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◆ playing tag(again)!
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「…うー…」
きらきらと輝く湖の水面をぼんやり見ながら、地面にぺたんと座り込んだエルレーンは何事かを考えつづけている。
…それはもちろん、先日のことだ。
(…ルーガ…また、私が「人間」に会いにいったら…やっぱり、怒るよね…)
そう思うだけで、ため息が出てきてしまう。
ちょっとつまらなさげな顔をして、また一つため息をついた。
…この地上にいれば、「人間」…自分と同種のイキモノ…を見ることができる。
…敵であるゲッターチームのムサシ、ハヤト、ミチル、それに…リョウを見ることができる。
彼らはもちろん、自分を見るたびに死に物狂いで襲ってくる。それは当然だと思う。
…自分は、恐竜帝国のパイロットであり、純然たる彼らの「敵」なのだから。
しかし、エルレーンはこの地上で彼らを手にかけようとはまったく思わなかった。
…この地上では、お互いゲッターにもメカザウルスにも乗っていない、戦場ではないこの美しい場所では…戦おうという気すら起こらない(彼らは違うようだが)。
(…それに)
ゆっくりと後ろに倒れ、草むらに寝転びながらエルレーンは思った。
(…あの人たちは、私の「名前」を…呼んでくれる)
そのことを思うたび、なんだか背中がむずがゆくなるような、でもなんだか心地いい感じになる。
もちろん彼らは、キャプテン・ルーガのように親愛の情を込めて「エルレーン」と呼んでくれるわけではない。時には、それは怒号だったりする。
…しかし、彼らは自分を「エルレーン」としてみてくれているのだ…「No.39」ではない。
あの恐竜帝国の冷たいハ虫人たちとは明らかに違う。
「…」
エルレーンは、無造作にそばに落ちていた小石を湖に放り投げた。
ぽちゃんと小さな音がし、そこを中心に無数の波紋が広がっていく。
それを何とはなしに見つめながら、またエルレーンはため息をつくのだった。

どれくらいそうしていただろうか。
やがて水面をぼーっと見つめていることにも飽いたエルレーンは、億劫そうに立ち上がり、ゆっくりと大きな伸びをした…
体中にじんわりと血が巡っていく、心地いい感触がする。
が、その時だった。突然素っ頓狂な声が、自分の背後から聞こえたのだ。
「?!…え、エルレーン?!」
「?!」
いきなり自分の名が呼ばれたことに驚いたエルレーンがふりむくと…そこには、いつのまにかゲッターチームのメンバー、ムサシの姿があった!
「て、テメエ!またこんなところに…!」
ムサシもいきなり彼女が目の前に現れたことに泡を喰っている。
学校帰りに釣りでもしようと思ってきた湖で、まさかこの女に会うとは!
彼は一瞬慌てたが、しかし奇妙なことにすぐ気がついた。
…エルレーンの様子が、どうもおかしい。
なんだかおびえたような顔をしてこっちを呆然と見ている…いつものように、不敵な笑みを浮かべこちらに向かってくる様子は微塵もうかがえない。
「…!」
ずざっ、と彼女はムサシから一歩引いた。その目が、明らかに彼女の混乱を示している。
「…?…お、おい…」
思わずエルレーンのほうに一歩近寄ろうとするムサシ。
…が、それを目にした瞬間、エルレーンの顔色がさあっと変わった。
「きゃあぁぁあぁぁぁ!」
いきなり怯えきった叫び声をあげた彼女は、ムサシに背を向け一目散に駆け出した!
「?!…こ、コラ、待ちやがれッ!」
突然逃げ出したエルレーンに驚くも、ムサシも慌ててその後を追う。
草原を駆け抜けるエルレーンがその気配を感じ取りふりむくと…そこには、ムサシが懸命に走って自分を追っているのが見える。
「やああぁぁぁ!…なんでっ、なんで…っ、追っかけてくるのよぉぉ!!」
「お、お前を、っ、逃すわけにゃいかねぇだろぉがよっ!」
息を切らしながらも走ることを止めぬまま、ムサシが叫び返す。
「やだぁぁっ!『人間』、にっ、会ってることが、っ、バレたら…」
必死で走りながらエルレーンはそう口にする…と、口にした瞬間、またあの最悪の予想が頭によぎってしまった。
(…もしまた「人間」に会ってることがバレたら、今度こそルーガは…私のことを、嫌いになっちゃう…!!)
それだけは絶対に嫌だ。もし今、ゲッターチームのムサシに見つかっていることが恐竜帝国の誰かに見られたら…それがおそらく、現実のものとなってしまう!
「ふにゃぁぁああぁん!!」
彼をふりきり、一刻も早く逃れようと全力でエルレーンは走る。
「待てッ、エルレーン!…!!」
だがムサシも負けてはいない…と、彼の目が助力を発見した!
「…ハヤトッ!…リョウッ!」
偶然草原を道なりに歩いていた彼らの姿に向かって、ムサシは大声で呼びかける。
彼らもすぐその声に気づき…そして、ムサシが必死で追っているもの、エルレーンの存在にも気づいた。
「…?!」
前を走るエルレーンの視界にも、彼らの姿が…決死の表情で一目散に自分のほうに駆け出してくる、リョウとハヤトの姿が目に入った!
「エルレーン!貴様ァッ!」
リョウの怒号。彼らは一気に自分のほうに加速をつけて走ってくる!
「…やぁああぁぁぁっっ!」
エルレーンの瞳に恐怖が浮かぶ。方向を転換し、彼らから逃れようと懸命に走りつづける。
「待ちやがれッ!」
「またこの間の…鬼ごっこの続きでもやろうってのかよォ!」
「いやぁぁっっ!…来ないで、…来ないでよォッ!!」
必死に叫ぶエルレーンの様子に、ようやくリョウとハヤトも彼女がいつもと何か違っているのがわかった。
…だが、だからといって彼女をみすみす逃がす気はさらさらない。
「ムサシっ!そっちに回れ!」
「オッケー!」
円を描くように走り、すばやくエルレーンの逃げる方向に先回りするムサシ。
慌てて向きを変え、彼をかわそうとするエルレーン。
「無駄だッ!」
だが、そちらにもハヤトが現れ、進路を封じる。
一歩飛びすさり、エルレーンはまったく逆方向に活路を見出そうとする。
「…!!」
リョウもその動きに対応し、後を追う。ムサシとハヤトも、それぞれ別方向から彼女を追い詰める…
「追っかけてこないでよぅっ!」
「黙れ!今日こそお前を捕まえてやるッ!」
エルレーンの必死の哀願にも、リョウは無情に怒鳴り返した。
「…!」
走りつづけていたエルレーンの身体がぐらっ、と揺れる。
無我夢中で走っていたためか、地面に大きな石が落ちているのが目に入らなかったのだ…
「きゃあっ?!」
勢いよくつんのめり、前のめりに地面に転ぶエルレーン。
その隙を逃さず、三人がざっ、と倒れこんだエルレーンを取り囲んだ。
急いで立ち上がろうとするエルレーンだが、その目には絶望的な光景…ゲッターチームの三人が自分の周りを包囲している…が映る…
彼女の顔に、絶望の色が走る。ずきっ、と両膝に痛みが走る…
転んだ拍子にひどくすりむいたそこからは、赤い血がにじみ出ていた。
痛みに思わず、再び地面に座り込んでしまう。
「…ふん…今日こそ年貢の納め時だな…!」
リョウが勝ち誇った口調でそう言い放つ。
ムサシもハヤトも、もはや逃れられないエルレーンから視線をはずさないまま、呼吸を整えている。
「…!」
呆然としたままのエルレーン。
その瞳が、一瞬揺れた。
「さあ…もう逃げられないぜ!」
そうリョウがいいながら、彼女に一歩近づいた、その時だった。
「?!」
三人の目が驚きで丸くなる。
「…っく…ふぇえぇん…っ…ひぃっく…うぅっ…!」
…なんと、エルレーンは両手で顔を覆い、突然しくしくと泣き出したのだ…!
「…な、な…?!」
いきなり泣き出したエルレーンを困惑しきった表情で見つめるムサシ。
ハヤトはあっけに取られている。…いくら追い詰められたとはいえ、泣き出すとは…?!
…これがあの、メカザウルスにのり自分たちを手玉に取ったパイロットだろうか…?!
まるで、年端もいかないガキみたいじゃないか…!
「お、お前、何泣いていやがる?!…そんなことをしても、俺たちは貴様を許さんぞ!」
リョウが困惑しながらも、それでもエルレーンに向かって激烈に怒鳴りつける。
だが、その怒号を聞いたエルレーンはむしろびくっと怯えてしまい、ますます激しく泣きつづける。
「…やだって、やだって…いったのに…いっ!…うぇぇええぇぇん…っ!」
長いまつげに縁取られた透明な瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がとめどなくこぼれおちる。
そのきらきら輝く涙は、ムサシたちを無言で責める。
「そ、そんなこといったって、お前…」
泣き出した少女に弱りきったムサシが、意味のないセリフを口にする…が、エルレーンは一向に泣き止まない。
「うあぁぁぁああぁんっ、ひぃっ…ふうっ…怒られる、怒られちゃう、っ…ルーガに、嫌われちゃうよぅ…っ…!」
「…?!…だ、誰に怒られるっていうんだよぅ…」
親に怒られることに怯える子供のようなことを言い出したエルレーンに対し、なんとか落ち着かせようとムサシが声をかける。
しかし彼女は答えにならない答えをすすり泣きの合間につぶやくだけだ。一生懸命こぼれる涙をぬぐいながら。
「『人間』に…ひぃっく…会ってるところを…見つかったら…今度こそ…うあぁぁあぁあぁぁんっ!!」
そこまでつぶやくと、その最悪の未来がまた目に浮かんだのか、再び身を震わせて涙を流すエルレーン…
その有様を見つめるゲッターチームはあっけに取られるばかりだ…
「え、えーと…」
ムサシが身を縮めて泣き喚く彼女から後ずさり、困ったようにハヤトとリョウを見る…だが、彼らとてその困惑は同じだ。
メカザウルスに乗って早乙女研究所を破壊し、地上でも自分たちをからかうような行動ばかり取ってきた、恐竜帝国の凄腕パイロット、エルレーン…
その彼女が今、「『人間』に会っているところを見つかったら怒られる」と…
まるでやってはいけないことをした子供が親の叱責を恐れるかのように泣き叫んでいる。
まったくその様子はその外見…リョウと同じ、肉体年齢は十代後半のものだった…には不釣合いな、もはや5歳の子供と同じといってもよいものだった。
…それが彼らの心を罪悪感でいっぱいにする。…悪いのは彼女のはずなのに、まるで自分たちが悪人のようだ…
「…!」
突然リョウが彼女のほうに足音荒く歩み寄って片ひざを立て座り込み、泣きつづける彼女の顔を無理やりぐいっと自分のほうに向かせた。
涙にぬれたエルレーンの顔が、恐怖でこわばった。
「あてつけがましく泣いてんじゃねえ!…お前の事情がどうだろうと、俺たちはお前を許さない!」
ぎりぎりと音がしそうなほど鋭い視線がエルレーンを射る。その視線には強い憎しみが宿っていた…それがエルレーンをなおさら怯えさせる。
「…!…うぅっ、うあぁぁぁっ…」
また彼女の両目に涙が浮かぶ。
恐怖に大きく見開かれた瞳が見る見るうちに涙でいっぱいになる…
「…!!」
その表情の変化を見ていたリョウの瞳に、憎悪の炎が燃える。
「泣くんじゃねぇッ!…俺の顔で、俺と同じ顔をして…そんな風に、泣いてんじゃねぇッ!!」
もはやリョウに対してすくみあがってしまった彼女に対し、なおも激烈にリョウは叫ぶ…だが、その声はかすかに困惑で震えていた。
「…ひぃっ…く…う…ああぁぁぁぁぁああぁん!うわああぁぁん!」
再び火がついたように泣き出すエルレーン。
彼女を見つめるリョウの瞳が、さらに怒りと嫌悪で燃え上がる…
「り、リョウ…っ!」
思わずムサシが、リョウの肩を持ってエルレーンから引き離した。
「?!…な、何しやがるムサシ!」
「や、やめろよ…な、なんだか…かわいそうだ」
ムサシは思わず、本音を言ってしまっていた。
…いくら敵とはいえ、あそこまで怯え子供のように泣き叫ぶエルレーンと、あそこまで強烈に容赦なく彼女を責めるリョウをこれ以上見ていられなかったのだ。
「…?!…何いってやがる!こいつは俺たちの敵なんだぞ!」
「で、でも…」
ムサシも彼が言っていることが正論なだけに、反論できない。
「ハヤト!お前もそう思うだろ?!」リョウがハヤトに目をやり、同意を求める。
…だが、ハヤトも困惑した顔をして、ちょっと片目をつぶって見せただけだ。
「?!…は、ハヤト?!」
「…確かにそうだが…さすがに、ここまで泣かれちゃあな…」
そういいながら、ちらりとエルレーンに目をやる。
彼女は三角すわりをして、顔を伏せたまま時折しゃくりあげている。
「!…お前ら〜!気は確かか?!」
仲間二人の態度に腹を立てたリョウが怒りをあらわに怒鳴りつける。
「そうカッカしなさんな、リョウさんよぉ」
「ハヤトッ!ふざけるなッ!」
「ば、バカ、あおってどうすんだハヤト〜…」
「ムサシ!お前もお前だ!ちょっとは状況が冷静に読めないのか?!」
ハヤトも加わり、肝心のエルレーンそっちのけでゲッターチームの間に小競り合いが始まった…
と、ようやく少しは落ち着いたらしいエルレーンがふっと顔を上げ、そちらに目を向ける。
「……」
彼女はその涙できらきら輝く瞳で、自分のことで言い争うゲッターチームの三人を不思議そうに見ている…
すると、ふっとそのまなざしに意味ありげな光が浮かんだ。
…彼女の唇に、軽い微笑が戻った。
「じょ、状況っていっても〜…お、オイラは…」
「お前は?お前は何なんだよ!じゃあどうしたいんだ!」
「な、何でそんなに怒ってるんだよ、リョウ?!」
さっきから完全に怒りに我を忘れてしまっているリョウに、おずおずとムサシが問い掛ける。
「当たり前だろ!…せっかく捕まえたこの女…エルレーンの奴は、メカザウルスで早乙女研究所を攻撃した上、
俺たちを散々馬鹿にした奴だぞ!…こんな奴に情をかけようとするお前らのほうがおかしいんだ!」
「…た、確かに理屈じゃそうだがよ」
その勢いにたじたじとなりながら、それでもハヤトが反論しようとする。
「…あれだけ泣いてるお嬢さん相手に、どうこうって気も起きねえよ…」
「!…お前ら!何か勘違いしてないか?!…こいつは、恐ろしい俺たちの敵、恐竜帝国の手先だぞ?!」
「で、でもよぅ…オイラには…」
「…そうだぜ。…そんなにいうなら、…リョウさん、お前がやりな」
「…!!…ああ、いいだろう。…俺がやってやるさ!」
埒のあかない言い争いを無理やり打ち切ったリョウが、タンカと共に再びふりむく…
だが。
「?!」
すでに、そこに…先ほどまで小さくなって泣きつづけていた、あの女…エルレーンの姿はなかった。
「…!!」
かあっと頭にまた血が上る。怒りがめらめらと燃え立ち、その涼やかな双眸は今や怒りをマグマに燃えつづける炎のようだった。
…その恐ろしい激怒ぶりに、思わずムサシとハヤトは後ずさってしまう。
「か、かなり…ヤバい、かも…だな」
「…あ、ああ」
ムサシとハヤトがお互いの顔を見つめながら、小声でつぶやきあった…
その彼らにゆっくりと、恐ろしいほどゆっくりと…背を向けていたリョウがふりかえる。
…その表情はあまりの怒りのためか、むしろ無表情に近いものだった…それゆえになおさら、彼らを威圧する。
「…ムサシ…ハヤト……お前らのせいで、あの女を…!!」
感情を無理やり押さえつけられた声が震えている。
思わず二人は息を飲んで身構える…
「…お前らのせいで、あの女を逃がしちまっただろうがあぁァッッ!!」
リョウの悔しげな怒号が、二人の鼓膜をつんざき、草原に響き渡った。

「…っはぁ、はぁ…はぁ…」
軽やかに草原を踏み分け、エルレーンは三人から一刻も早く、より遠くへと逃れようとする…
とはいっても、もうその場所ははるか向こう。彼らが今ごろ気づいても、到底追いつけないだろう。
「…ふぅ、っ…!」
とさっ、と地面に座り込み、ゆっくりと息をついて気分を落ち着かせた。
…気が付くと、そこはまたあの湖…ゲッターチームに追い掛け回され走りに走って、ぐるっと回り込んできたのだ。
相変わらずきらきらと輝きつづける水面。その水面を見つめながら、エルレーンはふっと…先ほどのことを思った。
(…ムサシ君…ハヤト君…私、を…かばって、くれた…?)
そう、先ほど彼らに追い詰められてしまったとき…恐竜帝国に「人間」と会っていたことが、これでバレてしまうと思った。
すると、一気に感情があふれ出して抑えきれなくなってしまった…これでルーガに嫌われてしまう、自分をきっと見捨ててしまう…
そうしたら、また私は一人になってしまうと思うと、もはや悲しみと恐怖の涙を自分でも止められなくなってしまったのだ…
(リョウから私を…敵の、私を…かばってくれた…)
あの時、リョウが自分に詰め寄ってきたとき、彼を止めてくれたのは…ムサシ、そしてハヤトだった。
彼らは自分を確かにかばってくれた…
(私は、敵、なのに…どうして…?)
考えても、なかなか答えは出ない…そう、きっとリョウのとった態度のほうが正しいのだ、捕らえた敵に対する態度なら…
自分に激しい罵倒を浴びせた、自分のオリジナル…リョウのほうが。
そして、恐竜帝国のハ虫人たちも…きっとそうするだろう。
だからなおさらに…今まで見たこともなかったムサシとハヤトの行動がとても奇異に映った。
…そして、胸のどこかがあたたかくなる、どきどきする…とても、うれしいものに感じた。
(「かわいそう」って…ムサシ君、言ってくれた…)湖に近寄り、自分の顔をうつしてみる。…涙の後が残る頬、少し赤い瞳。
(私が、泣いたから…?…だから、かわいそう、って…)
そう思うと、ふっと笑みがこぼれた。湖に映る自分も、揺らめきながら微笑む。
(…それとも、「人間」だから?…「人間」は、あんなに…やさしい、のかな…?)
そんな疑問が胸に浮かんだ。と同時に、それを一気にエルレーンの心の中で膨れ上がり、一挙に彼女の心を満たした。
(…「人間」…!…私の敵、恐竜帝国の敵、…そして、私と同じイキモノ…!!)
興奮で鼓動が速くなる。エルレーンの瞳に光が宿る。
(…知りたい!…もっと、もっと知りたい…あの人たちのこと…!)
その答えを手に入れられるなら、多少の危険は…
恐竜帝国に、そして自分の親友キャプテン・ルーガにそのことが知られるかもしれない…はおかしてもかまわない。
それくらいその欲望は強かった。
今までは、心の中にもやもやとしたかすみのような形でしか認識できなかったものが、今はっきりと形をなした。
(…ムサシ君、ハヤト君……リョウ!…「人間」…!…私は、「人間」が…)
「もっと知りたい!!」
最後の言葉は、声になって彼女の口から出た。
その吐息がかすかに覗き込んだ水面を揺らす。
水面の自分が、ゆらゆらと揺れながらまっすぐな瞳で自分を見返している。
その瞳には、はっきりとした決意が映っていた。


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