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...Und, "das Wiedersehen"


地獄城が爆発炎上するその寸前に、辛くも飛行要塞グールは空中へと脱出することが出来た。
すぐさまその場から全速力で退避する…
本拠地を失った今、あの鉄(くろがね)の城と交戦できる機械獣はもはやない。
グールで脱出できたのは、生き残ったわずかばかりの兵力と、地獄城の総帥・Dr.ヘル、そして…ブロッケン伯爵のみ。
しかし、彼らをみすみす見逃すほど、鉄(くろがね)の城の主は甘くはなかった―

「…!」
グール・ブリッジを貫く強烈な衝撃に、鉄十字兵たちはもんどりうって倒れる。
マジンガーZの放ったアイアンカッターが、違うことなくグールを船首から船尾まで真一文字にぶち抜いていったのだ。
続いて、ぽっかりと開いた穴から、すさまじい疾風が吹き抜ける。
立ち上がることすらままならず、無様に床に這いつくばる伯爵たち…
「く…くそおッ…とうとう勝利の女神はわしに背を向けおった…無念じゃああッ!」
その風の壁を貫いて、老科学者の怨嗟の叫びが聞こえた―
それは、まさに敗北宣言そのもの。
「…くそぉッ!マジンガーZめええッ!」
血を吐くような怒りと屈辱が、伯爵の喉を震わせた。
切り裂くように飛び掛ってくる風の中、必死で目を開く…
そこには、無残に破砕された、ブリッジの光景が在る。
空を裂くような音が、そのブリッジを吹く風に混ざり、伯爵の鼓膜を揺らした。
彼は確信した。
鉄(くろがね)の城は、今まさに…このグールに、とどめをささんとしていることを。
そして、それは…自らの命運も尽きる時が来た、ということだった。




だが、その瞬間だった。




全身から…すとん、と力が抜け落ちた。
いや、それだけではない…あの日から、あの時から、己の背に負っていた、全ての重圧…
その全てが消えうせるのを、彼は心地よく実感した。
何故なら、彼は気づいたからだ…
ようやく「その時」が来たことに、永い間待ち望んでいた「その時」が来たことに―!




そうだ。
もう、我輩は…いや、「俺」は、終わりなんだ。
やっと、終われるんだ…!




息もまともにつけぬほどの、目も開けていられないほどの風が、止まることなく吹き荒れるブリッジ。
だから、誰も気づきはしなかったし、見ることも出来なかっただろう―




ブロッケン伯爵は、穏やかに微笑んでいた。
今まで、誰にも見せたことがないほどに穏やかな、険のない表情で―
彼の瞳は、閉じられたまま。
もう、この現世(うつしよ)には、彼の望むものは何一つ無いのだから…




そうして、ブロッケン伯爵は…ミヒャエル・ブロッケン伯爵は、
こころの中で…やがて自分を迎えに来てくれる者たちの「名前」を呼んだ。




…ベルント。
俺は、「約束」を守ったぜ?
お前との「約束」どおり、俺は…必死で、生き抜いてきた。
この世に絶望しながら、それでも…簡単には死ぬまい、と。
でも、もういいだろう?
俺は…残念ながら、「ドラクゥラ」…「ドラキュラ伯爵」じゃない。
俺は、ただの「人間」だ。
その、ただの「人間」が…一旦死んだくせに、二度目のいのちを生きるなんて、まともな精神じゃ出来やしない。
だから、これで…ようやく、終わりなんだ。
やっと、俺も楽になれるよ…




そうだ、ベルント…お前にも会わせてやるよ
俺の、たった一人の…とびっきりの花嫁に。








…ああ、ラウラ!








ラウラ、随分待たせたな…
怒ってるかい?…でも、許してくれよ。
俺は、ちゃんと…お前との「約束」、守り続けてきたんだぜ。
「離れているからって、絶対浮気なんかするな」
そう、お前が言ったから。
はは、だけど、実は…結局、お前以上の女なんていなかったから、守るも何も無かったんだけどな?
ああ、けれど、ラウラ…
こっちよりも、もう一つの「約束」の方が…俺には、何倍も、何十倍もつらかった。
お前は、俺に「簡単に死ぬな」と言った。
それは、俺の親友が、俺に科したモノとまったく同じだった。
お前たちは、何よりも純粋な思いで…俺にそう言った。
そんなことは、痛いくらいわかってる。
それでも…お前たちのいないこの世界で、俺一人が延々と生きながらえている。
その苦痛は、本当に耐え難かった…
何て残酷で、いとおしい「約束」―!




…でも、そんなことは、もうどうでもいい。
とんでもなく、間があいてしまったけど…これからは、いっしょにいられるんだから。




これからは、ずっといっしょだ…
前に話してたとおり、二人で暮らそう?
…おっと、その前に…結婚式を挙げなけりゃ。
お前、さぞかし立派な式の準備をしてたんだろうな?
何しろ、あれから…十分すぎるほど時間はあったんだから!
そうだ、まず…受け取ってくれ、ラウラ。
ずっと持ってた…お前のための、銀の指輪。
これを、お前の右手の薬指にはめてあげる。
そうしたら、俺たちはお互いに誓うんだ…
…永遠の愛、ってやつを。
そう、遠い昔…俺が、お前の墓の前で誓ったように。




"Ich gelobe es, dich zu lieben―――AUF EWIG."
あなたを愛し続けることを誓う―――永遠に。





そうして…俺とお前は、夫婦になる。
いつもいっしょにいる。いつも見守っている。
今度こそ、二度と離れずに―!









鉄の城が、飛行要塞のどてっ腹を、オイルタンクを貫いていった。
中枢部を砕かれたグールは、もはや飛行することはおろか、その場に形を為して存在することすら耐えられなくなった。








蒼空に、巨大で真っ赤な華が咲き、



そして、後には何も残らなかった。