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Paint it over, by your color!(その真白き角を塗りつぶせ)(1)






戦い取るのは苦しいが、戦い取った者は、それを失う危険に脅かされる。
プラーテン





「アタック!」




♪にっじゅうごおおぉ〜 にっじゅうごっ にっじゅうごっ(アタック!)
にっじゅうごっ にっじゅうごっ ぱねるく〜いず ぱねるく〜いず ぱねるく〜いず にじゅうご〜♪





軽やかなそれでいて何処か懐かしいメロディーが、「パネルクイズアタック25」のタイトル文字とともに画面中にあふれ出す。
30年以上変わることのないこの旋律にのって、日曜1時25分は始まるのだ。
奇をてらった、それでいて出演者のタレントたち「だけ」が楽しいようなクイズ番組が張梁跋扈するこの21世紀初頭において、いまだ揺るがぬ正統派のクイズ番組、その堅固なる良心の砦。
その砦を守る続ける主こそが、彼―
「こんにちは、パネルクイズアタック25、司会の球子清(だまこ・きよし)です」
髪こそ白くなったものの、その切れのある司会ぶりはいささかたりとも衰えることなし。
人呼んで、「Mr.アタックチャンス」…俳優にてこの「パネルクイズアタック25」の守人、球子清。
そして彼を支えるのは、沈着冷静なる出題者。
「問題を差し上げます木沢加美子(きさわ・かみこ)です。今日も、充実の地中海クルーズを目指してがんばってください」
木沢アナの喉からすべり出るその言葉たちは、まさに立て板に水流すが如し。
日曜昼の平穏を護る彼らの牙城に、今日も4人の挑戦者がやってきた…
「はい、がんばっていただきます。いつもの通りオープニングクイズはある人物をあてていただきます」
まず、彼らに見舞う初撃は…オープニング画像クイズ。
「ペナルティはありません、どうぞ!」





一部の拡大画像がしばし映り、そしてまた次に移り…
少しずつ小出しに出されていく情報を結びつけ、最も早く答えを手に入れたのは―!


とぅーん


緑のブースに座る、その人物!


「…正岡子規!」
「結構!」



★☆★「結構!」★☆★
この番組では、問題の正解不正解は司会者の球子の判断によって決められる。
正解した際の言葉の一つが、この「結構!」である。
なぜか球子は「正解!」という言葉よりこちらを好む模様。



「国語の教科書でもおなじみの俳人といえば、そう、この正岡子規…結構でございます」
問題画像から泡のCGが消え、全体像があらわれ…そこに、球子の解説がかぶさる。



そこには、誰もが一度は見たことのある、あの特徴的な偉人のイラストが浮かんでいた。
ご存知、短歌の革新を呼んだ人物、『歌よみに与ふる書』で高名な正岡子規である。
「え〜…確認しましたところで、今日のアタック25、まずは13番に緑が飛び込んで…!」
スタジオに据えられた、超巨大なスクリーン。
25のマスに区切られたそれこそが、戦場そのもの。

とぅーん
中央の、13番のパネルに灯がともる。
「スタート、でございます」
最初はすべて、この13番より始まる。
今は緑のこのパネルも、4人の戦いによってめまぐるしく色を変えていくのだ―
…だが、その前に。
「さて、今回は…同時期放映つながり、と言うことで、『ゲッターロボG』『グレートマジンガー』の悪役の方々にいらしていただきました」
オープニングクイズの後は、恒例・4人の回答者紹介のコーナーである。
現在(2009年6月現在)において、全国ネットのレギュラー番組では唯一の視聴者参加型クイズ番組となったこの「アタック25」。
が、今回の参加者は一味違う―
何しろ、恐るべき悪の勇者たちがご来場なさっておられるのだから。
球子の穏やかなナレーションが流れる中、解答者4名の紹介が画面に映し出される―
「赤のヒドラー元帥さんは、世界征服を目指す百鬼帝国軍の最高責任者でいらっしゃいます」

軍服をまとったその壮年の男は、天を貫くかのごとき二本の角を誇らしげにカメラに写す。
卑劣と卑怯を卑小なる精神に上乗せしたその男は、まさしく私利私欲に生きる「鬼」である。
「緑の席にお座りいただいているのは、同じく百鬼帝国より兵器部門の責任者でいらっしゃいますグラー博士さんです」

好々爺の額には、やはり人ならざるものの証…一本の、尖った角。
その面に刻むのは漆黒の叡智、百鬼帝国の繰り出す鋼の悪鬼の創造者。
「白の席には、地下帝国ミケーネ帝国・諜報軍よりお越しいただきましたゴーゴン大公さん」

筋骨隆々たる男の上半身を支えるは、猛り狂う巨大な虎。
トーガに包むその肉体に張り詰めるのは、邪悪なオーラそのもの。
「そして最後の青の席には、同様にミケーネ帝国諜報軍で辣腕をふるっていらっしゃるヤヌス侯爵さん」

暗黒の美女には、烏の濡れ羽のごとき黒衣がよく似合う。
ロングヘアを優雅に空にうねらせたおやかに笑む、だがそこから滲み出る気迫に人は怖じざるを得ない。
「以上の4人の皆さんです!」
球子の紹介した、今回の四人が四人とも。
極悪も極悪、魔性も魔性。
世界の覇権を狙う人外なるモノども、百鬼帝国、そしてミケーネ帝国の大幹部たち―!
一体何故、浅目放送はこんなとんでもない賓客を全国の茶の間に放映される人気クイズ番組に登場させたのか。
まったくもってその意図不明、困惑至極。
それを全身で痛感しているのが―
「…」
「…」
解答席の背後、ひな壇になった観客席の一角で、「いまだ一切納得が言ってません」という露骨な態度でぶすっと座り込んでいる二人。
ご存知、早乙女研究所所属ゲッターチーム・ドラゴン号パイロットの流竜馬と、ポセイドン号パイロットの車弁慶である。

「畜生…」
「リョウさんよ…もういい加減慣れろよ。作者・ゆどうふのいつもの手口だろ
一方、クールなライガー号パイロット・神隼人はもうすっかりこんな事態にも慣れ果てたのか、平静な顔で不機嫌を貼り付けた二人をたしなめる。
…が。
「なあハヤト、俺たちは『ゲッターロボG』の主役だよな?正義のヒーローだよな?!」
「ああ多分」
「なら!」

リーダー殿の怒りと憤り、容易く収まるものでもなく。
「何で!俺たちは!またこんなところでむなしくあいつらを見てなきゃならないんだ?!」
「んも〜、俺も本当にそう思うし!」

吼えるリョウに、珍しくベンケイも和した。
「ああ、俺結構クイズ好きなんだよね〜…だから出れるんなら出たかったなあ俺」
「ていうか!何で俺たちを差し置いて、あんな悪役の奴らが…ッ!」
―と。
ぶーぶー抜かしているガキどもに向かって、得意げなヒドラー元帥の嘲笑が飛んできた。
「やかましいわ!小童どもめ!」
ははん、とでも言いたげな顔で。
リョウたちを指差し、傲岸不遜に言い放つことには―
「今日は貴様らの出る幕などないわ!
そこでおとなしく、エキストラの皆さんと一緒にわしらの活躍ぶりを見ておれい!!」
「…〜〜ッッ!!」
「ち、ちくしょ〜お…!」

傲慢なるヒドラーの面罵に煮えたぎるような激怒は燃えても、一体今の自分たちに何が出来ようか…?!
理不尽、理不尽そのもののこの仕打ちに、哀れ「ゲッターロボG」の主役たるリョウとベンケイは歯噛みし、屈辱に耐えるしかない…
「…リョウくんたちの言うとおりだ」
ぎゃあたら騒ぐゲッターチームとは少し離れた場所から、彼らを見やる影がぼそっ、と呟く。
尖った髪型が印象的な「戦闘のプロ」ことグレートマジンガーのパイロット・剣鉄也。
そんな彼も、やはり不快を顔中に貼り付けた様子で、ゴーゴンたちに複雑な視線を送っている。
「憎い敵が目の前にいるってえのに、それをむざむざ見ているだけなんて…」
地上の覇権を狙い、幾度も襲い掛かってきた邪悪の化身どもが、今、まさに。
しれっとした顔で、国民的クイズ番組の解答者として、解答席に座っている―
「くそッ、いっそのこと俺のグレートで…!」
軽い、舌打ち。
この異常な状況、だが敵を屠る絶好の機会に、とうとう我慢しきれなくなった偉大な勇者が思わず立ち上がろうとした、その刹那。
「よしなさいよ鉄也、そんなことしても意味ないわ」
冷静な声が、隣に座る褐色の肌の美女から放たれる。
「じ、ジュン…!」
見れば、グレートのパートナーたるビューナスAの操縦者は、敵を眼前にしていてもどうとも思わぬらしい。
ただただ、何処かあきれ返ったような風で、ため息をつきながら―
「もうそろそろ慣れましょうよ、作者・ゆどうふはこんな奴なのよ」
こう、嘯くのみ。
「だ、だが、しかしッ!」
「もう私はあきらめたわよ。まあ、黙ってあいつらがどこまでやれるか、見てやろうじゃない」
「…」
それでも何かをごねようとする鉄也の先を制して、軽く眉をひそめながらジュンはそう言う。
そして、言うだけ言って、またその目線をスタジオ中央に向けた。
そこでは、球子が立ち尽くし。
カメラを前に、勢いよく呼びかけている―




「さあ、緑でスタートしたアタック25、この問題から参りましょう…木沢さん!」




(素晴らしい解答者画像提供:鮎様