A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(3)





不可思議な、夢を見た。
私は、それをただ見ていた。
いつもの、あの夢。
私と同じ「名前」で呼ばれる、あの少女の夢。
目の前で、その少女と一人の青年が何やら楽しげに語り合っているのを、私は見ていた。
涼やかな眼が印象的な、その長身の青年―
彼の「名前」を、私はなぜか知っているような気がした。
嗚呼、そうだ。
とても、よく、知っている。

「神隼人」


208年12月21日 七夕限定特務「五色の糸」

「…そんな感じで、よくわからない夢だった…」
「……」
すでに、時は夜。
かと、かと、と、馬は緩やかに目の前に広がる長い道を歩み続ける。
合わせて歩む二頭の馬の背には、とある平地を目指す二人。
呂布軍の前将軍が一人・エルレーンと、その副将、双錘使い・神隼人。
退屈しのぎに語る話の種もつき、とうとう「他人が聞いてもよくわからないし面白くない話」の最たるものの一つ「昨日見た夢の話」にまで話題が流れていってしまうほどに、街を出てかなりの時が過ぎていた。
…が、そんな話を聞かされても、この冷静な双錘使いはいささか退屈そうなそぶりすらその顔に浮かべない…
いや、というよりも、最初からあまり聞いていないのかもしれない。
常に寡黙で冷静な彼は、あまり感情を表に出すわけではない。
―と。
内心その相槌もうちようのない話に飽いていたのか、珍しく彼のほうから口を開いた。
「…それより、エルレーン」
「何?」
「一体、何処まで行くつもりだ…?」
「あ、うん、もうちょっと…だと、思う」
問われたエルレーン、自信なさげに答える。
それくらい遠くまで来てしまっていた。
こんなところにまで駆り出される様な依頼を、何故に彼女はホイホイと受けてきてしまったのか…
「……」
「な、何…?」
思わずついたため息が、何処か非難めいたものになったのも仕方ない。
「…また、面倒そうな依頼を受けたものだ…」
「だ、だって!だって…」
この依頼は、「五色の糸」なるものを取って来い…というものだった。
市場に姿をあらわした「司天官」…天体を読み暦を作る老爺から受けた、とエルレーンは言う。
何でも、七夕が近いため、「ある高貴な娘御」に頼まれごとをしたのだとか。
その七夕のため服を新調したい、その服の布地を霊験あらたかなる「五色の糸」で織りたい…
とある平地に現れる女道士たちが持っているのだが、ある課題をこなしたものにしかそれをわけてはくれぬ。
そのため、難題をこなせる「おぬしのように才色兼ね備えた者」に任せたい、と言われ、断りきれなかったのだとか…
「…さ、『才色兼ね備えた者』、って…そ、そんなこと言われたの初めてで、なんかうれしくなっちゃって…」
「……世辞…」
「そ、そ、そんなことないッ!そんなこと…」
「!…エルレーン」
「!」
あっさりと切って返されたエルレーンが顔を真っ赤にして反論しかけた…その時。
ざわつく空気が、兵士たちの雄たけびを溶かし込んだ。
無数の、無数の、無数の兵士たちの。
「…ついた、ようだ」
双錘使いの表情に、険しさが射す。
風が、凪いだ。
夜闇の中に、女の声が―何処かより、響く。
(ふふっ…あなたも「五色の糸」を望んで来たのね)
辺りを見回しても、その姿はあらず。
それは超常のなせる業。
すなわち、自分たちが捜し求めていた…道士の仕業。
(いいわ、ならば私たち5人の課題をこなしなさい)
天蓋から降って来る声。
その残響音も消え失せぬうちに、その声音が五色に散らばる―

(まずは私よ!すべての黄色拠点を制圧なさい)
(連撃強化を3段階強化な!頼むぜ!)
(あらあら…わたしは赤色兵糧庫の制圧にしようかしら)
(……部下を倒して……4人以上……)
(えっ?あたし?アレよ、アレ!500人以上撃破!)

五色の声は、五人の女道士。
そして、出された課題も全部で五つ。
(以上の課題をこなせば、それぞれに娘が現れるはずよ)
(そこから先は腕次第…せいぜい頑張ることね!)
そして、己の言いたいことだけをいって、女道士の声はまた再び闇夜から溶け消える。
聞かされたエルレーンと神隼人の顔に、多少なりの困惑が浮かんでいる。
「…何だか、や、ややこしそう」
「…面倒だ…」
「と、とにかく…行こう!神!」
「……承知」
何はともあれ、ひとつずつこなしていくしかない。
少女は愛用の宝剣を片手に、馬から軽やかに飛び降り―
その副将もまた己の双錘を手に、後に続くように舞い降り―
「黄色拠点と赤色兵糧庫を制圧しながら、敵を倒していくよ!」
「…よかろう」
そして、一目散に二人は駆け出す!
無数の兵士たちが踊る、闇の平地へと―!


「くっ!」
大上段から剣で襲い掛かってくるその斬撃を、辛くも少女は飛び退って避けた。
しかし敵は更なる攻撃を加えんと、態勢の崩れた彼女に剣を振るう―!
「ぐ、あっ?!」
…が。
その表情が苦悶に歪み、男は前のめりにもんどりうって倒れた。
彼を背後から倒したのは―長大な芙蓉錘、その一撃。
「…大丈夫か」
「う、うん!」
神隼人に援護され、危うく難を逃れたエルレーン。
その彼女に一斉に襲い掛かってくる、兵糧庫を守る将たち…!
だが、彼女とて負けてはいない!
「お願い…どいてッ!」
手にした宝剣の柄を強く強く握る、
気合一閃振りかざす、
精神を鋭く尖らせ、放つ剣舞が神雷を帯び…
「?!」
「ぐおおおおおッ?!」
近寄る下郎どもを斬り捨てる―無双乱舞!

<呂布軍・エルレーン 鬼神のごとき活躍で兵糧庫を奪取!>

将たちを制し、兵糧庫を制したその瞬間。
それを察したか…くすくす、という女の微笑う声が、闇の何処かより彼女たちを誘う。
(うふふ 強いのね 負けちゃったらどうしましょう)
<南方に朱雀道士が登場!朱雀道士を撃破せよ!>
とうとう姿をあらわした、女道士の一人。
五人のうち一人は、南方に…!
「エルレーン…!」
「わかってる!…南へ!」
すぐさまに兵糧庫から駆け出し、兵士であふれる戦場を進む。
行く手を遮る雑兵たちを、斬っては捨て斬っては捨て…
「!」
「あなたを止めれば、白虎道士様もお喜びになろう!」
だが、エルレーンの一撃でも倒れぬ壮士が立ちふさがった。
道士の一人・白虎道士が部下。
「…ってえええい!」
力任せに振り切る剣の一撃が、少女に真っ直ぐに吸い込まれていく―
刹那!
「…!」
その二者の間に、一陣の影が割り込んだ!
構える双錘が、凶悪な刃を受け止める。
体重をかけて相手を振り切らんとするその刃に、彼もまた全身の力を込めて応じる―
常に冷徹さを崩さない彼の顔に、一瞬の苦痛が浮き出た。
「神!」
「…案ずるな」
だが。
それでも双錘使いは退かない。退くことはしない。
何故なら、それが、それこそが…彼の使命だからだ!
「俺が守ろう……!」


「きょ…今日はこのくらいにしといてあげるわ!」
玄武の女道士が身を翻すと、あっという間にその姿は闇に失せる。
後には、深い玄武色をした糸の束が残されていた。
「これで…四人」
「あと…後、一人!」
今、エルレーンの手のうちには、青・朱・白、そして玄色の糸の束がある。
残りは…黄龍道士のもつ、黄色の糸のみ!
彼らは平地を駆け抜け、最後の黄色拠点を貫く―!

<黄色拠点を完全制圧! 黄龍道士の課題を達成した!>
(生意気な娘ね…いいわ、遊んであげる)

「!」
鳴り渡る、悔しげな女の声。
先ほどの四人と同じように、この戦場の何処かに姿をあらわしたに相違ない。
が…最後の一人は、一体何処に顕現したのか?
「ど…何処?!何処にいけばいいの?!」
「焦るな……エルレーン」
何処までも冷静な声。動揺しかけた少女をなだめるように。
ゆっくりと、少しかすれた穏やかな声で、神隼人は続ける。
「…『五色』とは、青・朱・白・玄・黄…すなわち、東南西北、方角を司る四神と、その中央を護る黄龍」
「え、あ、うん?」
「青龍・朱雀・白虎・玄武の道士は倒した…」
「…」
「その、道士達のいた場所…その真中に、」
「そっか…黄龍道士がいる!」
「……行くぞ」
「うんッ!」
走る。疾る。
闇を疾る。
青龍・朱雀・白虎・玄武の道士たちがいた場所、それらを十字にむすびしその交点。
中央、中枢、「二」と番付けられた拠点のその南、すぐそばに…
鮮やかな金色の衣をまとった、女道士の姿!
「来たわね!」
「!」
「せいぜい楽しませてもらしおうかしら!」
近衛兵を率い自ら剣を取る、黄龍道士。
身にまとう雷光は、最後の一人としての意地なのか―
エルレーンたちの姿を見た刹那、彼女に向かって駆け出した!
「…負けないッ!」
振りかざすは宝剣、真覇道剣。
幾多もの戦いを彼女とともに切り抜いてきた剣が、大きく空にまたたいた―!


<「五色の糸(青・朱・白・玄・黄)」すべてを入手!>


「…!」
最後の一撃は、まるで空を斬るようだった。
何の手ごたえも帰ってこないことに動じた少女の目の前で、道士の姿が見る見るうちに薄まり、消えていき…
そして、はさり、と地面に落ちる。
金色に輝く、美しい糸の束。
そして同時に、あんなにもたくさんいた兵士たちの姿も、彼女と同じように消えてしまっていた。
(思ったよりやるようね…いいわ、糸をあげる)
ため息混じりの声が、また天から降ってきた。
何処かから自分たちを見ているのだろうか、だがそれはわからない。
見上げた夜空には、無数の星々が瞬いているだけ…
(でも勘違いしないで…今回は運がよかっただけよ!
…また相手してあげるから、覚悟なさい!)
「…うん、ありがとう、道士さんたち!」
だから、少女は天空に向かって大声で叫ぶ。
何処かで聞いているだろう女道士たちに向けて、せめてもの礼を。
―少女の手には、五色の糸。
美しく輝く天の川のような、きらめく輝く五色の糸…


かと、かと、と、馬はまたもや来た道を単調に歩んでいく。
もう既に夜明けも近い、東の空が少しずつ白んできた。
白と赤、黒のグラデーションを為す夜空の下、エルレーンたちは街へと帰っていく。
「うわあ…すごく、きれいな糸、だね」
「ああ……」
その馬上、少女は手にした糸のあまりの美しさに感嘆しきりだ。
きらきらと、つやつやと、
それ自体が光を放っているような、市場でも見たことのないような、それはそれは見事な糸だった。
やはり中身はうら若き乙女というところか、彼女はこの糸から紡がれ造られる服の美しさを想像して、うっとりとしている。
「こんな綺麗な糸で、布を織ったら…どんなすばらしい服が出来るんだろうね?」
「さあ……」
「えへへ…ちょ、ちょっとだけ、うらやましいなあ?」
「……なら、」
少しだけ、片眉を動かして。
副将、双錘使い・神隼人が言うことには―
「…半分くらい、もらっておけば…いい」
「え、ええ?!」
目をまん丸にして驚くエルレーン。
が、あくまで神隼人は真面目な、いつもの表情のまま。
「そ、そ、それはできないよ!だ、だってこれ、頼まれ物だし…」
「……ふっ」
思いもしない部下の言葉に、馬上であわあわするエルレーン。
そんな彼女の姿を、いつもの冷静さに何処か面白がるような色を含んだ目で見やり。
副将・神隼人は、やさしげな微笑を浮かべ…こう言った。




「…軽い、冗談だ」




七夕限定特務「五色の糸」…完了 達成度S


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