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vsゆどうふ 第八試合 <vs蚊>


まったく、というものは、なんと弱い生き物であることか。

ヒトの指で軽く触れれば折れる羽。

糸とみまごうばかりの細い口吻。

しかし、我々は知っている。奴らの凶悪さを。

夜な夜なさ迷い獲物を刈るばかりか、群れを無し集団でターゲットを襲う卑劣な種族すらいる。

あのひ弱で小さな虫けらが、我々を狂乱させる。

だが、人類の英知を持ってすれば、必ずや道は開けるはず。

これは、そんなある戦いの記録である。


扉は閉めてある。出入り口は全てふさがれている。

なのに、いずこより来しかこの蚊は?!

遠く近く、あのけがわらしい羽音をたてながら、私の部屋を縦横無尽に飛びつづける奴を見ながら、

私はぎりぎりと歯噛みした。

今ちょうど空調が効きはじめ、快適な気分を楽しんでいたというのに!!

蚊、奴の存在はヒトから一切の余裕をうばう。

もはや意識は書類には戻らず、耳は常に奴の動向を追い続けている。

締め切りが近づき、一刻の猶予も無いというのに…頭ではわかっているのだが、

どうしても奴の動きを見過ごすことは出来ない。

それほどヒトにとって邪悪な生き物。蚊。

もはや、奴か私か、いずれかが血を見なければおさまるまい。

殺るか、吸われるか。

私の全身の血は泡立ち、瞬時に巡る。戦闘の時間だ。

近づく奴の羽音。

奴も気づいている。私の体から放たれる二酸化炭素が、今夜のメインディッシュがすぐ近くにあると告げている。

『罠にかかれ。愚かな小虫よ。』

突如、3.5畳の部屋に乾いた破裂音が飛び散った。

そっと強く合わされた両手を開けば、そこには砕けた奴の全身。

それは今までの獲物の血か?紅く染まるその身体…

『…勝った。…ふッ、また一匹この手で(ノートなど、今まで利用された凶器も含めて)殺めてしまった…』

残酷な満悦感に浸る私。

が、じわじわと私の皮膚感覚が、実はそうではない、

私は勝負に負けていたのだということを告げていたのだ。

左くるぶしの、少し下。

そこにはくっきりと、屈辱の跡が残っていた…。


血を吸う蚊は、全てメスであるという。

それは卵を生むための栄養なのだという。

しかし、それを知りながらも我々は奴らを許さない。

叩き潰す。それが我々の取るべき道。

奴らにかまれた跡には、爪で強く強く×マークを刻め。

それが、俺たちの勲章だ。