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Monologue〜神隼人〜
the Door


「おかあさん、おとうさんいつ帰ってくるの?」
「…さあ、お忙しい方だから…」
「でも、おかあさん今日も熱が…」
「大丈夫よ、隼人。明日香にごはんつくってもらうから、二人で食べてね。
…さ、向こう行ってなさい」
「…でも、」
「…」


(おとうさん…)

いつのまにか、強く強く握っていた―
手のひらの中にある、金時計を。
姉さんから、「父さんに渡して」と示された時計を。
その時計の内蓋には、母さんの写真が貼ってある。
俺の十字架のペンダント、その中にあるのと同じ写真が―


廊下を早足で歩く、そのさなかにも俺の心臓は動揺で奇妙に拍動していた。
やがて、その廊下が途切れ、階段になる。
その階段を上っていく、かつかつと音が響く。
だが、そのうちその階段に大きなひび割れが入り混じり始め、大小の破片が散っていく…
そして、階段を上りきると、世界が一変する。
地下壕を出たその場所は、まさに焦土…
がれきに埋め尽くされた、廃墟の光景が広がる。
これは、親父の研究所…神重工業ゲッター線研究所の成れの果て。
百鬼メカに襲われ、完成も早々にこんな有様に成り果てた…
だが、これを壊したのは、百鬼メカじゃない。
親父が、親父自身が―研究所のゲッター線エネルギーすべてを百鬼メカに叩きつけたのだ。
奴の手から、ゲッターライガーを…
…俺を、救うために。


親父は、仕事に生きていた。
家に帰ってくる時なんて、月に一度あるかないかだ。
そして、たまに帰って来た時に甘えにでもいこうなら、容赦なく殴られた。
それでも、冷たくされても、俺は親父のことをそんなに嫌っていたわけじゃない…
あの時までは。
母さんが死ぬ、あの時までは。


人と何でもかんでもべらべらとしゃべるのは、俺の柄じゃない。
けれど、俺は母さんといる時、必死にしゃべった。
母さんが退屈しないように。母さんがさびしくないように。
母さんが、俺を見てくれるように。
母さんはそんな俺の話を聞いて、楽しそうにしてくれた。
けれど、何か物音が―がたん、という物音がするたび、母さんは目をぱっと走らせる。
玄関のほうに走らせる…
まるで、ドアが開いたかのような音。
その音に、母さんは過敏なまでに反応する。
そうして、その他に何の物音もしないのがわかると、ふっと哀しそうな顔をするのだ。
俺は、そんな時の母さんを見るのが、一番つらかった―


だから、俺は親父を憎んだ。
母さんの死に際に、死に際にすら帰ってこなかった親父を憎んだ。
仕事にかまけて、自分の妻を見捨てた親父を憎んだ。
俺は、学生寮のある浅間学園を進学先に選んだ。
そして、家を出た―
少しでも親父に会う可能性のある家から、飛び出すように離れたのだ。
まるで、ドアを叩き付けるように。


ああ。
けれど。
本当は、違っていた―
違っていたんだ。
俺の怒りも、俺の恨みも、何もかも。


親父の金時計には、母さんの写真が貼ってあった。
俺の十字架のペンダント、その中にあるのと同じ写真が―
会えないから。ほんの少し、家に帰って会う時間すら奪われるから。
だからせめて写真だけは、と…
親父は、母さんの写真を持っていた。


それを知った時、俺ははっきりと認識した。
それに気づいたのだ。


母さんのこころは、いつでも親父のそばにあった。
そして、親父のこころも、いつでも母さんのそばに―
例え、身体が家に帰れなくても、
母さんの姿を映した写真を金時計に忍ばせて、胸のうちにひそませて…


そして、俺たちのことも―!


親父の研究所は、親父自身の手でぶっ潰れた。
限界を超えたゲッター線を放ったゲッター線収集装置は暴走し、研究所もろとも大爆発した…
それもこれも、俺を、ふがいない俺を助けるために―!
金のことしか考えていないと思っていた。仕事のことしか考えていないと思っていた。
けれど―父さんは、俺を救ってくれた。
莫大な金をかけた研究所と引き換えに、俺のゲッターライガーが逃げ出すチャンスをくれるために、
親父を無視して、冷酷なことを言って、メンツを傷つけて、
親父にひどいことをした俺を、こんな俺を救ってくれた―!


…本当は、わかってはいた。
親父の仕事がどんなに苛烈で、普通のサラリーマンがするように毎日家に帰るということが、親父にとってどんなに難しいことかも。
決して小さくはない会社を運営する以上、自分の自由な時間などほとんど取れっこないということも。
俺は、ただ―それを認めたくなかっただけなんだ。


ああ俺はただ嫉妬していただけなんだ、
母さんのこころを俺から取ってしまう親父に。
ああ俺はただ焦燥していただけなんだ、
俺のことを見てくれなかった親父に。


けれど、親父は、父さんは、本当は―!


親父は、ろくに家には帰ってこなかった。
玄関のドアは、閉められたまま。
だけど、今、そのドアが開かないのは―
俺が、他でもないこの俺が、そのドアの鍵を内側から閉めているからだ。


俺はがれきの散らばる大地を踏みしめて歩いた。
薄暗い闇に染まるその向こうに、立ち尽くす黒い影が見える。
小さくなった、親父の背中が見える―
どくん、と、心臓が打った。
ああ。
俺は、本当は、父さん―!



―がちゃり。


「!」
「おとうさん、お帰りなさい!」
「あら、あなた、帰っていらしたのね?」
「ああ。思いのほか仕事がうまく行ってね。早く切り上げられたよ」
「おとうさん!」
「おお、隼人、明日香。今帰ったよ」
「おとうさん―」


―おかえりなさい。



ハヤトはよくマザコンでシスコンだといわれますが、むしろ父親との関係が私的には気になりました。
そして、その和解の章も―

ゲッターロボG第二十九話「涙の後に口笛を」より。
ハヤトの父・大造の作った神重工業ゲッター線研究所。
そこを襲った百鬼メカと交戦中危機にゲッターライガーを救うため、大造は―
研究所の全てのゲッター線エネルギーを収集装置から発射し、百鬼メカを撃ちました。
そのエネルギーに耐えられなかった収集装置が溶解し、研究所が爆発しようとも…
彼は、はっきりと言い放ったのです。
「…吹っ飛んでもかまわん!ハヤトを救うためだ…!」

そして、二人の和解。
父親と手を握り合うハヤトの姿は、じいんとくるものがありました…

神大造「研究所など、また作ればいい…お前や明日香が、私にはいる!」