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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(7)


「…」
「…」
第一回戦が終了し、49チームいた参加チームは43チームになっていた。
そして、第二回戦が始まる前に、と、俺たちは休憩時間をかねた昼食を与えられることになった。
別室に備え付けられた昼食の会場はバイキング形式となっていて、様々な料理がテーブルの上でほかほかと湯気を立てている。
「なぁに深刻な顔してんだよ〜二人とも!」
そこから山盛り料理をもってきて、チームのテーブルでがつがつ喰っているのは…言うまでもない、ベンケイだ。
ソーセージだのサラダだのと大量に持ってきやがって、お前の胃袋は本当に底無しか。
「ちょっと喰っとけって、なかなかこれ旨いぞ?」
「…お前はいいな、いつも気楽でよ!」
「そりゃそうよ〜!…じゃあ、俺もう一回取ってくるわ」
「…」
俺の嫌味も、意に介していないようだ。
最初に持ってきた料理をあっさりたいらげ、さっさとおかわりにいきやがった。
「…ハヤト、お前どう思う?」
「何がだ?」
「あいつらのことだ」
向かいに座るリョウは、さすがにそこまでのほほんとはしていない。
いぶかしげな表情で、押し殺した声で俺に言った。
「一体、何をたくらんでるのか…見当がつかない」
「…俺は正直、さっきの収録中に何か事を起こすかと思っていたがな」
「普通にクイズに参加して、さっさと出て行くなんて」
「しかも、その合間に何か悪さをした様子もないしな」
首をひねらざるをえなかった。
奴らは、「普通に」クイズに参加し、そして「普通に」勝ち抜いた。
何もそのほかにはしようとしないで。
事実、第一回戦でクイズに正解してステージを降りた参加チームは、スタジオのすぐ外…端のほうに固められ、そこで収録が終わるまで待つように指示された。
それは一番最初に勝ち抜けした百鬼帝国の奴らもまったく同様に。
その場所は、ライトにまぶしく照らされるステージからは暗く沈んで見えたが、それでも奴らはそこでおとなしくじっとしているようだった…
結果として、奴らは先ほどの第一回戦の合間には、何も仕掛けてこなかった。
そういう結論しか、俺には出てこない。
「だがな、リョウ。油断は出来ないぜ」
「ああ。別に今でなくとも、何かをやらかす機会はたくさんある」
俺に応じそう言って、リョウは深刻そうにうなずいた。
―と、その時だった。
「…いい加減にしろよ、お前!」
ベンケイの怒声が…抑えてはいるが、それは確かに隠しきれない怒りを含んでいた…響いた。
「!」
「ベンケイ?!」
思わず俺たちは立ち上がり、ベンケイのほうに向かう。
誰かと向かい合い、にらみ合っているベンケイのほうへ…
「どうしたんだ、ベンケイ!」
「何か…ッ?!」
俺は、息を呑んだ。
ベンケイと向き合っている長身の男は、あいつは、確かに―!
(自雷鬼…!)
軽くウェーブのかかった黒髪に、強い意志をこめた虎目石(タイガーアイ)の瞳。
角こそ隠してはいるものの、まごうことなき俺たちの敵。
その自雷鬼が、殺意すら混じっているかのごとき目で、真正面に立つベンケイをねめつけている…
「あっ、リョウ、ハヤト!」
「どうかしたのか、ベンケイ?!」
「まさか、こいつが何か…?!」
駆け寄ってきた俺たちに気づいたベンケイが、怒りに紅潮した顔で…こう言った。
怒りに燃える目で。
「見てくれよ!」


「こいつ!自分ひとりで大皿のから揚げ、全部持っていく気なんだぜ!」


「…はあ?」
「…」
マジに、そんな声が勝手に口から出た。
マジに。
確かに…見てみれば、自雷鬼の手にある皿には、「お前『健康』って言葉知ってるか?」と言いたくなるほどてんこもりのから揚げが乗っていた。
そして、そのから揚げが乗っていたと思しき大皿はすっからかん。
あっけに取られる俺たちをよそに、しかしベンケイは真剣だ。
真剣に、真摯に怒り、自雷鬼にクレームをつけている。
「おい!いくら何でも、そいつぁやりすぎだぜ!」
「ふん、バイキングなんだから、誰が何をどれだけ取ろうと自由だろう!」
「馬鹿野郎!そんな言い訳が通ると思ってんのか!」
「出遅れたお前が悪いのさ!お前はあきらめて、こっちの酢豚でも喰ってろ!」
「ふざけんな!俺はこの、パイナップルが入った酢豚は好かねえんだよ!」

…来た、ベンケイのわけのわからないこだわり。
普段は何でも大量に食う癖しやがって…
って、違う、そうじゃない。問題はそこじゃない。
「せめて半分にしろ!俺にもよこせよ!」
「はん、やなこった!」
「…くっそ〜、お前らには血も涙もないのかッ、百鬼の鬼どもめぇぇぇぇえ!」

いや、ベンケイ、そこはそんなに力入れてすごむところじゃない。
そういうかっこいいセリフを言う場所じゃないんだ…ああ。
―と。
そこに、もうひとつの人影。
「どうした、ライちゃ…」
奴らのリーダー・鉄甲鬼も、俺たち同様騒ぎに気づいてやってきた。
角こそ隠してはいるものの、まごうことなき俺たちの敵。
「!…聞いてくれよテッちゃん!このアホが」
「なにい、お前には言われたかねえや!」
ああ、だが。
自雷鬼とベンケイの言い争いは、だがますますヒートアップするばかり。
「お前、何を馬鹿なことをやってるんだ…」
「チョーさん!」
「チョーさん言うな!」
そこに、胡蝶鬼も姿をあらわす(あだ名が「チョーさん」…すごいセンスだ、さすが鬼だ)。
角こそ隠してはいるものの、まごうことなき俺たちの敵。
そして俺たちを見て驚き、次に自雷鬼のとったてんこもりのから揚げを見て驚く。
「自雷鬼、お前昼食でそんなに食べるのか…腹を壊しても知らんぞ」
「何言うんだチョーさん、俺は健全な男の子だからめちゃくちゃ腹が減るのだ」
「だからといって、お前…何も大皿を全てさらう必要はないだろう」
「そうだぞライちゃん!大皿の分を全部とったら、他の人が取れないだろ!」
「そうだそうだ!」
「ちょ、テッちゃんもこいつの味方するのか!」
「な、何ッ、ゲッターチーム?!」
「今頃気づいたのかよ!」
はたで聞いていてもばかげたこいつらの会話に、俺は軽い頭痛すら覚えていた。
そんな奴らの騒ぎに、否応なくほかの連中も騒ぎ出した。
おかずの取り合いでがたがたもめる迷惑な奴らを、眉をひそめながら様子を伺っている…
周りの視線が痛い。
それより何より、俺が恥ずかしい。
「ベンケイ、もうあきらめろよ。ほら、ステーキでも喰っとけ、お前肉好きだろう?」
「何言ってんだよ、俺はから揚げが喰いたいの!」
「そうだベンケイ!引く必要なんてないぞ!百鬼の奴に好き放題させとくなんて!」
「何だとッ!だいたいライちゃんが先にとったんだから、ライちゃんが食べたっていいだろうがッ!」

が、そういっていさめても、ベンケイは聞き入れる様子もない。
それどころか、百鬼の奴らを前にしたリーダーまでもがヒートアップしていた…
そして、向こうのリーダーも。
ああ…リーダーってのは、何処もこうなのかな―
…ああ。
もう、知らない。
俺は、知らないからな。
「というわけだ!自雷鬼!ベンケイにから揚げ半分分けてやれ!さもなくば…」
「分けてやる必要なんてないぞライちゃん!喰っちゃえ全部!」
「何言ってやがる!よこせ!お前こそ酢豚喰ってろ!」
「やだね!お前のほうこそ酢豚喰ってろ!」
「俺はパイナップル入り酢豚は嫌いだっつってるだろーが! 」

俺は、こっそりと半歩後ろに下がった。
そして、もう一歩後ろに下がる。奴らから距離を置くために。
「…」
ふと気がつくと、まったく俺と同じようにしている奴がいた。
…胡蝶鬼。
「…」
困ったというよりは呆れたという表情で、自分の仲間を見ている…俺と同じように。
俺は、思わず奴に向かってつぶやいていた。
「疲れるな」
「…ああ、お前もか」
「お前もか」
「そうだよな」
「そうだよな…」

俺たちは、どちらからとも無くため息をついていた。
こういう苦労は、二号機乗り特有なのかもしれない…
そんなわけのわからないことを思いながら、俺はぎゃあぎゃあとうるさいあの連中を遠巻きに見ていた。


「…さあ、第一回戦を勝ち抜いた、43チーム」
そして、混沌とした昼食の時間が終わり(ちなみにあの争いは、追加のから揚げが来たことで自然消滅した…阿呆らしい!)。
俺たちは再びスタジオに戻り、第二回戦を行うこととなった。
「次は、ちょっと趣向が変わった戦いに挑んでもらうとしよう」
ハチマキをなびかせた河豚澤が、俺たちに向かってそう告げる。
「…『TIME LAND』。その名のとおり、この第二回戦では『時間』が勝負の分かれ目となる!」
「…」
「第一回戦と同じく、一問正解で次のステージに勝ち抜けとなる…だが!」
第二回戦・TIME LAND。
ここでは、先ほどまでよりも多くの人数を振り落とすはずだ…
それが証拠に、クイズを放つ河豚澤の表情には、自信が満ち溢れている。
「簡単に通過できるとは思うなよ…?!まずは、こいつらが君たちのお相手をしよう!」
そして、右腕で大きく空を斬り、示した先には―!
「!」
「何だ、ありゃ…?!」
…数十個の、50cm四方はありそうなブロックが転がっていた。
そしてその側面には、これまたでかい字で「ひ」だの「も」だのと書かれている。
「このブロックには、ひとつづつひらがなが書かれている…
これを、上から詠むとある日本の『俳句』になるように積み上げてもらう!
『バランスが大事!俳句を一句ゲーム!』
一チームに与えられる時間は…五分!」
どうやら、あのひらがなを組み合わせて俳句を作れ、というゲームらしいが…
『高校生クイズ』ならではの問題がついに来た、という感じか。
「…な〜んだ、楽勝じゃねえか?あれを、積み上げてきゃいいだけだろ?」
「そうか?そりゃ最初はいいだろうけど、後のほうはつらいぞ」
「どう考えても、肩車とかしないと無理じゃねえか?」
「…」
そう、『高校生クイズ』は、クイズ問題を解ければ勝つようなシステムにはなっていない。
時にはこのような体力のほうが必要とされる問題や、運を天に任せる問題も多く混じっている。
それ故に、「知力・体力・チームワーク」が必要とされるクイズ番組とされている…
「まずは!秋田県代表・明田高校!」
このゲームは、日本列島の北にある高校から開始するようだ。
まずは、勝ち残りチームの中で、所属高校がもっとも北に位置する秋田県代表。
「な…や、ゆ…」
「なあ、これってあれじゃない?『夏草や…』」
「ああっ、授業で聞いたあれ?」
「オッケー、それじゃ、と、からだな」
まずは俳句の見当をつけ、適当なものを見つけ出し…そして、下から順番に並べていく。
身長が足りなくなれば、でかい奴が小さい奴を肩車する…というやり方で。
しかし。
「…!」
「うわあッ!」
八個ほど積んだあたりでバランスを崩し、ブロックのタワーは崩れ落ちた。
「も、もう一回!」
一度の失敗にもめげず、再挑戦するが…今度は十個つんだところで、崩壊した。
そして、時間は刻一刻と減っていき―
「…五分経過、終了!」
無情の宣告。
答えがわかっても、それだけでは勝てない。
このクイズはむしろ、自分の身長を遥かに上回るブロックの積み上げを行えるか、その一点にかかっている。
次々とチャレンジャーが挑んでいくものの、最後まで積み上げることなく落ちていく…
誰も勝ちぬけることのできないまま、神奈川県代表の番。


「…」


そして。
やがて、奴らの出番がやってくる。
百鬼帝国の鬼どもが化けた、神奈川県代表。
俺たち「人間」の敵、百鬼帝国の鬼どものチーム。


「次は…神奈川県代表・私立百鬼帝国青龍学園!」
「よっし!」
「テッちゃん!まずどうしよう!」
「…まずは、これが何の歌なのか決めなくては駄目だろう、馬鹿」


河豚澤の呼びかけに応じ、躍り出る三人。
意気揚々と、ブロックの散らばるエリアに降り立つ。


「…」


ステージ中央、ブロックたちに囲まれた奴らは、真剣に話をしている。
どの俳句を作ればいいのか…と。
その姿を、俺たちは見下ろしている。ステージ上段のブースから。


(真剣にやっている、ようだが…あれは演技なのか?)


決して、爆弾をいつ爆発させればよいか、TV局ジャックを決行すべき時刻はいつか、などといった悪巧みではなく、
純粋に、与えられたクイズを解くために、
『高校生クイズ』を勝ち抜くために。


(あいつらは、何のためにこの大会に…?!)


ズボンのポケットに触れる。
布越しに感じる、光線銃の硬い感触。
だが、俺はわからなくなってきていた。
この銃を使う瞬間が、本当に訪れるのか―と。


「や、か、ず…」
「う〜ん、あれかも…」
「何だ?!」
「本で読んだ気が…マツオ・バショウのやつかも」
「だから、何だ!」
「『古池や、かわず飛び込む、水の音』…?」
「!」
「よっし、それでいこう!」


どうやら、鉄甲鬼が可能性のある俳句を思いついたようだ。
芭蕉の有名な句ではないかと当たりをつけたらしい。
そして、三人で、周りに散らばる発泡スチロールのブロックを見てまわる。
俳句に必要だとふんだブロックをより分け、固めていく。
それこそ、必死に。


「水の音、だから、と、お、の、」
「ほら、ず、とみ、だ」
「む、こ、…び、びは何処だ?!」
「探せ!鉄甲鬼、早く!」
「…あ、あった!」


自雷鬼が文字ブロックを順番に重ねていく。
胡蝶鬼と鉄甲鬼が、次に必要なブロックを彼に渡していく。
ステージから見るその姿は、必死そのもののように思えた。
まぶしいスタジオのライトを浴び、汗だくになって探す奴らの姿は、誰の目にもそう映るだろう。
…俺は、わからなくなってきた。


「ぐ…こ、これ以上手が届かねえぞ!」
「チョーさん!お前、ライちゃんの上に乗れ!」
「え、えっ?!」
「ほら、早く!」


やがて、チームの中では一番長身の自雷鬼でも、積み重なるブロックのてっぺんに手が届かなくなった。
先ほどのチームのように、肩車をして乗せていかねばならない。
胡蝶鬼に命じる鉄甲鬼、戸惑う胡蝶鬼。
あの必死さも、演技なのか?
俺にはわからない。わからなくなってきた。


「ぐ…こ、これでいいのか?!」
「っく、…ち、ちょっとお前重いな、チョーさん」
「?!…お、お前…!」
「じゃ、じゃあ、立つぞ!」
「!…お、覚えてろよ、自雷鬼ッ!」


顔を真っ赤にしながら、胡蝶鬼がしゃがんだ自雷鬼の上に乗る。
全力の力を込めて、自雷鬼は彼女を乗せたまま立ち上がる。
その周りで、鉄甲鬼は次に使うブロックを探している。
あのやりとりも、演技なのか?
俺にはわからない。わからなくなってきた。


「テッちゃん!」
「おお!…ほら、チョーさん!上に乗せて!」
「わ、わかった…わ、だな」
「次は、か!か、持ってきて!」


自雷鬼が必死で支える肩車の上で、胡蝶鬼がバランスを取りながら、鉄甲鬼の差し出すブロックを受け取る。
そしてそのまま、崩れないようにブロックのタワーの上に重ねる。
あの懸命さも、演技なのか?
俺にはわからない。わからなくなってきた。


「あ、ちょ、まず…」
「え?!」
「うそッ?!」
「うはー?!」
「きゃあああああ!」
「い、いってえええええええ?!」



俺にはわからない。わからなくなってきた。
そして、俺たちの目の前で、百鬼の鬼どもの作った俳句タワーは見事に崩れ落ちた。
鬼どもと一緒に。