な空を、遥か彼方のモノに変えるために。
そして、
その愚かなイキモノたちの決闘を、
絶対の力を持って光り輝くタイヨウが、太陽だけが、
見下している―


Confutatis maledictis,
呪われた人々が入りまじり、
flammis acribus addictis
激しい炎にさらされるその時
Voca me cum benedictis.
私をお呼び下さい、祝福されし者として
Oro supplex et acclinis,
私はひれ伏して祈り
cor contritum quasi cinis.
心は灰のごとく砕け散り
Gere curam mei finis.
その私の最後を、どうかこころにおかけくださいますよう



「炎熱マグマ砲、放て!」
号令とともに、唸りをあげる鋼鉄のマシン。
不気味な触手がうねり、震え、蠢き―紅の光弾を吐き出す。
その眩さに一瞬気をとられ、そしてその次の瞬間で気づく。
「?!…ま、まずい!」
「避けろおッ!」
突発的に上がった悲鳴が、通信機を幾つも幾つも貫いていく。
そして、ひときわ大きく上がった絶叫は…一体、誰のものだったのだろうか?
「う、うわああああああッ?!」
同時に、爆音が地表近くで破裂する。
灼熱の炎弾が、大地を溶解させて燃えている―
「な、何だ!?」
「マ、マシーンランドから何か撃ってきやがったぞ?!」
「ふはははは!どうだ、我らが開発したマグマ砲の威力は?!」
あまりの光景に、動揺する「人間」たち。
「ハ虫人」が、高笑う。
「マグマ砲…だと?!」
「こいつから逃れることは出来ん…いつ自分が狙い撃ちにされるかわからぬ恐怖を、たっぷりと味わうがいいッ!」
そして、再び触手がうねる…
その根元に莫大な熱エネルギーを吸い上げ、射出する用意に入っていく…!
脅威を感じたプリベンターが、一斉に散り惑う。
「ハ虫人」が、高笑う。
「さ、散開するんだ!固まっていたら、狙われちまうッ!」
「無駄だ!炎熱弾を喰らって吹き飛べ、『人間』どもォッ!」


Hostias et preces tibi Domine,
賛美の贄と祈りとを
laudis offerimus:
主に捧げましょう
tu suscipe pro animabus illis,
今ここに悼む
quarum hodie memoriam facimus,
彼らの魂のためにお受けください
fac eas Domine, de morte transire ad vitam.
主よ、彼らを死から生へとお移しください。


「消えろぉぉぉお、『裏切り者』があああああッ!」
「―!」
「ハ虫人」の青年の絶叫。
雄たけびとともに放たれた機械蜥蜴の一撃を、ゲッタードラゴンは大きく後方に飛び退って避ける。
と、その流れるようなモーションの最中、エルレーンはためらうことなく―それを、撃ち放つ!
「ゲッタートマホーク・ブーメラァンッ!」
「…な、あ?!」
空を裂き間を割り飛びかかってくる、二閃の飛び道具に―彼は、対応する事が出来なかった。
斧の鋭い刃が、メカザウルスのコックピットにずぶずぶとめり込む。
そして、そのまま―機械蜥蜴は、内外から機構を炸裂させた。
「…!」
その爆風を、受けながら。
エルレーンの透明な瞳に、また一つ闇が落ちていく。
…哀しみと苦しみ、どうしようもない懊悩の闇。
「うぐう…ッ!」
ライディーンを、数発のミサイルが連続して襲い来る。
それを回避しきれず、被弾する。
コックピットに衝撃が走り、パイロット・洸の表情に焦りの色がいっそう濃くなる。
「まずい!洸君、退くんだ!」
「だ、だが…!」
躊躇している暇は、なかった。
彼を気遣う健一の言葉にろくな返答を返せぬうちに…それは、止まることなくかっ飛んできた。
一直線に。
己のいのちそのものを、鋼鉄の弾丸に変えるがごとくの勢いで―
「!」
「死ねええええええ!!」
油断したその隙に、ライディーンの懐に突っ込んできたのは…ずたぼろになった、メカザウルス!
全身から最期を暗示する不吉な火花を飛び散らせながら、そのもげかけた両腕を、その爪を、ライディーンに突き出す―!
「…!」
めきめき、と装甲が泣き叫び、引き裂かれる。
そして、その奥に守られていたシステムをも…
ライディーンの苦痛が、洸に苦渋の決断をさせる。
「くっ、もうダメだ…すまない皆、後は頼むぞ!」


Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
世の罪を除きし神の小羊よ
dona eis requiem.
彼らに安息を与えたまえ
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi,
世の罪を除きし神の小羊よ
dona eis requiem.
彼らに安息を与えたまえ
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi,
世の罪を除きし神の小羊よ
dona eis requiem sempiternam.
彼らに永遠の安息を与えたまえ。


「あ…う…」
「くっそおおおお!退却しろってんだよ!なんで退かねぇんだ?!」
乱打。乱打。乱打。
狂ったように、ツインランサーを振り下ろし続けるコン・バトラーV。
その全ては、だがそれでも的確にメカザウルスを切り裂いてはいなかった。
豹馬は、ただめちゃくちゃに剣を振るっているだけだから。
相手を、そのメカザウルスの中にいるはずの「ハ虫人」を怖じさせるために。
「退却」の選択肢を掴ませるために。
…だが。
彼ら「人間」が、こうやって攻めて来た様に。
彼ら「ハ虫人」とて、こうやって退けない理由が在る。
「ぐ…ち、畜ッ生おおおぉぉぉぉぉッ!!」
絶叫。
悲痛なまでの、決意に満ちた絶叫。
「!」
深く深く傷つけられたそのメカザウルスは、それでも逃げない。
その手にした槍をかかげ、鬼気迫る勢いでコン・バトラーに討ちかかる!
…一閃を、大剣で受け止め。
ぎりぎりとにらみ合う両者。
「人間」と、「ハ虫人」。
豹馬の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ―
それは哀しみの涙か、怒りの涙か、それとも悔し涙なのか、最早豹馬自身にもわかりようがなかった。
「…負けん!負けて、負けて、負けてたまるかよおおおおおおおおおおお!」
「ば、馬鹿野郎ッ…お前らは、お前らは…本当に、馬鹿野郎だああああッ!」
真・ゲッター1が、戦場を舞う。
漆黒の翼が空を斬り、敵機をかく乱する…
「―!」
「…くそッ!」
だが、「ハ虫人」の憎悪は、まさにそのゲッターに降りかかる。
一身に。
ベンケイの叫びが、リョウの鼓膜をつんざいた―
「リョウ!右から来る!」
「…くっ!」
「うああああああああああああああああ!」
メカザウルスに搭乗する、それは「ハ虫人」の男の咆哮。
始祖鳥型のメカザウルスが、真・ゲッター1に追いすがる…
そして、ミサイル弾をありったけ真・ゲッター1にお見舞いしようとして―!
「ゲッタービームッ!」
だが、それより早く、真・ゲッター1が動いた。
反転し、その反動と同時に胸部に凝縮されたゲッターエネルギーが集められ、そのまま光線となって放たれる。
その燐光は、今まさに発射体勢にあったメカザウルスに直撃した。
「?!…う、うおあああああああ、ああ、ああ―」
強烈なゲッター線エネルギー。
そのゲッター線エネルギーは、「人間」にとっての放射線と同じ―
すなわち、その身体の全てを貫き、発生したエネルギーで全てを焼き尽くす…
悲鳴が、あがった。
それが末期の断末魔であろう事など、手に取るように容易くわかる。
…苦悶。
まさしく、それは苦悶一色に塗りつぶされていたから。
「…」
そして、その音も絶える。
つまりは、彼らゲッターチームの罪がまた一つ増えたという事―
湧き上がるのは、ただ苦い思い。
いつまでたっても耳から離れない、こびりついて消えない断末魔がリョウたちを苦しめる。
「畜生…ッ!」


Lux aeterna luceat eis, Domine:
永遠の光が彼らを照らしますように、主よ
cum sanctis tuis in aeternum,
あなたの聖人たちとともに、永遠に
quia pius es.
あなたはまさに慈悲深いお方故に
Requiem aeternam dona eis, Domine:
永遠の安息を彼らに与えたまえ、主よ。
et lux perpetua luceat eis.
絶えざる光が彼らを照らしますように。


(どうして…)
戦場に在って、それでも少女は己の中で問うている。
(どうして、「人間」と「ハ虫人」は戦わなきゃいけないの?!)
今まで幾度も繰り返した問いを。
(どうして、「人間」と「ハ虫人」は憎しみあわなきゃいけないの?!)
決して答えの返らない問いを。
(どうして…)


どうして、「人間」と「ハ虫人」は殺しあわなきゃいけないの―?!


(…戦わねばならぬ)
戦場に在って、それ故帝王は己の中で答えている。
(退くことは出来ぬ)
今まで幾度も繰り返した答えを。
(この地上を…この世界を、再び我らが手に取り戻すために!邪悪なる「人間」の魔の手から取り戻すために!)
決して問いの必要ない答えを。
(戦え、我が勇敢なる戦士たちよ!)


我らの「正義」を貫き、再び栄光の日々を取り戻すために―!


無数のイキモノが織り成す、それは壮大な舞台―「戦」という名の。
その場にいる全ての者の想いは、決して同一でなく
「人間」と、「ハ虫人」と
「敵」と、「仲間」と
イキモノと、機械と


皆が皆 つながりながらに 断絶している
―それ故に、そこに在るのは詠唱(Aria)。
そこに在るのは、詠唱(Canticle)。
それは、無数の詠唱/詠唱(Aria/Canticle)。
詠唱は他の詠唱と重なり合っても、決して完全に調和しあうことはない。
だからわからない。わかれない。わかりあえない。
その挙句、引き起こすのは壮大な不調和、壮大な舞台―「戦」という名の。
…何と、哀しい事か。
何と哀れな事か、イキモノよ―!


幾多もの悲劇を繰り返しながら
幾多もの犠牲を払いながら
同じ道をたどって行く、その愚かさ
それ故に、祈る


Requiem aeternam dona eis, Domine:
永遠の安息を彼らに与えたまえ、主よ。
et lux perpetua luceat eis.
絶えざる光が彼らを照らしますように。

Kyrie eleison
主よ、憐れみたまえ

Kyrie eleison
主よ、憐れみたまえ

Kyrie eleison―
主よ、憐れみたまえ―


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