--------------------------------------------------
◆ 恐竜帝国の謎を追え
--------------------------------------------------
リョウ以外の誰もが彼女の復活を知った日以来、もう10日あまりたつ。
ハヤトたちの前に再び姿をあらわしたエルレーン…彼女はリョウが自分の「魂」を救ってくれたといい、その彼…
そしてその仲間であるゲッターチームの力になることを申し出た。
あの哀しい確執を乗り越えて…
だが、あれ以来彼女が目覚める様子はなかった。彼らの目に映るリョウはいつでも「リョウ」のままだった。
その気配すら感じられず…まるで、あの満月の日の復活が夢だったかのようにも思える。
しかし、そのときは以前同様、突然にやって来た。

「…おや?リョウ君はどうしたのかね?」
召集を受け、研究所の早乙女博士の書斎に集まったゲッターチーム。
…だが、その中にリーダーのリョウの姿が見当たらない。
「それが…あいつ、何処にも見当たらなくって」
ムサシが鼻をかきながら困ったように言う。
「おかしいな…『すぐ行く』と通信が入ったのだが」
博士がそう一人ごちたその時だった…
しゅん、とかすかな音を立て、書斎の扉がすべるように開く。…そこには、ちょうど今うわさされていたリョウの姿。
「遅いわよリョウ君」
「何処行ってやがったんだ?」
口々に大幅に遅れてきた彼を軽く責める仲間たち。
…だが、そのリョウは何故かきょとんとした顔をしている…と、彼はふっと微笑んだ。
「ごめんなさい…ちょっと、迷っちゃった…」
「?!」
リョウの唇からもれたその声に、思わず彼らは目を丸くした。
それは、まぎれもないあの少女の声…!
「え…エルレーン…?」
内心おっかなびっくり、ムサシが彼女の名を呼んだ…そして、その「リョウ」は笑ってうなずいた。
そのしぐさと表情で、完全にわかった。目の前に今いる「リョウ」は、「エルレーン」…リョウの服を着ていても、そこにいるのは確かに「エルレーン」だった。
「お、お前、いつ…?」
「…つい、さっき。…ここに、リョウが行く途中…」
「そ、そうなの…」
「結構、時間が…かかっちゃった、ね。リョウを、眠らせるのに…あれから、どれくらい、たったかな?」
「10日くらいかしら…」
「そう…」
少し不思議そうに、ミチルの言葉を聞くエルレーン。たゆたう浅い眠りの中、いつのまにかそんなに長い時間が経っていたのかと。
「そうだ、エルレーン君…」
はっと気づいたように、早乙女博士が彼女に声をかけた。
「…聞かせてもらえるだろうか…君の知っている、恐竜帝国のことを」机をはさみいすに腰掛けた早乙女博士が、
真剣なまなざしでエルレーンとなったリョウを見つめ、切り出した。
エルレーンは無言でうなずく…
「…恐竜帝国は、奴らは一体…どこに隠れているんだ?」
エルレーンはその質問に少し眉をひそめる…ハヤトやムサシ、ミチルも彼女の答えを固唾を飲んで待っている。
「…どこ、と言われても…答え、られない…わ」
「…え、ええ?!…ど、どういうこったよ?!」
思わずムサシが口をはさんだ。
「エルレーン君、一体どういうことだ?」
「…恐竜帝国は、地底に…いる、から」
「だ、だから、地底のどこだよ?」
自分の説明に混乱する彼らを見ながら、エルレーンはどう説明していいものか困っている…
が、なんとかつたない言葉を駆使して彼らに伝えようと努力する。
「あのね、あのね…恐竜帝国は、火山のあるところなら…どこにでも、いけるの」
「?!」
「な、何だって?!」
「と、ということは…」
「そう」
ようやく通じたらしいことがわかり、軽くうなずいて先を続けるエルレーン。
「…恐竜帝国は、マグマの中にあるの…そして、いつでも、動いて、いる」
「…!!」
「そ、そうだったのか…!」
その衝撃の事実に嘆息する早乙女博士。
…これで、今までゲッターチームが幾度となく彼らと対戦していながら、その本拠地がつかみきれなかった理由がはっきりした。
研究所に襲来するメカザウルスの来る方向もばらばら、それらが襲う都市も日本中に散らばっている…
その神出鬼没な攻撃を可能にしたのは、ひとえにその恐竜帝国の本拠地自体が移動することができたからなのだ…!
「い、いつも動いているということは…」
「うん、日本は…火山が、たくさんある…よね。だから、恐竜帝国は…
恐竜帝国マシーンランドは、日本の近くならたいていどこにでもいける…どこにでも隠れられる」
「そ、そんな…」
ミチルが絶望に満ちたつぶやきを漏らす。
日本中どこにでもいけるような敵を相手に、どう戦っていけばいいというのか…?
そして地底に、マグマ層の奥深くに隠れている相手に対して攻め入る方法などあるのだろうか。その位置すら刻一刻と変わるというのに…
「恐竜帝国…マシーンランド…!」
ハヤトがその名をつぶやく。強大かつ、霞のようにつかみ所のなかった恐竜帝国の本拠地…溶岩の中で息を潜める移動基地。
「なんてことだ…!…常に居場所を変え、日本中どこにでも逃げられる相手…そんなものを相手に、どうやって戦えばいいのだ…?!」
早乙女博士が頭を抱え込み、悲痛な声をあげる。
…エルレーンからもたらされた恐竜帝国の真相は、遥かに博士の予想を越え、かんばしくない戦況を露呈する。
だが、ゲッターチームの渋い顔を見ていたエルレーンが…ぽつり、と一つの希望を口にした。
「…でも、方法が…ないわけじゃ、ない」
「?!」
「何ッ?!」
「ほ、ホントかよ?!」
「…」
ぽつりとつぶやいたエルレーンの言葉に四人がいっせいに反応する。
彼らの真剣な視線を受け止めながら、エルレーンはこくりとうなずいた。
「恐竜帝国マシーンランドを見つけられるってのか?!」
「うん…もともと、マシーンランドは、恐竜帝国が生き延びるために造った…動く街なの。
…遠い昔、今よりずっとたくさんのゲッター線が宇宙から降ってきて…多くのハ虫人を殺したとき」
「…」
四人は途切れ途切れに語られるエルレーンの言葉を、一言一句逃さぬ勢いで聞いている。
「だから、マシーンランドでマグマの中に逃げた…それでも、今も…ゲッター線は宇宙から降ってくる。…そして、場所によっては、マグマの層まで、届くくらいに、強く…」
「…太陽風の関係だな。太陽風によって宇宙線の一種であるゲッター線が局地的に強く降り注ぐ現象は今もある」
早乙女博士が言い添えた。
「私には、よくわからないけど…でも、だから、恐竜帝国はそのゲッター線が強く降る場所から逃げるため、いつも動いている…の」
「そ、それで?」
ムサシが話についていけず少し混乱しながらも先を促す。
「…でも、マシーンランド自体にも、ちょっとのゲッター線なら耐えられるくらいの…仕掛けが、してあるの」
「…」
「マシーンランドの外側は…メカザウルスの外皮と同じ、ゲッター線をはねかえす」
「ゲッター線を…?」
「うん。だから」
そこでエルレーンはいったん言葉を切り、博士に向かって言う。
「…ゲッター線を使えるこの研究所と、ゲッターロボがあれば…見つけられる、マシーンランドを」
「…?!」
「地底に向けて、ゲッター線を出せば…ゲッター線は、遠いところまでいく」
「あ…ああ」
まだ彼女の言うことの意味が飲み込めていないハヤトが生返事をする。エルレーンはなおも続ける。
「でも、マシーンランドが、近くにいれば…そこで、マシーンランドの壁にあたって、はねかえってくるゲッター線があるはずだよ…!」
「!…そ、そうか!…その手があったか!」
そのことに気づいた博士が興奮のあまり立ち上がり、大声をあげる。
ハヤトとミチルも理解したらしく、大きくうなずきあっている。
「は、博士〜…い、一体、どういうことなんです?」
わからなかったらしいムサシがおずおずと、だが素朴に尋ねる。
「…一種のソナーだよ、ムサシ君」
早乙女博士が笑顔で説明してやる。
「恐竜帝国マシーンランドの外壁にゲッター線をはねかえす防護壁があるのなら、
ゲッター線を放射したとき、防護壁がはねかえすゲッター線があるはずだ。そのゲッター線を分析すれば…」
「…!…ま、マシーンランドが今いる場所がわかるんだ!」
「そういうことだムサシ君!…この方法なら、奴らが攻めてくるのを待たずに、リアルタイムで奴らの居場所を分析することができる…!」
「そ、それなら…こっちから攻めにいくことができる!」
ようやくムサシも理解したらしい。手をたたいて得心がいったというような顔をしている。
「博士…うふふ、うまく、いきそう…?」
彼らが理解した様子を見て穏やかな微笑みを浮かべているエルレーン。
興奮おさまらず何事かをぶつぶつつぶやきながら考えている博士に問い掛ける。
「ああ…!…素晴らしい、きっとうまくいくだろう…エルレーン君、ゲッター線ソナーをつくる上で、
また君にいろいろと教えてもらわねばならないことができるかもしれない。…かまわないだろうか?」
「もちろん!…私の、覚えていることが、役に立つなら…!」
そういいながらエルレーンは博士ににこっと笑いかける。
「たのむぞ、エルレーン君!」
博士もしっかりと笑顔でそれにうなずいた…
恐竜帝国への道が開けたことに、狂喜するゲッターチーム。それをエルレーンはうれしそうに微笑んで見ている…
が、その時だった。
彼女の脳裏に、ある「感覚」がぱっとスパークする。はっとその顔が強張った…
エルレーンはゆっくりふりかえる…そこには、ぴたりと閉まった書斎の扉。
その扉を彼女はじっと凝視する…
その瞳には、いつのまにか冷たさを秘めた光が宿っていた。


back