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Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande(2)


Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande(2)


それは、軍への入隊が決まった日の夜のことだった。
ミヒャエルが長じた際には、軍隊に入り軍人となる…ブロッケン家の、しきたりめいた習い。
彼の「未来」は、この世に生まれ落ちてきた時に、すでにそう決まっていた。
そして…晴れて、その日がやってきたのだ。
ミヒャエルの両親は、息子の入隊を祝い、盛大な祝賀会を開いた。
様々な人々が屋敷に集い、うたい、飲み、前途洋々たる若き軍人にはなむけの言葉を送る…
その応対に追われながらも、ミヒャエルの瞳はずっと彼女の姿を探していた。
だが…いくら待っても、彼女はあらわれない。
彼女の両親や弟のマックスに聞いてみても、「知らない」と言われるばかり…
…とうとう痺れを切らしたミヒャエルは、パーティの喧騒の中…そっと、屋敷を抜け出した。

「…こんなところにいたのか」
「…」
意外に手間をかけることなく…ミヒャエルは、彼女を見つけ出すことが出来た。
ラウラが座り込んでいたのは、屋敷の裏の林…あの池のある場所。
いつも何かある度に、彼女はここにやってくる…
一応、祝賀会には来てくれるつもりだったのか、今夜の彼女はいつもとは違う服装をしていた。
ラウラのなめらかな身体を包んでいるのは、質素なドレス…
もちろんそれは、パーティに集ってきたような、貴族婦人のまとうようなモノとは全然違って、みすぼらしいほどだったけれども。
だが、ミヒャエルの目には…今の彼女は目がくらむくらいにあでやかで、そして…何より、蟲惑的なものに映った。
「パーティに来てくれなかったから、どうしたのかと思ってたんだ」
「アンタこそ…パーティの主役が席はずしちゃっていいの?」
「もう飽きた。父さんや母さんの知り合いに、死ぬほど挨拶はしてきたよ。十分だ」
そう言いながら、ラウラの隣に腰を下ろし、一息つく。
薄暗闇の中、風がざわざわと凪いでいる…
「…ミヒャエル」
「何?」
ラウラが、口を開いた。




「…アンタ、馬鹿だよ」




「…?!」
「馬鹿ね…アンタ、いっつもそうよ。自分の事しか見えてない」
唐突な罵倒の言葉に、眉をひそめるミヒャエル。
だが、彼女はなおも続ける…うつむいたまま、ミヒャエルを見ないまま。
「ら、ラウラ…?!」
「周りのことが見えてない。だから…まわりの人間が、それでどんなに、哀しんだって、ッ…」
「…」
…そこまで言われて、ようやくミヒャエルにもわかった…彼女の意図が。
胸の奥に、ぽっ、と…赤い炎がともるのがわかった。
「アンタねっ、本当にわかってんの?!ぐ、軍隊なんか行ったら、アンタ…死んじゃうかもしれないんだよ?!」
「…はは、何言ってるんだよ、ラウラ。今は…」
「…今は、そうでなくても!でも、いつかまた戦争が起きたら!…あ、アンタは、きっと戦いに行かされる…!」
そう。そういう時代だったのだ。
例え、今はミヒャエルの言うように、平和で恐れることなど何もなかったとしても…この世から戦が消えうせたためしなどない。
いつかやがて、また戦いが始まる…
そうなれば、職業軍人となるだろうミヒャエルは…
「そ、そしたら、そしたら…ッ!」
「…ラウラ」
ラウラの瞳には、涙が光っていた。
そして、こらえ切れなかった涙は彼女の頬をつたい、こぼれ落ちる。
ラウラのそんな表情は、ミヒャエルのこころの中の何かを揺り動かす。
「…」
「泣くなよ、ラウラ」
ミヒャエルは、ふっと微笑み…こともなげにこう言って見せた。
「ずっと以前から、決まってた事なんだ。俺が軍に入るのは。…そういう家なんだ」
そういう家なのだ。
先祖代々、その家に生まれた男は、戦いに淫する世界を選び取ってきた―
ミヒャエルの父親も軍人であったし、祖父もまたそうであった。
…そして、ミヒャエルもまた。その習いにしたがって、戦いの道へと往くのだ。
「…」
「けれど、ラウラ…はは、俺はそう簡単には死なないよ」
「…本当?」
「ああ、『約束』する」
「『約束』…」
「ああ」
ラウラの瞳に、力強くうなずくミヒャエルの姿が映る。
強い自信のあふれる彼の瞳は、まるで雄々しい若獅子のようだ…
「…ほ、本当だね。か、簡単に、死ぬんじゃないよ…」
「…ああ」
…ようやく安堵したのか、ラウラの顔に微笑が戻った。
涙を目尻に光らせ、それでも微笑ってみせるラウラ。
その涙が、月光に照らされ…ちかり、とまたたいた。
それは、とてもとても美しかった…
ラウラも、涙も、月も…その全てが。
その途端だった。
十数年間押し込めてきた感情の波が、どっとミヒャエルの中に荒れ狂った。
そして、その堰はふつりと切れた。
彼の理性は、もはやそれを止められなかった―
ともった炎が、彼の中で大きく燃え上がった。
「けど、ラウラ…心配してくれて、ありがとう」
「…し、心配だなんて…」
「ラウラ」
礼を言われ照れくさいのか、再び池のほうに目を転じてしまったラウラ。
が、やさしく「名前」を呼ばれ、振り返ろうとした…その時。
「?!」
呼吸が一瞬、出来なくなった。
ミヒャエルの存在が、その熱が、驚くほど近くにある…
自分はミヒャエルに抱き寄せられ、唇をふさがれているのだ。
そう気づくのに、悠々五秒はかかった。
そうして、また突然解放する。奪った時と、同じくらい唐突に。
「…な、あ…」
「ラウラ」
「み、ミヒャエル…?!」
「ラウラ」
「ね、ちょ、ちょっと…み、ミヒャ、」
いきなりのことに混乱するラウラ。
そんな彼女を、ミヒャエルは強く強く抱きしめる…
そして、再びその唇を奪った。
…今度は、先ほどより…より、深く。
慌てたラウラは手足をじたばたさせて抗おうとするが、それは男の力には到底かないはしない…
がっしりとしたたくましい腕に捕らわれ、身動きできなくなったラウラ。
…だが、その抵抗もじきに失せた。彼女の身体中から力が抜けていく。
自分の中に割りいってくる、ミヒャエルの舌。
なれないその感触に、はじめのうちこそ身体を強張らせていたものの…
それが蠢き、口中をやさしく擦っていくにつれ…
不思議な感覚が、ラウラの内部を支配していく。
頭の中が真っ白になる。何も、考えられなくなる…
いつの間にか、夢中になってミヒャエルを求めていた。
おずおずと絡めてくる舌を、ミヒャエルはやさしく吸った―
…やがて、ミヒャエルの唇が、そっとラウラのそれからはなれた。
「…な、何の、つもりなの…ッ」
「ラウラ」
麻痺しかけた頭で、それでも何とか理性を駆り立て、気丈を装うラウラ…
しかし、突然のキスで嬲られた彼女の頬は赤く上気し、その瞳は力なく潤んでいる。
そんな彼女の表情を、いとおしそうに見つめるミヒャエル。
彼は、ラウラの質問に答える代わりに、彼女の耳元に顔を近づけ…囁き声を熱い吐息に混ぜて、言葉で彼女を犯した。
女が一番喜ぶだろう、魔法の言葉で…




…好きだよ。




「…?!」
「好きだよ、ラウラ」
「み、ミヒャエル…?!」
「やさしいお前が、俺は好きだよ…俺のことを本気で心配して泣いてくれる」
思いもしなかった告白に、動揺するラウラのこころ。
ミヒャエルが耳元で囁いてくる低く穏やかな声は、まるでベルベットのようにラウラの内側を逆立て、甘い感覚を残していく…
だが、その快感に酔いながらも、酔わされながらも…ラウラのこころに突き刺るとげのような事実が、彼女を夢心地から無理やり引き戻した。
甘い夢など見るな、お前などがミヒャエルと結ばれるはずがないのだ、と。
「…」
「昔から、ずっと。俺は、ラウラのこと…」
「ストップ」
ミヒャエルの愛の言葉を、途中で遮り…ラウラは、よじるように身体を彼から無理やり離した。
高ぶる感情を妨げられ、怪訝になるミヒャエル。
が…真っ赤な顔をしたままのラウラが、それでも…何だか怒ったような顔で、自分をにらみつけているのを見ると、その態度が少し揺らいだ。
「…ラウラ?」
「…まったく、アンタって人は…や、やっぱり、…自分勝手だ」
「俺のこと、ラウラは嫌いなのか…?」
「ち、違う!そうじゃない、そうじゃない、けど…」
彼女の言葉を、求愛の拒絶ととってしまったミヒャエル…少しだけ、その顔が哀しげなものに変化した。
だが、ラウラはすぐにそれを否定する。
…ラウラの表情が、やるせなさに歪む。
「あ、アンタみたいなお貴族サマと違って、私は…た、ただの庶民だし、それに、…お、男勝りで、口も悪くて、」
「…ふふ、っ」
が…突如、ミヒャエルは笑いを漏らした。
当然のことながら、ラウラはいぶかしむ。
「?!…な、何がおかしいのさ!」
「…貴族うんぬんなんてどうでもいいのさ、俺にとっては。…それに」
「あッ?!」
唐突に左の胸乳に触れられ、ラウラは思わず息を呑んだ。
柔らかいふくらみが、男の大きな手のひらでつかまれ、形を変える。
服越しとは言え、当てられた手のひらから感じる…
熱いほどの熱情、ミヒャエルの熱が。
「ラウラは、こんなに…女らしいじゃないか?」
「…み、ミヒャエル…」
「…ラウラ、愛してる」
「…あ…」
ミヒャエルが自分に覆いかぶさってくる。髪をすくようになぜられた途端、背筋に電流が走った。
そして、唇を軽くふさぐだけの軽いキス。
…くらめくラウラの視界を…ミヒャエルだけが覆いつくしてしまう。
唇を再び離した時…ふっ、とミヒャエルが微笑むのが見えた。
それは何と自信に満ち溢れ、淫蕩で…そのくせ、何と純粋に自分を見つめているのか?!
ラウラの身体の中を、熱い炎が駆け巡っていく。
…もう、抗えなかった。
「私も、…ミヒャエル…ッ!」
すすり泣くような、弱々しい声が、ラウラの喉から漏れた―
風が、ざあっ、と音を立てて凪いでいった。

「…ラウラ」
「…」
「…怒ってるのか?」
「…」
いくらミヒャエルが呼びかけても、ラウラは何も言わないまま…彼のほうを振り向いてくれすらしない。
乱れた服を直しながら、ミヒャエルに背を向け、池のほうばかり見つめている。
さすがにちょっと悪く思ったのか、すまなそうな表情のミヒャエル…
先ほどまでの自信たっぷりな様子は何処に行ってしまったのか、何だか弱気な態度になってしまっている。
「な、なあ、ラウラ…」
思い切って、ラウラの肩に手を触れてみる。
びくっ、と彼女が身体を震わせた。
だが…ミヒャエルの手は、振り払われなかった。
「や、やっぱり…あ、アンタは、自分勝手な男だよ、ミヒャエル…!」
「!…ふふ、それはどうも!」
憎まれ口めいたセリフを、背を向けたまま…真っ赤な顔で言い放つラウラ。
ぶっきらぼうな風を装っていても、どうしてもその言葉の端々に彼女の本音が漏れてしまう…
…どうしようもなく、かわいい。
ミヒャエルの脳髄を、いとしい女への熱情が侵していく…
彼は、後ろから彼女を抱き寄せ、軽く頬に口付けた。
「馬鹿…」
ぴくん、と震えたラウラ。
いつもの強気な態度などもはや装えないでいる彼女は…恥ずかしそうに、そうつぶやいて返すだけだった。