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vsゆどうふ第七試合<vs犬>
犬。それは人類の友。
時には人の目となり、時には人の手となり、信頼に足る働きをしてくれる。
その主人にひたむきな忠実さを人は紀元のころより愛しつづけ、また彼らも人間と暮らしつづけてきた。
しかし、それはあの凶悪凶暴な生物「狼」の末裔であることを忘れてはならない。
彼らはときおり、鋭い牙をむき人間達に襲い掛かる。
その時は予想もしないときに訪れる。友人が突如怪物に豹変するときが。
だが、人類の英知を持ってすれば、彼らの野生に対し戦うことも可能であろう。
これは、そんな戦いの記録である。
それはもはやおぼろげな、小学生一年生のころの記憶。
真っ赤なランドセルを背負い学校へと通っていたころの話だ。
そのころいつも通っていた通学路には、古い路地のようなところがあった。
そしてその中の植え込みのある家に、奴はいたのである。
奴はちっちゃな柴犬であった。
黒いつぶらな目をしてぼーっと道行く人間達をみつめていた。
まるでふわふわのぬいぐるみのような、愛おしさ。
子犬の愛くるしさというのは、どうしてこんなにも人間をひきつけるのだろう。
家が団地であったためペットを買うという行為に縁がなかった私は、そ奴のかわいらしさに一瞬で虜となった。
奴の本性を見抜くには、まだあまりにも私は幼すぎたのだ。
それに、世間が私に植え付けた『犬はかわいい人間のトモダチ』というイメイヂを否定できるほど
私は判断力にたけていたわけではなかった。
素直だったのだ。それは愚直なまでに。
ふわふわしたしっぽをぱたぱたと左右に振り首を傾けていたが、ふと彼を見ている私の視線に気づいたらしく、
顔をこっちに向けてきた。その動作の愛くるしいこと!
私はその可愛さに一瞬でハートを射ぬかれた。
魅了されてしまった私が、もっと近づいてみたいという純真な思いから一歩歩を進めた、そのとき。
奴のつぶらな目が、怪しい光を放ったのが見えた。
「ひょうんぎゃあんわぅんわぉんぎゃおんぎょおんひょうひょうひゃお〜〜んわおんわおおおおんん!!!!!!」
「わあああああああああああああ!?」
突如気が狂ったように私に吠え立てるそれ。
ぱっくりと口が裂け、そのなかにはぎらぎらした歯が鋭さを誇るように見えている。
黒い目は狂気と怒気と混乱に彩られ邪悪なモノと化している。
「ああ…あ…」私は目の前でそれがかわっていくのをまざまざと見た。
いとおしい、かわいらしい子犬が凶悪な魔物ケルベロスに豹変する様を。
私は駆け出した。両耳を手でしっかりふさいで、奴の声が聞こえないようにして。
「ひょうんひょうひょうわぉんぎゃおんぎょおんひゃお〜〜んわおんわおおおおんんぎゃあんわぅん!!!!!!」
手のひらを通して、奴の声がまだ響いている。
あいつの声がまだ響いている!捕まったら喰い殺される!
私はその路地を一気に駆け抜けた。奴の声が響き渡る路地を。
耳の中でリフレインする。悪魔の叫び声が。
奴は私が小学校を卒業しその路地をとおらなくなるまで、1000日あまりの日々、
私がくるたびに吠え立てつづけた。
それは私に犬に対する恐怖心を植え付けるのには充分すぎた。
それはいまとて同じこと。
プードルのような犬すら怖がってその近くから逃げようとした私を、友人によく笑われる。
だが彼女達は知らないだけだ。
あのかわいらしい悪魔、ケルベロスのことを。