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◆ birth
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ごぼっ、と音を立てて、口から空気が泡となって出ていく。その気泡は細かくゆれながら、培養機の中をたちのぼっていく。
小さな泡がはじける音、機械が静かに作動しつづけている音、その全てがまぜこぜになって、特殊プラントの中に響いている。
「…あと、1時間ほど、か…」
ガレリイ長官が端末の画面を見ながら、一人ごちた。そして、椅子から立ち上がって、周りに立ち並ぶ自分の作品をぐるりと見回した。
特殊プラントの壁を埋め尽くすのは、たくさんの培養機。それぞれの培養機はケーブルにつながれ、栄養分と電流を絶え間なく中におくっている。
その培養機の中で、目覚めの時を待っているのは…
「流竜馬」
ガレリイ長官がその名を呼んだ。
「…キサマがこいつと顔を合わせたとき、どんな顔をするか、見モノじゃなあ…」
そう言ってククッと笑った。
50の培養機。そしてその培養機の中に
50人の「流竜馬」がゆらめいていた。

突然その部屋のライトがつけられた。広い、何もない…部屋。緑色の壁と天井だけで、他には何もない。
ライトがつくと、そこにいるモノたちは驚きの反応を示し、周りを見回す。
…そして、気がついた。
そこにいるのは、みんな同じ顔、同じ姿をした…人間の女だということに。
肩につくかつかないかの長さで断ち切られた黒い髪。少しくせのある巻き毛。大きな瞳、長いまつげ。小さ目の唇…整った顔立ち。
そしてスレンダーな身体。全員が黒いバトルスーツのようなものを着せられている。
お互いを無表情な目で見つめあう、50人の女。
…その顔は、恐竜帝国の天敵、ゲッターチームのリーダー「流竜馬」のものであった。
唐突に、天井のスピーカーからガレリイ長官のだみ声が響いた。
「…流竜馬の、クローンどもよ!…聞こえているか。…ワシは、貴様らの作成者、ガレリイだ」
無言で上を見つめる、50人の「流竜馬」。
「…さあ、貴様らに…指示を与えよう」
いったんそこで言葉を止め、無情なオーダーを下す。
「50人もお前は必要ない…一人で、いいのだ。…生き残るために、殺しあえ!最後に生き残ったものを、恐竜帝国の兵士とする!
…さあ、生き残りたければ殺せ!…殺さねば、殺されるぞ!」
そこで通信は切られた。
部屋の中を、不気味な沈黙が支配する。
そして、数秒後。
ごきっ、という鈍い音がどこかで響いた。数人の「流竜馬」がそちらに目を向ける…
「流竜馬」が、別の「流竜馬」の首を、へし折っていた。
首を折られた「流竜馬」の目から、すうっと涙がこぼれおち、床に落ちた。彼女の手はむなしく首にかかる「流竜馬」の手をひっかいている…
「流竜馬」は、どさりとその手にかけた獲物を解き放つ。首が不自然な格好に折れ曲がった「流竜馬」が、ゆっくりと床にくずおれた。
それが、合図となった。
「流竜馬」同士の、壮絶な殺し合いが始まった。

数十分後。
部屋から何の物音も聞こえなくなったことに気づき、ガレリイ長官が再びモニターのスイッチを入れた。
そこには、一人の「流竜馬」がたちつくしていた。
血まみれになった「流竜馬」。…その周りには、49人の「流竜馬」の、「流竜馬」であったモノの無残な死体。
ガレリイ長官は、彼女の腕輪につけられた認識用タグにかかれている文字を読み取った。そこには、恐竜文字で「No.39」と書かれている。
「…No.39。よくやった。…お前が、生き残ったのだ…これからも…恐竜帝国のため…敵を殺すがいい」
「No.39」と呼ばれた「流竜馬」は、それをただ、聞いていた。
何も感情をあらわさない顔。その顔は、「流竜馬」の血で染まっていた。
「No.39」は、その場に、じっと、立ちつくしていた…


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