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対決!ゲッP−X(げっぴーえっくす)対ゲッターロボ(2)


「…と、いうわけなんだ」
「あらまあ」
電話口で夫の説明を聞いた早乙女和子夫人は、そうもらして目を丸くした。
ゲッターロボと対決する、ということで、ゲッP−Xを駆ってこの浅間山にあらわれたゲッPチームと呉石博士。
しかし、あまりの大遅刻のせいで、「よし、それじゃ」とばかりに模擬試合を始めようとしたときには、すでに太陽は西へと吸い込まれていってしまっていた。
そのため、対決は翌日改めて…という話になったのだが、当然遠方より来た彼らゲッPチームに宿の用意は無い。
そのようなわけで、早乙女博士は恐る恐る妻にお伺いを立てる…4人分の客のもてなしを。
「すまないが…食事と寝るところの用意を、…その…」
「おほほ、大丈夫よあなた。ご飯なら、今からミチルに買い物にいかせますから。
それに空き部屋も昨日掃除したところですし、すぐ使えますよ」
「すまんなぁ、苦労かけて」
「いいのよ、それじゃあご馳走作って待っときますから」
やさしい妻の言葉に、ほっと胸をなでおろす早乙女博士。
世界有数の研究者といえど、家庭では一人の夫。
できた妻と、彼女と所帯を持った自分の幸運に、改めて感謝する早乙女博士であった。

「いやぁ、すいませんな〜奥さん!ちょっくらお邪魔させていただきますわい」
「あら、いらっしゃいませ」
そうして、夜。早乙女家に、4人の珍客がやってきた。
「わしゃあ、宇宙ロボット研究所の呉石と申しますじゃ。で、この後ろの三人組が、」
「はじめましてぇ!俺、百舌鳥恵一でぇすっ!」
「放出仁と申します。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「ワイ、天王寺力です〜!よろしゅうに〜!」
「あらあら、遠いところをよく来たわね」
「すいません、お邪魔しまぁすっ!」
「はい、どうぞ」
三者三様のあいさつをするゲッPチームの若者たちに、和子はにこにこと笑顔で応対する。
どたばた廊下を歩む彼らの後に続いて、早乙女博士とゲッターチームも玄関に入ってきた。
…と、和子の視線が、リョウたち三人を探るように横にすべる。
「…ふうん…」
「な、何ですか、おばさん」
「じろじろ見ないでくださいよ」
「…いえ、似たようなロボットに乗ってるから、やっぱり似たような人選になるのかしらねえって」
「…」
「…」
「…」

言ってはいけない事をさらりと言ってしまう和子さん。
ゲッターチームの三人はもはや押し黙ってしまうほかなかったのだった。

「…そういえば、何で君たちはゲッPに乗ることになったんだい?」
「ん?」
和子の心づくしの食事を堪能した宇宙ロボット研究所ご一行様。
ゲッターチーム、早乙女博士たちとともに早乙女家応接間でくつろぐ彼らに、ふとリョウが問いかけた。
…聞けば、彼らの操縦する合体ロボット・ゲッP-X(げっぴーえっくす)…何度聞いても釈然としないものが心の底に残るのだが…何も、単なる技術のショウアップのためにつくられたわけではなく、れっきとした戦闘目的のもとに製造されたものだという。
ゲッターチームが「ハ虫人」たちの国・地底勢力恐竜帝国と戦っているように…
彼らゲッPチームの「敵」。
それは「宇宙ビースト」だ、と彼らは語った。
何でも、「宇宙悪魔帝国」の放つ「宇宙ビースト」なる巨大ロボットが、彼らの「敵」なのだと言う…
どうやらこの地球という星は、年がら年中そして東西南北何処もかしこもそのような侵略者の危機にさらされている星のようだ。
基本的に早乙女研究所、浅間山と東京あたりまでがメインの活躍フィールドであるゲッターチームには、彼らの死闘等今までまったく耳に入ってこなかった。
しかし、ゲッPチームが語るその戦いは、淡々と放されていながらもその奥に凄みが感じられた…
…その裏には、どんな硬い決意が、どんな揺るぎない覚悟があるのだろう?
自身、ほとんど「なりゆき」という形でゲッターチームに入ったリョウとしては、何故彼らがその戦いに身を投じたのか、少し興味を引かれたのだ。
「いや、その…宇宙ビーストと戦うなんてさ、とてつもなく危険な事じゃないか?どういういきさつがあって、パイロットに志願したんだろう、って…」
「ああ、別にはじめはそういうんじゃなかったんだよなー」
「そうそう」
「そうやったなぁ」
「え…?」
が、不思議なことに…その質問に、ゲッPの三人は顔を見合わせ、何故か苦笑いを浮かべる。
それに困惑するリョウに対し、ケイは握った握りこぶしの親指だけをぴっ、と呉石博士に向け、ため息混じりに言うのだ。
「それというのもこのジジイが、」
「こりゃ!『博士』と呼ばんかケイ!」
「あーうるせぇ…この博士が事の発端だったわけよ」
「?…ど、どうゆうこと?」
「…ま、平たい話が、俺たち三人は…」
顔中「?」マークだらけのムサシたちに、ジンがため息まじりにこう言ってやった。
「『騙された』ってことになるんだよな」
『…はあ?!』
キレイにハモッたのは、これはリョウたちゲッターチーム。
「そうなんよ〜、ビックリでっしゃろ〜?」
目をまさしく丸くして驚愕する三人に、けらけら笑ってリキは応じる。
「これ!人聞きの悪い事を!」
「そのとおりだろ博士?」
「あれはいつごろだったかな…そうそう、一年ほど前のことだったかな」
若僧たち三人の外聞悪い発言に意気る博士をよそに、あっさり彼らは反駁を叩き返す。
ジンがその長い髪をやはりふぁさっ、と音がしそうなほど派手にかきあげながら(となりのリョウがものすごく嫌そうな顔をしているのにも気づかず)、記憶をたどる。
「呉石博士が、いきなり俺のところに訪ねてきたんだ。そうして、俺にこうもちかけたんだ」
「な、何て?」
興味津々のリョウたち。
が、次に彼らの耳に響いたジンのセリフは…彼らの想像とか予測とかの60度斜め上をいっていた。


「…『バイトをしてみないか?』、と」


『…え、ええッ?!』
やはりキレイにハモッたのは、またまたリョウたちゲッターチーム。
「バイト」。
「バイト」。
つまり…「アルバイト」。
突然文脈からはずれて出てきた突拍子も無い、非常に日常的かつ俗世的な言葉に、口をぽかーんと開けたマヌケな顔でそれを聞く三人。
しかし、それに続く証言もジンの発言を支持する。
「ワイも言われたー。『ちょっとした乗り物を操縦してもらうバイトなんじゃが、やってみんかね』って」
「『君の能力を見込んで頼みにきとるんじゃあ!頼む!』とか言って必死こいて頼むからさ、仕方ねえなって思ってその話に乗ったんだけど…」
「何かさあ、研究所に連れて行かれて?えっらくだらだらしたわけのわからない書類出してきてさ、
『まあ、全部読まんでも、たいしたことは書いてないから!で、ここにサインして?』とか言われてサインしたら…」
「それが、地獄への片道切符だった、というわけさ…」
「そうそう!」
そして、苦笑まじりに仲間うちでそう言いつつ笑うゲッPチームの三人…
そう、彼らは、地球を守るパートタイムアルバイターだったのだ。
「…」
「…」
「…」
「呉石博士…」
驚きと呆れとでハニワ状態になってしまったゲッターチーム、そして早乙女博士の何か言いたげな視線が、彼らの「雇用主」…呉石博士に向いた。
と、その視線の意味を何となく感じ取ったのか、呉石博士は胸を張って堂々言い放った(どうやら開き直ってしまったようだ)。
「ふん、それの何が悪い?わしは全然悪いと思っちゃいないもんっ!」
「…何が、『もんっ!』だ!ちょっとはすまなそうにしてみやがれジジイ!」
「ジジイ言うな!それに、あの契約書に書いとったとおりに、お前らには月給渡してるじゃろーが!」
「えっいくらもらってんの?」
「んーと、時給が720円で…」
「少なっ!」
「訓練の時間も入ってるけどー、宇宙ビーストの来た回数によって毎月まちまちやなぁ」
「そ、そう…」
指折り数えながらそう言うリキの言葉に、リョウたちはもうただうなずくことしかできなかったのだった。
「し、しかし、呉石博士…な、何でまた、そんな手を使ってまで…」
「だって、正直に言ったら逃げそうだったんじゃもん」
「…」
これまたえらく正直な呉石博士のお答え。
悪びれもせずそう言う様は、もはや周りのものがどうこう言おうと変わりそうもない。
…だが。
「…それに、わしの目は間違っちゃおらんかったよ」
が、呉石博士が、重みのある穏やかな、そして深い満足感にあふれる声でそう言うにつれ…彼の表情は一変した。
齢を重ねた老科学者の相貌には、刻み込まれた皺。
そのぶんだけ、彼は科学という人間の英知の結晶のため、己を捧げてきたのだろう…
そして、その科学の欠片を持ってして、地球を狙う邪悪な侵略者を打ち払う…その強い意志。
その強い意志は、眼鏡の奥に光る、漆黒の瞳の中に宿る。
彼は、静かに―こう、断言した。


「わしのゲッPに乗る資格があるのは、並外れた運動神経・反射神経を持つ若者…」
ケイを。ジンを。リキを、見る。
彼自身が見出した、彼自身が選んだ、己の知識を力ある鋼鉄へと具現化した巨大ロボットを駆る勇者を。
「そして何よりも、『正義を愛する』若者なんじゃ。こいつらは、立派にその資格がある奴らじゃよ」
彼は、断言した。
それは、揺らぎのない信念、そして信頼―!


「…」
「…」
「…ジジイ」
「博士…」
…ゲッPチームも、呉石博士を見る。
その瞳にかすかな涙が光って見えるのは、果たしてリョウたちの気のせいだろうか。
彼らとて、それを普段から感じているのだろう。
博士の意思を。博士の希望を。
博士の、平和を望むこころを。
だからこそ、彼らも戦い続けるのだ(たとえ時給720円という薄給でも)。
彼らも望む、平和を望む。
彼らの間に在るのは単なる雇用関係などだけではない、それはもっともっともっともっと確かな―!
「…」


間。
静寂。
穏やかな空白。
…そして。


『…そう思うんなら、もっと時給上げてください(くれ)』
「却下」(0.5秒)















この後、賃上げ闘争に発展したゲッPチームと呉石博士の激しい小競り合いがあったり、
その余波によってテーブルがひっくり返りミチルのお気に入りのマイセンティーカップセットがバリバリに割れたり、
それにブチキレたミチルがケイをしめあげ窒息寸前まで追い込んだり、
暴走するミチルをリョウたち3人+ジンとリキの総勢5名で必死こいてなだめたり、
その挙句ケイの来月分の給料からティーカップセットを買わせる約束を半ば無理やりさせたりしたのだが、
それは、まあ、割愛してもいい話である。


「いやー、それにしても…本当すいませんなぁ、風呂までいただいてしまって」
「いえいえ…」
乱闘終わって、一段落。
談話の輪の中からは、ケイが一人抜けていた。
彼らは順番に入浴させてもらうことになったのだ(ずうずうしいことに)。
そんなわけで、今はケイが入浴中。
応接間では相変わらず、わやわやとにぎやかしい会話が進展中である。
「…しかし、一体なんで遅れたんだい?」
ふと、リョウが思い出したようにゲッPチームに問いかけた。
そもそも彼らが浅間で一泊する羽目になったのは、ひとえに彼らが約束の時間に大遅刻したからなのだが…
「ひょっとして、宇宙ビーストって奴と戦ってたんじゃあ」
「ああ、違い(ちゃい)ますよ!」
ムサシの言葉を、からから笑ってリキは否定した。
「もー、それもこれもこのジンのせいですわ」
「…ちゃんと謝っただろ。これからはもうしないって」
そういいながら、軽く皮肉の色を込めてリキがジンを示す。
示されたジンは、多少居心地悪そうな顔をしながら、ふてくされたようにそう言った。
「…?」
わけのわからないリョウたちに、リキは呆れながら説明してやる…

「こいつ、ゴーゴー喫茶にいってて今日朝帰りしよったんですわ」

「…」
ちょっとだけ、妙な間があいた。
…とはいえ、その場にいた誰もがその意味を理解したわけではないらしい。
「ご?」
「ごーごおう、喫茶…?」
「…」

目を点にして、その意味不明(彼らにとっては)な言葉をオウムみたいに繰り返すリョウとムサシ。
ハヤトはその隣で、沈痛なため息をついた。
…あまりのアホさ加減に。
「あんだけ夜遊びばっかしたらアカンって、ケイ兄ぃとケンカしまくったくせに…」
「悪い悪い、本当に忘れてたんだって、今日のこと!」
まあ、彼らの会話から察するに…夜、街に遊びに行ったジンが朝まで戻らなかったため、出発が遅れてしまった…
そういうことらしい。
そういうことらしい、が。
「…」
「…」
あまりにアホくさくて、かえってこっちが情けなくなってしまった早乙女研究所ご一同様だった。

その途端、だった。
がっこおおおおん、という強烈な激突音が、絶妙なエコーとともに早乙女家に響きわたったのは。

「?!」
「な…?!」
あまりの派手な音に、思わず皆立ち上がっていた。
おそらく風呂場だろう、その音の発信源は…!
「ふ、風呂場のほうだよな?!」
「行ってみよう!」
慌てて駆け出すリキとジン。その後をゲッターチームも追う。
そして、風呂場…
脱衣所から見える風呂場のガラス戸は、湯煙でくもって何も見えない。
「おい!ケイ君!大丈夫か?!」
リョウがそこから大声で呼びかける。
が…
かすかに反響する彼の声以外、何の音も返らない。
数秒たっても、十数秒たっても…
「…やばい、かも…」
かすかにつぶやかれたジンのセリフが、余計に事態を深刻に思わせた。
「開けるぞ、ケイ君!」
言うが早いか、リョウはすぐさまに扉の取っ手に手をかける。
もしかしたら、一刻を争う事態かもしれない…!
がらっ、と扉を開けた途端、リョウたちの視界をあふれ出る湯気が包み込む。
が、それも一瞬…その白く煙った風呂場の床に、彼らは見た。
「!」
「兄ぃ!」
…前のめりに、うつぶせになって倒れこむ、それは百舌鳥恵一。
ぬれたタイルで足を滑らせてしまったのか…?
ともかく、彼らはケイのそばに駆け寄った。
「ケイ君!ケイ君!大丈夫か?!」
「…」
だが、いくら耳元で呼びかけても、ケイはぴくりとも動かない。
「や、やばいかもしれん…救急車呼ぶか?!」
「あ、ああ…」
しかし、その時だった。
…ケイの身体が、びくり、と、動いた。
「…!」
「う…」
くぐもったうめき声が、確かにもれた。
「ケイ!」
大声で呼びかけるジンの声を、果たして彼は聞いたのか…
「こ…」
ゆらり、と、影が蠢いた。
倒れ伏すその身体が、突如重力に逆らって立ち上がる―!
その、刹那。
「?!」
「きゃああああああああああああーーーーーーーーーッッ!」
「お、おい!前隠せ、前ッ!」
絶叫とともに、ミチルは全力ダッシュでその場から消え去った。
指差して指摘するムサシの声も、当然動転で裏返ってしまっている。
ふらふらゆらゆら、メトロノームのように奇妙に揺れながら(別のところも揺れながら)
両手で頭を抱え込んだケイ(全裸)は、苦しげに息をつき(全裸で)、混乱と恐怖の満ちた瞳で虚空を見つめ(全裸で)、恐れに震える声でこう吐き出した(全裸で)
「こ、こ…ここは誰俺は何処?!君はいつ今は何ッ?!」
疑問詞の使用法が根こそぎ間違ったこの発言は、だがしかし、リョウたちに彼の状態異常を否応なく悟らせる。
あまりのことにフリーズするゲッターチーム…
だが、それに対して、彼のチームメイトであるゲッPチームはというと、
「…あーあー」
「なぁんかやな予感はしとってんけどなー」
「お、お前ら、何でそんな冷静なんだ?!」
驚くほどに平然と、そんな彼を見ていた。
「あー、」
と…ぽりぽりと頭をかきながら、あっさりとリキは言ってのけた。
「…これ、ケイ兄ぃの持病なんですわ」
「じ、持病?!」
驚くリョウたちに、困ったような微苦笑とともにリキが答えた。
「なーんか突然記憶喪失になったりするんですわ、ちょっと昔の古傷のせいで…」
「!…そうか。それは、やっぱり、宇宙ビーストとの戦いのせいで…!」
「いや、こいつが風呂に入ってるとき石鹸で足滑らして頭かち割ったときからだから、それはまったく関係ないぜ」
「…」
「そ、そう…」
淡々と説明するジンのセリフに、リョウはもはや泣けてきた。
なんなのだろう、この涙。
少なくとも、ケイに対する同情ではないことだけは確かだ。
「でも、リキよ…今回はちょっと重症っぽいな」
「そうやね。いつまでたってもなおらんし」
「そ、そうなの…?」
「たいていやったら、ほっといたら5分ぐらいで元通りになるんやけどねぇ」
「それだったらよ、やっぱり病院に連れて行ったほうがいいんじゃねえのかい?」
「ああ、それは必要ないぜ…リキ!」
「はいはい」
ジンの言葉に気安く答えるなり、リキは混乱し続けるリーダーの腕をがしっ、とつかんだ。
そしてそのまま彼を力の限りひっぱっていく。
「?!…ちょ、ちょっと、何を…!」
「…記憶喪失の時の『お約束』…って奴、さ」
そう言って、笑顔で片目をつぶってみせるジン…
その言い回しで、リョウたちはすぐにわかった。
記憶喪失の時の「お約束」とは…つまり。
「さー兄ぃちょっと覚悟しといてなーすぐ終わるさかいになー」
「え、おあ、う…こ、ここは何、君はど…」
どうやらこんなことも一回や二回経験したどころではないらしい。
怪力のリキは、あっという間にケイを脱衣所から出し、さらに庭にまで引きずり出した。
そしてあわあわ混乱し続けるケイのセリフなど、リキは何一つ聞かず技のモーションに入る…


「ろっこおおおおざああああん、おおおおろおおおおおしいいいいいいいいいいいいッ!」
「うひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜…ッッ?!」


男が、華麗に宙を舞った。
流れるようなリキの投げ技の威力は素晴らしく…
浅間山の上空、満天の星空をバックに、今、
空高く、空高く、百舌鳥恵一が空を舞う―


「…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ…!」


そして、そのまま堕ちてくる。


絶叫のエンドマークは、ごしゃっ、といういい感じの激突音であった。
地面にびたん、と叩きつけられたケイ…
しばらくぴくぴくとけいれんしていたが、突如はじかれたように起き上がった。
が…不安げな顔できょときょと周りを見回すその様はまさしく挙動不審、どうやら正気には戻ってなさそうである。
「うーん、ダメか」
「しゃあないなぁ…ムサシはん」
「へ?!」
と、ここでいきなり名前を呼ばれ、少し慌てるムサシ。
そんな彼に対し、リキはとんでもないことを頼んできた…
「すんませんけど、ムサシはんの『大雪山おろし』で、この人ちょっとぶん投げてもらえます?」
「え、と、その…」
「人助けや思って」
「あ、あの…」
「すまないが、頼む」
「でも、えっと、」
「やってやれよ、ムサシ」
「は、ハヤト」
「…非常時だ。思いっきりやれ、ムサシ」
「リョウ〜…」
リキ、ジン、そしてハヤトにリョウまで。
次々と畳み掛けられた人のいいムサシは、結局押し切られてしまう…
「…〜〜ッッ!ええーいっ、もうどうなったって知らないぞーッ!」
もはや半ばやけになったムサシ、おもむろに目をぎゅうっ、とかたくつむり…
そのままケイの右腕をぐわしっ、と掴みあげ、有無を言わせずぶんぶん振り回す!
そして、遠心力を己の腕力に乗せ、彼はそのまま獲物を上空へと投げ飛ばした…!
「だーいせーつざーーーーーーーーーーーん、おーーろぉーーーーーーーーしーーーーーーッ!!」
「のあああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜…ッッ?!」



空高く、空高く、男が舞い。
そして、天から拒絶されたイカロスのごとく、全裸のままで墜落し…



「…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ…!」



こきゃっ。



それは、驚くほど軽い音だった。
夜空の下では、こんなにも、こんなにも、その音が軽やかに響くなんて。
ムサシは、その時まで知らなかった。