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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(2)


「なあなあリョウ、お前こないだ予選に持って来てくれた本、また持ってけるよな?」
「あ、大丈夫大丈夫!ちゃんと図書館で貸し出し延長してきたよ」
「いやあ助かるわ〜、絶対向こうでも必要になるって!」
「だよな〜!」
リョウとベンケイは、相変わらずのんきにそんなことをくっちゃべりながらリュックに荷物を詰め込んでいる。
しかし、まったく驚きだ…
あの予選会場、第一問目のYES・NOクイズからして大波乱だった。
静岡・愛知・長野・岐阜・三重の五県、合計で2300チーム近い高校生チームが集まったあの中部予選で、まさか自分たちが全国大会出場権を得てしまうとは…!
そう、あの日最後に、表彰式の場で俺たちの手に渡されたモノ。
それはれっきとした、第16回全国高等学校クイズ選手権全国大会への切符だったのだ。
そして、旅立ちの日は近い。
集合するように指示された場所は、東京。時間は、明日正午―
ぎゃあぎゃあとうるさいリョウたちの会話を背中に聞きながら、俺はため息をついた。
まさか、まさか…だ。
二人のお遊びにほんの少し付き合ってやる、それだけのつもりだったのに―!


第一問、城にまつわるYES・NOクイズの後も、炎天下の中俺たちの戦いは続いた。

『1896年の第1回アテネオリンピックで、最も多くの種目で優勝した国はご当地ギリシャだった。YESか、NOか?!』
『47都道府県のうち半分以上の所で、夏の高校野球の優勝チームを出している。YES?それともNO?』


一問一問を刻むたびに、どんどんと参加チームが漸減していく。
そんな中で、俺たちは辛くも正解を勝ち取り続けていた。
時にはリョウがひらめき、時にはベンケイが答え、時には俺が選ぶ。
負けてしまったチームが、ばらばらと抜けていく中で…俺たち長野県・私立浅間学園チームは第一ステージを逃げ延びた。
これだけでも、俺は十分だと思ったのだが…リョウとベンケイの喜びようは、ことのほかものすごかった。
「やった!やったぞハヤト!まさか全部正解できるなんて!」
「ここここ、こりゃもしかするともしかしちゃうんじゃねえか?!おいどうしよう全国大会行ったらーッ?!」
知るかそんなもん、と軽く嫌味を喰らわしてやったのだが、舞い上がってしまった二人にはちっとも効果はない。
ともかく、負けるまでは付き合ってやらにゃならん。
俺は、頭が吹っ飛んでしまったリョウとベンケイを引きずるようにして、第二ステージに向かった。
第二ステージは、筆記試験…
100問の問題が羅列するペーパーテストを受け、三人の合計点の高いチームから勝ちぬけていくという仕組みらしい。
これはちょうどいい、と俺は最初思った。
リョウはともかくベンケイは勉強が出来るとはいいがたい。
総合点ならば、どうしても奴が足を引っ張ってしまうということになるだろう。
ここで「一生懸命がんばったけど、残念ながら負けちゃいました」、そういうことに出来る、と。
―が。
ああ、だが―。
甘く見ていたのは、実のところ俺のほうだったのかもしれない。


「JRで子供と大人の料金が同じなのは? 1: 特急券 2: 寝台券 3: 指定席券」
「漫画「るろうに剣心」主人公の流派は? 1: 二天流 2: 北辰一刀流 3: 飛天御剣流」
「編み物の記号で「裏編み」を表すのは? 1: | 2: ― 3: ○」
「オットセイは何科の動物? 1: アシカ科 2: アザラシ科 3: セイウチ科」



…何というか、本当に…世の中は、広いと感じた。
ああ、俺は何故その時までうぬぼれていたんだろうか、自分が頭がよくて何でも知っているだなんて。
世の中は広い。俺の狭い知識よりも、確実に。
手を抜いたつもりはない、つもりはない…のだが、自分でもあまり出来たとは言えない結果となってしまった。
しかし、それより驚いたのは、そんなできのはずの俺たちがその筆記試験に受かってしまったということである。
そして、その上に。
「えっ、お前らあの問題出来なかったの?JRで寝台券は料金大人も子供も一緒なんて常識じゃん!」
「う、うるさい!知らなかったんだ、しょうがないだろ?!」
「じゃーハヤト?お前『るろ剣』の問題何番にした?当然3番だよな〜?」
「…悪い、知らなかったから適当に選んだ」

「何だよ、二人とも〜!勉強が足りないぜ〜?!剣心の流派といえば「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」に決まってるだろ!」
…どうやら、ベンケイは雑学的な知識は割と持っているようだ。
ちなみに、彼によると「裏編み」とかいうのは「―」記号で、オットセイは「アシカ科」だそうだ(ちなみに裏編み問題に関してリョウは「はっ!女じゃあるまいし、編み物なんて知ったこっちゃないよ!」などと暴言を吐いていた)。
第三ステージは場所を変え、「明治村」に移動。
日本の急速な近代化を象徴する明治時代を復元したテーマパークで行われた第三ステージの問題は、「明治村ダウトクイズ」。
この明治村のどこかに隠してある「明治時代には絶対ないもの」を探し出し、それを司会者・河豚澤(ふぐさわ)アナのところまで持っていく。
そうするとそこでクイズが出題されるので、それに答えるとポイントを獲得。
2ポイントをとると勝ち抜け…というルールだった。
この第三ステージで真価を見せたのが、ほかでもないゲッターチームのリーダー・リョウだった。
「走るのなら、俺に任せろおおおお!!」
さすが浅間学園サッカー部キャプテン、放課後だだっ広いグラウンドを走りまくっているだけある。
その健脚で、太陽が照りつける明治村を縦横無尽に駆け巡る!
レトロな店先に並んだみやげ品の中から携帯電話をいち早く見つけ出しかっぱらうや否や、矢のような速さで解答席に猛ダッシュ―!
俺たちがその背中に追いつくより先に、答えの品を手にして駆け戻ってくるリーダーのその素早さで、俺たちはどこのチームよりも速く解答権を得た。

「歌枕と枕詞。名所・地名を表すのはどっち?」

「歌枕!」
俺は、反射的に答えを怒鳴り返した。
「正解!浅間学園、1ポイント獲得!」
「よっしゃああああ!」
リョウの雄たけび。1ポイントを獲得。後1ポイント。
それを聞くなり、俺たちはまたきびすを返し走り出す。
リョウが全力でダッシュする、解答席に駆け寄ってくるほかのチームとすれ違う。
だが、俺たちがこうしている間にも、他のチームが決勝進出を決めているかもしれない―
俺たちは必死に走った。いつの間にか、俺も、俺自身も。
リョウの背中が見る見るうちに小さくなる。俺たちを追い抜いていく、たくさんのライバルたち。
と、その時、リョウが何かを手に帰ってきた…
それは銀色の円盤、CDだ。
もちろん明治時代にあるわけがない。
さあ、後はこれをもって解答席に行き、クイズに正解するだけ―!
にやり、と笑んだリョウの顔は、流れる汗まみれになっていて。
それに笑い返す俺たちのかも、もちろん同じように汗まみれで。
リョウと、ベンケイと、俺は走る…
ぎらぎら照りつける太陽が、青空を、俺たちを焼く。
見る見るうちに解答席が近づいていく。
そう、俺はその時、本気で失念していたんだ―
「適当にこいつらに付き合って、適当に負けて帰ろう」って思ってた、予選当初の考えを。

「さあ、私立浅間学園チーム!」
「はい!」
汗だくの俺たちに、はちまき姿の河豚澤アナが叫ぶ。
「いきますよ!…これが正解なら、全国大会進出決定ですッ!」
長野県代表は、まだ決まっていない―!


「―突発的な大事件がおきたとき、新聞社が臨時に発行するのは?」


ああ、
畜生、
なんて、なんて幸運なんだ―
俺たちは!!


その驚くほど簡単な、ラッキーな問いに…俺たち三人は、同時に答え返した!


『…号外ッッ!!』


空に吸い込まれていく俺たちの絶叫、それに負けじとするかのように
河豚澤アナが―叫ぶ!


「―ファイヤアアァァァアァァァァアアッッ!!」


「!」
「や…」
「長野県・私立浅間学園チーム、全国大会進出決定ーッ!!」
「やったああああああああああああああーッッ!!」
「やった!やった!すっげえええええええ!!」

俺たちの勝利を告げる、河豚澤アナの声。
耳を貫くような、リョウとベンケイの声。
ばらばらと周りから沸いてきた、賞賛の拍手―
けれど、そのすべてが俺の中でまぜこぜになって、鼓膜をがんがん揺らすものだから。
夏の太陽が、あまりにもひどく照りつけるものだから。
俺は少し、気すら遠くなってしまったのだ―
思わず握ったこぶしに感じた熱が、驚くほどに熱かった。


「―」
その後、表彰式をすませ、チケットや今後の説明の書かれた書類などを受け取った。
それが今、自分の目の前にあるわけだが…
「…」
(まさか、こんなことになっちまうなんてな…)
ふと、我知らずため息がもれた。
大体5日ほどの行程らしい。
東京に地方予選を勝ち抜いた合計49チームが全国から集められ、そこで決勝に挑むわけだが…
「…」
「おい、ハヤト?」
部屋を出ようとした俺に、リョウの声が浴びせかけられる。
「お前も早く準備しとけよ、明日の朝早いぞ」
「…わかってる」
ぶっきらぼうにそれだけ言って、俺は部屋のドアを閉めた。
水でも飲もうと台所に向かう。
グラスに注いだ透明な水を喉に流し込みながら、俺はまたため息をついた。
(あいつら、浮かれやがって…自分たちの立場、忘れてるのか?)
少し苦々しい気持ちがわいてきたのか、唇が自然に歪むのを感じた。
と。
目の前に、ふっ、と人影が射した―
「…ハヤト君」
「!…早乙女博士」
目を上げると、そこには甚平姿の早乙女博士が立っていた。
「どうしたのかね?明日は早く出発するんだろう?準備はもう出来たのかな?」
「…はあ」
そして、リョウと同じ事を聞いてくる。
俺は薄く笑んでうなずいたが、どうも本音が少し漏れてしまったらしい。
歯切れの悪い俺の答えを聞いて、博士は少し…表情を変えた。
「…研究所のことを、気にしているのか?」
「!」
博士の言葉は、的を射ていた。
こわばった俺の表情を見て、それをほぐすかのように…からからと笑う、早乙女博士。
ぱたぱたとあおぐうちわの中で、ビールジョッキを片手にしたアイドルも笑う。
「はっはっは、大丈夫だよ…ハヤト君」
「で…でも!」
俺はきっ、と博士を見返し、反論する。
そう、それこそが何よりの俺の懸念だった。
長野から離れる、浅間から離れる、研究所から離れるということは…そういうことだろう。
「もし百鬼帝国の奴らが襲ってきたら、研究所はどうなるんです!俺たちゲッターチームがいなきゃ、ゲッターは…」
「大丈夫だよ、ハヤト君」
しかし、博士は笑って答えるのみだ。
「ゲッターナバロン砲の調子は上々だ。秘密裏に建造していた二つ目のナバロン砲も、もう稼動している」
「しかし…」
「それに、研究所の地底降下機能も強化した。
地底にもぐって攻撃を防ぐことも出来るし、いざとなればわしとミチルでゲットマシンに乗り、後一機は自動操縦にすればよい」
「博士、俺は、」
「ハヤト君」
―と。
博士の顔が、にわかに真剣なものになる。
笑みが消えた早乙女博士は、穏やかにこう言った。
「わしはね、君たちに行ってほしいのだよ」
「…」
「わしは、君たちゲッターチームに過酷な戦いを強いてきた。いのちさえ危険にさらして、それでも君たちに戦わせてきたのだ」
そこで、言葉を一端切り。
博士はまた、人のよさそうな笑顔を浮かべた―


「けれど…君たちは、高校生じゃないか!」


「高校生じゃないか、ハヤト君…」
「…」
「君たちの18歳の夏は、今しかないんだよ」
「…」
「だから、高校生らしい思い出を。今しか出来ないことをして、素晴らしい思い出を作ってほしいんだよ」
「博士…」
「君が大人になった時に、懐かしく思えるような…そんな夏にしてほしいんだ」
蓄えたひげをさすりながら、にこにこと笑っている。
「素敵じゃないか、大切な『友達』と一緒にそんな大会に出られるなんて!」
「…」
だから、俺も…つられて、微笑んだ。
そんな俺を見て、博士も―また、微笑った。
「だから、心置きなく行ってきたまえ!そして、是非優勝を目指すんだ」
「すみません、博士…!」
「なあに、謝られることじゃないよ!君たちの健闘を、研究所から祈っておるよ」
「はい…!」
博士に軽く一礼し、俺は振り返る。


(そうだ…そうだな)


部屋に戻って、荷造りをしなくちゃならない。
何を持っていけばいい?
ああ、カメラはリョウが持っていくだろうからいらないか、あいつが「記念だから!」とか言って撮りまくるに違いない。
一応俺も何か読むものを持っていくか?ベンケイは何も持っていかなそうだからな。


(思い出作り、って奴だ)


あくまでそんなことを、自分に言い聞かせながら。
その底で、これから始まることを待ちわびてわくわくとはしゃいでいる、心臓の鼓動は聞かなかったふりをして。
そうだ、高校生最後の夏なんだ―
どうなるかわからないが、イベントとしちゃあ悪くない。


(まあ、最後まであいつらに付き合ってやるか…仕方ないし、な!)