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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(12)


照りつける太陽は、休むことすらなく己の熱量を全方位に撒き散らす。
燃える水素エネルギーの爆発が熱射と変わり、水星を、金星を、火星を、木星を、土星を、天王星を海王星を冥王星を小惑星群をそして地球を穿つ。
高校生クイズ準決勝戦の行われている東京にも、その光の束が降り注ぐ―
容赦なく照り付けてくる熱に、俺たちはもはや汗だくになっている。
真っ白な世界の中、俺たちの戦いは続いていく…
俺は、長野県代表私立浅間学園チームの第二番手。
ベンケイの後を託され、解答ブースに立つ。
「大地震の警戒宣言を発令するのは誰?」
司会の河豚澤アナが、俺たちに次の問題を出してきた…
嗚呼、これで何問目だったか。もう忘れちまった。
けれど、そんなこともどうでもいい。
「総理大臣」、と殴り書きして、マジックにキャップをする。
…俺の隣のブース。
左隣、滋賀県代表・石達山高校の奴。
そして、右隣には―あいつらの、一人。
神奈川県代表・私立百鬼帝国青龍学園チームの第二番手…「蝶野友里香」。
金色の長い髪が、生ぬるく吹き付ける風にあおられて揺らめく。
お前の出した答えは、俺のものと同じなのだろうか?
それとも―
「…石達山高校、芦屋君」
「え…ッ、」
「…交代だ」
俺の左隣、芦屋と呼ばれた奴が、その名を呼ばれた瞬間にびくっ、とその身を震わせる。
どうやら、また少し状況が動いたようだ。
「ご、ごめ…」
「気にすんな、お前すげえたくさん答えたやん!」
しょぼくれて段を降りる彼に、仲間が笑顔で応え…交代する。
そうだ。
まだまだ戦いは続くんだぜ、
まだまだ―
「オリンピックで、日本語がそのまま名前になっているのはKEIRIN(競輪)と、何?」
次の問題。
俺はすかさずフリップボードに「柔道」、と書く。
解答ブースはそれぞれついたてで区切られ、隣の奴がどんな回答をしているのか、それを知る由はない。
あっているか間違っているかも、わからないまま。
ただ、河豚澤アナが動くか、動かないか―
それだけが知る手がかり。
そして、この問題では動かない。
次の問題に移る―
「水泳のメドレーリレー、始まりは背泳ぎ。では、個人メドレーの始まりは何?」
嗚呼。
それにしても、静かだ。
静かで、熱い。
「バタフライ」、と殴り書く。
そんな中で、俺の脳裏に…とりとめのない考えが、流れ出す。
「ある論題をめぐり、肯定・否定に分かれて討論する「言葉の格闘技」は何?」
俺の右手が、半ば勝手に答えを書く。
「ディベート」、と。
暑い。熱い。
汗が流れる。
吸い込む息も吐き出す息も、全てが熱い。
照りつける太陽。思考を狂わせる。
あまりにも暑いものだから、あまりにも熱いものだから、
きっと俺の脳みそも沸騰して、暴走し始めているんだ。
熱い。熱い。熱い。
「鉄橋高校、松木君…」
「あ、え、俺?!」
「そうだ、交代してもらおう」
おごそかに、向こうのブースの出場者に宣言する河豚澤アナ。
だが、その声も、何だか遠くから聞こえてくるようだ。
頭の中が、煮えているように熱い。
そんな中で。
俺の中で、勝手な創造が流れ出す。
「数字の0から9のうち、一番最後に発明されたのは?」
かろうじて残る理性が、「0」という答えをはじき出す。
けれどもいつのまにか、俺の思考は、まったく別のことを考えていた。
それは、俺の隣の解答ブースで戦っている―あの女のことだった。
「語源はギリシャ語の「花を集める事」。詩や文章を一冊に集めた作品集を英語でなんと言う?」


胡蝶鬼。「蝶野友里香」。
あのダサい揃いのTシャツも嫌々着ていたくらいだ、こんなお遊びイベントに喜んで参加するようなタイプではあるまい。
やっぱり、鉄甲鬼たちに無理やり引きずられて来た口だろうか、
…俺と、同じで。
でもなんだかんだ言ってちゃんとここまでついてきたわけなんだ、お互い協力し合って。
それを思うと、内心は結構楽しんでいるのかもしれない。
あのダサさ極まるTシャツも、あれだけ今は文句言って嫌がっていても。
結局、この大会の後にも大事に取っておくのかもしれない…


「アンソロジー」、と書きながら、俺はそんなことを思っていた。
河豚澤アナが、一瞬の空白の後…こう言ったのが、遠い場所から響いてくるかのように聞こえる。
「東条高校、田富士君」
「あ…」
「交代してもらう」
遠くのブースで、また一人脱落者。
がた、がたん、という、階段を駆け下りる音と、上る音。
戦いが、あまりに静かに進むから。
そんな音すら、大きく鳴り渡るようで。
「…"People, call an ambulance!" 呼んだのは何? 」
答えは、「救急車」。
握り締めたマジックが、汗で熱い。
目の前のフリップボードが、一枚、また一枚と消えていく。
「1956年日本が加盟した、「United Nations」…この組織は、日本語で何?」
俺は、「国際連合」と書く。
他の五人も、同じ答えを書いたのだろうか?
胡蝶鬼、「蝶野」、お前も―
「安土桃山時代に伝来した「カスティリヤのお菓子」。現在の何?」
昔、社会の時間に聞いた事がある。
俺の書いた解答は、「カステラ」…
もともとは、国の名前だったっけ。
そんなことを思い出していた、その時だった。


「―百鬼帝国青龍学園、蝶野さん」
「!」


河豚澤アナが呼んだのは、奴の「名前」だった―
「人間」、としての。
「…交代だ」
「…」
俺は思わず、奴を見た。
翠玉色(エメラルド)の瞳を、大きく見開いて。
呆然としている、「蝶野友里香」…
「…よくやったぜ、チョーさん」
「す、すまない…もう少し、何とかできたはずなのに」
「いや、よく粘ってくれたよ。ありがとう」
奴の後を継いで、最後の三人目として解答ブースに上がるのは…
百鬼帝国青龍学園チームのリーダー、鉄甲鬼。
肩を落とす胡蝶鬼を笑顔で迎え、そして代わりに自らが進み出る。
「後は俺に任せてくれ!」
決意と闘志を込めて。
鉄甲鬼は、そう言ってにやり、と笑んだ―
肩からストラップで提げた赤いラジカセが、踏みしめる奴の歩みに合わせて揺れる。
がたん。
踏みしめられたブースの床が、硬い音を立てる。
刹那。
鉄甲鬼が、俺を見た。
奴は、不敵な笑みを浮かべて見せた。
…いや、「霧伊」が。
けれど、それも一瞬の出来事。
クイズは、速やかに次の問題へと移る。
「子ガメが「ゼニガメ」なら本来の親亀は?」
―が。
俺の悪運も、どうやらここまでだったようだ。
河豚澤アナから放たれたその問題は、今まで俺の人生で考えたことも、そして聞いたこともないようなものだった。
…嗚呼。畜生。
ベンケイの野郎だったらわかるんだろうな、この手の問題は。
俺は一応マジックを握ってはいたものの、ちっとも書くべきものを思いつけずにいる。
熱い。熱い。熱い。
頭の中で、「カメ」と名のつく生き物がぐるぐる回る。
クサガメ、ミドリガメ、ホシガメ、ウミガメ、イシガメ、ミドリガメ…は、さっき出た。
嗚呼、だけど、わからない、
もう、時間もない―
(…悪い、ベンケイ、リョウ)
そうして、俺は。
真っ白のままのフリップボードを、前に出した―


果たせるかな。
それを見た河豚澤アナの表情が、かすかに変わる。
彼はそのまま俺たちの六つのブース、その解答群に視線をすべらせ、
最後に与えるべきジャッジを放つ…
他でもない、俺に向かって。


「…浅間学園、神君」
「はい」
「交代だ…」


俺は、無言でうなずき、身を翻した。
ブースから見下ろす。
短い階段の下から心配そうに俺を見つめている、リョウとベンケイ。
「…悪いな」
「いや、とんでもないさ…今度は俺の番だな!」
俺の詫びに、軽く頭を振って。
俺の代わりに、リョウが行く。
「…頼むぜ、リーダー!」
俺とベンケイが、階段を上ってブースにつくリョウを見送る。
俺たちのチームの、最後の一人。
それは、右となりのブースにつく、あいつらと同じ…
眩しい陽光が俺たちの網膜を焼き、リョウたちの後姿を真っ黒に塗りつぶす。
俺たちは、見守る。
もう、それしか出来ないから。
「人格を磨くために、「何を以て玉を攻むべし」?」
答えは、「他山の石」のはずだ。
畜生、この問題がさっき出てくれればよかったのに。
けれど、リョウの奴もこれくらいなら朝飯前のはず。
それに、「霧伊」の奴も―


鉄甲鬼。「霧伊鉄人」。
Tシャツ作っちまうほどに、気合入れてやがる。
けれどだいたいあのラジカセは何なんだ、どこぞのヒップホッパーみたいだぜ。
そういや奴のロボットもそうだったな、あのゲッターをパクった奴。
わけのわからない音楽を流しながら戦ってたっけ…
「正々堂々」戦う、と言いながら。
奴は真っ直ぐに、少なくとも何の小細工も卑怯な手も弄することなく戦おうとした。
そういううざったいまでの熱血ぶりは、俺たちのリーダー・リョウと似ているのかもしれない。
その馬鹿げた度合いの真っ直ぐさが、奴の後姿にも燃えているようだ―


「…「じしん、かみなり、かじ、おやじ」。4つの言葉を漢字で書いたとき、最も画数が多くなるのは?」
これは簡単な問題だ、多分全員正解だろう。
にもかかわらず、ベンケイの奴は緊迫した表情で両手を握りこぶしにして、リョウの後姿を心配げに見守っている。
馬鹿だなベンケイ、これぐらいならまだ大丈夫だろう。
…と、思ったら。
そのすぐ隣で、まったく同じポーズで、まったく同じことをしている大柄の男がいた。


自雷鬼。「自雷正樹」。
おそらく、まあ俺のカンに過ぎないが、一番最初に高校生クイズに出ようとか言い出したのはこいつだな。
ベンケイと同じで、こういうお祭りが好きっぽい。
ああ、あんなに真剣な顔してやがるぜ。
子どもっぽいって言う感じだな、あんだけでかい図体しておきながら。
だからこそ、こんなイベントを見つけて我慢し切れなかった…ってところか?
それで、鉄甲鬼と胡蝶鬼を引き込んだ、というわけか。
やっぱり、こいつも二人にああ言ったのかな?ベンケイと一緒で、
夏の「思い出」作りだ、とか言って―


「言い回し「やぶへび」を正しく言うと何?」
「藪をつついて蛇を出す」、だ。
思い出せれば勝ち、思い出せなければ―
「…鉄橋高校、遊佐君」
「う…は、はい」
「交代してもらう」
終わり。一巻の終わり。
俺たち浅間学園チームは、まだ堕ちてはいない。
危うい一本橋を渡り続けている、進み続けている…
リョウも。「霧伊」も。
「郵便の封書、定型として認められる重さの基準、最高で何グラム?」
熱風が、止むことなく吹き続ける。
俺たちの身体を撫ぜながら。
果ての見えない戦いを、見守りながら。
(…50?いや、60グラムか?)
嗚呼。
暑い。熱い。
汗が流れる。
吸い込む息も吐き出す息も、全てが熱い。
照りつける太陽。思考を狂わせる。
戦いは、まだ続く。
リョウたちが、戦っている。
「サッカーボール。白の六角形が20個なら、黒の五角形は何個?」
次の問題。
これは、サッカー部のリョウには簡単な問題のように思える。
そうだろう、リョウ?
幾つだったか、「12個」だったか―
俺がサッカーボールを思い浮かべ、黒い部分を数え始めていた…その時、だった。


「―百鬼帝国青龍学園、霧伊君」
「…!」
「今の問題で、君が…単独最下位となった」


奴らへの宣告が、落ちてきた。
俺も、ベンケイも、リョウも。
その言葉に、はっ、となる。
「これで、君たちのチームは…決勝戦進出権を、失った」
「…ッ!」
ゆっくりと、言葉を選んで。
河豚澤アナが、審判を下す。
「自雷」が、その場にしゃがみこむ。
「蝶野」が、大きく吐息をつく。
そして―「霧伊」が、悔しそうに、ほんとうに悔しそうに、頭を抱え込んだ。
…けれど。
「…霧伊君」
「はい…」
河豚澤アナに、促され。
奴は、きびすを返し。
ゆっくりと、ゆっくりと、解答ブースから降りてくる。
「自雷」も、「蝶野」も、何も言わないまま。
ただ、彼を見守っている―
「霧伊」も、何も言わないまま。
やがて、短い階段を下り終え、奴は地面に立つ。
―その頬に、何か光るものが見えた…気がした。
俺は、俺たちは、わざと…目を、そこからそらした。


「楽器を使わずに人の歌声だけで演奏する「アカペラ」、もともと何語?」
それでも、クイズはまだ続く。続こうとする。
最後の宣告が下されるまで、誰もあきらめようとはしない。
あきらめない。
「アカペラ」は、"a cappella"…「イタリア語」、だ。
リョウは、上手くやったのか?
それとも、間違えてしまったのか?
嗚呼。
もう、どっちでもいいさ。
いけるところまでいけよ、リョウ。
例えその結果が、勝ちであろうとも、負けであろうとも―
「大変小さな声のことを何の鳴く声という?」
俺も、ベンケイも。
そう思っているから、構わないさ。
そりゃあ、勝てれば何よりだ。
けれども、それより、何よりも…
俺たちが、こうやって、この場所に。
この場所に、一緒にいる。
そのことこそが、何よりも―!
「世界的に有名な洞窟壁画「アルタミラ」がある国はどこ?」
暑い。熱い。
汗が流れる。
吸い込む息も吐き出す息も、全てが熱い。
照りつける太陽。思考を狂わせる。


「―浅間学園、流君」
「!」
「今の問題において、君が―」


嗚呼。
河豚澤アナの声も、よく聞こえない。
音が、聞こえない。
こんなにも強烈な音なのに、むしろその音が聞こえない―
熱い。熱い。熱い。
その熱気とまぜこぜになって。
俺たちのこころの中に、圧倒的な質量を持つ感情が荒れ狂ったからだ。
熱い感情が、一挙にあふれ出す。
そしてそれは、あいつらがさっき共有したモノと、まったく一緒なんだ―
灼熱に焼き尽くされた理性が、最後のあがきで吐き出した言葉を、その意味を。
俺は、燃え滾る白光の中で、確かに実感していた―


「…あー…終わったなあ」
「ああ…」
準決勝戦が、終わって。
決勝戦には、石達山・東条、そしてマ・メールの三校が進むことになった。
三チームはこれから行われる決勝戦に備え、バスで別の場所へと向かう。
…そして。
そして、敗れた俺たちは…それぞれの帰途につくため、東京駅に連れて行かれ、そこで降ろされた。
そう、俺たちの「高校生クイズ」は…これで、終了だ。
「くっそー、決勝戦いけなかったかあ…」
荷物が少なすぎてへにゃへにゃのリュックを片手に引っ掛けながら、ベンケイが悔しげにそんなことを言った。
負けが確定した後にリョウと二人してぐすぐす泣いたもんだから、目が赤い。
「まあ、でも…こんなところまで来れたんだから、これはこれでいいんじゃないか?」
「うん、そうだなぁ」
それでも、自分たちがそれなりにやり遂げたことには満足しているようだ。
リョウのほうも、それは同じ。
何処かさっぱりした表情で、でも赤い目をしながら、ベンケイの言葉に和す。
「そうだな、ミチルさんたちもきっと喜んでくれるよ!」
「クラスのみんなに、新学期に自慢できるぜ〜」
そう言いながら、ウサギ目のままにやにや笑っている。
…うれしそうで、何よりだ。
まあ、泣いてるシーンはバッチリカメラに撮られてたから、上手い事編集されて全国のお茶の間に流れるんだろうけどな。
「…ってえか、お前らも正直アホだよな〜」
「はぁ?!何言ってやがる!」
と。
いらんことしいのベンケイが、そばにいた自雷鬼にこれまたいらんことを言う。
言われた自雷鬼、途端に真っ赤になって言い返してくるが…
その目はベンケイたち同様に真っ赤なので、どうも迫力に欠けている。
「だってさあ、お前ら遠路はるばる、ただクイズしに来たわけ?アホみてぇ」
「アホ言うな!無礼者!」
「おいおい、からむなよベンケイ…」
言い合いをはじめるベンケイに、俺は力なくいさめることしか出来ない。
何より、俺はすっかり疲れていたのだ。
まだ口げんかできるほど元気のあるこいつらがうらやましい。
「ふん!今年しかなかったんだから、仕方ないだろうが!」
「…今年?」
けれど、自雷鬼のそのセリフに、少し気を引かれる。
俺は、思わず反射的に問い返していた。
「ああ、俺たちは最終学年だからな、もう今年しか出られない…」
「だから最後のチャンスだったんだよ、コレに出るのがな」
自雷鬼と鉄甲鬼は、少し残念そうな顔でそう答えた。
今年が、「最後のチャンス」。
つまり、それは…
「でもよかったよな、いい『思い出』になったぜ!」
にかっ、と、快活そうに笑う大柄の男。
鉄甲鬼も、うれしそうに笑っている。
「…」
「…」
俺たちは、そんな奴らの笑顔を…半ば、唖然として聞いていた。
まさか、そうだったのか―
そんなところまで、俺たちは一緒だったのか。
「…まったく、アホ二人に引っ張りまわされて、こんなところまで来てしまった!
正直、少々疲れたぞ」
「ちょ、チョーさん!」
「いいじゃないか、こんなところまで来られたんだから!」
あと一人のメンバー・胡蝶鬼は、何だかそんな二人に呆れた…というていをつくろって、そんな皮肉を吹いている。
けれど、あてこすられた鉄甲鬼と自雷鬼が真面目に反論するものだから。
「……まあ、な」
さすがの彼女も、それ以上意地悪しようにもできないらしい。
…胡蝶鬼も、まんざらでもなさそうに笑った。
くすくす、と笑う。
それを見て、鉄甲鬼も、自雷鬼も、笑う。
俺たちの目に映る、そんな三人の姿。
それは、街中で見かける「高校生」と、なんら違いを見つけえなかった。
頭にツノのない、まるで「人間」みたいな、
「人間」の「高校生」みたいな、俺たちのライバル。


…が。


鉄甲鬼の視線が、俺たちを射抜く―
「…だがな、ゲッターチーム」
薄く開かれたその唇の端から、尖った白い牙が見えた。
異形の証。化生の印。
「次に会う時は、また『敵』同士…だ」
「ああ。完膚なきまで叩き潰し、消し炭に変えてやろう」
そして、奴らがそんなことを言うものだから。
俺たちは否応なく再認識せざるを得ない、
こいつらが紛れもなく「敵」である、ということを。
紛れもない「人間」の宿敵、百鬼帝国の鬼どもだ、ということを。
「…ふん」
「それはこっちのセリフだぜ」
「俺たちゲッターチームは、絶対に負けはしない!」
だから、俺たちもそれを受け返す。
「人間」として。
売り言葉に、買い言葉。
俺たちの間で、視線が冷たい火花を上げる。
それは、剣を交わし突き付け合う、戦いを示唆する。
真っ白な太陽の光の中で、かすかにひらめく、殺気を帯びた―
…ああ、けれど。
けれど、それは、その時は、今じゃない。
「…はっ。その時まで、せいぜい首を洗って待っておくことだ」
「ま、俺たちの新ヒャッキーロボの前じゃ、お前らのゲッターなどがらくたに等しいがな!」
「今度こそ、『正々堂々』と戦い、お前たちを葬ってやる!」
胡蝶鬼が、自雷鬼が、鉄甲鬼が。
「鬼」どもが、俺たちに挑発の言葉を叩き付ける。
けれど、それは、その時は、今じゃない。
それを、あいつらもよくわかっている。
そんなことのために、こいつらはこの場所に来たんじゃない。
だからこそ、俺たちは同じ場所に在り得たのだ―
「ではな、さらばだ―!」
最後に、鉄甲鬼がそう言って。
不敵な笑みをこちらに投げ、振り返って。
そのまま奴らは、何処かへと去っていく。
めいめい、自分の荷物を手に持って。


俺たちは、動かなかった。
俺たちは、追わなかった。
そのまま、あいつらの背中が小さくなって、やがて陽炎の向こうへと消えていく様を―ただ、見ていた。


そして。


「…」
「…」
「…」
「…なんか、」
黙りこくっていたその空白を、ベンケイが破る。
額を流れてきた汗をぬぐいながら、ぽつり、と奴はこう言う。
「拍子抜け…だな」
「ああ」
リョウが、うなずく。
おそらく、俺たちが思っていたことは、三人とも同じなんだろう。
「…そっか、あいつら…俺らと、『同い年』だったんだな」
「…」
なんだか、あっけに取られたかのように、ベンケイがまた言った。
なんだか、少し困ったような、不思議そうな顔で、リョウがまたうなずいた。
きっと、内に思うことも同じなんだろう。
「…『思い出』、か」
俺は、ため息と一緒にそう吐き出した。
(そうか、別に不思議でもなんでもないか)
何となく、今になって腑に落ちた。
あいつらが言っていたことが、腹の底に沈む、理解出来る。
(何か、残しておきたい記憶がほしかったんだ…「高校生」として)
その時、俺の脳裏に、あの言葉が甦ってきた。
ここに来る前、出場を渋っていた俺に向かって、早乙女博士がかけてくれた言葉…




「けれど…君たちは、高校生じゃないか!」

「高校生じゃないか、ハヤト君…」

「君たちの18歳の夏は、今しかないんだよ」

「だから、高校生らしい思い出を。今しか出来ないことをして、素晴らしい思い出を作ってほしいんだよ」

「君が大人になった時に、懐かしく思えるような…そんな夏にしてほしいんだ」

「素敵じゃないか、大切な『友達』と一緒にそんな大会に出られるなんて!」





(そうですね、博士。―素敵、ですね)
そうだ。
俺は、今更ながらに、博士の言葉に同意した。




(例え「人間」だろうと、「鬼」だろうと―!)




そう、「思い出」―だ。
俺たちは、決勝戦への切符は手に入れられなかったけれど。
それにも匹敵するような、素晴らしいモノを…素敵なモノを手に入れた。
俺と。
リョウと。
ベンケイと。
そして、癪だけど、癪だけれども、
あいつらと一緒の「思い出」を―!




=====決勝進出!!( )内はチームリーダー名=====
滋賀県立石達山高校(川村)
愛媛県立東条高校(田富士)
鹿児島県私立マ・メール高校(村松)