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◆ 2vs2!
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「ゲッタァァアア・トマホォォゥク!」
「…!」戦いはリョウの雄たけびで、唐突に幕を開けた。
その声とともに鋭いトマホークを手にしたゲッター1がメカザウルス・ライアに襲い掛かる!
「…くッ!」
剣を振り上げ、ゲッター1の斧を受け止めるメカザウルス・ライア。
ギリギリと力押しの勝負が、二者の間で繰り広げられる。
「ルーガァッ!」
エルレーンの心配げな声。
「だ…大丈夫だ!…私のことは気にするな!お前は、お前の…敵と、戦え!」
キャプテン・ルーガを心配そうに見つめるエルレーンに、彼女はそう怒鳴りつけ…そして、にやっと笑って見せた。
「…!…うん!」
メカザウルス・ラルも剣を構える。
キャプテン・ルーガに叩き込まれた、恐竜剣法の構え…!
「このテキサスマックで、返り討ちにしてやるぜ!」
ジャックのその声と同時に、強烈な銃声が鳴り響く。
鉄の銃身から飛び出した大口径の弾丸がメカザウルス・ラルに一直線に向かう…!
「…!」
軽く飛翔し、その弾丸を避ける。しかし、休む間もなくエルレーンをテキサスマックの猛攻が襲う!
「…はあっ!」
だが、一瞬その弾丸の雨をかいくぐり…メカザウルス・ラルの右腕がしなる。
テキサスマックの左足を、銀色の光が切り裂いた!
「ぐうっ!」
破壊の衝撃がジャックとメリーのコックピットを激しく揺らす。
「おい、大丈夫か!」
そこにゲッター1のハヤトからの通信が入る。
「…フン、たいした事はない!この程度の敵など、このテキサスマックで一気に片付けてやるぜ!」
ジャックが操縦桿を握りなおし、そう言い放つ。メリーも再びメカザウルス・ラルに闘志を燃やす…!
「邪魔させない!…ルーガの邪魔は、させないんだからァッ!」
エルレーンが彼らに向かって吼える。メカザウルス・ラルはまっすぐテキサスマックに斬りかかっていく!
…数十メートル離れた地上では、ゲッター1とメカザウルス・ライアの間で激しい剣戟が繰り返されている。
…エルレーンの剣の師匠であるキャプテン・ルーガのほうが…リョウの力量を遥かにしのいでいる。
数回既に機体はダメージを負っており、明らかにゲッター1は押されていた。
「…ぐうっ!」
三度ゲッター1のボディが斬りつけられる。強力無比なその攻撃は、既にゲッター1のボディに大きな裂き傷を生んでいた。
…これ以上攻撃を受ければ、いくらゲッターとて耐えられまい。
「…俺にかわれ!リョウ!…俺のゲッター2なら、あいつのスピードについていける!」
「わかった!頼むぞ、ハヤト!」
「チェーンジゲッター2ッ!スイッチ・オォォン!!」
ハヤトがスイッチを押すなり、ゲッター1は三機のゲットマシンに分離し華麗に宙に舞う…!
そして、再び合体し、今度は地上戦仕様のゲッターロボ、ハヤトの操縦するゲッター2に姿を変えた!
「!」驚きでキャプテン・ルーガの瞳がかっと見開かれる。
「行くぜ!…ゲッターミサイルッ!!」
…だが、その金色の瞳がきらりとひらめいた。
瞬時に目視で、上空で戦うメカザウルス・ラルとテキサスマックの位置関係を見た…そして、かすかに口元で微笑する。
「?!」
ゲッターチームの目の前に立つメカザウルス・ライアはそのミサイルを避けるそぶりを見せない。
それどころか、剣を構えて待っている…?!
思いもしない敵の行動に戸惑う三人。
「…恐竜剣法、必殺!水龍剣!」
キャプテン・ルーガが技の名を叫ぶと同時に、メカザウルス・ライアの大剣が奇妙な動きをする。
メカザウルス・ライアの頭上からゆっくりと、円を描くように…それは振りかざされる。
そして、ミサイルがその剣先に触れるその瞬間…!
「!!」
ハヤトは我が目を疑った。
…その剣の切っ先は、自分の放ったミサイルに破壊される事なく…そのミサイルを軽くすくい上げ、難なくその軌道を変えてしまったのだ!
…その向かう先には…
ドカァアァァン!テキサスマックの背中に、巨大な火柱が上がる!
「?!…な、なんだ、一体?!」
思いもしない方向から攻撃を受けたことにひるむジャックとメリー。
「…エルレーン、恐竜剣法、水龍剣は…防御一辺倒の技ではない。このように、相手の攻撃を利用することもできる。…よく覚えておく事だ」
エルレーンに向かい、今しがた放った技のレクチャーをするキャプテン・ルーガ。
…その通信を聞くハヤトたちゲッターチームの顔に、屈辱が浮かぶ。
「うん、ルーガ…!」
「さあ、今だ!」
「…うん!」きっ、とエルレーンの目が鋭くなる。
…いまだ混乱から抜け出せておらず、体勢が崩れたままのテキサスマックをねめつける…
「…恐竜剣法、必殺!邪龍剣!」
強烈な回転を加えられた剣が、テキサスマックのボディに吸い込まれるように向かっていく…!
「…うおぉぉぉっっ?!」
ジャックがそのことに気づいた時には、既にその剣は…テキサスマックを貫いていた。
背中の優雅なマントを、剣の切っ先が引き裂いた。…数秒の後、エルレーンがその剣を引き抜いた。
…同時に、貫かれた箇所から無数の火花が散り…
赤い炎の花が咲く。強烈な爆発音を伴って。
テキサスマックが内部から砕かれていく…
「うわあああああぁぁぁぁっっっ!!」
「兄さぁぁぁぁぁん?!」
リモコンハット型のマシンに乗るメリーを残し、テキサスマックはコントロールを失いまっさかさまに地上へと落ちていく!
…そしてその先には…湖!
バシャァァアァァアン!!
高い水しぶきをあげ、真っ白な機体が水の中に墜落した。
…そのままぶくぶくと沈んでいくテキサスマック…
「に、兄さん!兄さんッ!!」必死で兄の名を呼びながら、メリーのマシンはその湖へと飛び去っていく…
その光景をギリギリと睨みつけるゲッターチーム。…テキサスマックが敗れ去った今、2体のメカザウルスを相手にしなくてはならなくなった彼ら…
まさに、先ほどとはまったく逆の立場に陥っていた。
「…いいぞ、エルレーン!…後は、ゲッターロボを残すのみ!」
「…!!」
2体のメカザウルスが、ゲッター2の方に向きをかえる…無気味に光る、その両の目!
「くそおぅっ!ヤバいぜリョウ!」
「そんなことわかってる!…畜生、どうする…?!」
「…なんとか、やってみるしかねえだろうさ!」
絶対的不利なこの状況下において、ハヤトはどうやら覚悟を決めたようだ…その目にしっかりとした、諦念にも似た決意が宿る。
…彼のその表情を見たリョウとムサシも…同じ覚悟を決めたようだ。
弱気な影が失せ、再び戦いへ向かう意思が生まれる。
「いくよ!ゲッターチーム!」
エルレーンのメカザウルス・ラルがその剣を構え、空中高くよりゲッター2めがけて急襲をかける…!
と、その瞬間だった。…キャプテン・ルーガの視界に、あるものが飛び込む。
…それは、光のカタマリのように見えた。
…彼女は、瞬時にその正体に感づいた。
「…危ないッ、エルレーン?!」
キャプテン・ルーガの絶叫。
突然メカザウルス・ラルの背中にメカザウルス・ライアが回りこみ、その両腕をクロスさせるように身構えた…!
「ルーガ?!」
エルレーンが唐突な行動に出たキャプテン・ルーガのほうをふりむいたその時…彼女の瞳を、強烈な光の炸裂が焼いた。
ゲッター2に乗るゲッターチームも、その白光に視界を奪われ、思わず瞳を強く閉じた。
「…ぐううっ?!」
キャプテン・ルーガの眼前に現れたそれ…それは、光の弾丸だった。
真っ白な筋を引いてまっすぐメカザウルス・ラルを狙ったその光弾は…瞬きする間もなく、メカザウルス・ライアの両腕にぶち当たった…!
「…ルーガァッ?!」
エルレーンがその名を呼ぶ。
…自分のメカザウルス・ラルと背あわせになって空中に静止するメカザウルス・ライア…その姿が、薄れていく光の中から浮かび上がった。
「…く……ああッ?!」
キャプテン・ルーガが驚愕の声を漏らす。
…つい先ほどまでそこにあったはずの…メカザウルス・ライアの両腕が、そこには既になかった。
まるで気化してしまったかのように。…いや、蒸発したのだ、あの奇妙な光弾がそれを跡形もなく焼き尽くした!
「?!…め、メカザウルス・ライアの…腕が?!…嘘!」
エルレーンの瞳が見開かれる。
メカザウルス・ライアの装甲はメカザウルス中でも1、2を争うほどの堅さを誇っていたはずだ。
…そのメカザウルス・ライアの腕が、たった一発で溶解してしまうとは?!
「な…あ、あれは?!」
ゲッターチームもその有様、その威力を前にただ驚くのみだ。
…彼らも一瞬謎の光弾の出現に戸惑っていた…が、ハヤトがはっとそれに気づいた。
「…これは、ナバロン砲?!…博士!」
「間に合ったか!…なんとか、新しいゲッターナバロン砲を発射する事ができた!」
研究所の早乙女博士から通信が入る。
その通信を聞いたキャプテン・ルーガの表情がさあっと変わる。
「な…ナバロン砲…だと?!」
彼女はその武器を知っていた。ゲッターチームの隠し武器、強力無比な狙撃砲…
かつて恐竜帝国のキャプテン数人が、その命とひきかえに破壊したはずの…そのゲッターナバロン砲が再び製造されたというのか!
キャプテン・ルーガの表情に、一瞬焦りの色が浮かんだ。
…だが、すっとその瞳が閉じられ…彼女は冷静に戦況を分析する。
…瞬間の間の後、彼女は最適と思われる行動を選び出した。
「…エルレーン!…いったん引くぞ!」
「?!」
いきなりの退却命令に戸惑うエルレーン。もう少しでゲッターロボを倒せるはず…
しかもキャプテン・ルーガと二人がかりなのだ…にもかかわらず、何故?!
「で、でも!」
「ダメだ!…早乙女研究所に新たなゲッターナバロン砲があることがわかった以上、何らかの対策を練らねば、勝ち目はない!」
「!」
「…ゲッターロボだけの問題ではないのだ、エルレーン!…我々は、あのナバロン砲をも破壊する必要がある…
『逃げる』事も、大事な戦略の一つだ!…それに、私のメカザウルス・ライアは…もう闘えない!」
「う、うん、わかった…!」
エルレーンもキャプテン・ルーガの真剣さを感じ取り、素直に命令に従う。
「逃げるつもりか?!…逃がさん!」
その通信を聞くハヤト。
ナバロン砲というバックアップを得、再び意気上がるゲッター2が、メカザウルス・ライアを狙う!
「退却するぞ!…援護してくれ!」
それを敏感に察知したキャプテン・ルーガが鋭く叫ぶ!
それを聞くが早いか、エルレーンは的確にメカザウルス・ラルの向きを変え、ゲッター2めがけて…ありったけのミサイルを発射した!
「いっけぇぇぇぇぇえぇぇっ!!」
「?!…くッ?!」
いきなり眼前に現れた無数のミサイルにひるむゲッター2…
狙いなど定められぬまま打ち出されたミサイルは、真っ白な煙を吐きながら、縦横無尽に空中を舞い狂う…!
そして地面に当たり、誘爆し、そこここで赤い炎を生む…!その爆発と煙で、ゲッター2はメカザウルスに近づけない!
「くそっ!…これじゃ、前が見えやしねえ!」
ハヤトが悪態をつく。…ようやくそのミサイルの雨が消えうせ、煙が薄まった…
「…!!」
そこには既に、メカザウルスの姿は2体ともなかった。
…レーダーの、既に感知可能範囲ギリギリのところに…その2体を示す光点が二つ並んでいた。
しかし、やがてそれはふっと消えうせた…
「チッ…逃がしたか…」
「ああ…だが、テキサスマックの野郎、大丈夫かな?」
「多分、落ちたところが湖だから…大丈夫だと思うが…」ゲッターチームの胸に、何とか脅威を撃退したという安堵感が満ちる。
…しかし、それは勝利の高揚を生まず、ただ苦い思いだけが後から後からわいてくるのみだった…

数十分後、早乙女研究所の司令室。
帰還したゲッターチームと、テキサスマックのパイロット、ジャックとメリーがそこにそろっていた。
「無事でよかったわ、兄さん…」
メリーが安堵の表情を浮かべ、兄に対して笑いかけた。
あの後すぐに向かった彼女により、ジャックは無事救助され、テキサスマックも湖から引き上げられた。
水が衝突時のショックを和らげたため、機体の損傷は最低限に食い止められたようだ。今、急ピッチでその修理が進められている。
「ああ。…まったく、俺としたことが油断したぜ」
ジャックが悔しそうに舌打ちする。
…と、ゲッターチームのリーダー、リョウに目が行く。
…先ほど自分を撃墜した、恐竜帝国のパイロットと…同じ顔の男。
「おい、流竜馬…だったな。…俺をやったあのパイロット…あいつは一体、何者だ?」
「…」
リョウの表情がそのことに触れられるやいなや、硬化する。
口を閉ざすリョウにかわって、ハヤトが説明してやった。
「あいつは…恐竜帝国が作り出した、リョウのクローンだ。…恐ろしい奴だぜ、あの女は…まあ、今のあんたならわかるだろ」
「…クッ…」
皮肉られたジャックは多少悔しさを顔に浮かべるが、何も言い返せない。
「まあまあ…しかし、ナバロン砲が間に合ってよかったよ。…まだ、試射もしていなかったのだが…」
早乙女博士が間にはいるように穏やかに言った。
「博士、ナバロン砲をまた作っておられたんですね」
「ああ…以前破壊されてしまってから再び完成するまで、かなり時間がかかってしまった。
…だが、なんとかうまく発射で来てよかったよ」
博士の顔が安堵感でほころぶ。
ゲッターナバロン砲。早乙女研究所がかつて防衛のために作った、ゲッター線を使用した砲台だ。
メカザウルスを一撃で破壊し得るほどの威力を持った武器であったが、恐竜帝国のパイロット数人によって破壊されてしまった…その命と引き換えにして。
だが、彼らは再びそれを秘密裏に作成していたのだ…
「でも博士、一体どうして秘密にしてたんですか?」
ムサシが不思議そうに聞く。
「恐竜帝国に知られてはまずいと思ったのでね。…残念な事だが、どこにスパイがいるかわからん。
…だから、設置場所も考えたのだ」
そう言いながら、早乙女博士は手近のコンソールをなにやら操作した…と、モニターがざざっ、と音を立て、何かを映し出す。
「…よーうムサシ!…どうだ、ちゃんと当たったろ!」
「も、文次?!」
なんと、そこに映ったのは、世界発明研究所の所長…大枯文次だった!その後ろにはジョーホーやアサ太郎もいる。
「は、博士…も、もしかして?!」
「そうだ。ゲッターナバロン砲は、文次君の世界発明研究所にあるんだ。…さっきあれを操作してくれたのも、彼なんだ」
「そ、そうだったのかよ…」
あっけにとられるハヤト。
「おうよ!…これからはよ、俺様がこのゲッターナバロン砲でお前らを助けてやるからよ、感謝しやがれい!」
「な、何だとぅ?!」
その高飛車な物言いに思わずくってかかるムサシ。だが文次親分はそんなムサシにぴしゃりと言い返す。
「おうおう、ついさっきも俺様に助けてもらったばっかりじゃねえか。感謝の気持ちってもんがねえのかお前にはよぅ!」
「!…く、くそ〜…」
「…でも、それにしてもよぅ」
文次親分がふっと思い出したように言う。
「…本当に…あの女、恐竜帝国のパイロットだったんだな」
彼はエルレーンのことを言っているのだ。
…いつだったか、自分の研究所にふらりと現れた…リョウと同じ顔をした、やさしげな女。
ムサシにはいわれてはいたが、こう自分の目でそれを見るまでは…信じられなかった。
いや、見た後でも…どこか信じきれない。だが、それは真実だった。
「おうよ…」
「…まあ、信じられねえけどよぅ、それでもあいつがミチル姫の敵だってんなら、俺はやるぜ!」
「まあ、文次君ったら!」
言われたミチルもまんざらではなさそうだ。
「ゲッターナバロン砲…すごい武器だな」
ジャックがふうっとため息をつきながらそう漏らした。
「ああ。あの武器がある限り」
早乙女博士も胸を張って答える。
「我々には十分分があるというわけだ!」

それから数日後…応急修理を終えたテキサスマック、ジャックとメリーは本国に帰ることになった。
ともに戦った戦友、ゲッターチームと友情を誓い合い、再会を約束して…
だが、去り行く彼らを見送るゲッターチームは、まだ気づいてはいない。
恐竜帝国が、ナバロン砲を再び破壊せんと動き始めた事に…
危機はすでに、静かに彼らに忍び寄っていた。


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