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◆ 誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)〜con fuoco〜
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数分もしない後。
メカ暗邪鬼が、他の百鬼メカ同様…武器を携え、メカ要塞鬼から躍り出た。
そのコックピットから、暗邪鬼は…新たにあらわれた敵機の姿を見た。
…それはどうやら、女の姿をした人型ロボットらしい。
―だが。
暗邪鬼は、にたあり、とほくそ笑む。
こちら側には、四体の百鬼メカロボット。
もともと早乙女研究所攻略のために用意した精鋭ぞろい…
しかも、四体もの機体を投入しているのだ。
メカ燐王鬼の鎖鎌は特殊な合金で造られ、並大抵の装甲ならあっという間に紙切れ同然に切り刻む。
格闘技の達人・恐角鬼のメカ恐角鬼は、彼の特性を生かすべく、他に類を見ないほどのパワーが出るように造られた。
火輪鬼のメカ火輪鬼は、そのボディーを構成する巨大な円盤から、無数のミサイルを放てる射撃主体機。
そして、自分の機体…メカ暗邪鬼は、高速移動の可能な最新型!
百鬼帝国の技術力が作り上げた戦闘ロボットの粋、宿敵ゲッターロボGが相手ならまだしも…
あんな木っ端どもの、あんなロボット一体で、何が出来るものか。
「まずは…力試しといこうかッ!」
だから、彼は何処か楽しげにそう仲間たちに呼びかけたのだ…
まるで、ちょっとした暇つぶしでもしようか、とでも言うように!
「おお、行け燐王鬼ッ!」
「任せろ!…うおおおおおおおおお!」
まず出たのは、メカ燐王鬼!
右手にすなる長大な鎖鎌を振り回しながら、大地を踏みしめ敵機へと突撃していく…!
「…!」
その様子を、少女は鋼鉄の女神のコックピットから見ていた。
始まった、のだ。
戦いが、今、始まったのだ。
…ゆっくりと、息を吐く。
透明な瞳が映すのは、戦場となる蒼天と緑山のコントラスト。
それを割って迫り来る邪悪の影から、目をそらすことなく。


(…ミネルヴァダブルエックス)


呼びかける。
誰でもない、己が身を預ける機神に。


(『ミネルヴァダブルエックス』、それがあなたの『名前』…)


そして、「名前」を呼ぶ。
MINERVA-XX(Double-X)。それが女神の「名前」。


(ちゃんと私のいうこと聞いてね、ミネルヴァダブルエックス!
あなたも私と同じ、戦うために造られたものなら…)


少女は呼びかける。
己と同じ、戦うために造られた女神に。
そう―


(大事な人たちを守るために、命を賭けて戦うのッ!!)


その為に生まれ、その為に在ることを運命付けられた、それ故に!
少女は、唇を開いた―!
「うあああああああああ!」
獣のうなり声のごとき雄雄しい鬨(とき)の声を上げ、エルレーンは力を込めてレバーを引いた!
それとともにコンソールに並んだスイッチを押し、下部にあるフットペダルを踏む…
記憶の中に在る、この女神を構成するメカニズムを操るためのインタフェース。
それを想い起こしながら、力を込めて!
するとその命令は素早く鋼鉄の女神の全身に伝わり…彼女自身の手足と化す!
すなわち、ボタンを押せば空舞う鋼鉄の鉄拳!
「ロケットパーンチッ!」
前面に突き出した女神の両腕が、拳を握り固め凄まじい勢いでかっ飛んでいく!
思わぬ飛び道具に、鬼どもは一瞬ひるんでしまう…!
「!」
「ぐっ!」
軌道を描いて飛び掛ってくるその一対の腕は、まるでそれ自体が生物であるかのように!
行く手に立ちふさがる百鬼メカたちに襲い掛かり、勢いのままに殴りつけた…!
防御できず避けきれず、その殴打をもろに喰らったのはメカ燐王鬼。
不用意に敵に近づいた彼の百鬼メカの胴体を、容赦ひとかけらすらなく女神の鉄拳が殴り飛ばす!
派手な音を立て転がるメカ燐王鬼に潰され、森の木々が悲鳴を上げてしなりへしおれる。
そして鉄拳は再び女神のもとへ帰り、トルソーからつながる断罪の両腕に戻った。
だが…エルレーンの初撃は、まだ終わったわけではない!
「はあッ!」
すなわち、狙った敵を逃がさないミサイルの矢!
「いっけえッ、ミサイル発射!」
女神は大きく両腕を広げ胸を張る、祈りを捧げるかのごとく、もしくは抱擁を与えるがごとく!
しかし彼女が与えるのは…その胸部から放たれる、2本のロケットミサイルだ!
「!」
「まずい!」
放たれたロケット弾の大きさに鬼たちは目を見張る。
泡を喰って、すぐさまに百鬼メカを地に伏せさせる…!
間一髪。
そのすぐ頭上を、ロケット弾がかすめるように飛び去っていき…
爆散!
目標を失い山肌にぶち当たったそれらが、燃える火炎と化した。
「…!」
「な…あ奴、かなりの手練か!」
動じた暗邪鬼の額を、一筋の冷や汗が伝っていく。
だがしかし、謎のロボットから放たれた挑発のセリフ…
それが、更に彼を混乱させる!
「研究所を襲わせなんかしない!あなたたちなんか、百鬼帝国なんか…」
幼さを残した少女の声は、同時に飛びぬけた敵意と闘志をはらんで響き渡る―
「ここで倒してやるんだからあッ!」
そう、それは「少女」の声だった!
まさしくそれは、彼らが目的としている「人質」の片割れの「少女」―!
「―?!」
「な、何だと?!」
「あれは…標的(ターゲット)の娘ではないか?!」
「『人質』を矢面に立たせてくるとは…!あ奴ら、一体何を企んでいる?!」
「ぐ…っ、ともかく、あのロボット、この破壊力は…手ごわいぞ!」
鬼たちの間に、困惑が広がっていく。
まさか、寄越せと命じたはずの「人質」を…戦闘ロボットのパイロットにして放つとは!
敵方の意図が読めず、対処に惑う。
だが…
何にせよ、あの攻撃力は侮れない。
敵の思うところが何なのか理解できないにしろ、ともかく奴は抑えねば!
「ともかく、動作不能に追い込め!コックピットは狙うなよ!」
「お、おう!」
リーダーの暗邪鬼の号令に、混乱しながらもうなずく三人。
まずは…恐角鬼と火輪鬼が、動く!
「挟み撃ちだ!同時に行くぞ!」
「ああッ!」
叫ぶ火輪鬼に続き、恐角鬼も吼える!
その手に剣を構えたメカ恐角鬼が、ミネルヴァダブルエックスに向かって駆け出した―
飛び掛ってくる剣撃が、二者を隔てる空間を音立てて引き裂いていく!
少女はその動きを見切り、注意深くかわす…
そして、反撃に備え、そのタイミングを計らんとする―
だが、その時。
メカ恐角鬼を振り切ったミネルヴァダブルエックスの眼前に、既に別の壁が在る!
…メカ火輪鬼!
「…!」
唐突の出来事に、本能が恐怖感を全身にばら撒いていく。
エルレーンの顔から、さあっと血の気が引いていく。
その間隙を逃すことなく、メカ火輪鬼は数発のミサイルを乱射した!
急いで後方へと飛び退って、その攻撃から逃れようとするものの…
(くっ…避け切れない?!)
とっさの回避行動も、時既に遅し…
彼女がそう悟ったその瞬間にも、ミサイルは白い尾をなびかせ、四方八方からこちらに向かってくる―!
ミネルヴァダブルエックスの両腕を顔の前でクロスさせ、何とか防御態勢だけでもとろうとするが…
「く…ッ!」
連続する破裂音爆発音撃破音!
少女の身体は反射的に硬直し、迫り来るショックに備える―
…ところが。
「…え、えっ?」
数秒の間をおいても、何の衝撃もやってこない。
ダメージを受けた警告音がなるわけでもなく、それ以前に爆破の振動すらもコックピットに伝わってこない。
―その理由は、すぐに知れた。


「…大丈夫か」
「!」


コックピットの超硬質ガラスの向こう、暗い影がいつの間にか在った。
このミネルヴァダブルエックスと同じくらいの、それは巨大ロボット。
そう、あの格納庫にあった四体のうちの一体…
右手は尖った鞭、左手はマニピュレーターに変化していた。
剣呑に尖る頭の角が、敵を貫かんばかりに天を裂く。
その機械の巨人が、ミサイルとミネルヴァとの間に瞬時に割り入って爆撃から守ってくれたのは明白だった。
そして、その搭乗者は…
「ぶ、ブロッケンさん?!」
機械獣・ダイマーU5からの通信回線。
そのパイロットは、その声の主は―ブロッケン伯爵!
コックピットの中のブロッケンは、その首を在るべき場所に据えた姿で、操縦桿を握っていた。
「バケモノ」の姿から、「人間」の姿に戻った伯爵は…相変わらず無表情気味なまま、エルレーンに向かって言う。
「油断するな…その新型機『ミネルヴァダブルエックス』、無駄に破損させるなよ」
「で、でも、どうして…」
「…ふん、」
不思議そうに問う少女に、伯爵は軽く鼻を鳴らす。
無表情の仮面に、薄い微笑が射す。
「うら若きお嬢を一人で戦いにやれるほど、男として腐っているわけではないのでな」
「…!」
それを聞いたエルレーンの頬にも、微笑。
透明な瞳。黒い瞳。
そして、ほぼ同時に…その瞳の中に、闘志が燃える!
「ともかく、今は一時休戦だ。奴らを倒さんことには、どうしようもない」
「うん…!」
「行くぞ、お嬢!」
「わかった、ブロッケンさんッ!」
応じる言葉は、まるで雄たけびのごとく。
機械獣ミネルヴァダブルエックス、ダイマーU5が、戦い喰い殺すべき敵…「鬼」どもに向かって、咆哮する!
機械仕掛けの伯爵が、宣告した―!




「覚悟しろ、百鬼帝国ッ!!」





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