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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(3)


電車の響きはがたんごとん、長い線路をがたんごとん。
そういうナレーションが出てくる絵本を、昔読んだ気がする。
そんなことを、俺は東京に向かう電車の中でぼんやりと思い出した。
対面の席には、リョウとベンケイ。
もらった書類を見ながら、何やらアホっぽいことをしゃべっている。
「ふ〜ん…まずはホテルに行って、説明とか受けるんだって」
「なんかメシ喰わしてくれるんじゃね?」
「一応、本大会は明日ってことになってるらしいな。で、そこで負けたら新幹線に乗って帰る…と」
「ハヤト!着く前から何を言ってるんだ!」
「そうだぜハヤト〜、そんなはじめから負けたときのこと考えたってしょうがねえだろ〜?」
「…」
電車に揺られて、俺たちは一路東京に向かっていた。
日本全国から予選を勝ち抜いたチームが集められるため、旅路の疲れも考慮して、大会は明日に行われるようだ。
東京駅についた俺たちは、添えられていた地図を頼りにホテルにたどり着きチェックインを済ませた。
午後七時に集合がかけられた…
そこで、すべての全国大会参加チームと初めて顔をあわす、というわけだ。
「なあなあハヤト、やっぱちょっと小マシなカッコしてったほうがいいかなあ?」
とか今更ながらにボケたことを言うリーダーもいたが、後でテレビ見た親御さんになんか言われたくなかったらそうしとけと言い返した。
何しろ、この「高校生クイズ」はテレビ番組、全国ネットの目本テレビ(めほんてれび)で毎夏放映され高視聴率を稼ぐ特別番組なのだから。
当然この集合にもテレビカメラが入ってくることは必須なわけで。
そう言ってやったら、リョウは泡を食って大混乱していた。
…どうもうちのリーダーは、わけのわからんところで抜けている。
ハナっからしゃれっ気も何も出さないベンケイのほうが、いっそ潔かったりするんじゃなかろうか。
「え〜気にするなよリョウ〜。だってさあ、廊下ですれ違った奴ら、みんな普通の格好してきてたじゃん?
あいつらもたぶん『高校生クイズ』の参加者だろうから、あんな格好でみんな行くんだと思うぜ?」
ベッドに寝そべり、『アメリカ横断ウルトラクイズ虎の巻』(リョウに読めと命じられた)を読みながらそうのんきにいうベンケイは、さすがにマイペース野郎、一切そんなことは気にしちゃいないらしい。
それを聞いたリョウも、少しまだ戸惑いながらもそうすることに決めたようだ。
…まだ何やらぶつぶつと「じゃああれも持ってくればよかった…」とかつぶやいてはいるが。
どうやらリョウの奴は、リュックサックに死ぬほどつめた荷物だけではまだ足りなかったと後悔しているようだ。
着替え(上下・下着も含め三組はあるようだ)にタオルにクイズ本(五冊)、ノートにカメラ(フィルムは新品が三本)に財布(封筒に予備も入れてるらしい)に薬にハミガキセットなどのグルーミンググッズ(日焼け止めはSPF50+)、果ては分厚い日記帳(!)まで。
…まだ「俺はこれじゃないと眠れないんだ!」と言って枕を持ってこなかっただけマシかもしれない。
ベンケイの荷物と俺の荷物、ゆうに二人分くらいの量をこいつは長野から延々運んできたわけだが…
それに比べてベンケイの荷物はコンパクト…
というより、こっちのほうは逆に心配になってしまうくらい荷物が少ない。
あまりに中身が少ないもんで、床に放り出されたリュックサックはへにゃへにゃとだらしなく地面にくずおれている。
ひょっとしたら、まさかとは思うが、「パンツしか持ってきてない」とか言うんじゃないだろうな…
…「貸してくれよ〜」とか言ってきたって、俺は知ったこっちゃないぜ。
そんなことを思いながら。
俺は、心配性のリーダーにこれまた「読め」と押し付けられた『挑戦!!クイズ王への道正道編』を片手に、ぼーっとそんな二人を眺めていたのだった。

「…ようこそ、全国から集いし精鋭たちよ!」
午後七時。俺たち参加チームは、三々五々会場に足を踏み入れた。
その入り口で、俺たちにはバッジが手渡される。
そのバッジを、すぐに胸のところにつけるように指示された…
大き目の黄色地の台に、「長野県代表・私立浅間学園 神隼人(じん・はやと)(18)」と書かれたバッジ。
ご丁寧なことに、名前の読み仮名と年齢まで記載されている。
そして、俺たちは同じく「長野県代表・私立浅間学園」というパネルが立てられた円形テーブルに着席した。
どんどん周りのテーブルも埋まっていく。
全国津々浦々から集まった、俺たちと同じ年くらいの高校生たち。
聞いたこともないような方言でしゃべる、俺たちのライバル…
そして、49全てのテーブルが、49全てのチームで占められた時。
前方のひな壇に、あの男が現れた―
中部予選でも会った、あの男。
全国高等学校クイズ選手権総合司会者・河豚澤朗(ふぐさわ・あきら)!
彼がマイクを握ると、今までざわめきで埋まっていた会場が一気に静まり返る。
自然、俺たちの視線が一点に集まる―
「それでは、激しい予選大会を勝ち抜いた勇者たち、君たちの手強きライバルを紹介しよう!」
いくつかの照明が落ちる。薄暗くなる会場。
そして―
「まずは、北海道代表…北海道立札幌北東高校!」
最初にスポットライトが当たったのは、北海道代表のテーブル。
自分たちにまばゆいスポットライトが当たったことに一瞬面喰らっていたが、すぐに立ち上がり軽くお辞儀をした。
何処からか生まれた拍手の波が、それを迎える。俺もおざなりに手を叩く。
「北海道立北見南都高校!」
河豚澤のアナウンスメント。
次に、隣のテーブルにスポットが移動。二校目の北海道代表だ。
同じように立ち上がり礼をする…拍手。
それが終われば三校目、四校目…
どうやら、これは今からはじまる戦いに向けて、お互い軽く顔合わせをしておくためのイベントらしい。
…とはいえ、全部で参加校は俺たちを含め49チーム…
さすがに15校を越したあたりで、だんだんと面倒くさくなってきた。
拍手にも熱が入らなくなってくる―



だが。
その時だった。



俺は、目を見張った。



「!」



薄暗闇の中、俺は見た。
見覚えのある影を、俺は見た。



「…さあ、次は…神奈川県代表!」



河豚澤のアナウンスメント。
テレビカメラが、静かに神奈川県代表のテーブルを捕らえるべく方向を変える―



「神奈川県・私立百鬼帝国青龍学園!」



カナガワケン シリツ ヒャッキテイコクセイリュウガクエン



脳味噌に、電流が走った。
読み上げられた校名の中に、俺たちが聞きなれたあの言葉。
こんなところで聞くはずがない、聞くはずがあっちゃいけない、あの―!
リョウを見る。ベンケイを見る。
二人の表情も、険しさと驚きで塗りこめられていた。
そして俺たちは、まっすぐにそちらを、そいつらを―見た!



「?!」
「え…ッ、」
「あ…あいつら?!」



長い金髪を腰までなびかせた、碧眼の美女。
野生的な顔立ちの、長身の男。
そして…
真っ直ぐな、鷹のような目をした、黒曜石の瞳の男―!



(百鬼帝国―!)



あの時。
あの時戦い、倒したはずの敵。
だが、その敵が…今眼前に在る。
スポットライトを浴び、拍手に笑顔で答えている…!
「な…そ、そんな、馬鹿な?!」
「他人の空似…にしちゃ、できすぎだぜ」
「あいつら、生きていやがったとは―」
先ほどまでの浮かれ気分も、興奮すらも吹っ飛んだ。
その代わりに湧き出てきたのは、ちりちりと神経を焦がすような感覚―
戦いの緊張感!
奴らの紹介が終わり、その姿が闇の中に消えても…俺たちは、奴らから目線を離せない。
「鉄甲鬼」
「胡蝶鬼…」
「…自雷鬼!」
俺たちの口から、自然に漏れ出る。
それは、奴らの「名前」―
あの時確かに葬ったはずの、百鬼帝国百人衆の「名前」!



「お次は長野県代表…私立浅間学園!」



が…刹那。
「!」
「お、俺たちだ!」
いつの間にか、順番が回ってきていた。
名前を呼ばれたことに泡を喰う。
はじかれたように立ち上がる。
拍手が俺たちに浴びせかけられるが、今の俺たちには笑顔で手を振り返すだけの余裕もなく、ただこわばった笑みを浮かべるのが精一杯だった。
そして、そのまままた着席する。
「…」
「…」
「…」
三人とも、無言のままに。
「次は岐阜県代表…」
河豚澤のアナウンスメント。
俺たちの動揺など気づくはずもなく、流れどおりに次の学校紹介に移っていく。
黙りこくってしまった。
俺も、リョウも、ベンケイも。
参加者たちの放つ高揚した空気の中、俺たちだけが―重苦しく沈んでいた。
…いや。
ひょっとすると…奴らも、そうなのかもしれない。
…やがて、全チームの紹介が終わり、河豚澤に再びスポットが向けられる。
「全国大会第一ステージは…明日10時、目本テレビ第四スタジオにて行われる!」
彼の放った「第一ステージ」という言葉に、参加者の顔つきがばっ、と真剣なものに代わった。
「その対決内容は―」
そして、固唾を呑んで彼の言葉の先を待つ…
「―早押しクイズ、2ポイント先取で勝ち抜けとなる!」
…と。
とたんに、わあっ、とさざめきが広がった。
「…!」
「やった〜、普通だよ」
「三人ばらばらになってやるとかじゃなくてよかったー!」
第一回戦のクイズ内容を知らされた参加者。
安心したかのように吐き出すため息の音が聞こえた。
高校生たちの安堵に合わせ、少し会場の空気が緩む。
奇をてらったようなクイズであればあるほど、実力を発揮することが難しくなる。
それが故に、第一回戦は王道の早押しクイズだと知らされた他の参加チームは喜んでいるのだが…
だが、俺たちの意識は、もはやそんなところにはなかった。
安堵どころか、先ほどの衝撃が胸をついて離れない…
「今宵は、明日の決戦に向けゆっくりと休んでくれ!」
微笑む河豚澤。眼鏡の奥の瞳が、優しげに笑む。
そして…
「では、君たちに勝利の女神が微笑まんことを祈って…
ファイヤアアアアアアアアア!」
『ファイヤーーーーーーーーーーーッッ!!』

河豚澤の決め台詞が、最後にスピーカーを揺るがす!
会場中の高校生が、声を同時に張り上げ、こぶしを天井に突き上げた。
これからの健闘を祈るように―
「…」
「…」
「…」
けれど。
俺たちは、誰もその雄たけびを発することが出来なかった。
例えテレビカメラにその浮いた姿を撮られていると知っていても、声が発せられなかったのだ。
死んだ、と思っていた。
あの時、俺たちが最期の止めを刺した、と。
だが、あのテーブルに、あの場所にいた神奈川県代表は、まさしく…!
他人に違いない、あいつらに似た誰か別の人だ、そう思い込むことは可能だったかもしれない。
けれど、俺たちの直感はそれを全力で否定した。
…それが証拠に。




あいつらも、間違いなく「俺たち」を見ていた―