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Who Wants to Be a Millionaire?(富を掴むのは誰の手か?)(4)


「く…何と言うことだ!」
「後3問で、奴に1000万円が渡ってしまうではないかッ!」
「こんな奴をみすみす本選に出してしまうなんて、○ジテレ○は一体何を考えているんだッ?!」
光子力研究所・司令室。
テレビモニターの中で進展していく事態に、混乱する三博士はもはや意味のない罵倒を繰り返すばかり。
「何たるざまだ…もう、我々に打つ手はないのか?!」
「弓教授!」
弓教授の額に、一筋の冷や汗。
重苦しい表情のまま、彼は吐き出す。
「奴は既に12問をクリアした…たとえこの先失敗しようとも、100万を得る権利は手に入れてしまっている」
「…」
「だが、1000万もの大金が奴らに渡ってしまうとは思いたくない…!」
「ライフラインは?!」
「後は50-50(フィフティ・フィフティ)を残すのみです!」
「ぐう…くっ、頼む!奴の答えられなさそうな問題を出してくれッ、ものみんたッ!」
思わず吐き出された弓教授のセリフは、そのまま三博士の願望と一致していた。
だが、既に賽は投げられている—とっくの昔に。
彼らにできることは、ブラウン管の中で繰り広げられている静かな戦いを、ただ見据える事だけ—!




「大詰めです…第13問目!」
司会者・ものみんたの声が、広いスタジオに反響する。
「童話『美女と野獣』で、心優しい野獣の本当の姿はどれ?
A:教師 B:鍛冶屋 C:王子 D:狩人」
第13問目。500万円を賭けた勝負…
しかし、世界有数の頭脳たる天才・ヘルにとって、そのような問題は朝飯前以前であった。
「ふ…楽勝じゃ!C、『王子』でファイナル・アンサー!」
「…正解ッ!」
一瞬の間断すらなく、彼は容易に500万円をもぎ取る!
「第14問!」
「おおッ!」
そして、さらなる第14問目を前に、ドクター・ヘルは猛る!
ものみんたが、手元のペーパーに目を落とし—静かに、その問題を読み上げる。
「童謡『静かな湖畔』で、森のかげから鳴く鳥はどれ?
A:カッコウ B:モズ C:ウグイス D:キツツキ」
「…なッ?!」
その時だった。
ヘルの青い瞳が、驚きで見開かれた。
「もう一度申し上げましょうか?」
一方、ヘルのその反応を見たものは、にやり、と笑んで…もう一度、その問いを繰り返した。
あくまでゆっくりと、からかうように、追い詰めるように、押しつぶすように。
「童謡『静かな湖畔』で、森のかげから鳴く鳥はどれ?
A:カッコウ B:モズ C:ウグイス D:キツツキ」
「…!」
ヘルの頬をつたっていったのは…一筋の汗。
スタジオの四方八方から照らされるスポットライトの熱のせいか。
それとも、唐突にあらわれた難問に怖じた、恐怖のせいなのか。
日本で幼少期を過ごした者なら、少し頭の中でそらんじれば簡単に答えが得られる問題だ。
だが…生まれも育ちもドイツ国・ドイツ人のドクター・ヘルが、そんなことを知っているはずも無い。
「…あー、先ほども似たような問題でつまづいておられましたねえ」
「く…日本の童謡か、それは?」
「えーえ、そうですとも?」
「…」
しれっとした表情でそうあっさりと言ってのけるものに、ヘルの顔が悔しさで歪む。
世界有数の頭脳たる天才・ヘル。
だが、いくら彼が天才とはいえ、知らない事は存外にあるものである。
「さあ、ヘルさん…どうされますか?」
「…」
ヘルの表情は、難しげにひずんだまま戻らない。
それを苦境と見て…ものみんたは、別の道を提示した。
すなわち、"Walk Away"…「ドロップアウト」と言われる選択肢である。
「今ドロップアウトされると、500万円のこの小切手が手に入ります」
そう言って、彼は「\5,000,000-」と記載された小切手をちらつかせた。
…だが。
「…いや、必要ない」
「おや…?」
老科学者は、惑うことなく首を横に振った。
そして、噛みしめるようにこう返すのだ。
「あくまでわしは、戦うのみ…!」
「ほほう…すばらしい!」
ヘルの決意を聞いたものみんたが…にやり、と、また笑んだ。
とはいえ、新たに決意を固めたところで、答えが湧き出てくるはずも無い。
ならば…ドクター・ヘルが選ぶのは、これしかないだろう。
「うむ…50-50(フィフティ・フィフティ)を使うときが来たかッ!」
「はい、50-50(フィフティ・フィフティ)ですね」
四択の選択肢を、二択にまで絞る50-50(フィフティ・フィフティ)。
三つあるライフラインの中ではもっとも有用なため、これを最後まで残すチャレンジャーが多い。
そして、ドクター・ヘルにとって、これを使用する時がようやくやってきたということだ。
「ちなみに…どれとどれで悩んでいらっしゃいますか?」
「森に住んでいそうな…うむー、A、か、D…も、ありうるか」
「ほうほう」
「まあ、Cは違う気がするのう」
50-50(フィフティ・フィフティ)を選んだ際の、お決まりの質問だ。
ものみんたの問いに、案外素直に答える悪の天才科学者。
その答えを聞いたものの表情が、かすかに黒さを増したのは…果たして、単なる目の錯覚か。
「…それでは、コンピューターが答えを二つにしぼります」
ものが厳かに宣言すると…
ジングル(効果音)!
同時に、画面に表示されている四つの選択肢から、二つが消える…!
「!」
…見事、「A」と「D」が残された。
「あらららら〜…」
「な、なんじゃこれは!ま、まるで謀(はか)ったかのように…」
「いやあ、コンピューターのやることですからね〜」
これではライフラインを使った意味がない、と怒るヘルに、のらりくらりとこう言ってのけるものみんた。
さすがはこの番組をやって長いだけある。
「ぐ、う、うう…!」
ドクター・ヘルの喉奥から、こもったうめきが知らず知らずのうちに漏れた。
…しばしの、空白。
その空白を割って、ものがさらにヘルを追い詰める…
「さあ、どうなさいます?ヘルさん…」
「…だ」
「はい?」
うつむいたまま発された言葉は小さく、ものの耳には届かなかった。
改めて、ヘルは宣言する。
「A、だ」
「ふむ、それは何故ですか?」
「わしにもわからん。ただの直感だ」
「ほう…その直感を信じますか」
「うむ」
その表情からは、不安の色は消えてはいない。
だが、それでも彼は選んだ。
そして、彼の選んだ選択肢が—
「それでは、改めてお聞きしましょう…」
「…」
彼の選んだ、道になる。
「ファイナル・アンサー…?」
「…ファイナル・アンサー!」
数秒の間の後…迷いを断ち切るかのように、ヘルは叫んだ。
その叫びが、静まり返ったスタジオに反響していく。
…ものみんたが、また、にやり、と笑む。
邪悪の色さえ感じさせるような、深い深い笑み。
「それでは、この500万円の小切手はもう…」
「…」
ばりっ。
二つに引き裂かれた小切手を見つめるヘルの視線には、いくばくかの苦さが混じっている。
それは己の決意を後悔するものなのか、それとも…!
何処かより、地面を揺るがす音が聞こえてきた。
「…」
「…」
向かい合う二人。
視線すら外さずに。
「……」
「……」
鳴り渡るドラムロール。
早鐘のごとく鳴り渡る、まるでそれは心臓の鼓動のように。
「…………」
「…………」
ものみんたは無表情のままドクター・ヘルを見据え、
「…………………」
「…………………」
ドクター・ヘルはその視線を真っ向から受け止め—
「…………………」
「…………………」
鳴る鳴る鳴る鳴る鳴り続けるドラムロール。
「………………………!」
鳴る鳴る鳴る鳴る鳴り渡るドラムロール、そして—!
「…………………………正解!」
そのドラムロールを断ち割って、乱舞するジングルと光の波!
咲き乱れる音、まばゆい輝きは、明らかに勝利を宣言しているのだ—!
勝利の女神は選びたもうた、かの勇敢な老科学者を!
それを全身で感じて後、ようやくドクター・ヘルに笑顔がほころんだ…!
「やりましたね、ヘルさん!」
「う、うむ…!」
うれしげに笑み、ものの言葉に何度も何度もうなずくヘル。
その頬は興奮と喜びに上気し、明るい輝きに満ちている。
応援シートのあしゅらから、飛んで来る賞賛の声。
「素晴らしいです、ヘル様!」
「応援席の部下の方も喜んでいらっしゃいますよ!」
「おう、見ておれあしゅらよ!」
後ろを振り向き、あしゅら男爵に手を挙げ、ドクター・ヘルは力強く誓った。
「わしはやる!わしは、勝ってみせる!勝って、1000万を見事手に入れてみせるぞ!」
「はい!がんばってください、ドクター・ヘル!」
そうして、再び彼は視線を戻す。
と—
向かい合うものみんた、ドクター・ヘル。
スポットライトの照らすセンターシート。
歓声が、いつの間にか消え失せていた。
ぴいんと張り詰めた糸のように、空気がぴりぴりと強張っていく—
「では、とうとう来ましたよヘルさん」
「…」
そうだ、とうとうやって来た。
幾つものピンチを乗り越え、くぐり抜け、斬り伏せて、ここまでやって来たのだ。
「いよいよ最後です…第15問目、最終問題です!」
高らかにものが言い放つ…最後の関門を!
「レオナルド・ダ・ビンチの代表作「最後の晩餐」で、ユダが手にしているものはどれ?
A:ワインのグラス B:食べかけのパン C:肉の載った皿 D:銀の入った袋」
「…」
ドクター・ヘルは、無言のままにそれを聞いた。
その表情は平静…いや、無表情に近い。
まるで修行僧のごとくに、動揺の影すら見せないままに。
「もうライフラインは使えません。全て使い切ってしまいました」
「…」
「何なら、ヘルさん…ドロップアウトする事もできるんですよ?」
「…」
「今ドロップアウトすれば、この750万円の小切手があなたのものです」
「…」
ものの呼びかけに、一瞬…ヘルの表情が、変わった。
少し哀しげな、悔しげな、苦しげなものに。
だがそれをすぐに無表情の仮面で押し隠し、ドクター・ヘルは…
唯孤の暗黒、世界有数の頭脳、邪悪なる意志の体現者は、またもやゆっくりと首を振り、
「…いいや」
…その申し出を、拒絶した。
「…あくまでも、1000万円に挑戦しますか?」
「もちろんだ」
うなずく。
前を向く。
その決心に満ちた表情を、カメラが映し出す。
「わしは、信じるのだ」
老爺が、力を込めて誓う。
「他でもないわし自身を信頼し、信用し、全てを賭ける」
それは、自分自身に対する誓いであり、
それは、世界に対する誓いでもある。
己を信じる。つまり、「自」らを「信」じる。
その「自信」こそが、彼を今まで支え続けてきた柱なのだから!
「たった一人の己自身すら、己自身の力すら信じられぬくらいなら…」
くわっ、と、その瞳を見開く。
大音声で、彼は全ての人類に向かって誓ってみせた—!
「もとより、『世界征服』などくわだてはせぬわッ!!」
『おおおおーーーーーーーーーーーーッッ!!』
スタジオ中を埋め尽くす、歓声!
ドクター・ヘルの宣誓に、感動の波が拡がっていく…!
「…それでは、ドロップアウトはありえない?!」
「うむ!」
「では、ドクター・ヘルさん…最後の回答は?!」
「…」
一度、目を閉じ。
己の中で、その「答え」を掴み取り—
再び、目を開き、
彼は—最後の選択肢を選び出す!
「…D、『銀の入った袋』じゃあああッ!」
「…ファイナル・アンサー?!」
「…」
最後の挑戦を。
最後の選択肢を。
最後の「答え」を。
最後の言葉を、今ドクター・ヘルは全身全霊で解き放つ…!




「…ファイナル・アンサアアーーーーーーーーーッッ!!」




その叫びが、空気を震わせ、観客のこころを震わせ、視聴者のこころを震わせていく。
そして、その振動がゆっくりと大気に吸収されていくと同時に—
何処かより、地面を揺るがす音が聞こえてきた。
「…」
「…」
向かい合う二人。
視線すら外さずに。
「……」
「……」
鳴り渡るドラムロール。
早鐘のごとく鳴り渡る、まるでそれは心臓の鼓動のように。
「…………」
「…………」
鳴る鳴る鳴る鳴る鳴り続ける。
「…………………」
「…………………」
鳴る鳴る鳴る鳴る鳴り渡る。
「…………………」
「…………………」
鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴り響くドラムロール。
鳴り響くドラムロールにあわせ、どくんどくんと心臓は脈打ち、
全身を駆け巡る血液が湧きたち、
きりきりと張り詰める空気の中、スタジオの緊張感が沸点にまで達した、
「………………………!」
その瞬間に———!!
「…………………………おめでとうございますううッ!!」
「!」
ものみんたの顔が、無表情からゆっくりと—笑顔に、変わる!
その声が、テレビのスピーカーから響き渡った瞬間。
ボスが、甲児が、弓教授たちが、同時にきれいに膝からその場に崩れ落ちた—
そして。
「うおおおおおおおお!やった、やった、わしはやったぞおおおおっ!」
「ヘル様!おめでとうございます、ヘル様ッ!!」
両手を高く掲げ、悪の天才科学者ドクター・ヘルが絶叫する…
ヘルの雄たけび。
喜びと感動に身体をうちふるわせる老爺の瞳に光ったのは、きっと涙に違いない。
スタジオ中を駆け巡るジングル。祝福の鐘。
その音を背景に、応援シートからあしゅら男爵が駆け寄ってくる。
彼の両目にも、そう女の青い瞳、男の黒い瞳にも、同じく涙—
感懐の、感激の、感嘆の、感慨の、涙なのだ…!
「おめでとうございます!」
「うむ、ありがとう、ありがとう!」
スタジオ中央にて喜びを分かち合う二人。
その二人に、スタジオに紙ふぶきが降り注ぐ。
銀の光を散らばせて降り続ける紙ふぶきが、スタジオ中を埋め尽くし—
中央に立ち尽くしたものみんたが、1000万円の小切手を高く高く高く高く掲げ、誇らかに宣言した—!
「1000万!あなたのものです、ドクター・ヘルさん!」
『おおおおーーーーーーーーーーーーッッ!!』
歓声。歓声。歓声—
スタジオを揺るがす地響きになって、祝福の歓声と拍手の音がドクター・ヘルを飲み込む。
ドクター・ヘルが笑っている。紙ふぶきの雨を浴びて。
あしゅら男爵が笑っている。スポットライトの光の中で。
ものみんたが笑っている。拍手の渦の中で。
スタジオの観客が、拍手と歓声でドクター・ヘルを祝福する。
そう、それはおそらく、この瞬間をテレビの前で見守っていた視聴者の人々も—
この日、誕生した13人目のミリオネア。
新たなるミリオネアを、日本中が祝福したのだった—
…極少数の、例外を除いて。




それから、二ヶ月ほどが過ぎた頃。
「クイズ$ミリオネア」の番組最後で、こんな映像が流れた…




以前の放送にて、見事ミリオネアの栄冠に輝いたドクター・ヘルさん!
13人目のミリオネアがいま何をしているのかと言うと…?
何と、「世界征服」のための機械獣を製作していた!
賞金の1000万円を投じた新しい機械獣は、この番組にちなみ『モノミンターM1000』と名づけられたとのこと!
週明けにも完成するこの機械獣で、さっそく光子力研究所なる施設を襲う予定!
彼の今後の活躍に、期待が高まる一方だ—!