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◆ リョウの「妹」、エルレーン
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そのまま本の上の文字に目を走らせていたエルレーン。
…と、その時、彼女はふっとあることを思い出した。
…ちらっと机に向かうキャプテン・ルーガの背中を見る。一瞬迷ったが、彼女は思い切って声をかけてみた。
「…ねえ、ルーガ!」
「…?…なんだ、エルレーン?」
穏やかな微笑を見せながら、キャプテン・ルーガが彼女のほうに顔を向ける。
「あのねえ、…えっと」
上目づかいでもじもじしながら、エルレーンはそうつぶやく。
そのしぐさだけで、キャプテン・ルーガにはぴんときた。
「…ふふ、何だ?…今度は、何のおねだりだ?」
彼女が何かお願い事をするときは、いつもこんな風なのだ。
エルレーンは目を丸くしたが、すぐに子猫のように目を細め、お願い事を口にした。
「あのねえ、あのね…私、服が…欲しいの」
「服…?」
キャプテン・ルーガは一瞬きょとんとした顔をする。
「服?…お前、そのバトルスーツがあるじゃないか」
そういいながら彼女はエルレーンが身にまとっている黒いバトルスーツ…皮のビスチェにショートパンツ、ガントレットにショートブーツ…を指差す。
もともと、ハ虫人たちには人間で言う意味の「服」を着るという習慣はない。
キャプテン・ルーガなどの軍人は鎧やマントを着てはいるが、一般市民は必要もないそのようなものを着ることもなければ、つくることもない
(恐竜帝国マシーンランドでは、変温動物のハ虫人たちの体質に合わせて気温が常に一定に保たれているのだ)。
そのため、エルレーンの着ているのもあくまで戦闘用のバトルスーツなのだが…
ハ虫人のキャプテン・ルーガには、「服を(鎧のような、身体の防護のため以外の理由で)着る」という概念自体がないのだ。
「…そうだけど…別のが、欲しいの」
「別の…?…それは、『人間』が…着ているようなもの、という意味か?」
キャプテン・ルーガも、地上での諜報員たちの報告から人間の一般的な生活についての基本的な知識を得てはいる。
自分たちとは違い、人間は服…布などでできたものを常に身につけており、基本的にはそれなしでいることはできないという。
また、その服によって様々な社会的地位や関係が示唆されるという…(その点は自分たちハ虫人類の軍人が鎧を身に着けているのと同じだ、と彼女は思った)。
それは半ば娯楽でもある、という諜報員もいた。
「うん」
「…何故だ?」
至極ストレートにキャプテン・ルーガは問う。
…エルレーンはちょっと首をかしげ、自分でも理解しきれていないのだが、というような表情で答える。
「…あのねえ、このバトルスーツ…変、なんだって。…もっと普通の服着ろ、って、言われた…」
そう、以前ミチルに言われたことを、彼女はまだ覚えていたのだ。
「…」
誰に言われたのか、ということはあえて聞かないでおいた。
「だから…服が、欲しいの」
甘い声でおねだりするエルレーン。
瞳をうるませてキャプテン・ルーガをじっと見つめる(意識的なのか、無意識的なのかは定かではないが)…。
(…「人間」の服、ねぇ…)
一瞬キャプテン・ルーガは迷った。が、こう思い直した。
「…そうだな。もし、そのバトルスーツが…他の『人間』たちの服に比べ、目立ちすぎるようなら…
お前がその格好で地上をうろつくのは、少々危険かもしれない。無闇に人目をひいてしまう…」
「!…じゃあ」
エルレーンがぱっと目を輝かせる。
「ああ。…なんとか、してみよう」
「!きゃあー、ありがとう、ルーガ☆」
それを聞いた途端、思わずキャプテン・ルーガに抱きつくエルレーン。きらきらとこぼれんばかりに輝く笑顔を見せる。
「うわッ!…はは、まだ期待はするなよ、許可が下りるかどうかわからんからな…」
そういいながらも、彼女の喜びようを見てまんざらでもない様子のキャプテン・ルーガ。
くしゃくしゃとエルレーンの黒髪をかきなで、にっと笑いかけてやった。

理由を説明したところ、人間の服を入手する事に関しては割と簡単に許可が下りた
(ガレリイ長官に多少の嫌味は言われたものの)。
と同時に、エルレーンが近い将来地上での諜報活動にも携われるよう、状況を知るために市街地に行くことも許された。
「人間」の身体をもつエルレーンは、同じ人間社会ではまったく怪しまれることなく行動できるだろうからだ。
「…というわけで、街に行って…服を『買う』ぞ」
「『かう』…人間の世界でも、お金が、いるの?」
不思議そうな顔で聞くエルレーン。
「当たり前だろう…そうそう、お前が自分でどの服を買うか、選ぶんだ」
「私…が?」
「はは、自分で着るんだ、そのほうがいいだろう?…たぶん、なんでも買ってやれる…と、思う…ぞ」
そういいながら、キャプテン・ルーガが手にした数枚の紙切れを見せる。そのために支給された人間世界の紙幣だ。
1万円札が十数枚。エルレーンも興味深そうにそれを見ている。
「諜報員の話では、これで十分だそうだが…」
「そうなの?…ねえねえ、ルーガも…一緒に、行ってくれる…?」
ちょっぴり不安げな顔をしたエルレーンがそうつぶやく。
「ああ、心配するな。私もついていこう…なにぶん、お前を一人にしておくほうが心配だ」
くすくすと苦笑しながら彼女はそう応じ、軽くエルレーンの頭をぽんぽんとたたいた。
…彼女は一瞬、その言葉に不服げな顔をして見せたが、またいたずらっぽい笑顔を向け、頭に置かれたキャプテン・ルーガのその手をぎゅっと握り締めた。

「…!!」
エルレーンは大きな瞳をいっぱいに見開き、まわりに広がる光景に…
今までまったくお目にかかれなかったようなその風景に心を奪われている。
(…「人間」が…「人間」が、こんなに、いっぱい…!)
そう、彼女は今までは浅間山…どんなに行っても早乙女研究所や浅間学園までくらいしか足を運んだことがなかった。
人気が比較的少ないその場所に比べ、自分たちが今いるこの場所…少し大きめの「都市」であるその場所は、驚くほど多くの「人間」にあふれていた。
その誰もが忙しそうにどこかへと行き急いでいる…
まわりには、見たこともないいろいろな建物…様々なものが中にある…これが「人間」たちの店なのだろう。
いったいこんなにたくさん、何を売っているのだろう…?
「…エルレーン。私から離れるなよ」
傍らには、擬装用外皮をまとったキャプテン・ルーガ。
…多少無表情気味なことを除けば、見た目は最早、まったく人間そのものだ。
「う…うん…」
人間たちの群れに恐れをなしたのか、少しおどおどした様子のエルレーン。
…と、その時、自分たちのまわりを通り過ぎていく人間たちが、みな自分をじろじろと…興味深げな視線で見ていくことに気がついた。
「ね…ねえ、ルーガ。…な、なんで…『人間』たちは、私のこと…じろじろ見るの?」
地図を見ているキャプテン・ルーガに小声で聞く。
その間にも、彼らの無遠慮な視線が自分に突き刺さるのを感じる。
「ん…?…そうだな…」
キャプテン・ルーガは地図から目を上げ、人間たちの様子を見回す…確かに、とおりすがる彼らの視線は自分たちをちらちらと盗み見ていくようだ。
「…うむ…やはり、お前のそのバトルスーツは多少変らしいな、人間たちの服に比べれば…」
キャプテン・ルーガが納得したように言う。
彼らがエルレーンに視線を投げてよこす理由の一つは明らかにそれだった。
すらりとした身体の美少女が、ビスチェとショートパンツという奇抜で大胆な格好をしているのだ。
目を奪われないはずがない(もちろんそのようなことにエルレーンやキャプテン・ルーガが気づいているわけではないが)。
だが、その隣に立つキャプテン・ルーガ自身も十分に人目をひく存在になっていた。
170cm程度の身長のエルレーンより、遥かに高い身長…180cmを優に越す体躯の持ち主である彼女(確かにハ虫人としても長身ではあるのだが)が
身につけている擬装用外皮は、人間の女性のものだった。
この日本で、180cm以上の身長を誇る女性が人目をひかないはずもない。
またその上、その頭髪は豪華なブロンドに作られている。整った顔の造作も加え、なおさらその偽装は目立ってしまっている。
「…」
人間たちの遠慮のない視線の嵐に戸惑いながら、居心地悪そうにもじもじするエルレーン。
そんな彼女の様子を見たキャプテン・ルーガが軽く微笑えみかけ、背をそっとなでて少し落ち着かせてやる。
「…よし、わかった。ここが服を売っている店らしいな。行くぞ」
「あ…う、うん」
道の一方を指差し、歩き出したキャプテン・ルーガの後を急いで追っていくエルレーン。
180cmを越す巨大な金髪美女と、大胆な格好をした美少女。
二人が通り過ぎるたび、すれ違う人間たちがそちらに好奇の目を向ける。
そしてひそひそ声でこんなことをつぶやきあうのだ。
「おい、今の二人…見た?」
「見た見た!…スッゴイでっかい人…」
「めっちゃイイ女じゃん、どっちも…」
「あの金髪の人、すごい美人…!」
「背のちっちゃい娘のほうが俺は…」
そうして、彼女たちに魅了された人間たちは、うっとりしたような表情で二人の背中を見つめるのだった。

「…すまない。『服』を買いたいのだが」
街のアーケード内にある、少し大きめのブティックに入るなり、キャプテン・ルーガはそう呼ばわった。
…まるで、道場破りでもする剣士のように。
「?!…あ、は、はい…」
いきなり店に入ってくるなりそんなことを言い出した二人組…妙に背の高い金髪の女性と、露出度の異様に高い服を着た少女の出現に、
一瞬女店員は入り口をみつめてぽかんと立ちつくしてしまった。
が、すぐにそれを取り繕い、接客に入る。
「は、はい、お客様…どのようなものをお探しでいらっしゃいますか?」
「私ではない…この子が」
…いくら「敵」である「人間」を相手にしているとはいえ、そんなそぶりは微塵も見せないキャプテン・ルーガ。
そういってエルレーンを促す。
…が、当のエルレーンは、ハンガーいっぱいにかかった洋服や真っ白な壁、かすかに聞こえる音楽に気をとられてしまっていて、話をまったく聞いていない。
「こら、エルレーン…お前が選ぶんだろう?」
「!…あ、うん」そういって一歩前に歩み出る。
「お嬢様がお召しになられるのですね」
「…『オメシ』…?」
店員の使った敬語の意味がわからず、眉をひそめるエルレーン。
「!…あ、お嬢様の服をお探しになられるのですよね」付き添いの女性の外見や(ブロンドの髪をしているので)、この少女の身なりから、
どうやらこの二人は外国人らしい、と推測した女店員は、わかりやすい言葉で言い換えた。
そうすると、エルレーンもわかったらしく、小さくうなずく。
「では、どんなものを…?」
「…どんなもの、…って…言われ、ても…うー…」
そういいながら、ぐるりと店内に立ち並ぶ服の群れを見回す…
こんなたくさんの服の中から、どれを、どうやって選べばいいのだろう…?
「…ルーガぁ、わかんないよぉ」
困りきった表情で後ろに立つキャプテン・ルーガを見る。
「おいおい、私にもわからんよ」
そんな彼女の様子をくすくすと笑いながら見ているキャプテン・ルーガ。
「…では、いくつか見繕ってみましょうか?」
「ああ、頼む」
「…うー…?」
笑顔の女店員がてきぱきとハンガーからいくつかの服を選び出し始めた。
この幼い女の子のような話し方をする、スレンダーな美少女に似合いそうな服を…その様子を、エルレーンは首を少しかしげ、不思議そうに見つめている…

「…それでは、いくつかお試しになってみてください」
店員がいくつかの服を手に、エルレーンに近づき、試着室に入るよう促す。
「…」促されるまま服を受け取り、試着室に入るエルレーン。
しゃっとカーテンを閉め、ごそごそと着替え始める…
数分後、再びそのカーテンが開いた。
「…へへ、どう、ルーガ…?」
もじもじしながら、友人に感想を求めるエルレーン。
…赤と黒のタータンチェックのプリーツスカートに、黒のニット。
そのスクールガールテイストの服は、思いのほか彼女のスタイルにあっていた。
「とてもお似合いですよ」
店員のその言葉は、決して世辞ではなかった。
…だが、キャプテン・ルーガはなんともいえない顔をしている。
「…私にはよくわからないのだ、エルレーン…そう聞かれても困る」
ハ虫人の彼女には、それがエルレーンに似合っているのかどうかは本当にわからない。
…だが、人間の服を身につけてはしゃいでいるエルレーンをうれしそうに見つめている。
「むー!ひどぉい…じゃあ、別の、着てみるー!」
その反応にちょっとふくれっつらを返し、またカーテンの向こうに姿を隠すエルレーン。
…そしてまた、数分後。
「ねえねえ、じゃあ…これは?」
しゃっと開いたカーテンの向こうで、エルレーンが微笑っている。
両手を軽く広げ、自分の着ている服を示す。…白と紺のボーダーシャツ、そして太ももの途中で断ち切られたごく短いすそのショートパンツ。
そして、ボーダーシャツの上にはパーカーを羽織っている。
いつでも元気いっぱいのエルレーンのイメージにぴったり合った服だ。
「うふふ、よくあっていますわ」
見立てた店員もうれしそうだ。
「…☆」
無言で頬に手を当るしぐさをし、うれしそうな顔をするエルレーン。
「他のものも試してみたらどうだ?」
キャプテン・ルーガがそう促す。こっくりとうなずいたエルレーンは再び試着室のカーテンを閉じた…
そして、そのまた数分後。
今度エルレーンが試している服は、先ほどとはがらっと変わった印象の服…白のレザージャケットに、側面に深めのスリットが入った、タイトなミニスカート。
そのコーディネイトは、むしろ彼女の普段着…バトルスーツと同じほどセクシーな印象を与える。
「…お前のバトルスーツと、あまり変わらんな」
素直にそう思ったまま口にするキャプテン・ルーガ。
彼女もどうやらそのミニスカートが思ったより動きづらいことにいらいらしているようだ。
「…これ、動きにくいー…」
「そうですね、パンツのほうが動きやすいかもしれませんね」
店員が心得たらしく、ハンガーからパンツを一本持ってエルレーンに渡す。
「!」その時、エルレーンの目がぱっと輝いた。
試着室からふわっと飛び出て、ハンガーにかかっているある服を指差した。
「これー!これがいいの!」
彼女が指差した服は、どうということもない普通のトレーナー…それも、どちらかというとボーイッシュな感じの服だ。
「そ、それですか?」
せっかくきれいでスレンダーなこの美少女に似合いそうな服を選んだのに、その当人にそっぽを向かれた店員は少し残念そうだ。
「…?それでいいのか?」
「うん!…あと、これ!」
そして、店員が渡したパンツ…それは細身の…すんなりした脚の彼女に似合いそうな…ブーツカットのジーンズを示す。
「何故だ?…前の、赤と黒の服とか、白い服はいいのか?」
キャプテン・ルーガが早々に決定を下したエルレーンに問い掛ける。
「うん!…だって、これ、リョウと同じ服だもん!」にっこり笑いながらこたえるエルレーン。
「?!…な、何故だ?!」
エルレーンの口から、唐突に自分たちの敵の名、「リョウ」…「流竜馬」の名がでてきたことに驚くキャプテン・ルーガ。
だが、屈託もなく彼女はこう答えた。
「だってぇ、リョウと同じ服なら、誰も変って言わないよ?…だから、これがいいの、っ」
そうきっぱりと言い切った。
「そ、それではこちらでよろしいですか?」
「うん!…それじゃ、また、着替えるの」
店員にうなずくエルレーン。
…そして、今身につけているジャケットとミニスカートを脱ぎ、また着ていたバトルスーツに着替えるべく、試着室に入りカーテンを閉めた。
「…すまないな、それではそれをもらえるだろうか」
それを横目で見ながら、店員に話し掛けるキャプテン・ルーガ。
「はい、かしこまりました」
「…それと…」
何事か小声で、店員にぼそぼそと耳打ちする。すると、それを聞いた店員の顔がにっこりとほころんだ。
「はい、わかりました…!」
同じく小声で店員はうなずき、笑顔で返した。

「…それでは、17500円になります」
商品を梱包し終えた店員がペーパーバッグを渡しながらそう言った。
「…?」
はじめて聞くその通貨名…「人間」の世界の通貨…に、眉をひそめるキャプテン・ルーガ。
「…これで、足りるのか?」
そういいながら、無造作に支給された紙幣をすべてつかみ出し、テーブルに置く。
…くしゃくしゃになった一万円札が十数枚だ。
「あ、あの…」
いきなり代金を遥かに上回る大金を出されて困惑する店員。
だが、その戸惑っている様子を見たキャプテン・ルーガはさらに何かを取り出した。
「足りなければ…これでいいだろうか?」
彼女の右手からテーブルにざらざらとこぼれおちてきたのは…小さな金の塊。
いうまでもなく、それだけで百万円くらいの価値はあろう量だ。
「い、いえ!この…こちらの二枚で十分でございます」
慌ててそれを押し止める店員。テーブルに置かれた一万円札から二枚とってそれを示す。
「そうなのか?」
「ええ、これで十分です!」
「…?」
キャプテン・ルーガはまだよくわからないらしく、それでもとりあえず「いらない」といわれたその金と残りの一万円札をかき集め、再びしまいこむ…
「…」
そのやり取りを後ろでぼーっと眺めていたエルレーン。
…どうやらそれにも飽いたらしく、大きなガラス窓の向こう…人間たちが行き交う通りに目をやる。
「…!」
…と、その奥に…人間たちの合間から奇妙な物体が目に入った。
…石でできた、大きな三角錐が通りの中央、ちょうど十字路になっている地点の中央にそびえたっている。
その三角錐の周りには囲われた堀のようなものがあり、なぜか水が流れている…
(何だろう…?)
それに興味を引かれたエルレーンは、ブティックのガラス戸を開けその方向にふらふらと歩いていった…
キャプテン・ルーガはまったくそれに気づかないままだ。
「…?…それで、本当にいいのか?」
…長いやり取りの末、結局女店員のもつ一万円札二枚を示して不思議そうにそういうキャプテン・ルーガ。
「はい、それでは…2500円のお返しです」
「…?」
彼女は店員に手渡された千円札二枚、そして五百円硬貨をしげしげと見つめている。
だが、思ったより少ない額で買えたらしいということがわかったので、ふっと安堵の表情を浮かべる。
「…エルレーン、それでは…なッ?!」
振り返ったキャプテン・ルーガの目が驚きで見開かれる。
…そこに、エルレーンの姿は、ない…!
「?!…お嬢様は…」
店員もようやく彼女がいないことに気づいたようだ。
「エルレーン…あの馬鹿…!」
エルレーンが店を出て行き、一人でどこかへ行ってしまったことに気づいたキャプテン・ルーガは、慌ててブティックを後にする…
店員は一瞬あっけに取られたが、急いで「ありがとうございました」と小さく口の中でつぶやいた。
(…エルレーン、私から離れるなといったのに…!)
一気に懸念と不安が湧き上がる。通りに出てあたりを見回すが、その視界の中には彼女の姿は見当たらなかった…


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