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逃亡者―RUNAWAY―(あるいは、剣鉄也の災難)


*ご注意
この物語は、昔懐かしいゲームブック風に進んでいきます!
あなたが主人公・剣鉄也になったつもりで、選択肢を選んでいってくださいね!


1
―これは、ひょっとして悪夢の続きではなかろうか。
目を覚ました剣鉄也は、ぼんやりとそんなことを思った。
今しがたまで、自分は眠っていたのだ。
時計を見ると、時間は7時半。そろそろ起床すべき時間だろう。
もうしっかりとは覚えてはいないが、何やら夢見が悪かったらしい。軽い疲労感すら感じる。
…しかし。
悪夢から解放され、覚醒の時を迎えたはずの自分に今起こっている事態は―
それ自体、何かの悪い冗句かそれとも夢そのものなのか、そんなことすら疑ってしまいそうになるものだった。
鉄也のような大柄な男には、一人でも少しせまいぐらいのベッド。
だが、今はそこに…自分以外の人間が、もう一人いた。
もちろん、自分の意思とはまったく関わりなく。
「うぐうぐ…えぐ…」
身体を軽く丸め、鉄也に寄り添うようにして眠っているのは…エルレーン
しかも。
「…」
「うっく…ひぅ」
自分を何と勘違いしているのか、左肩に噛みつかれていた。
しかも、何やらうぐうぐとつぶやいているのだ…噛みついたままで。
しかも、泣きながら。
ぽろぽろこぼす涙は筋となって彼女の頬を流れ落ち、流れ落ちるはしからまた次の涙がこぼれる。
彼女の夢の中で何が起こっているのだろう、鉄也には知る由もないのだが…
わけがわからず、正直困惑している。
そういえば…昨日、うっかりしていて、部屋のドアをロックするのを忘れていたかもしれない。
そんなことを、ぼんやりと鉄也は思い起こした。
このアーガマ艦、クルーの部屋がある廊下は、同じような扉が延々と立ち並んでいる。
角を曲がって何個目の扉か…ということを数えておかないと、他人の部屋と間違えてしまうのだ。
そして、エルレーンの部屋でもあるリョウの部屋は、自分の部屋の二つ隣…
夜中にトイレにでも起きたエルレーンが、リョウの部屋に戻ろうとして、寝ぼけて自分の部屋に入り込んだ…ということだろう。
ともかく、自分は喰い物ではないし、このまま人様のベッドで寝くたれてもらっても困るので、彼女を起こすことにした。
状況が状況なら、男としてちょっとはうれしい事態かもしれないが…
こんなところを誰かに見られたら、とんでもない誤解をされそうだ。
「エルレーン君…エルレーン君」
「うえぇ…うっく」
「起きてくれ、頼むから!」
「…うぅ?」
ちょっと大きな声を出し、少しばかり強くゆすると…ようやくエルレーンも目覚めたのか、かすかにその両瞳が開いた。
「…うあー?」
「『うあー』じゃないよ、『うあー』じゃ…とっとと起きてくれ」
まだ寝ぼけているのか、焦点があっていないぼやけた瞳で鉄也を見返すエルレーン。
何とか身体を起こしては見たものの…覚醒しきっていないようで、頭がゆらゆらと揺れている。
「ぴーまんが…」
「ん?」
「おさらぁいっぱいのぉぉ、ピーマンがぁぁ…」
「あーもうピーマンどうでもいいから、しっかりしてくれ」

そして、わけのわからないことをうつろな目をしてつぶやく。
その危なげな様子から見ると、まだ(彼女なりの)悪夢の中にいるらしい。
そんなエルレーンを前に、鉄也は沈痛な面持ちでため息をついた。
「…んあ」
…と、ようやく、彼女の目に少し光が戻った。
「あ…うぅ?…なんで、てちゃあくん…?」
どうやら彼女も、自分の今の状態が少しおかしいことに気づいたようだ。
不思議そうな顔で鉄也の顔を見つめている。
「やっと起きてくれたか…」
「な、んで?てちゃあくん、何で…」
「それを聞きたいのは俺のほうだよ」
「…ここ、リョウのへやじゃないの?」
「ああ、ここは俺の部屋だ」
「…」
そこまで言うにつけ、ようやくエルレーンは自分のしでかしたことを理解してくれたらしい…
ぐるりと周りを見回し、そこが明らかにリョウの部屋ではないことに気づいたようだ。
と、彼女は…とりあえず、一回こっくりとうなずいた(しかし、それでも頭をゆらゆらとさせながら)。
「ごめんにゃー、てちゃあくん…」
「…ああ」
「わらし、ねぼけちゃあ…うゆ…ぴーまんが…」
「…」
まだ、何だかダメっぽいが…
しかし、とっととしっかりしてもらわねば。
「さあ、立って立って!」
「うう…」
半分寝ぼけた状態のエルレーンの腕を取り、無理やり立たせる。
「さ、しっかり!もう間違って入ってこないでくれよな」
そして、半ば押し出すような形で、部屋から追い出した。
エルレーンは、ぽやぽやした表情で、やっぱりゆらゆらしていたが…それでも、くるりと向きかえり、何とか自分の足で歩き出した。
それを視界の端で見送りながら、鉄也はぼりぼりと頭をかいた。
「…あーあー、もう…」
朝っぱらから、何だかどっと疲れてしまった感じがする。
鉄也はまた、ため息をついてしまった。
今しがたまでエルレーンに噛みつかれていたシャツの左肩は、よだれでべとべとにされていた…




本当に、それだけが事実だった。
にもかかわらず、嗚呼―
罪なき逃亡者に救いあれ、彼は汚れ無き正しき者にもかかわらず。




「ああああああああああああ!エルレーン、一体何処にいったんだああああ?!」
そして、その頃。
流竜馬は大混乱の極致にあった。
「お、落ち着けよ、リョウ〜…」
「こここここここここれが落ち着いていられるかァ!!」
混迷のあまり人の迷惑顧みず大声でわめくリョウを、ベンケイが必死になだめるが、全然リョウは聞いちゃあいない。
それはそうだろう。
彼の最愛の「妹」であるエルレーンが、突如いなくなってしまったのだから!
目覚めたら、隣の簡易ベッドにいたはずのエルレーンがいないことに気づいた…
その時の衝撃は、以下ばかりのものか。
それからというもの、彼は必死にエルレーンを探しておおわらわだったのだ。
しかし、思い当たるふしもそんなになく、どうしたらどうしたらという焦燥感だけが募っていく。
ベンケイを引きずり回しながらアーガマ中を探し回り、そして(当然のことながら)彼女を見つけられず虚しく自室まで戻ってきたのだが…
やはり彼女は部屋には戻っておらず、リョウは不安と心配で頭を抱え込んでしまう。
…だが。
その時。
目の前の廊下、立ち並ぶ部屋の扉…その一つが、すうっ、と開いた。
「!」
瞬間。
リョウとベンケイの時は、凍てついた。




開いた扉から姿をあらわしたのは、エルレーン。
何故か、その足取りは頼りなく…ゆらゆら、ふらふら、力なく。
うつむくその表情には、涙。
かすかに紅くなった瞳は、彼女が涙を流したことを如実に示す…
彼女が出てきた扉の部屋、そこには"TSURUGI Tetsuya"の文字。




そのまま、彼女は…ゆらゆら、ふらふら、揺れながら、廊下をふわふわと歩んでいく…
その後ろ姿を、二人は無言のままに、凍てついたままに見送った。
やがてその姿が見えなくなっても、二人は凍てついたまま…
その凍てついた二人の脳裏では、稲妻の速度で思考が過熱、飛躍していた。




帰ってこなかった夜。
泣きはらした瞳。
頬に残った、涙の跡。
かすかに紅潮した頬。
身にまとうバトルスーツは、健全な男なら何かを感じずにはいられないほど露出度が高く、扇情的で。
そして、出てきたのは…剣鉄也の部屋。




それは、全て「点」。
しかし、人間は無意識のうちに「点」と「点」をつなぎ、「線」にしてしまう―
推察される、一つの「線」に。


例え、その「線」が、どんなに間違っていようとも。




そしてその「線」は…
状況証拠から導き出されたまったく勝手な想像でしかない、その「線」は、
混乱の極みにあった流竜馬の理性を、すすすら残らないぐらいに焼き尽くした。




程なくして、開きっぱなしになっていたその部屋の扉から、男が姿をあらわす。
…剣鉄也。
「て、…鉄也」
「?…おはよう、リョウ君、ベンケイ君」
何故か廊下に立ち尽くす二人の姿を認めた鉄也は、いつもどおりあいさつの言葉を口にした。
が…二人は、動かない。
明らかに異様なモノを見る目で、鉄也を見返している。
「…」
「…」
「どうしたんだ?何を、そんなに…」
「て、鉄也、お前…お前、まさか…え、エルレーンに、ッ」
震えるベンケイの声。強張ったその表情。
鉄也は一瞬いぶかしんだが…刹那、ぱっ、とその理由がひらめいた。
この状況。
そして、二人の自分を見る目。
自分が招いたでもない、この状況が…彼らに与えた、予断とは。


(ま…まさか、ッ)
そして、その「まさか」なのだ。
(お、俺が…エルレーン君に「何か」した、と思われているんじゃあ…ッ?!)
そう、その「まさか」なのだ。


それが証拠に、見よ。二人の表情を。
リョウは洞穴のように暗い瞳を見開いて呆然とこちらに見ているし、ベンケイはショックを抑えがたい、信じられない、といった顔で見ている。
鉄也の舌が、強張る。
弁解のセリフを紡ぎだそうとするが…しかし、うまく自分の舌を動かすことができない。
「あ…あの、リョウ君、」
「…」
リョウは、鉄也の呼び声に動いた。
ゆっくりと、不自然すぎるほどゆっくりと…
両肩がひどく強張っているのが外から見てとれる。まるで歯車が彼の体内で駆動しているかのようだ。
その異様な様子は、鉄也を少したじろがせた。
…尋常ではない。
鉄也は、そう強く感じた。
尋常ではない、今のリョウは…何か、おかしい。
奇妙な無表情。自分を凝視するその様。
異常だ。
それは、何か危険のにおいを否応なく放つ…
だが、ここで彼の誤解をといておかねば、後々困ったことになるに違いない。
ともかく、自分は何もしていないだから…逃げずに、堂々としていればいい。
そう理性は命ずるものの、鉄也の全身は危機を察知し、びりびりと緊張している。
一秒の千万分の一、鉄也の脳内で電気信号が交錯する。
鉄也は…

とにかく誤解をとこう →30
何かヤバい…逃げる! →20

























2
「…」
食堂。
ここにエルレーンはいるのかもしれない…
しかし、何と運の悪いことだろう。
逃げ回っているうちに、いつの間にか昼と呼んで差し支えない時間帯になっていた。
昼食をとるために集まった人々が、わらわらと食堂にたむろしている…
この中からエルレーンを探すのは至難の業だ。
…いっそのこと、大声で呼んでみるというのはどうだろう?
ふと鉄也はそんなことを思いついたが、それをやればリョウにも気づかれるかもしれないし…
さあ、どうする?

「エルレーン君!」 →31
黙って探す →6

























3
鉄也は、勇気を出してドアをノックしてみた…
が。
扉の向こうからは、何の物音も帰らない。
「…エルレーン君?」
鉄也は、勇気を出して呼びかけてみた…
それでも、彼の声には誰も答えない。
…どうやら、今この部屋には誰もいないようだ。
鉄也は黙ってその場を後にした。

13
























4
「でさあ、どうもエンジン出力が安定しないからって、マジンガーの…」
「あ、あの、甲児君、」
「?…何だい?」
甲児のセリフに無理やり割り込むようにして、鉄也は何とか彼の注意を向けることができた。
「え…エルレーン君を探してるんだ。見なかったか?」
「エルレーン?ああ、さっき見たよ」
「えっ、どこで?!」
「どこで、ってぇか…」
ぽりぽり鼻頭をかきながら、甲児はこう答えた。
「格納庫へ行く、って言ってた。ゲッタードラゴンの整備を手伝うって」

格納庫へ向かう →9
























5
「…」
開いた扉の向こうには、相変わらずすかした表情のハヤト。
「き、聞きたいことがあるんだ」
「…ああ、何だ?」
切り出した鉄也に、平然と対応するハヤト。
その裏表のなさそうな様子を見て、鉄也は内心多少安堵した―
(よかった、ハヤト君は力になってくれそうだ)

10
























6
人の波を通り抜け、鉄也は必死にエルレーンを探す。
ざわめく食堂には、たくさんの人の群れ。
人の波を通り抜け、鉄也は必死にエルレーンを探す。
ざわめく食堂には、たくさんの人の群れ。
まるで人の海。

と、突如、鉄也の姿がその波の中に消えた。
それは、海で泳ぐ子どもが、波に飲まれるかのように。
もしくは、邪悪で獰猛な鮫が、哀れな犠牲者の足を喰い、海底へと引きずり込むかのように。


そして、男の悲痛な悲鳴。
続いて、幾多ものざわめき。
人の波が、ざああっとひいていく。
その中心、食堂の床には、
ダイイングメッセージすら残せぬまま狩られた、無残な被害者の遺体が転がっていた。


そして鮫は薄笑いを浮かべながらその場を去った。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
Game Over!!
 スタートへ戻る →1
























7
リョウの部屋(エルレーンの部屋でもある)に向かうべく、鉄也は廊下を行く。
「…」
と、にぎやかな声が漏れ聞こえてきた。
食堂への入り口が鉄也の視界に入る。
(…食堂にいるのかもしれない)
さあ、どうする?

部屋にまっすぐ向かう →12
食堂に行ってみる →2

























8
「いいですかブライト艦長ッ!俺はここにいません!俺はここにいませんからッ!
「は、はあ?!」
「いいですね?!俺はここにいませんよッ!!」
一気呵成にわけのわからないことを言われ混乱するブライト艦長…が、説明を追加しているヒマなど、今の鉄也にはない。
他のクルーの困惑の視線を痛いほど感じながら、鉄也は無理やりブリッジの端にあった掃除道具入れに身体を押し込んだ。
ばったああああん、という掃除道具入れの扉が閉まる音と、ブリッジの入り口扉が開くのは、まさに同時だった。
鉄也は必死で、狭苦しい掃除道具入れの中で気配を殺す。
扉の隙間から漏れ入ってくる光。そこから一緒に、ブライト艦長と「奴」の会話が聞こえてきた…
「…おはようございます、ブライト艦長。あの…鉄也君を見ませんでしたか?」
恐ろしいくらいに、平静な口調。
あの好感度100%といった好青年の仮面で、憤怒と狂気を押し隠しているのか…
「あ、ああ…こちらには来ていない。なにかあったのか?」
ブライトは、それでも何か危険なものをその裏から感じ取ったのか…ともかく、鉄也が頼んだとおりに知らないふりをしてくれた。
シラを切ったブライトに、「奴」はどんな表情をしてみせたのだろう。
今の鉄也には見えないが、恐らくは…笑顔という仮面を壊すことなく、ぬけぬけと言ってみせたのだろう。
「いえ…何でもありませんよ。もしよろしければ、彼を見つけたら僕に教えていただけませんか?ちょっと、用事があるので」
「わ、わかった」
「それでは…」
そうして、そのままブリッジを去っていくらしい。
来た時と同じく、かっ、かっ、という硬い靴音がブリッジの床を鳴らす…
かっ、かっ、かっ、かっ…
その靴音がだんだんと小さくなり、やがて消え…
そこまでいって、やっと鉄也に一時の安堵が訪れた。
「…」
「…」
掃除道具入れから再び姿をあらわした鉄也を、ブリッジ中の人間が何とも言えない表情で見つめている。
鉄也もやはり何と説明していいかわからず、無言でその場を立ち去った。

23
























9
格納庫に向かう廊下だ。
今、鉄也の目の前でその廊下は二又に分かれている。
どちらにいっても、結局格納庫へはたどり着くのだが…

左へ行く →26
右へ行く →24

























10
「…エルレーン?」
ハヤトは小首をかしげながら、それでも思いついた答えを述べてくれた。
「食堂にでもいってるんじゃねえか?結構遅く起きたようだったしな」
「…ありがとう」
彼に礼を言い、鉄也はその場を離れた。
…さて、どうする?

教わったとおり、食堂へ行く →17
やっぱり他を探してみる →20

























11
ブリッジにいきなり飛び込んできた鉄也に、一挙にクルーの視線が集まった。
「…どうした鉄也君。何をそんなに急いでいる?」
「…」
ブライト艦長が問いかけてきたが、ここまで全力疾走してきた鉄也の喉からは、荒い呼吸音がもれるだけだ。
…見回してみたが、そこにはエルレーンはいないようだ。
どうやら他のところを探さねばならないようだ…
「鉄也君?」
「あ…ブライト艦長、実はですね…」
そんな鉄也の様子をいぶかしむブライトに、事情を説明しようとした…その時だった。
鉄也の顔面から、一挙に血の気が引いた。
「…!」
鉄也の耳朶を甲高い靴音が打った。
かっ、かっ、かっ、かっ…
全力で走っているらしきその靴音は、どんどんこちらに近づいてくる!
靴音の主は誰か―そんなこと、推察するまでもない!
もはや一刻の猶予もない。
だが、ブリッジはいわば艦の最前部、つまり袋小路…
ここから逃げられはしない。
「奴」がここを探すのをあきらめるまで隠れてやり過ごすか、それともブライト艦長に「奴」を説得してもらうのか?!
…すぐさまどうするのかを決めなければ!

ブライトに事情を話し、「奴」を止めてもらう →19
そんなヒマはない、とにかく隠れる! →8

























12
リョウの部屋の前についた鉄也。
すぐさまドアをノックすると、返事も待たずにインターホンに小声で呼びかけた。
「エルレーン君、エルレーン君!」
「…」
ぱしっ、というような音がしたから、今ドアの向こうにいる相手が、受話器を取ったことは間違いない。
間違いない。彼女は―ここにいる。
「エルレーン君、話があるんだ!開けてくれッ!」
「…はい」
囁き声でも、鉄也の切羽詰った感情は伝わるのか―応対者は、割合に素直に答えた。
そして、静かに部屋のドアが開く。
薄暗いその部屋の中に鉄也は急いで飛び込む―すぐさま、ドアを閉める。
そこまでやって、ようやく鉄也はほっとすることができた。
「ふう…すまない、急に」
しかし、やはり鉄也は焦っていたのだろう。
軽率、というしかないほど、彼はあまりに冷静さに欠けた行動をとった。
「あの、エルレーン君…その、」
薄暗い部屋、色濃いシルエットの主は、鉄也に背を向けたまま。
その相手に向かって、鉄也は懇願する。
「すまないんだが…」
相手が無言のまま、動かないにもかかわらず。
「俺といっしょに来てもらいたいんだ」
相手が無言のまま、こちらをも向かないにもかかわらず。
「ちょっと…あの、何ていうか、…」
―しかし。
やがて、暗闇に目が慣れてくると、そのシルエットの闇がだんだんと薄くなる。
「と、ら、ぶる、が…あ…」
そのシルエットの主が、あの少女のものでないことに気づくことができるくらいに。
「…」
そして、とうとう鉄也も気づく。
自分は、今まさに―虎穴に入ったということを。
しかも、なんの考えもなく、うまうまと。


シルエットの主が、振り返った。


暗闇の中で、その笑みが…
その笑みの中、恐ろしいほどにぎらりと光る真っ白い歯だけが、鮮やかに目に映った。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
Game Over!!
 スタートへ戻る→1
























13
「…」
ゲッターチームメンバーの部屋の前。
確かに、エルレーンもいっしょに使っているリョウの部屋が一番彼女がいる可能性が高いが、リョウがいる可能性も一番高いわけで…
もしかしたら、ハヤトかベンケイの部屋にいるかもしれないし…
さあ、どの部屋を探せばいいのだろう?

リョウの部屋(兼・エルレーンの部屋) →3
ハヤトの部屋 →5
ベンケイの部屋 →16

























14
格納庫。
プリベンター自慢のロボット群が立ち並ぶ、鋼鉄と機械油の空気…
エルレーンはゲッタードラゴンの整備をしているのだろうか?
それとも、この格納庫でいつも仕事しているアストナージに、彼女が来たか聞いたほうがいいだろうか?
さて、鉄也は一体どうする?

アストナージを探す →24
ゲッタードラゴンの場所へ向かう →18

























15
…甲児君には悪いが、いまはそんなヒマはない。
えんえんとくっちゃべり続ける甲児の横を、鉄也は足早に駆け抜け…ようとした。
…が。
「!…おい、鉄也さん!」
「?!」
腕を唐突に掴まれ、少し慌てる。
「人が話してるってのに、無視はないだろ?!」
「あ、あのなあ、甲児君…」
「だいたいさあ、鉄也さんのそういうところ、前々からだよな。いい加減に直したほうが…」
「今は、ちょっとそういう余裕はないんだ!」
「一体何なんだい、そんなに急ぐ理由でもあるってのか?」
「だ、だから、説明してるヒマも…!」
不毛な押し問答が、鉄也の神経を苛立たせる。
油断すれば、うっかり甲児を一発殴ってしまいそうだ…
(ともかく、何とか彼を説き伏せてさっさとこの場を後にしないと!)
そう思った、その矢先だった。
…ぽん。
誰かの手が、鉄也の両肩に置かれた。
「…!」
ショックだった。
これほどまでに、「奴」の接近を許してしまうなんて…!
終わりだ。
もう、終わりだ。
もう、お仕舞いだ…!
「ああ、リョウ!ちょっと聞いてくれよー、鉄也さんがさあ、俺のコト露骨に無視すんだぜー」
ああ、この甲児の憎まれ口すら非常に呪わしい。
貴様のせいで、
貴様のせいで、
この俺は地獄に落とされる。
顔面蒼白になっているだろう俺にも気づかず、そんなことをのんきに言っている貴様のせいで…!
「…そうかあぁ。それはぁ、…いけないなぁぁ」
押さえつけられた低音が、「奴」の口から出でて、鉄也の背を打った。
両肩に置かれた悪魔の爪が、獲物に喰いこんだ。


ああそして悪意無き罪人の前で凄惨なる裁きが行われる。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
Game Over!!
 スタートへ戻る →1
























16
「ベンケイ君!ベンケイ君!」
「…あ、ああ、鉄也」
激しいノックの後、扉がしゃらん、と音を立てて開く。
すると、そこにはベンケイがあいまいな笑みを浮かべて立っていた。
「すまないベンケイ君、ちょっと聞きたいことが…」
「ああ、わかってるよ…とりあえず、中入れよ」
鉄也のセリフを遮って、ベンケイが小声で素早く促す。
…確かに、彼の部屋に入ってしまえば一息つくことも出来る、安全だ。
少し薄暗い部屋の中に入ってしまうと、鉄也の身体からふうっと力が抜けた。
「…よし」
ベンケイが、後ろ手にドアをロックする。
…しかし。
「さっそくだがベンケイ君、聞きたいことというのはだな…」
「あ…ああ、」
鉄也は、気づくべきだった。
「エルレーン君を探しているんだ」
「ああ、え、…エルレーン、ね」
ベンケイが、先ほどから一度も鉄也と目をあわせようとしていなかったことに。
「どうも、厄介なことになっちまって…どうしても、彼女にいっしょに来てもらわないと」
「…」
ベンケイが、先ほどから明らかに視線を「ある一点」からそらし続けていることに…
「…」
「…?」
そして、黙りこくってしまったベンケイを前に、ようやく鉄也もその現実を悟る。
「―!」
背筋を、冷たい電撃が駆け抜けた。
途端、がたがたと身体が震えだす。
その気配は明らかに、鉄也の背後に在った。
「べ、ベンケ…」
「ご、ごめん、鉄也…ッ!」
ベンケイの悲鳴のような詫びの言葉、それが鉄也が最期に聞いた音だった。


闇が、リョウの形をした闇が、獲物に襲い掛かるのを
車弁慶はその場に立ち尽くしたまま―
見届けるほか、なかった。


そして、


凄まじい断末魔が、彼の鼓膜を貫いた。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
Game Over!!
 スタートへ戻る →1
























17
食堂に着いた。
数人がテーブルにつき、思い思いに食事を取っているのが見える。
ピーク時は過ぎているのだから、割とすいているのだが…
どうやら、今エルレーンはこの場所にはいないらしい。
「あれ?鉄也さん?」
…と、背後から、鉄也を呼ぶ声がした。
振り返ると、そこには兜甲児の姿があった。
「甲児君…」
「どうしたんだい?やけに深刻そうな顔だけど」
「…」
「ちょうどいいや、あのさあ、マジンカイザーのことなんだけど…」
のんびりした甲児の口調が、どことなく腹立たしい。
早いことエルレーンを見つけて、誤解を解いてもらわねばならないのに…!
そんな鉄也の気も知れず、甲児はべらべらとしゃべくりはじめた。
鉄也、どうする?

事情を説明してみる →4
無視して通り抜ける →15

























18
「…?」
ゲッタードラゴンのまわりには、人影一つない。
エルレーンはすでに整備を終えてしまったのか?
ともかく、鉄也はエルレーンを見つけることができなかった。
ため息をつく鉄也を、紅の巨人が静かに見下ろしていた。

廊下に戻る →20
























19
ブリッジの片隅、ひと一人が入るにはあまりに小さすぎる掃除用具入れ。
その中に隠れたまま、うずくまったまま、鉄也は動けなくなった。
もはや、出ることはかなわない。
何故ならば―今まさに、その外では惨劇が繰り広げられているからだ。
鉄也を追う様にブリッジに入ってきた「奴」に対し、ブライト艦長は説得を試みたようだった。
が。
漏れ聞こえてくる外部からの音声は…その説得が無残な形で終わったことを鉄也に告げた。
ブライト艦長の魂消(たまぎ)るような悲鳴。
そう、すでに、「奴」は…怒りに我を忘れた、ただの修羅と化していた。
「う、ぎびゃあああああああ!」
「ひああああああああーーーッ?!」
「あ、ぐ、げごっ」
連続する断末魔。鉄也の鼓膜を貫く。
そうしてひとり、またひとり、ブリッジの中から気配が消えていく。
―が。
途端、ブリッジ中を満たした奇妙な静寂に、鉄也は一瞬いぶかしんだ。
だが、それが意味する現実を理解した瞬間…鉄也の脳は、電撃に打たれたかのごとく衝撃を受けた。
もう、ここに、このブリッジの中にいて、呼吸(いき)をしているのは―
自分と、そして「奴」しかいないのだ、と!
刹那、鉄也の心臓が強烈に速い鼓動を打つ。その鼓動の音を「奴」に聞かれまいと、彼が必死に胸の上から押さえつけているにもかかわらず。
そうこうしている間にも、遠くから近くから…「奴」が自分を探し、うろついている物音が響いてくる。
鉄也は懸命に息を殺す。「奴」がこの場所をあきらめ、どこか他の場所を探しにいってくれるように祈りながら―
数秒、数十秒、数十秒のさらに数倍、いや数十倍―鉄也は、耐えた。
…と、その時ようやく鉄也は気づく。
ブリッジの中に先ほどまで響いていた音が、ぴたりと止んだのに。
…ようやく、嵐は去ったか。
強張った肺からたまった二酸化炭素ガスをゆっくり吐き出しながら、鉄也は思わず安堵の笑みをもらしていた―


がたん。


だが、その次の瞬間、その笑みは凍てついた。


目の前に、光がぱあっと広がった。
こぼれだす光の中に、見上げる天井を覆うように、「奴」がいた。


「…見つけた」


真っ白い歯がきらめく。禍々しいその笑みの中で、三日月の嘲笑の中で、
獲物を狩る、それは―「鬼」の牙だった。


何故か鉄也は、その時突然―
遠い世界、あの懐かしい科学要塞研究所、そして兜剣造博士のイメージを一瞬想い起こした。


その次の刹那には、そんなイメージごと鉄也の意識は断ち切れていたのだけれど。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
Game Over!!
 スタートへ戻る →1
























20
走った。走った。ひたすら走った。
百戦錬磨の戦士・鉄也をそうさせたものは、あの瞬間のリョウの目だった。
あの目は、危険だ。
戦士の直感は、彼に「逃走」という選択を選ばせた―
走る、走る、身に降りかかる危険から逃れきるために。
(このピンチを、どうにかしてくれるのは…ああッ、畜生!)
考えずとも、答えは一つしかない。
エルレーンだ。
自分をこんな状況まで追い込んだ、エルレーンだ。
リョウの唯一の弱点である、エルレーンだ。
今、リョウの怒りの矛先をかわすためには、彼女自身からリョウに事情を説明してもらうほかない!
自分は何もしていないと、リョウに責められるようなやましいことなど何もなかったのだと告げてもらうしかない…!
彼女の言うことなら、リョウも理解するに違いない。
だから、一刻も早く。
エルレーンを探さなければ。
エルレーンを見つけなければ。
自分が、リョウに見つかってしまう前に…!
夢中で走って、ふと気がついてみれば…
鉄也はいつのまにか、広い廊下に出ていた。
さあ、何処を探せばいい?
さあ、何処に逃げればいい?

船首(ブリッジ)へ向かう →11
部屋を探す →13
船尾へ向かう →27

























21
「ちょ、ちょっと待ってよ鉄也君!」
「?!」
予想外。駆け抜けようとしたその途端、さやかの手が鉄也の服を掴んだ。
「ねえ、あのね、鉄也君…」
「さ、さやか君、悪いけど今俺は急いでるんだッ!」
「そ、そうなの?でも…」
「いいから!放してくれって、頼むからッ…!」
「でもぉ…」
何故か鉄也を解放するのを渋るさやか。
鉄也が必死にその場から逃げ去ろうとしているにもかかわらず、彼女は彼を放したがらない。
が…そのさやかの困り顔が、ぱっと変化した。
「!…あっ、いたわよー!」
そうして言うのだ、明るい弾んだ声で。
「…?!」
その唐突な変化に、軽く面喰らう鉄也。
…しかし、鉄也は数秒でその理由を理解した。
そして、自分の命運が今まさに尽きたということを。
廊下の向こう側から、さやかの声を聞きつけた人影が一つ、こちらに向かって全速力でかけてくる。
鉄也が追い求めていたあの彼女とまったく同じ顔をした人影が。
「さっきからリョウ君が一生懸命鉄也君探してたんだから。…ほら、来たわよ♪」
弓さやかに、悪気はまったくなかった。


だが、十数秒後に…彼女もまた、自分のとった行動が招いた悲劇を目の当たりにすることになる。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
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22
「じ…ジュン、聞いてくれ!」
「わ、わかってるわ、鉄也…鉄也は、何にもしてないわよね」
「!…ジュン!」
「そうよ、鉄也が…鉄也がそんなことするわけないものね、エルレーンさんを、そんな…」
「ももももももももももももちろんだ!そそ、それで、エルレーン君を見なかったか?!」
「さ、さあ、見てないけど…ご、ごめんなさい」
「そうか…」
「と、ともかく、私は鉄也を信じてるわ…」
「ジュン…」
「そうよ、そうに決まってるわ、鉄也はそんな弱い男じゃないもの!」
「…おいジュン、なら何でさっきから俺と目をあわせようとしないんだ、なあ」

20
























23
「…鉄也君!」
「!」
廊下を駆ける鉄也の行く先に、突如人影があらわれた!
…それは、剛健一。
事情を話して、エルレーンの事を聞いてみようか?
それとも先を急ぐべきだろうか?
事情を話す →29
通り抜ける →20

























24
「ああ、エルレーンか?」
アーガマのメカニック・アストナージは、頬をぼりぼりかきながら、面倒くさそうに答えた。
「ゲッタードラゴンの整備を終えて、どっかいっちまったぜ」
「え…ど、何処に?」
「さあぁな」
そう言って、アストナージは肩をすくめた。
…一体、彼女は何処にいってしまったのか。
(…エルレーン君の部屋にいってみるべきだろうか)
鉄也は、格納庫を後にした。

リョウの部屋へ →7
























25
「ちょ、ダメ、鉄也ッ!」
「?!」
だが、通り抜けようとしたその鉄也の腕を取ったのは、ジュンだった。
泡を喰う鉄也は、思わずその腕を振り払う。
「ま、待って、鉄也ッ!」
「すまないジュン、ともかく今はだめだ!」
「違うッ、そうじゃなくってそっちは…!」
「後でまた説明するッ!」
ジュンの制止も聞かず、鉄也は再び駆け出した―
―しかし。
その疾走は、突如断ち切れた。
鉄也の眼前にあらわれた新たな人影が…その針路を阻んだからだ。
ジュンが見る鉄也の後ろ姿からは、鉄也の表情は見えない。
だが、おそらく…恐怖と衝撃に凍りついた顔をしているのだろう。


彼の目の前にいるのは、今まさに彼が必死に逃げてきた相手だったからだ。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
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26
「…!」
走る鉄也の目の前に、影が躍った。
思わず鉄也は足を止める。
…廊下の角から飛び出してきたのは、弓さやか。
呼吸も荒く肩で息をしている鉄也を見て、彼女のほうも驚いているようだ…
さて、どうする?

事情を話してみる →28
そんなヒマはない →21

























27
「!」
行く先にあらわれたその人影に、鉄也は思わず足を止めた。
「…鉄也」
「ジュン!」
それは、炎ジュン。自分の昔からのパートナーパイロット…
鉄也は、一瞬躊躇した。
さあ、どうする?

事情を話す →22
通り抜ける →25

























28
「え、エルレーン君を探してるんだ」
「エルレーンさん?何で?」
「な、何だっていいだろう…知らないか?」
鉄也のぞんざいなものの言い方に、少しさやかはむっときたようだが、それでも彼女はこう答えた。
「さっき格納庫に行くのを見たわよ。ゲッタードラゴンの整備をするみたい」
…やはり、格納庫。
鉄也は礼を言うのもおざなりに、格納庫へ向かって駆け出した。

格納庫に向かう →14
























29
「…?!」
言い出そうとした途端、鉄也はとんでもない光景を見た。
…剛健一が、泣いている。
声を押し殺して、両目から噴水かと見紛うほどの滝涙をこぼし、直立不動で泣いている。
「…」
あまりの唐突さに、鉄也は声も出ない。
「お、おい、健一君…」
「う、う、う…ぐ、ぐぐっ」
「どど、どうしたんだ、おい!」
「ぐ、ぐすっ、ひぐっ、ううっく…!」
てんで埒があかない。
ていうか、正直気持ちが悪い。
何があったかはわからないが、今この状態の健一に関わりあっているヒマはない…
そう判断した鉄也が、彼のそばをすり抜けようとした…その時だった。
「?!」
がしっ、と音がするくらい、思い切り強く腕を掴まれた。ぶしつけに。
「鉄也君ッ!君が、そんなひどい奴だったなんて思ってもみなかったよッ!」
「は、はあぁ?!」
「あんなにぽえぽえしたエルレーンさんを!あんな子どもみたいな女の子に……なんて、破廉恥だとは思わないのかこの悪魔色魔変態鬼非常識デビルマーンッ!」
「ちちち、違うッ!俺は何にもやっちゃあいないッ!」
どうやら完全に鉄也を犯人扱いしているらしい健一。
涙ながらに鉄也を糾弾するその有様に、さすがの鉄也も泡を喰っている。
―だが。
本当の恐怖は、鉄也が足止めを喰っている隙に、闇の底から忍び寄ってくるのだ。
「とと、とにかく誤解なんだッ!放せ健一君ッ!」
「…!」
力いっぱい健一に掴まれた腕を払い、鉄也は慌てて駆け出そうとした―
…駆け出そうとは、したのだ。
しかし、健一が次にこう叫ぶにつれ…もはやその必要はない、いやもう走っても無駄だ…という事実が、鉄也の脳髄をしたたかに打ちつけた。


「リョウさーーーーーーーーーーーーーんッ!剣鉄也はァ、こぉこぉだぁあああーーーーーーーーーーッッ!!」


剣鉄也は、思った。
もし生きて帰れたら、必ずこの男をシバこうと。
剣鉄也は、思った。
もし生きて帰れたら、必ず剛健一を自分が今からやられるようにボコボコのメタメタのバキバキのズタボロにしてやろうと。


でも。
それは、思っただけで終わった。


剣鉄也 再起不能(リタイア)
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30
その場にいた者は、見た。
それは、まるで華麗な舞のようだった。
左が唸れば、即座に右も放たれる。
間断許さぬ、終わりなきその連携技―
その美しさゆえそれはこう呼ばれる、「舞々(チョムチョム)」と。
何故、一介の高校生であるはずの流竜馬が、「戦うコンピューター」こと金竜飛の必殺技をマスターしているのか。
理由など、誰も知るよしもない。
ただ、彼らは見つめることしか出来なかった。
その一方的なる暴虐を。
剣鉄也もまた、舞っていた。
隙もなく繰り出され続ける流竜馬の鉄拳は、彼を無力なサンドバッグと変えていた。
紅い火花を飛び散らせながら、剣鉄也は舞う。
その血しぶきを浴びながら、流竜馬は舞う。
二人の凶悪なる舞は、さながらに死刑執行そのままだった。

そうして剣鉄也の意識が消えうせてもなお、彼は踊らされ続けた。
流竜馬の狂気は、哀れな無辜なる男を黄泉路に送り込むまで、彼を踊らせ続けた―

剣鉄也 再起不能(リタイア)
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31
「…はあーいっ」
鈴の鳴るような声。
いや、それはまさに福音の鐘のように響いた―鉄也の耳には。
鉄也の呼び声に答え、食堂の奥のほうから姿をあらわしたのは、まさに彼が探し求めていた少女。
「なあに?鉄也君」
「…!!」
その笑顔とおっとりしたセリフ。
それを目にした途端、今までの疲労と緊張、そして全身に広がる安堵感で、鉄也は床にへたへたとくずおれてしまった…
「どうしたの?鉄也君。身体、しんどいの?」
「いや…そうじゃないんだ、エルレーン君。実は…」
「剣鉄也はいるかあッ!」
が、雷鳴のような怒鳴り声が、鉄也の言葉に割って入った。
その声の主は素早く食堂内を見回し、鉄也の姿を発見するや否や、足音も荒くこちらにずかずかと向かってくる―
…が、剣鉄也はもはや恐れない。
不敵な笑みを浮かべ、流竜馬の到来を見守っている。
彼はもはやおびえる必要がない。
何故なら…鉄也の隣には、今、彼女がいるからだ!
「剣鉄也!とうとう見つけたぞッ!貴様…」
「おおっと、リョウ君。俺にも事情を説明させて欲しいもんだ。
どうやら君はひどい勘違いをしているようだからなあ」
「何をしれっとしてやが…」
怒り心頭といったリョウをからかうように、おどけたふりをする鉄也。
その鉄也の態度にさらに怒りをあおられたリョウ。
しかし、彼が更なる怒号を上げる前に…鉄也の思惑通り、彼女が言葉を挟んでくれた。
「なぁに、どしたのリョウ?なんで、そんなに怒ってるのぉ?」
「?!…え、エルレーン?!」
果たしてその期待通り、エルレーンの姿を認めた途端にリョウは面喰らってしまった。
鉄也に向けてはなとうとした罵声やら固めた右拳やらが突然に行き場を失い、あわあわしている。
…さらに、そこで一撃。
「なあエルレーン君、今朝は俺本当にびっくりしたよ」
「あっ、アレのことー?あの時は本当にごめんね、てちゃあくん」
「あ…アレって何かなあ、エルレーン?」
混乱しているのか、やたら甲高い声のリョウ。
はたから見ても動揺しているのが手に取るようにわかる。
が、そんなリョウの様子など気づかないのか、エルレーンはにこにこしながら…鉄也が主張したかったことを代弁してくれた。
「うん、昨日ね?おトイレいった後、私、ぼーっとしてて…間違って、てちゃあくんの部屋に入って寝ちゃってたの」
「…鉄也君の部屋に、間違って?」
「そうだよ?」
「…それだけ、なの…か?」
「…『それだけ』、って…他に何かあるの?」
怪訝な顔で問われたエルレーン、やはり怪訝な顔で聞き返した。
まったく素直に。
「い、あうっ、い、いや…」
金魚みたいに口をぱくぱくさせ、何とかかんとかそんなセリフをひねり出す。
そんなリョウの姿を見ていたら、何だか笑えてきてしまった。
「…ま、そーゆうことだ、リョウ君」
リョウの肩をぽん、と軽く叩いてやり、勝ち誇った言葉すらかけてやる鉄也。
「これで、俺が…君の大切な大切なエルレーン君に、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁんにもひどいことしてない、ってことがわかってもらえたかなあ?」
「く…あ、ああ…」
―勝った。
目を伏せ、悔しげに…それでも何とか搾り出すように言ったそのセリフは、確かに鉄也の勝利を確定した。
ようやく、勝った。
鉄也はゆっくりと両腕を上空に伸ばし…気持ちよさそうに、伸びをした。
空気がうまい。怯じることなくいられるというのは、何と心地よいことか…!
己の無実を証明することに成功した鉄也は、不機嫌な様子のリョウを不思議そうに見ている今回の騒動の元に、少しばかり皮肉な調子でこう言った。
「…いやあ、今回は本当に…君のせいでひどい目にあったぜ、エルレーン君」
「あっ、えーと…ご、ごめんなさい、私、寝ぼけてて…」
「あはは、もういいのさ、そんなこと!」
恐縮するエルレーンに、鉄也はからからと笑ってみせた。
彼女はいまだこの騒動の原因がなんなのかも理解していないし、誰のせいだったのかもわかっていない。
だが、それでいいのだ。
もう、全て終わったのだから。
とても晴れがましい気分だ、身の潔白が証明されたというのは…!
「でも…」
と、鉄也はふと思い出したように、こんなことを言ってみせる。
「君は将来苦労するぜ、きっと!」
「…私が?何で?」
「何で、って?」
にやっ、と笑って鉄也は言う。
その視界に、何だか未だに腑に落ちないといった風な「彼」の姿を捕らえながら―




「…そりゃあ、君の『お兄さん』に聞いてみるこったな!」




剣鉄也 見事生存!
Game Clear!!


あとがき…
もうこんなひどい話は書きませんので、許してください(笑)