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【五千円以内で幸せになる方法】


5、映画。

我々は近代に入り、『時』をお金で買うことを覚えた。
「電気がま」を買ってご飯を炊く手間の分時間を手に入れ、
『パソコン』をあってめんどくさい仕事を手早く済ませ
いくばくかのあまり時間を得た。
今、『物語』という時間をも我々は買うことができる。
映画−それは最も人々に愛される『物語』という時間だ。

 私は映画は嫌いではない。
これは「好きではない」というよりも「じっとして楽しむことができない」と解釈してもらえると嬉しい。
なぜか?その答えは至極簡単でござる。
実は私の心身は恐ろしい病魔に蝕まれているのだ。
映画をじっと見ていられない…
その病は、「初期ドリフ症候群」と一般に呼ばれている。
皆様もご存知であろう、この奇病に罹患したものは、
「画面に向かって呼びかけずにはおれない」という哀しい宿命を背負わされているのだ!!
そのため、私の視聴態度は非常によろしくない。
「アホ−!何でそっちの女なんじゃあ!」
「後ろやっちゅ−に!ターンあらうーんど!!」
「ノオ!4番!あでも2番!いややっぱ3番!」
…割と短いTV番組を見てさえこの有様では、
平均2時間ある映画を「お口にチャック☆」状態で
見ていろというのはある意味拷問となる。
子供のころ授業で映画を見させられたときも我慢しきれずツッコミをいれて、
終わりの会で激しく糾弾されたものである。
世間の初期ドリフ症候群患者に対するケア姿勢は
いまだ劣悪な状況にあるということを
私は涙ながらにお伝えせねばならない。
をを、世界はなんと悪意に満ちていることか…

いや、泣き言を言うにはまだ早い。ご同輩よ。
神は我々に新たなる道をお示しになられた。
会員カードをびしっと取り出すがよい。さらば道は開かれん。
これすなわち「レンタルビデオ」である。
そう!これで重病患者の私でも映画という時を買うことができるのだ。
映画館へ行って、怒れる客にパンフレットやポップコーンによる
攻撃を受けるという残酷極まりない扱いをされるより、
平安の我が家にて偉大なる作品群をエンジョイしようではないか。

さて、ここでそのために必要な小道具をお教えしよう。これでもって
一泊二日400円(旧作)を存分に楽しんで欲しい。
まず、クッションのようにおケツの下に敷くやわらかい物が必要だ。
これは長時間のエンジョイには欠かせないもので、
ソフトで美しいオケツを守るためにはこれを用いるか、
床に寝転んで視聴するほかない
(いやあるかもしれないが…例えば天上から吊られながらとか気ヲツケの姿勢で見るとか…
しかしそのような視聴態度は果たしてどうだろう<反語を含んだ疑問形>)。
もちろんおつまみもいる。基本的になんでもよろしいが、
すき焼き、豚の丸焼き、フランス料理のコース、点滴などはあまりよろしくないと思われる。
軽めのもの、おやつ系と飲み物
(これも何でもよいであろう。自分の限界耐久時間と
映画の長さをかんがみた上適正な量を用意すること)
をスタンバイさせておく。
寝転んだ姿勢での視聴を選択するものは、流出事故に十分に留意すること。
「映画鑑賞の際、伴侶は必要か」という問題もあるが、これは目下研究中である。
ただR指定の物、アニメもの、全体的に裸の露出シーンが多いもの
(というよりそれが主眼のもの)はこの伴侶問題においては
「熟考に次ぐ熟考の末」決断されるべき、と当局は発表している。
そして、シメとして、視聴する部屋の時計を隠すなり別の部屋に置くなりして見えなくする。
なにしろ、今から始まるのは「物語」。
現実の忍び寄るスキをなくしてしまおうではないか。
いかがだろう、400円+αであなたは『物語』という時間を、きらめく幻想を、感動や発見を、
そしてその中にいる自分自身を得ることができるのだ。
それを幸福と呼ぶのに何のためらいがあろう。

かつて映画は映画館でからからと音を立てながら静かに流れていた。
そして、映画館とはまた違った、にぎやかしい音を立てながら我々の家でも映画はまた流れいく。