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◆ the last battle(3)
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「こんちくしょおおぉぉぉぉっっ!!」
ハヤトが合体解除のボタンを押した瞬間、ゲッター1は三機のゲットマシンに分離し始めた。
ゲッター1の頭部アンテナが引っ込み始め、胴体部のジャガー号、脚部のベアー号も逆噴射し合体が解除される…
そしてハヤトは素早くゲッター2になるための合体を行おうとした。
そして再び、メカザウルス・ラルと戦うために…
しかし、それがエルレーンにとっては格好のチャンスとなってしまうことを、どうして彼が知れただろうか。
彼女があのたくらみを実行する、格好のチャンス…
(…今だ!)
エルレーンはそれを察知するや否や、ポッドの射出ボタンを押した…!
すると、メカザウルス・ラルの頭部から緊急脱出用ポッドが弾丸のように飛び出す…
そして、そのポッドはまっすぐゲッター1の頭部を構成していた、イーグル号に向かっていった!
(…)
エルレーンはもう迷うことなく、ポッドをイーグル号に向けて突き進む。
…涙を流す透明な瞳に、真っ赤なゲットマシン・イーグル号…リョウの、自分の分身のゲットマシンが鮮やかに映る。
結局、自分の忌まわしい「望み」はかなうことになるのだ…死への恐怖などはなかった。彼女の心にふと浮かんだのは、そんな思い。
それが、自分の選んだ「答え」だった。
そしてハヤトもムサシも、自分を止められなかった…だから、もう。
このままリョウを連れて行く…
エルレーンはさらにスピードを上げながら、ポッドの自爆装置のスイッチを押した…途端に、機体を襲う連続した衝撃。
ポッドの内部のいたるところに組み込まれた小さな爆破装置が次々に起動し、はじける火花と化して機体を砕く…
やがてその爆破は、エルレーンのいるコックピットにまで及ぶ。
彼女の左後方にあるパネルが爆破され吹っ飛んだ。そして、その炎が彼女をも襲う…
だが、エルレーンは穏やかに微笑していた。
自分の「帰る」べき場所に、ようやく再び「帰る」ことができるのだ…恐れなど、微塵も感じられない。安らかな気持ちでいられた。
ただ、それでも。
エルレーンの心にたった一つ残った、染みのような後悔。
彼女はそっと、その後悔の言葉を、詫びの言葉をつぶやいた…
それが、誰の耳に届くことがなかったとしても。
「…ハヤト君…ムサシ君…ミチルさん…ごめん、ね、私…リョウ、を…」
エルレーンの目の前に、イーグル号がとうとう近づいた。
炎に包まれるコックピットのガラスの向こうに、リョウがいる。
自分のオリジナル、自分の分身…そして、自分の「帰る」べき場所。
「連れていく」
エルレーンは迷わず操縦桿を押した。

「?!」
突然、コックピットが浮き上がるようなGを感じた。
同時にコンソールの表示が切り替わり、はっとリョウはそのことに気づく。
…自分が意図もしないのに、ゲッター1は合体を解除しようとしている…!
(くそッ!…ハヤト、ムサシ…お前ら、まだエルレーンと戦うつもりなのか?!)
リョウの焦りも意に介さぬまま、ゲッター1はどんどんと合体を解除していき、そして…とうとうゲットマシンは三機に分かれてしまった。
(…もう一回だ!もう一回ゲッター1に合体するんだ!)
仲間に合体される前に再び合体しようとしたリョウ。
だが、そのボタンを押す前に…彼の目に、それが映った。
(?!)
目の前にあるメカザウルス・ラルの頭部から、ポッドらしきものが飛び出したのが。
そして、それはぐんぐんこちらに近づいてくる。
(…?!)
そのポッドは何度も小さな爆発を起こし、燃えている…真っ黒な煙を噴出しながら、それでもあやまつことなく、間違いなくこのイーグル号に向かってきている…!
(エルレーン…?!)
あっという間にポッドは迫ってくる。
そして、とうとうそのポッドを操縦している影まではっきりみえるほどにまで近づいた…
(あ…)
とくん、とリョウの心臓が鼓動を打つ。赤く燃えさかるポッドの中に、彼女の姿が見えた。
エルレーンは、こちらをまっすぐに見つめている。彼女は、かすかに微笑してすらいる…
透明な瞳は揺らがないまま、自分を見つめていた。
その時、ぱしっと全身に電気が走るような、あの感覚。
途端に周りの風景がゆっくり流れはじめるのを感じた。
まるで、時間がそこだけゆっくり流れているように…
リョウはその時、瞬時に悟ることができた。
彼女が本当に望んだことが何だったのか、を…
(ああ、そうか…そうだったのか)
リョウの唇にも、ふっと微笑がこぼれた。
ようやく、今までずっと求めていながら見つけられなかったものを、見つけられたような気がした。
(これが、お前の「答え」なんだな…エルレーン)
抵抗する気がまったく起きないことに、自分でも驚いた。
一瞬自分がどうなるのか、そのわかりきった未来が頭に浮かんだが…そんなものはもう、どうでもよくなっていた。
自分はエルレーンを…自分の分身を、もう一人にしないと決めたのだから。
ゆっくりと、ゆっくりとエルレーンが自分に近づいてくる。そして、とうとう…エルレーンと、目があった。
透明な瞳。炎の瞳。その間で見えないことばが交わされた…リョウはすっと操縦桿から手を離す。
そして、両手をコックピットを護る防護ガラスに向けて伸ばす…エルレーンを、見つめつづけて。彼女を迎え入れるように…
(…おいで、エルレーン。それが、お前の望みなら…)
ポッドが止まることなくイーグル号に近づいてくる。そして、それが機体にぶつかる強烈な衝撃。
目の前の防護ガラスが炎に包まれた…
連続する爆発音。何かが砕ける音。
その衝撃の中意識が薄れていくのを感じた。
薄れいく意識の中で、リョウはそれでも最後まで目を閉じずにいた…
(…俺は、もうお前を…一人にはしないよ…)

「?!」
コマンドマシンに乗るミチルの目に、信じられない光景が映った。
…メカザウルス・ラルの頭部からポッドが飛び出し、いたるところから炎を吹き出しながら猛スピードで飛んでいる…
その向かう先にあるのは、分離するゲッター1の頭部を構成していた…イーグル号!
「は、ハヤト君!ムサシ君ッ?!…り、リョウ君のイーグル号がッ!」
慌ててそのことをジャガー号のハヤトとベアー号のムサシに伝えようとするミチル。
「どうしたミチルさん?!」
今まさに合体スイッチを押し、ゲッター2に合体しようとしていたハヤトの手がミチルの通信に止まった。
「…!…は、ハヤトッ!!」
ムサシの目が驚愕で見開かれる。ベアー号のコックピットからも、はっきりとその光景が見えた…!
「?!」
ハヤトが上空に視線をやった、まさにその時だった。
空気を激しく揺るがす爆発音。ポッドが赤い炎の弾丸と化し、イーグル号に突っ込んだ…!
そして、次の瞬間。
ポッドは強烈な爆発音とともに、イーグル号の真正面で大爆発を起こした…!
大輪の花がぱっと一気に散るように、炎のかけらをまきちらしながら…
「え、エルレーーーーーンッ!」
ぱあっと目の前が朱に染まる。爆発の炎の朱が、ハヤトたちの顔を染める…
炎の花は大きく広がり、イーグル号を飲み込んでいく…赤い光の雨を降らせながら…
「…!…りょ、リョーーーーーウッッ?!」
そして彼らは見た。イーグル号が…爆発はしていないものの、黒煙を吹き出しながら、小爆発を繰り返しながら、コントロールを失いまっさかさまに落ちていくのを!
「み、ミチルさん!急いで消火を!」
「え、ええ!」
急いでミチルのコマンドマシンがイーグル号に急接近し、その上空から消火用の薬品を降らす…
だが、イーグル号はきりもみ状態のまま、地上めがけて落ちていく一方だ…
「り、リョウ!リョウ!…応答しろおっ!」
ムサシが通信機に叫ぶ。
だが、イーグル号内部を移すモニターにはもはや砂嵐のような画像しか映らず、リョウの生死すら不明だ。答えも、当然のように返ってこない…
その勢いをますます増し、イーグル号は落下しつづける。そして、とうとう地上が迫ってきた…!
「フックだ!フックで何とか…!」
「わかってるわ!」
ミチルはいうなり、コマンドマシンからフックを投下した!
その一対のフックはイーグル号の翼をしっかりとつかんだ…とほぼ同時にイーグル号の底面が、地面にすべるようにしながら着地した…
「…ふう…」
何とか危機一髪で、墜落爆発の危機は逃れたようだ。…だが、リョウが心配だ。早く彼を救出しなくては…!
ミチルはコマンドマシンを着陸させ、急いでコックピットから飛び降りる。
…そして、今だ黒い煙を吐き、衝突の衝撃でできた故障個所から火花を散らすイーグル号に駆け寄る。
すぐジャガー号とベアー号もそのそばに降り立ち、ハヤトとムサシもやってきた…
「…!」
イーグル号の防護ガラスを覗き込んだ彼らの目に、リョウの姿が見えた。
…意識を失って、コックピットに倒れこんでいる…
「と、とにかく早くリョウを出さないと…!」
「…!…ど、どうして?!」
と、ミチルの驚愕の声が聞こえた。
「何だ、ミチルさん?!」
「き、緊急用の、キャノピーオープンスイッチがきかないの…!」
イーグル号左翼部の操作パネルを呆然と見つめながら、ミチルはそうつぶやいた…
「な、何だって?!」
「…俺が!」
ハヤトがミチルを押しのけ、スイッチを思いつくまま操作する…
だが、衝突のショックでどこか故障したのか、まったくイーグル号のキャノピーが開く様子がない。
「…こ、このままじゃ…!」
ミチルの顔色が青くなる。そうこうしている間にも、イーグル号はばちばちと不吉な音をたてている…
「ハヤト!オイラがやるッ!!」
そういうなり、今度はムサシが操作パネルにとりついた。
…そして、彼はありったけの力を込めて、がんがんとそのスイッチを殴りつけた!
「む、ムサシ君ッ?!」
「開け、開けよ…ちくしょーッッ!」
何度も何度もムサシは無我夢中で拳を振るう…
そして、彼の拳が数十回パネルを殴りつけたとき、静かな作動音がとうとう聞こえた…
イーグル号のキャノピーが音もなく開きだす。
「リョウッ!」
開き終えるのを待たず、隙間から身体をこじ入れるハヤト。そしてリョウを抱きかかえ、すぐさまイーグル号から飛び降りた…!
「…あ、危ねえ!」
その瞬間、ムサシがイーグル号後部を指差しながら絶叫する。
…まきおこる火花が激しくなり、黒い煙が瞬く間にイーグル号の接合部分、いたるところからふきだしだした…!
「い、イーグル号から離れるんだ!」
ハヤトの叫び声とともに、ムサシ、ミチルもイーグル号から走り去ろうとする…だが、まさにその刹那だった。
ドカァァァァァァン!
「…!!」
強烈な爆風が背中から襲う。たまらずムサシたちは地面に身を伏せる…
「あ、ああ…!」
イーグル号が、炎に包まれ燃えているのが彼らの目に見えた。
先ほどまでリョウが横たわっていたコックピットも、今は炎の海の中…
もう少し救出が遅れていたら、おそらくリョウも助からなかっただろう。
「あ…危ないところだった…」
「は、ハヤト、リョウは?!」
「…」
ハヤトは自分の腕の中でぐったりとしているリョウを見た。
…驚くべきことに、怪我はほとんどないようだ。だが、目を覚ます様子も一向にない…
と、その時だった。恐竜の唸り声がびりびりと空気を裂くように響いた。
「み、見て!」
ミチルが上空を指差す。ムサシとハヤトもそちらに目を向けた。
「…!」
彼らの目に映ったのは、メカザウルス・ラル。
操縦者を失ったラルが、身を震わせ吼えながら、まっすぐ研究所に突っ込んでいく…
そして、研究所を守るゲッター線バリアにそのままぶち当たった…!
「ギャオオオオォォォオォォォッッ!!」
苦痛の声か、それとも雄たけびなのか…メカザウルス・ラルは吼える。
ゲッター線バリアが休むことなく、それに触れるもの全てを焼き尽くすべく強大なエネルギーを送り込む…
「ギャアアアアァァァアオォォォォォッッ!」
メカザウルス・ラルはそれでもバリアから離れようとはしない。
その目は研究所を見ている…自分の操縦者が破壊しようとしたターゲットが。
メカザウルス・ラルの皮膚がバチバチと音を立てて溶け始めた。そこから機械部分が露出し、なおも破壊されていく。
ゲッター線バリアがメカザウルス・ラルの機構を破壊していく。
だが、それでも前へ、前へ進もうとするメカザウルス・ラル。
「…!」
その光景を見ている早乙女博士、そしてゲッターチーム…
彼らはただ呆然としてみている、主を失ったメカザウルスが、その後を追うようにして命すら省みず敵基地に突っ込んでいく様を…
「…オオオォォォオォォォォオォォォオォッ!」
…だが、とうとうメカザウルス・ラルにも限界が来た。
彼は大きく身をそらし、最期に大きくそう吼えた…その叫びが、どこか哀しげに浅間山の青空に響き渡った。
そして、メカザウルス・ラルの全身から…爆発が起こる。
内側から砕けていく…鉄片と血と肉をばらまきながら、メカザウルス・ラルが壊れていく。
カッ、と強烈な光がそこから生まれた。耳をつんざく爆裂音。
そして次の瞬間、強烈な衝撃波が360度四方に放たれた…!
「…!!」
その衝撃波、次いで生まれる爆風に耐えるハヤトたち。
まきおこる砂ぼこりに、思わず彼らはきつく目を閉じた…
…目を次に開いた時、驚くほどの静けさがそこには帰ってきていた。
真っ青な空が広がり、鮮やかな緑をざわざわと風が揺らす…平和そのものの世界。
研究所はまったくの無傷だった。ゲッター線バリアは、メカザウルス・ラルの自爆にも耐え切ったのだ…
「…ハヤト君、ムサシ君」
…と、研究所の早乙女博士から通信が入った。
「…はい」
「…リョウ君は…大丈夫かね?!」
「ええ…でも」
ハヤトたちは絶望的な表情でふりかえった。
そこには、今だめらめらと炎を上げ燃えつづけるイーグル号の姿…
「イーグル号が…」
「…ゲットマシンは、また修理すればいい…ともかく、リョウ君が無事なようで…よかった」
「リョウの奴…まだ意識を取り戻さないんです。…病院に連れて行ったほうがいいかもしれません」
「わかった。すぐ手配する…君たちも、いったん帰ってきてくれ…」
博士の通信は、それで切れた。
「…行くぞ」のろのろとハヤトはジャガー号に向かう…ミチルもコマンドマシンに戻ろうとした。
…だが、ムサシだけはその場に立ち尽くしたまま…青空を見上げたまま、動かない。
「ムサシ…!…行くぞ…」
「ハヤト…!…エルレーンの奴、エルレーンの奴…!」
どっとムサシの目に涙があふれてきた。
あっという間に彼の表情が涙でぐしゃぐしゃになる…
「ムサシ君…」
「あんな…あんな…ううっ…!!」
しゃくりあげるムサシの肩を、ミチルはぽんと叩いて促した。
しかし、彼は動かない…
泣きたいのはハヤトだって同じだった。…ミチルも泣きじゃくるムサシを背に、そっと涙をぬぐった。
「…エルレーーーーーーーンッッ!!」
ムサシがその名を絶叫する。真っ赤な炎の花になって散った、彼の「トモダチ」の名を。
その声は真っ青な、何処までも真っ青な空の中に吸い込まれていった…


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